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デート

「ふふっ」


 朝、シーラは楽しそうに服を着替える。

 着替えた服はお気に入りの服で綺麗に着飾っている。

 ケンキとのデートだからと気合が入っている。


「……今から楽しそうね。シーラ」


「うん!」


 急に部屋に入って来る母親にも笑顔で答えるシーラ。

 それに対して母親は複雑そうな表情を浮かべる。

 ケンキが良い子なのは母親も分かっている。

 だが、よくやる常識の無さと言っても良いような行動が娘を任せて大丈夫なのか不安になる。

 強すぎる弊害なのか普通からはいろいろとズレてしまっている。


「……ねぇ。どうして貴女はケンキが好きなの?」


「うぇっ!?」


「驚くことは無いでしょう?わかりやすいぐらいなんだし、家族の皆は気付いているわよ」


 そんなに分かりやすいかとシーラはショックを受ける。

 それはそれとして好きになったことを教えるのは、やっぱり恥ずかしい。


「別に教えてくれても良いでしょう?誰にも言わないから……ね?」


 母親が必死に頼んで来るのに気圧されて頷いてしまうシーラ。

 そしてケンキのことが好きになったことを語りだす。




「………会うたびに貴方、自分を鍛えていない?」


「………シーラか。要件はそれだけ?」


 それだけを言ってケンキは自分の鍛えることを再開する。

 会いに来た知り合いよりも自分を鍛えることの方が大事らしい。


「待ちなさい!折角、会いに来たのに何で鍛えるのを止めないのよ!」


「………強くなりたいからだけど?」


「あれだけ強いのに!?」


「………は?」


 既にかなり強いとシーラは告げるとケンキは不機嫌そうな顔になる。


「………この程度で強いとか馬鹿じゃないのか?」


 バカと言われたことにシーラはイラっと来るが、それ以上に本気で言っていることに呆然としてしまう。

 自分より年下なのに、自分を護る大人の騎士より強いのに、まだまだ上を目指す姿に目が追ってしまう。


「そんなに強くなって何がしたいの?」


「………目的なんて無いけど?」


「それだけ努力しているのに?」


「……?強くなりたいのに理由は必要?」


 理由も目的も無く純粋に強くなろうと努力していると聞いてシーラは呆れてしまう。

 普通は何か目的があって辛い努力が出来るようになるのに目の前にいるケンキはシーラなら二の足を踏む訓練をしている。

 よくこんな訓練を続けながら会話を出来るなと思うぐらいだ。


 その訓練は全身に鎖を付けていて、その先には重りなのか鉄球が付いている。

 素振りを一度をする度に重りが浮き、そして落ちると重量を予測させる重い音が響き渡る。

 シーラどころか鍛えた大人の男でも素振りすらできないであろう重量だ。


「……普通は強くなるためには目標が無いと努力は維持できないんだけどね」


「………強くなりたいと思うのに、その程度の意思しか無いのか」


 溜息を吐くケンキにシーラは呆れる。

 そして飽きもせずに鍛えているケンキをジッと眺める。

 何もすることが無いからの行動だ。


(…………モチベーションも無いのに本当に真剣に鍛えているわね)


 真面目な表情をして鍛えている年下の男の子の表情をジッとシーラは目つめている。

 ケンキの訓練が終わるまで何分も何時間も時間を忘れて見続けている。


「……まだ、いたのか?」


 ケンキが訓練を終えて鎖と重りを外しても、まだいたシーラに声を掛ける。

 何と無しに時間を確認すると三時間ぐらいは何もせずに自分を見ていたのではないかとケンキは予想する。

 そして、それだけの時間を自分だけを見ていたことに時間の無駄使いだと呆れてしまう。


「……別に良いじゃない」


 シーラもずっと見ていたことに眼を逸らし、顔を赤くする。

 ずっと見ていたことを指摘されて、その理由を考えて顔を見せづらくなってしまう。


(何で私はずっと彼の顔を見ていたのよ……!?まるで彼のことが好きになったみたいじゃない!?)


 シーラにとって飽きもせずにずっと同じことを真剣な表情をして鍛えていたケンキの顔を見惚れてしまうモノだった。

 そのことを自覚して恥ずかしくなる。


「……そう。それじゃあ俺は帰る」


 そう言って帰路に付くケンキの肩をシーラは掴む。


「待ちなさい!!貴方には女の子を送るという発想は無いの!?」


 その言葉に面倒そうな顔を浮かべる。

 送る気は無かったが全く外そうとしない手に諦めてシーラを送ることに決める。

 その選択にシーラは顔を隠しながらも嬉しそうにする。


「………それで良いのよ」


 シーラの言葉に面倒臭そうな顔をしながらケンキは案内されながら家へと送っていった。





「なるほど。つまり彼の真剣な表情に好きになったのね……」


 シーラの過去の話を聞いて好きになった理由を口にする母親。

 それを聞いてシーラは何も言えなくなる。

 何よりも自分の話を聞いて好きなった理由を他人に言われて恥ずかしい。


「はぁ。まぁ、将来結婚することになったら色々勉強させる必要があることは理解しなさい」


「はぁ!?」


「何を驚いているのかしら?普通は貴女ぐらいの年齢で婚約者はいるのよ?しかも相手は貴族が普通。それが平民相手になるのだから、勉強は必要よ」


 普通は婚約者いる年齢だと言うのに何故、兄と自分はそれがいないのか不思議に思うシーラ。

 ケンキは平民だから納得は出来る。

 だが自分達は違う。


「貴方達に婚約者がいないのは自分たちの意志で結婚して欲しいからよ。私たちもお互いに婚約者がいたのに、それよりも互いに好きになってしまったからね。当時は凄い問題になったわ」


 そんなことを言われるが実感は無い。

 それよりも、まさかの両親が婚約者同士では無いと驚いていた。

 凄く気になってシーラは目を輝かせる。


「そんな私たちの子供よ。婚約者がいても別の子を好きになったら我を通してしまいそうだし……」


 納得した。

 現にシーラは婚約者がいないとはいえ平民のケンキを好きになってしまっている。

 これで婚約者がいたら諦めていたのかと自分に問いかけるが、そんなこと可能性は低い。


「……だからよ」


 そんな娘の内心を悟ってか母親は溜息を吐く。

 そして娘の背中を叩く。


「あいたっ!」


「ほらデート何でしょう。頑張って魅了させるぐらいには頑張りなさい」


 母親の言葉に頷いてシーラは約束の場所へと向かって行った。

 見ると駆け足で向かっており、その姿だけは微笑ましく感じさせた。





「………いた」


 シーラが約束の場所へと近づくとケンキの姿が見える。

 急いで向かおうとするがケンキの近くに何人かの男女が見える。


「………してるんだ?親はいないのか??」


 小さい子供を狙う誘拐犯?


「そうよ?たまたま見ていたけど三十分以上、この場にいるじゃない」


 約束の時間から三十分以上前と聞いてシーラはケンキも楽しみにしていたんだと理解する。


「君みたいな小さい子供が一人でいると不安なんだ。だから着いて来てくれると助かる」


「………いらない」


「いや、でも!?」


「……待ち合わせの者が来た」


 その言葉と同時にシーラは辿り着く。

 同時に視線が集まるがきにならない。

 まさかケンキが三十分以上前から約束の場所に集まって来てくれるのは予想外で嬉しかった。


「ケンキ!遠くから聞こえていたけど約束の時間から三十分以上前に来てくれてたの!?」


 嬉しくてシーラは確認してしまう。

 約束の時間より早いと聞いて少女に向けられていた険しい視線が和らぐ。

 元から来た相手が少女ということもあるが、約束より早い時間と聞いてニヤニヤとした視線をケンキとシーラに向けられてしまう。


「………心配してくれてありがとうございます。それで何処に行くの?」


「せっかちね。私に付いて来なさい。……そちらもありがとうございます」


 シーラとケンキは心配して声を掛けてきた者たちに頭を下げて感謝する。

 そして心配してくれた者たちも微笑ましい目で気にしてないと告げて別れた。




「まずはここよ!」


 連れてこられた先は女性専門の服屋だった。

 自分一人しか男は見当たらないが気にせずにケンキは一緒に中に入る。

 ケンキの慌てる姿を期待ていたシーラとしては少し残念に思う。

 女性に服屋や下着を売っている場所に連れて行けば色々と反応してくれると考えていたのに予想外だった。


「ケンキ、私が下着を付けるとするならどっちが良いと思う?」


 かなり恥ずかしいがシーラは踏み込んだことを聞く。

 片手に縞々のパンツ、もう片手には黒色の下着を手にしている。

 それを見てケンキは、どうでも良さそうに溜息を吐く。


 ついでに周りの客は面白そうにケンキとシーラの二人を見ていた。

 普通は大人の恋愛でやるような行動を小さい子供が真似をしていると微笑ましい気分になっている。

 それでも少女にとっては恥ずかしい事をしていると理解して少年がどんな答えを返すのか注目している。


「溜息を吐いて無いで教えなさいよ」


 顔を赤くしてシーラはケンキに近づく。


「………どっちしても下着は見せるモノじゃないだろう。それとも態々、誰かに履いている姿を見せるのか?」


「見せないけど……。それでもケンキにとっては、どっちが履いていた嬉しいか気になったのよ……」


 ケンキの言葉にヤジ馬は冷たい目を向けてしまうが、シーラの言葉に興奮してしまう。

 それにどう返すかのケンキへと視線を向ける。


「……どっちも変わらない」


 ケンキはそれだけしか言わない。

 その視線もどうでも良さそうにしていて興味が無いことを示している。


「………はぁ。なら、こっちは?」


 下着をカゴの中に入れて今度はワンピースを手に取る

 どうやら下着は両方とも買うようだ。

 二人を注目していた客たちはケンキに冷たい視線を送る。


「………そっちの明るい色の方が好き」


 だが今度は明るい色のワンピースと暗い色のワンピースを並べられケンキは直ぐに答えたことに驚く。

 それはシーラも同じで、どうでも良いと帰って来ることを予想していたら、予想外の答えが返ってきた。

 客たちも予想外の答えに目を見開いて注目する。


「そ……そう。それじゃあ、こっちにするわね。それじゃあ、これは?」


 今度は帽子。

 両手に一つずつ見せてくる。


「……右手の方」


「じゃあ、これは?」


「……左手の方」


「これとこれ!」


「……左手の方」


 最初と下着とは違い、好みの服を答えてくれるケンキに気を良くして選ばれた方を次々とカゴの中に入れていく。

 そして今度はフリルのついたプラジャーとリボンのついたプラジャーを見せる。


「どっちが好き?」


「………どっちでも良い」


 最初と同じようにケンキはどうでも良さそうに答える。

 この時点で女性の下着に関しては同じような答えを返すのではとシーラは予想する。

 そしてケンキの表情を見てテレから、そう言っているのではないかと想像するがケンキに表情は本当にどうでも良さそうにしか見えない。


「ねぇ、ケンキ。もしかして下着に関しては、どうでも良いと思ってない?」


「……どうせ隠して見えないようにしている。そんなものに似合っているかどうかなんて想像するのも無駄」


「えぇー」


 ケンキの肯定を意味する言葉にシーラは呆れてしまう。

 確かに下着は隠すものだから身に着けたとしても見せるものでは無い為、似合うとか似合わないとかは無い。

 それでも想像して意見を言って欲しかった。

 だけど同時にそれ以外はケンキの好みかシーラ自身に似合っている物を選ばれたのだと理解し、ケンキの好みを詳細に理解するために使うことにする。


「ふぅ。……それじゃあ次の場所へと行くわよ。それと荷物はちゃんと持っていてよ」


 ケンキに選んだ服を持たせてレジへ行こうとシーラはケンキの腕を引っ張った。



「次はここね」


 荷物を家へと送ってくれるサービスを頼んで次はオペラへと見に行く。

 シーラはチケットが二枚分あるらしくケンキを誘って見に行くつもりだったようだ。

 俳優たちも有名で誘われたことにケンキは感謝する。


「……まぁね。それじゃあ楽しみましょう?」


 ケンキの腕を引っ張ってシーラは会場の中へと入る。

 会場の中は多くの人がおり、これだけで人気なのだと理解できる。


「おや、君たちは姉弟かな?ご両親はいないのかい?」


「違うわよ。私たちはデートでオペラを身に来たもの」


「ふふっ。デートか……。悪いことは言いたくないけど、デートでも君たちぐらいの子供が保護者もなく、ここに来るのは心配だな」


 声を掛けてきた大人の声に周りを見ると子供も何人かいるが全て保護者が同伴している。

 この状況で大人が近くにいないのを心配してくれるのは、この人が良い人だからかもしれないと考える。


「………べ、別に問題ないわよ」


 シーラもその事に気付いて声を震わせながら強がる。

 周囲にいるのが大人ばかりなのを少しだけ恐怖を覚えてしまう。


「……気にしなくて良い。それよりもシーラ、受付に行こう」


 一歩引いてしまったシーラを今度はケンキが引っ張って行動する。

 あのままじゃ行動できないと思っての行動だ。

 受付に行ってチケットを確認して貰い、軽くつまめるものと飲み物を二人分適当に買って席へと座る。


「……ありがとう」


 当然、シーラも成すがままにされるが怯えていたのも事実なので、代わりに行動してくれたケンキに礼を言う。

 そしてケンキが腕を引っ張って助けてくれたことに強引だけど嬉しく感じる。

 飲み物も自分の好きなモノを選んでくれて本当に助かっている。


「それにしてもオペラを見に行くのにほとんどが大人の保護者が同伴だなんて……」


 自分のミスにシーラは頭を抱えてしまっている。

 確かに以前に来た時も子供と一緒にいる大人が多かったが、そのことに気付かなかったことが恥ずかしくて顔を上げられない。


「………で、今日のオペラの見どころは何?」


 それを忘れさせるかのようにケンキはオペラについて話を聞こうとする。

 その気遣いに有難く思いながらシーラは思い出しながら教える。

 今回は特に音楽と歌に力を入れているらしい。


「……そう。楽しみにしている」


「そうしなさい」


 そして幕が上がりオペラが始まる。





「……本当に歌と音楽が凄いわね。演劇には力は入れてないって聞いたけど、それを補って余りあるわ」


「………休憩か。どのくらいの間が空くんだっけ?」


 休憩の時間が入り、シーラは感心しケンキは再開までどのくらいあるかパンフレットで調べる。

 その姿にシーラはケンキも楽しんでくれていると安心する。


「それじゃあ私は少し手洗いにいって来るわね」


「……俺も行く」


 シーラが手洗いに行くと聞いてケンキも一緒に行動する。

 その行動に一人だと不安なのかと思ってシーラは笑って頷く。

 そしてケンキは周囲にいた者たちに一瞬だけ目を配ってシーラの後を付いて行った。


「それじゃあ先に済んでも待っていなさいよ」


 シーラの言葉に頷いてお互いに手洗い室に入る。

 そして、その一瞬後に何人かの大人がシーラの後を付く。

 その中には女の他に男が混ざっており、女性の中心に隠れるようにいた。

 ケンキは手洗いに入ったふりをして、それを確認すると直ぐにケンキも女性用の手洗いの中に入る。

 子供だからケンキは見逃されたのか、それとも気付かれなかったのか。

 幸運に思いながらケンキは女性用の手洗い室に入る。


「むー!むーー!!」


 そこにはシーラが口を抑えられていて羽交い締めにされていた。

 それを見てケンキは魔法で大剣を創りシーラを縛っていた男の両腕を斬り落とす。


「ぼう……や?」


「ギャアアアア!!」


 見られたと思い女性がケンキの口封じを脅してしようと思うが、その前に響き渡る仲間の絶叫に後ろを振り向く。

 そこには目の前にいたケンキが仲間の両腕を斬り落としていた姿があった。


「何があった!?」


 絶叫に気付いて何人かが手洗い室に入って来る。

 両腕を斬り落とした者の仲間たちは一瞬だけ悩んでいたが直ぐ逃げることを決めて行動に移そうとした。

 だが一人残らずその場に崩れ落ちる。

 理由は全員が脚を切断されていたからだ。

 転がってしまい確認すると自分たちの脚が無いことに悲鳴を上げる。

 それら全てを無視してケンキは意識を失ったシーラを抱き上げる。


「うっ!?」


 そして絶叫を聞いて入ってきた者達は中の状況に口を抑える。

 血だらけの部屋に吐き気が襲ってきたせいだ。


「………丁度良い」


 一人だけでは無くスタッフも来たことにケンキは少しだけ状況が楽だと思いながらシーラは抱きかかえてスタッフの元へと動く。


「………この身体の一部分が切断されている奴らは人攫いだと思う。この人の家族を呼びたいから代わりに連絡して」


 連絡先の情報を教えてケンキは手洗い室から休めそうな場所へと移動する。

 何時までも自分がやったとはいえ血だらけの部屋にシーラを置いておくつもりは無い。

 近くにある椅子の上へと寝かせ、その近くに座る。


「………申し訳ありません。詳しいことを教えてもらえませんか?」


 警備兵らしき者が来たことと質問にケンキは頷く。

 ただし場所を変える気は無い。


「わかりました。ではここで質問させてもらいますね」


 ケンキの態度に不満を持つことなく受け入れる警備兵。

 近くにいる彼女を護るために警戒しているのだと考えれば可愛いモノだ。

 彼からすれば大人に襲われたのもあって見知らぬ大人は全て警戒してしまっているのだと警備兵は考えている。


「彼らは知り合い?」


 ケンキはその言葉に首を横に振って答える。

 だよね、と考えながらも質問をしていく。


「血まみれになっていたけど、やったのは君かい?」


 その言葉にはケンキは頷く。

 信じられない顔を浮かべているが嘘では無いのだと判断してケンキがあの部屋を作り出したのだと受け入れる。

 他の者の話ではケンキが血まみれの大剣を持っていて他は無傷の少女と四肢のどれかが切断されている者しかいなかった。

 悲鳴が上がった直後に入った者も見たのは、それだけというのだから信じるしか無いともいえる。


「………ふぅ。次の質問だ。どうやって大剣を準備して隠している」


 これは重要な内容だ。

 やり方次第では所持物を巧妙に隠す手段が判明できる。

 スタッフの者に聞いても明らかに武器、それも大剣なんて目立つ物があったのに気付かなかったのだ。

 その方法を聞きたい。


「?」


 ケンキはその質問に首を傾げてしまう。

 ケンキ自身からすれば隠したつもりもないのに何を聞いているのだと理解できないでいた。


「君はこの会場に来たときは大剣を持っていなかったはずだろう?どうやって準備をしたのか気になってね」


 簡単な方法なのに本当に分からないのかと首を傾げてしまうケンキ。

 実験として武器を魔法で作り上げる。

 シーラを襲った相手を斬ったのと同じ大きさの大剣をだ。


「え……?は……」


 ケンキが急に魔法を使ったことに何をするつもりだと驚き、大剣を魔法で作ったことに眼を擦る。

 初めて見る魔法の使い方についつい有り得ないモノを見るような目を向けてしまう。

 魔法で一時的に武器を作り出すなんて初めて見たのだ。

 そして大剣を用意した方法を直で見て納得する。

 たしかに、この方法なら所持物をチェックをしても無意味に出来るだろうと。


「一体、どうやって……」


「……魔法で作った」


 それでもつい質問してしまったことにケンキは答えて目の前で消す。

 それを見て呼吸を何度も繰り返して落ち着く。


「ふぅ。どうして相手の四肢、特に脚を切断したんですか?他にも逃げられないようにする方法はあったんだと思うんだけど?」


「………切断した方が縛るより楽。お陰でオペラも見れなくなったし」


 ケンキの言葉に手加減をすることは考えていなかったのだと理解できる。

 大切な彼女を襲われて手加減をしろというのも理不尽だが、血まみれの部屋を造ったのは不満だった。

 現場を確認する際に見るだけでも気持ち悪くさせられたのだ。


「………そうですか」


 ケンキの答えには溜息を出てしまう。

 簡単に人を斬る所業。

 本当は殺しても構わないと考えているのだと理解している。

 この年齢から、こうなのだと考えると将来が不安になってしまう。


「………幼馴染とこいつとこいつの兄が危険な目に遭わない限りは暴れない」


 危険視してきたことを認識してケンキは余程のことが無い限り力を振るわないと口にする。

 それでも警戒しているのかケンキから警戒の視線は外さない。


「うん………」


 シーラが身じろぎをする。

 目覚めたのだと理解して視線を集める。


「ここは……?」


「………大人に拘束されたのは覚えている?」


「おい!?」


 突然に少女がやられたことを口にするケンキに非難の視線が集まる。

 シーラはその言葉で自分がやられたこと思い出しケンキの声がした方に思いっきり抱きつく。


「………がっ!?」


 その勢いが強すぎてケンキは悶絶する。

 脇腹に思いっきり入ったせいで呼吸が少し苦しい。


「あの後、どうなったのよ?」


「………とりあ…ず、脚を……きって。逃げ……られなく……した」


「脚を斬った?それに何で苦しそうにしているのよ?」


 瞳を吊り上げてシーラはケンキを睨む。

 何か無茶なことをしたのではないかと疑っている。


「………お前が脇腹に思いっきりぶつかってきたせいで腹が痛い」


「……別にそのくらい良いじゃない」


 ケンキが苦しそうにしている理由を聞くとシーラは目を逸らす。

 確かに脇腹に当たっているが男の子なのだからそのぐらいは我慢して欲しいと思う。


「って、そうじゃないわね。切ったってどういうこと?」


 再度、質問してきたことに舌打ちをしながら詳細に説明する。

 羽交い締めにして口を塞いだ男の両腕を斬り落としたこと、仲間がいたので全員の脚を斬り落としたことを教える。


「何をしているのよ……」


 シーラはケンキの成したことを聞いて溜息を吐く。

 嬉しさも混じっていることは否定しないが明らかに問題を大きくしていると考える。

 なにせ記憶にあるかぎり五人以上の男女の脚を斬り落としたのだ。

 今頃、襲われた場所が血まみれになっていると聞いても驚かない。


「……別にその程度、お前を護れなかった場合の事を考えると、どうでもよい」


 ケンキにそう言われてシーラは嬉しく感じてしまう。

 そういう状況じゃないが心配されて大事にされているのだと思って顔が赤くなってしまう。

 そして見られないように強く顔をケンキの胸へと押し付ける。

 可愛い女の子が男の子に思いきり抱きついている姿に周りの大人たちは微笑ましく見てしまう。

 それだけで男の子がやったことに対する畏れも減る。


 明らかに腰よりも小さい男の子が屈強な男と大人の女性の身体の一部分を斬り落としたと聞いて畏れてしまう。

 だが目の前で恐怖によってか抱きついて来た少女を護るためだと考えれば、そういう教育を受けたか火事場の馬鹿力だとも考えることが出来る。

 そう考えると少女は良いところのお嬢様の可能性も考えれる。

 だとしても護衛が男の子一人なのは不用心だが。


「見つけたぞ。大丈夫か……?」


 シーラの兄と母親が襲われたと聞いて駆けつけてくる。

 そしてシーラの直ぐ傍まで近づき身体を触って無事か確認する。


「あぁ、良かった。誘拐未遂にあったと聞いて、どれだけ心配したことか……」


「本当にだ。ケンキがいたからこそ未遂で済んだのか、それともケンキがいたのに意識を失う危険があったのか……」


「………取り敢えず女性の護衛は必要。女性トイレでシーラは襲われた」


 女性専用の部屋で襲われたら自分では防げないとケンキは告げる。

 ラーン達もケンキの言いたいことが分かって頷く。

 シーラを護るためには女性の護衛も必要だと考える。


「………そうだな。出来れば俺たちと同年代の少女がいれば良いんだが……」


 それに追加して忠誠心がある少女なら、なら良い。


「貴方ならそう言った相手の才能とか見てわかるかしら?」


 母親の言葉にケンキは首を横に振って否定する。


「……そう」


 残念そうにケンキの答えに頷く。

 名高い実力者なら見ただけで才能が分かると聞くが本当にケンキに出来ないのかと怪しむ。


「才能は無くても鍛えることは出来るか?」


 ラーンの言葉に頷くケンキ。

 そのぐらいなら構わないという態度にラーンは母親と顔を合わせる。


「忠誠心が高い子供を一緒に鍛えられようと思うけど、母様はどう思う?」


「そうね。才能があって強くなる子よりも忠誠心がある子の方が大事ね」


 そう言って悩み始める二人。

 忠誠心が深い人物を思い出そうと考えているのだと理解できる。


「………シーラ」


「うぇっ!?何!?」


 自分を置いてきぼりにして話していたのに急に呼びかけてきたことにシーラは驚いてしまう。


「………お前は二度と同じような目に遭わせないために、またはお前ひとりでも抵抗できるようにするために更に訓練きつくするから」


 ケンキの言葉に絶望した顔を浮かべてしまう。

 悩みながらもケンキの言葉を聞いていたラーンと母親も顔を引き攣らせる。


「ケ……ケンキ?」


「………戦闘訓練はしばらく休み。それと出来ればプロの捕縛術を学んでいる相手が欲しい」


 ケンキの言葉に誰よりも速く母親が頷く。

 戦うよりも逃げる手段があるなら、それを学んで欲しいと思っている。

 その方が怪我もする可能性が低く母親として安心できる。


「あの……」


 すっかり置いてきぼりになった警備兵はケンキ達に声を掛ける。

 被害者が家族と無事を喜び合うのは良いが、これも仕事だから我慢して欲しい。


「……そうね。これを見て頂戴」


 それにシーラたちの母親は有る物を取り出して見せる。

 その結果警備兵は顔色を変えてしまう。


「それを貴方の上司に見せなさい。それじゃあ私たちは帰るわよ。……ってケンキ君、貴方も来なさい」


 座ったままのケンキにシーラたちの母親は君も来なさいと声を掛ける。

 それに頷いてケンキも立ち上がり、シーラたちの母親にシーラの隣に立たせられる。


「ケンキ君、取り敢えず家に帰ったら詳しい情報を教えて貰うわよ」


 それに頷きケンキもシーラたちの家へと向かうことになった。

 そこで女子の手洗い室でケンキが起こした行動を話し、夜も遅いからと家に泊めさせて貰った。




「………何でシーラと同じ部屋?」


 ケンキはシーラたちの家に泊まる時、部屋はシーラと同じ部屋だと強要されて愚痴を漏らす。

 本当なら同じ性別のラーンの方が気楽だ。

 もしくは、こんなに大きい絵なら余っている部屋はいくだでもある筈のなのにシーラ以外の者は揃ってシーラの部屋で泊ってくれと催促してくる。


「……シーラ。入って良いか?」


「え!?……うん、大丈夫!」


 その言葉にケンキは部屋の中に入る。

 ピンクのパジャマを着ているシーラを確認して椅子に座る。

 同じ部屋に居ても一つしかないベッドを一緒に使う気はケンキには無い。


「……ケンキもベッドに入りなさい。流石に客人をそこで眠らせるのは抵抗があるわ」


 そう言ってシーラは無理矢理にでも自分のベッドの中にケンキを入れる。


「……今日は諦めて私の抱き枕になりなさい」


 そう言って抱きつくシーラは身体が震えていた。


「あ……」


 ケンキはそんなシーラを落ち着くように抱きしめる。

 そうすると安心したようにシーラは落ち付く。

 ずっと、そうしていると流石に眠くなり、気が付くと二人は抱き合ったまま眠っていた。

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