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パーティを追放されました。でも痛くも痒くもありません  作者: 霞風太
復讐編

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30/62

終わり

「ジュダ、貴様を犯罪者として連行させてもらう」


 逃がさないように両手首を縛られジュダは連行されていく。

 それを見ている周りの者達は全員が冷たい目をしている。

 それは妻も娘も変わらない。

 もっと言うのなら妻と娘の視線にジュダは特に傷付いていた。


「……少し良いかしら?」


 構わないと連行しようとする兵士が聞こえてきた女性の声に頷く。

 ジュダはもしかして助けてくれるのかと期待して顔を上げる。


「久しぶりね」


 顔を見上げた先にいたのはアルフェだった。

 こうして顔を会わせるのは久しぶりだとアルフェは言う。


「……誰だ?」


 だがジュダはアルフェの事を覚えていなかった。

 そのことに妻であるフレイと娘のユダは更に冷たい視線をジュダに送る。


「私はかつて、あなたに性奴隷にされた者よ。ちなみに過去のことを教えたのはわ・た・し」


 それを聞いてジュダは拘束されているのにも関わらずアルフェに掴みかかる。

 幸せな生活な真っただ中にいたのに壊した本人がいるのだ。

 憎くてしょうがないらしい。


「てめぇかあぁぁぁぁ!!」


「………煩いわね」


 それはアルフェも同じだ。

 むしろ正当な怒りとしてアルフェの方が正しい。

 何人もの女性を性奴隷に堕としておきながら本人は幸福に生きているのは感情的に許されるようなことでは無い。


「……ごはっ!」


 ボン!と喫茶店の中全体に響く鈍い音が聞こえてくる。

 腕を拘束されても近づいて来たジュダにアルフェが蹴り上げた音だ。

 ケンキに鍛えられただけあって、かなりの威力がありジュダは胃の中のものを吐き出している。


「ふざけるな!憎いのは私だし、貴様に奴隷にされた者たちだ!私は絶対に貴様を許さない!」


 そんなジュダをアルフェは胸元を掴んで持ち上げる。

 憎いの私だと爛々と目に憎悪を輝かせて間近で睨み上げジュダは悲鳴を上げる。


「これから一生、自分のしたことに悔いて死んで行け。長く長く」


 憎々し気に言われた言葉に直ぐに殺す気は無いのだとジュダは理解する。

 そして殺された方がマシだと言うような生活を長くさせる気だと予感する。


「君は……」


 アルフェにおススメの料理を教えた常連の客がアルフェの姿を見て納得する。

 初めて来たと言っていたのは嘘では無いが、復讐相手であるジュダを確実に捕まえるために監視をしに来たのだろうと。

 自分以上に毎日、この店に来ていて、それほど気に入ったのかと嬉しくなったが実際は違ったことに残念に思う。

 だが先程から口にしている奴隷にされたという言葉にしょうがないかとも考えている。

 女性が奴隷。

 それも容姿も整っている。

 耐えがたい生活をジュダの所為でされたとと思うと、しょうがないのかもしれない。


「ねぇ。お父さんは何で沢山の女の人を奴隷にしたの?」


 娘が父親に理由を聞くために近づく。

 大人たちは予想は出来ているからこそ、聞かなかったことを子供は予想が出来ないからこそ聞いていく。


「それは……」


「それは?」


 問い質そうとしたところにフレイが娘を抱えてジュダから引き離す。

 母親として未だ幼い娘に聞かせたくないのだ。

 誰もが動けなかったのに行動できたフレイは周りから流石母親だと歓声を浴びせられる。


「いい、ユダ?それは成長すれば自然と分かることだから今は聞かないで」


「何で?」


「お願いだから……ね?」


 不思議に思ってユダは聞き返すがフレイの迫力のある笑顔に黙る。

 ハッキリ言って怖い。

 フレイは黙ってコクコクと首を縦に振るユダに満足そうにして元夫へと振り返る。


「今、思い出したんだけど、これにサインしなさい」


 そして差し出したのは離婚届だった。

 完全に夫と縁を切る気だ。

 そして当然ながら元夫の実家ともフレイの両親に話して縁を切るように話してある。

 元夫の血を引いている娘は捨てるつもりは無い。

 大事に育てるつもりだ。


「………どうしてもサインをしなければダメか」


 苦痛を味わっているような表情のジュダにフレイは当たり前だと頷く。

 犯罪者と一緒にこれ以上は暮らしたくないのだ。

 もし釈放されても夫婦だからと二度と一緒の生活はしたくない。


「………頼む!これだけは許してくれ!」


「嫌よ」


 それだけは嫌だと必死に暴れるジュダ。

 フレイは一瞥もせずにそれを拒否する。


「だって貴方、女を売っていたのでしょう?お金に困ったら私たちまで売るからもしれないじゃない。一緒に暮らしていたほうが身の危険を感じるわ」


 あくまでもジュダの過去を見て否定する。

 今のジュダを夫婦として暮らしてきたのに見ていない。


「俺は!お前と会ってから!二度とやっていない!」


「だから?」


「~~~~っ!!」


 聞く耳をもたないフレイにジュダは苛立ちを覚える。

 ここまで潔癖で話を聞かないとは思わなかった。


「ねぇ。覚えている?」


「何がだ……」


 苛立ちを隠せずにジュダはフレイの質問に答える。

 周りの者達は何を怒っているんだとジュダに対して冷めた視線を送っている。

 どう考えても悪いのはジュダなのに逆ギレかと。


「私に消えた姉がいることを話さなかった?」


「え?」


「その様子だと忘れていたみたいね」


 フレイの言葉にジュダは困惑する。

 今の状況で何で話すのかを考えて、冷や汗が流れる。


「最近、姉が見つかってね。しかも性奴隷にされていたみたいなの」


 また性奴隷かと思い、そしてアルフェを見る。


「私もだけど、覚えている限りの性奴隷を売ったり買ったりしていた者達を国に報告して調べたみたいね。性奴隷の中にいたなら貴方が堕とした相手の一人じゃない」


 アルフェの言葉にジュダは顔面を蒼白にして違う、違うと呟いている。

 本来はダメかもしれないが無理矢理に離婚届をサインさせて喫茶店から追い出す。

 もう顔も見たくない。


「………終わったわね」


 それを確認してアルフェは呟いた。




「ぷっ」


 噴き出したような笑い声が聞こえる。

 不謹慎な行為を誰がやったと考え皆が探したら一人の少年がいた。


「ケンキ?」


 声を出して確認したのはアルフェ。

 何時の間に喫茶店の中に入って来たのか気付かなかった。


「………ごめんごめん。どれだけ結婚した相手のことが好きなんだと思って」


 愛することをバカにしているような言動に苛立つ。

 少なくともジュダが言ったことが本当なら愛の為に犯罪から足を洗った。

 それをバカにするのは、どういうことだと睨み付ける。


「………しかも、妻の姉を性奴隷にしていたとか。………忘れていたというより妻の顔から記憶から都合の悪い記憶を消し去っていたんじゃないの」


 その目には怒りと侮蔑の目が宿っていて、睨みつけていた者達は黙り込む。

 ケンキの言っていることに、たしかに有り得そうだと頷いてしまったのもある。


「はぁ。ケンキ、帰るわよ」


 取り敢えずアルフェはこれ以上、ケンキが何か言う前に喫茶店から出そうと行動に移す。

 先程の発言は怒りを鎮めてもらえたが次はどうなるか分からないとケンキの腕を引っ張って無理矢理にでも喫茶店の外へと連れだす。

 ケンキはされるがままに連れ出され、店にいた者達は突然の出来事に見ていることしかできなかった。




「ケンキ。不謹慎なことはしないでよ」


 アルフェの言葉に首を傾げるケンキ。

 不謹慎なことをした自覚はないせいだ。


「少なくとも、あの場で笑うのは不謹慎よ」


 そんなものかとケンキは納得する。

 今度からは本当におかしい時にだけ笑おうと考えるが、先程笑ったのも本気で笑えたからだ。

 信頼を失くしたのに、まだやり直せると本気で考えて離婚は止めてくれと言っていたのは可笑しかった。

 しかも最後は逆ギレもしていて苛立ちも隠せていなかった。


「だからと言って普通は笑わないわよ」


 ケンキの意見を聞いてアルフェは、それでもと否定する。

 そのことにケンキは面倒だと思いながらも悪い事なのだと認識した。


「……それじゃあ」


 ケンキは用事も済んだからアルフェと別行動をしようとする。

 そもそも、ここまで連れてこられたのはアルフェがケンキを引っ張ったからだ。

 それ以外の要件がないのなら好きにしたいと考えていた。


「………ケンキ、今日は予定は無いのかしら?」


 そんなケンキにアルフェは予定が無いのなら自分に付き合ってほしいと声を掛ける。

 ケンキは嫌そうな顔をして振り返る。


「悪いけど、ちょっと戦ってくれない?」


 格下が何か言っているとケンキは思うが、それぐらいなら構わないかと頷く。

 もともとは訓練をするつもりだった。

 それが戦闘に変更になるぐらいは問題ないし、むしろ好都合だとケンキは思う。

 戦闘の方が緊張感があって身になると考えている。


「……わかった。邪魔が入るかもしれないから国の外で良い?」


 ケンキの提案にアルフェは頷いて共に国の外へと向かった。



「それじゃあ始めるわよ」


 アルフェの今から挑むという宣言にケンキは苦笑する。

 ケンキからすれば急に攻撃しても文句は無いのに態々、宣言してくれて防ぎやすい。


「はぁ!」


 アルフェの拳をパンという音と共に手の平で止める。

 だが実力差を分かっているからが直ぐに拳を引き、連続で拳で攻撃をしてくる。

 そのことにケンキは疑問を抱いてしまう。


「……何故、武器を使わないんだ?」


 少なくとも、これまでの訓練の間は武器を使って挑んできていた。

 それなのに今は武器を全く使わず素手で挑んできている。


「あぁぁぁぁ!!」


 ケンキはそのことに文句を言おうとするが感情のままに暴れているようにしか見えないアルフェにこれは聞く耳を持たないなと予想する。

 戦いの筈なのにこちらに目をくれず自分しか見ていない。

 そのことに溜息を吐きながら相手をする。

 どちらにしてもケンキ自身を攻撃してくることは変わらないために、ただひたすらに避けるための訓練だと考えて相手をする。


「やぁぁぁぁ!!」


 だが、ふと途中に思い当たる。

 もしかして、これは八つ当たりかストレス発散に利用されているだけでは無いかと。


「ふっ!」


 蹴り上げてきたアルフェの脚にケンキは乗り、そしてまた飛び跳ねて距離を取る。

 離れた位置に移動したケンキにアルフェは急スピードでたどり着き、攻撃を仕掛けていく。

 その攻撃の事しか考えていない姿勢にケンキは笑みを浮かべて八つ当たりでも何でも良いと受け入れる。

 その方が自分の訓練になると考えたからだ。


「はぁ!」


 だが避けるだけではない。

 拳で攻撃してきたら掴んで投げる。


「やっ!」


 後ろから跳び蹴りをしてきたなら身体を傾けて避ける。


「ふっ!」


 回し蹴りをしてくるアルフェに身体を屈ませて回避。


「ふん!」


 踵落としをしてくるのに、その場から跳び去る。

 と、連続の攻撃を全て避けていく。


「らぁ!」


 そして正面から攻撃してきた場合は投げ飛ばしていた。

 怪我をしないように、また直ぐに攻撃できるように手加減して投げているが目論見通りに攻撃してきてケンキは満足する。

 何度も投げてもアルフェは攻撃を止めない。

 それがケンキにとって非常に都合が良い。

 アルフェの体力が尽きるまで付き合うことに決心した。


 そして。


「はぁ……。はぁ……」


 アルフェは息を荒く片膝を付いて崩れ落ちた。

 その姿にケンキは終わったのかと距離を取って眺めている。

 そのまま数分程、ジッと見ていたが動かないのを確認して近寄る。


「……起きているか?」


 ケンキの意識の確認にアルフェは首を縦に振って頷く。

 どうやら声を出せないほどに疲れているようだと察して肩に担ぐ。

 以前と同じように家まで運ぶつもりだ。

 前回と違うのは、ケンキの家では無くアルフェの住んでいる家だということだ。

 復讐の手助けをする代わりに家から出てからにしろという約束を守って、アルフェはアパートを借りている。


「……道は案内できる?」


 今の住んでいる家の場所は教えてもらったが初めて行くために道案内はして欲しいとケンキはアルフェに言う。

 指で位置を指し示せるなら、それだけでも構わないのだ。

 それに対してアルフェは首を縦に振り、そのことを確認したケンキは先ず国の中へと戻っていった。


「……ここで良いのか?」


 国の中に入り道案内された場所は見るからに高いマンションだった。

 こんな高そうなマンションにどうやって済んだのか、家賃とか大丈夫なのかとケンキは心配をしてしまう。

 だが確かにアルフェが指を差している以上は問題ないのだろうと考える。


「……あれ、アルフェさん?」


 アルフェの名前が呼ばれたことにケンキは声がした方向に身体を向き直る。

 そこには金髪の女性がいた。

 知り合いが男に背負われている姿に女性は一瞬だけ警戒するが、背負っている男が明らかに小さい子供であることに警戒の色を失くす。

 このぐらいの子供が悪戯程度のことはしても決定的なことはしないだろうと考えてのことだ。


「………アルフェの知り合い?」


 ケンキは女性はアルフェの昔からの知り合いかマンションに住んでから知り合ったかのどちらかと予想する。

 丁度良いとケンキは考えてマンションの部屋まで案内してもらおうとした。


「そうだけど、それよりも大丈夫!?」


 女性はケンキの質問に答えながらも心配して駆け寄る。

 心配しているのは二人。

 背負われているアルフェと背負っているケンキ。

 前者は自分で動けないから背負われているのだと理解して心配し、後者は小さい子供が大人の女性を背負っていることに疲れないかと心配している。

 ケンキぐらいの背の小さな子供がよく運んでこれたものだと感心さえしていた。


「私が背負うから君は降ろしても良いわよ」


 その言葉にケンキは従わずに、むしろ部屋まで案内して欲しいと頼む。

 このぐらいはケンキにとっては余裕なのだ。

 むしろ問題はアルフェの部屋に入る方法だ。

 正直、アルフェを抱えて部屋に入るのが難しい。

 アルフェを抱えて運ぶのに両手を使っている為に鍵を開ける為の手が空いていない。


「………必要ない。それよりも鍵を開けるのを手伝ってほしい」


 ケンキの必要無いという言葉に男の子の意地かと微笑ましくなり、同時に手助けして欲しいと言葉に満面の笑みで女性は頷く。

 子供が素直に頼ってくれるのはうれしく感じてしまうようだ。


「良いわよ。それじゃあ私の後に着いてきて」


 ケンキの先を歩き女性はアルフェの部屋へと案内する。

 そして着くとアルフェの肩を叩き部屋の鍵を渡してくれと頼んでいた。

 それに頷きアルフェは女性に鍵を渡すと部屋を開けてくれる。


「はい。ここがアルフェの住んでいる部屋よ」


 そう言って鍵をアルフェに返して部屋を出て行く。


「……後で礼を言わないと」


「………体力が回復したのか?それなら俺は帰ろうと思うけど構わないな?」


 ケンキの言葉にアルフェは黙って頷く。

 部屋を代わりに案内してくれた女性にもそうだが、ケンキに対してもここまで運んでくれたことに感謝しなくてはいけない。

 ケンキに関しては、それだけではない。

 八つ当たりをしてしまい、それを受け止めて貰ったことにアルフェは大層感謝している。


「……今日はありがとう」


 取り敢えずは礼だけでもといったアルフェの言葉にケンキは気にしなくて良いと返して部屋から出て行った。


「ふぅ……」


 ケンキが部屋から出てアルフェは息を吐く。

 ケンキに罪は無いが圧倒的な格上と狭い部屋で一緒にいることにアルフェはプレッシャーを感じてしまっていた。

 ケンキが運んでくれたソファーの上に更に体重を預けて崩れ落ちる。


「………復讐が終わっちゃったか」


 ジュダが妻と娘の前で捕まったのを目の前で確認し根本的な生きる目標が失ってしまった。

 就職先のこともあるがどうも働く気になれない。


「取り敢えずケンキに恩返しをするために生きようかしら?辛い目に何度もあわされたけど恩人には違いは無いし、結果的に強くも成れた」


 アルフェは生きる目標が無くなって何もヤル気が起きなかったが、直ぐに別の目標を見つけ出してしまう。

 もしかしたら本人には必要は無いのかもしれないが、それでもと決意は変わらない。

 それだけケンキに対する恩は深い。

 あの日、気まぐれでも助けてくれなければ復讐も果たせず今も奴隷として働いていた可能性があったと考えると今でも背筋が凍ってしまう。


「取り敢えずはケンキのどんな要望にも応えられるように色んな事を勉強しないといけないわね」


 アルフェの目には、どんなことでもやって見せようと活力が溢れている。

 既に体力が尽きていなければ今にも行動を起こしていただろう。


「……はぁ。体を動かすのも辛いわね。残念だけど今日は諦めるしかないか」


 アルフェは溜息を吐いて目を瞑る。

 まだ寝るには、かなり速い時間だが起き上がれないほどに疲れているのだ。

 寝て体力を回復する以外にやれることは無い。

 朝、起きたらまずはシャワーを浴びることを決意してアルフェは意識を落していった。




「………やっぱり本当は殺したかったのかな?」


「何がだ?」


「……アルフェが復讐相手に対して殺さなかった事」


「そうかもしれないな。それで………」


「……?」


「俺は後ろから気付かれないように接近していたがバレバレだったのか?」


 後ろからラーンが突然にケンキの独り言に応えたことで驚かせようと考えていたが、ケンキは全く驚く様子を見せることは無く、普通に会話を続けていった。

 それにラーンは少し不満になりながらもケンキだからと納得する。


「………近くに護衛も多くいるから気付かない方が可笑しい」


 ケンキの言葉にバッとラーンは自分の周りを見渡す。

 だが護衛の姿が見当たらない。

 見つからないように隠れているのだろとラーンは予想する。

 まさかケンキがこんなことで嘘を吐くはずが無いとラーンは信頼しているからこその予想だ。


「何処にいるんだ?全く見付けれないが……」


「………あそこ」


 ケンキが指さした場所を見るが、見つけれない。

 どういうことだと首を傾げてしまうラーン。


「………絶対に見つからないように隠れているから、見つけれなくてもしょうがない。俺も全員を見つけれているとは限らない。見落としがあるかもしれない」


 ケンキが見つけれないレベルで隠れていると聞いてラーンは背筋が凍る。

 この者たちに裏切られたら抵抗できないと顔を青くする。


「ケンキ、どうすれば見分けれるようになる?」


 生きる為にケンキに教えを乞うラーン。

 見分ける方法を聞かれてもケンキにとっては説明が難しい。

 ケンキにとっては何となくで判ってしまうものだ。

 それでも見逃してしまいそうになる護衛達に苦笑が浮かんでしまう。


「……さぁ?何となく判ってしまうから説明はできない」


「何となくって、どんな風に見えているんだ……」


「……生きているものか、生きていないもの?……護衛の人達は凄い。生きていないのと同じように見えるときがあるのだから」


 ますます意味がわからない。

 とりあえずケンキは他者と違う感覚を持っていることで納得する。

 それで見分けているのだろうと。


「いや少し待てケンキ。今、護衛の者たちの中に生きていないのと同じ状態に見えるって言わなかったか?」


 ラーンの言葉にケンキは頷く。

 あれを見て本当の隠形とは、どういうものかと理解した。

 まさか無機物と同じ状態になるとは考えたことも無かった。


「………ちなみにケンキは出来るのか?」


 ラーンの質問にケンキは首を横に振る。

 一生を懸けても出来る気がしないと告げる。


「ケンキでも無理か。………って違う!元々はケンキの殺したいという言葉を聞いて話しかけたんだった!それでアルフェは殺さなかったのか?」


 ラーンの話題変更、もしくは元の内容に話を変えることにケンキはアルフェの事を思い出して説明することにする。


「………そう。アルフェは復讐して殺してやると言っていたけど、結局は殺していない」


「へぇ!」


「………兵士に捕まる瞬間まで本当は殺したかったけど長く苦しませたいからと殺すのは我慢していた」


 成程な、とラーンは納得する。

 確かに我慢させて生かした方が苦しむ。

 殺したら苦しむのも、そこで終わりだ。


「確かに、その方が長く苦しむがよく我慢できたな」


 自分だったら奴隷にされた憎しみで殺すことは我慢できないとラーンは感心する。

 理性ではアルフェの考えが理解できても感情が納得するかは、また別の話だ。


「………最低でも一人は殺すと思ったけど、家族も含めて誰も殺していない」


 ケンキは少し残念そうにする。

 折角、間近で残酷な復讐劇を見れると思ったのにそんなことは無かった。

 不謹慎と注意されても残念に思う。


「仇を前にしても直ぐに殺しに行かないか……。良い騎士にもなりそうだな」


 アルフェの行動を聞いてラーンは素晴らしい人材だと評価を下す。

 直ぐに感情的になる騎士はラーンは低い評価を下すが、どんな状況でも冷静にいられる騎士は高い評価をする。

 その意味では仇を前にして感情的に殺さなかったアルフェはラーンにとって高い評価を受けることになる。


「……もう就職先は決まっているらしい。引き抜きたいならアルフェと相談して雇い先にも頭を下げにいったら?」


 ケンキはラーンの立場が貴族だと前提の提案をする。

 貴族相手なら就職先の雇い主も文句を言えないだろうと考えての発案だ。


「……そうだな。就職して直ぐに辞めさせるのは色々と失礼だな」


 ラーンはケンキの意見を聞いて確かにと頷く。

 アルフェの都合ではなくラーン自身の都合で仕事を辞めさせるなら、ラーンが直接アルフェが仕事を辞めることを頼み込みに行くべきだ。


「………一つだけ言っておくが、アルフェの意見を聞いておけよ?」


 アルフェの事を無視してラーンは就職先に行きそうだからケンキは釘をさす。

 ちゃんとアルフェが騎士になることを否定したら受け入れてくれるよう言う。


「わかっている。アルフェが騎士にならないと言うなら諦める。その気が無いのに騎士になられると、こちらも困るからな」


 なら良いとケンキは頷く。

 発案者として意の異なることをさせれたと責めらえるのは避けたかった。


「………そうだ、ケンキ。今日は家に来ないか?」


「………何故?」


「普段は家に帰って来れない父にケンキのことを話したら久しぶりに会いたいと言っていてな。今からでも両親が許可をくれるなら来てくれないか?」


 ラーンの提案にケンキは頷く。

 なら一度、家に帰る必要はあると帰路に付く。


「あっ。俺も一緒に行かせて貰うぞ」


 ラーンの言葉に頷き一緒に向かう。

 だが途中でケンキはラーンを担いで急スピードで家に辿り付いた。

 当然、護衛達は置き去りにしてしまっていた。




「……なぁ?急に担いで、どうしたんだ?」


 ケンキが急に自分を担いで家に連れてきたことにラーンは疑問に思う。

 予定よりかなり速く着いたことに不満は無いし、担がれていたが風を切る感触に楽しかったが、それはそれとして疑問だ。


「………何となく。それよりも、お父さん達に許可を貰ったら、また担いで走るから」


「お……おう」


 何となくと言われてラーンは何も言えない。

 ケンキはケンキで、それだけを言ったら家の中へと入るしマイペースすぎる。

 そんな友達の親に頼むためにラーンもケンキの家の中に入って頼もうとする。


「ケンキ、帰ってきたか」


「………うん。悪いけど友達に家に泊まらないかと誘われた。お父さんたちが良いなら泊りたい」


「……そうか。別に構わないが母さんにも言えよ?」


「………わかった」


「あぁ、その間に一つ聞きたいことがある」


 父親に許可をもらって母親の元へとケンキは向かおうとする途中で呼び止められる。


「その友達は、どんな奴だ?」


「………かなりの努力家?」


「そうか、友達にも迷惑を掛けるなよ」


 それに頷いてケンキは今度こそ母親の元へと向かった。

 そして。



「君は……?」


 ケンキが去った後、入れ違いに入ってきた少年にケンキの父親は質問する。

 予想では彼が息子が言っていた泊まる先の友達だと予想し、それは当たっていた。

 だが少年の顔が真っ赤になっており心配してケンキの父親は駆け寄る。


「大丈夫かい!?顔がかなり真っ赤になっているけど!?」


「大丈夫です。ただケンキがまさか俺を褒めてくれるとは思わなくて……」


 それが嬉しくて興奮してしまい顔が赤くなってしまったとラーンは説明する。

 ケンキの父親は、その説目で納得してしまう。

 何度かケンキが彼以外の友達、ユーガやサリナを鍛えているところを見たことがあるがケンキが褒めていた姿は、ほとんど見たことが無い。

 ちなみに、その光景はユーガ達の家族も見ていたが、あまりの内容に卒倒したりケンキを止めようと乱入しようとしていた。


「そうか、良かったじゃないか。俺も息子が誰かを褒めていたのは滅多に聞いたことが無いからな。自慢できるんじゃないか?」


「そうだな。早速、父と妹に自慢することにしよう」


「……え」


 自慢できると言ったのはちょっとした冗談だったのに真面目に受け止められらて動揺してしまう。

 本当に父親に自慢するつもりなのかと疑問を抱く。


「あ、そうだった」


 ラーンは何かを思い出したかのようにケンキの父親に向き直り頭を下げる。

 急な行動にケンキの父親は何も出来ない。


「ケンキはかなり優秀に感じる男です。これからも俺たちはケンキを家に泊まらせたりと借りるつもりです。どうか容赦してくれ」


 ラーンの言葉にケンキの父親は何も言えない。

 ケンキのことを評価してくれるのは嬉しいが、どういうことだと疑問を抱いてしまう。

 ケンキを家に泊まらせたり借りたりして何をするつもりだと睨んでしまう。


「………何をしているんだ?」


 その最中、ケンキが来て何をしているんだと冷たい目を向ける。

 友達に土下座をさせている父親に少しだけ怒りが湧く。


「ケンキ、お前は彼の家に行ったことはあるか?そして行っていたなら何をしている?」


「………騎士とそこにいるラーンとその妹を鍛えている」


「……それだけか?」


「………基本的にそれぐらい」


「基本的に……?」


「……偶に遊んだりご飯を食べさせてもらったりしている」


「………そうか。わかった、これからもケンキと仲良くしてくれ」


 ケンキの父親からの言葉にラーンは安心して頷く。

 警戒されてしまったがケンキの家でやっていた決して嘘では無い言葉に納得してもらえた。

 そして、これからもケンキと仲良くしてくれと頼まれてラーンは当然だと頷いた。

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