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パーティを追放されました。でも痛くも痒くもありません  作者: 霞風太
復讐編

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28/62

調教

 ケンキは早朝、アルフェを抱えて国の外に出る。

 アルフェには朝の早い時間から出かけるからと、あらかじめ言っておいたのもあり問題なく行動できた。

 もし先日の会話で洗脳や調教という言葉が出てきたことを覚えていれば従うことはなかっただろう。

 その所為でアルフェは絶望に叩き落とされてしまう。


「それで国の外にまで来て何をするのかしら?」


 少しだけアルフェは顔を赤らめてケンキに質問する。

 顔を赤くしているのは、ここまで来るのに一回り近い子供に抱えられて恥ずかしいからだ。

 誰かに見られたらと考えると恥ずかしくてしょうがない。


「……調教」


「は?」


「……調教」


 ケンキの答えにアルフェは何をいっているんだと聞き返してしまう。

 それに対してケンキはもう一度、同じことを言った。


「いやいやいや……え?」


 調教されることに拒否をしようとするが途中でアルフェの言葉は遮られる。

 ケンキが大剣を突き出しアルフェの首に掠り傷を作ったからだ。

 場所が場所だけにアルフェは命の危険を感じて後ずさる。


「な……なんで?」


 自分を殺そうというのかとアルフェは疑問に思う。

 もし何か逆鱗に触れてしまったのなら治すから殺さないで欲しいと願う。


「………お前はダメだと言ったのに何度も頼んできて妥協させてきたからな。この数日で二度と俺に逆らえないようにしてやる」


 ケンキはそう言ってアルフェに向けて大剣を振り抜く。

 今度は腕に傷を付けられる。


「………安心しろ。殺しはしない。……まぁ、運が悪かったら死ぬかもしれないが」


 最後に付け加えられた言葉にアルフェは本気で逃げる。




「はぁ……!はぁ……!」


 アルフェが木を通り過ぎると同時に突然に通り過ぎた木が倒れる。

 倒れた木を見てみると切り裂かれたような跡が残っている。

 アルフェの後ろにいるケンキは大剣を振り抜いた格好をしており、斬撃を飛ばして攻撃しているようだ。


 そんなケンキにアルフェは焦りと恐怖の汗を流しながら必死に逃げている。

 斬撃なんて飛ばすのだ。

 しかも軽々と木を斬り落とすから真面に喰らったら両断されかねない。

 アルフェは復讐も果たしていなのに死ぬなんて認められないと全力で避けている。

 が。


「……遅い」


 急に目の前に現れたケンキに殴り飛ばされる。


「あぁぁぁぁぁぁ!!」


 アルフェは殴り飛ばされている間にも木にぶつかるが、あまりの勢いにぶつかった木が何本も圧し折れ二桁に近づくと漸く止まる。

 当然ながらアルフェは気絶してしまっていた。

 そんなアルフェにケンキは頬を何度も叩いて目覚めさせる。

 調教はまだまだ終わりではない。


「う……」


「………続けるぞ」


 目を覚ましたアルフェにケンキは大剣を振りかぶる。

 それを目にして必死に切り殺されないようにアルフェは転げまわって逃げる。


「し…死ぬかと思ったぁ……」


 逃げきれて安堵しているアルフェにケンキは更に続けて大剣を振り抜く。

 斬撃も飛んでいる為にアルフェは大剣の剣筋に重ならないように逃げる。

 後ろには切り裂かれた木がいくつも落ちている。


 それを見てアルフェは冷や汗を流す。

 真面に喰らえば即死だと顔を青褪めて逃げるのを再開する。

 アルフェは逃げながらも理不尽だと感じる。

 何度も頼んで来るからと言って調教して頼まないようにすると考えるのは頭がおかしい。

 お陰で死にかけえる目に遭っている。


「………」


 斬撃を飛ばされて当たらないように何度もケンキを確認しながら逃げているが、アレはアルフェは死んでしまっても良いと考えているのだと分かる。

 それだけケンキのアルフェを見る眼は冷たい。

 アルフェは殺されてたまるかと視線に怯えるのではなく奮起する。

 

 その姿にケンキはわずかに笑う。

 本当にわずかだったためにアルフェは気付いていなかった。


 ケンキは必死に行動するアルフェに少しだけ好意を持つ。

 必死に行動する姿は好きだ。

 それでも調教することに変わりは無いが。

 あくまでも自分に従うように心身に刻み込む。


「本当に死んでも構わないって攻撃をしてくるわね!調教以前に私を殺す気!?」


 アルフェは殺す気は無いと言ったのは嘘なのかと叫ぶ。

 その後に運が悪かったら死ぬかもと言ったのも覚えているが、本気だとも思えなかった。

 最初は聞いた瞬間に逃げたが、それでも脅しか最終的には無傷に終わるかと考えていた。

 結果はアルフェ自身が血まみれになっているが。


 アルフェの全身に傷が出来ていて、いたる所から血が流れている。

 正直に言って失血死するのではないかというぐらいに血が流れている。

 それでもアルフェの逃げる速度は最初の頃から変化していない。

 必死の行動が決して速度を変わらずに維持をし続けている。


「………っ!」


 それでもアルフェの身体には次々と傷が増えていく。

 どれだけ体力があり逃げ続けても意味が無いと言うように全く変わらないペースで傷が増えていく。

 飛ばしている斬撃の切れ味を、今も斬り落とされている木を見て思い知っているのもあり、何時死んでしまうのか気が気ではない。

 ここまでくればアルフェにも分かる。

 ケンキは自分をいたぶっているのだと。

 

 本気で殺す気なら既に終わっている。

 それが何時、気まぐれで終わるのか。

 それが、どういった形で終わるのか不明だ。

 もしかしたら殺す気になったら終わってしまうのかもしれない。


「あぁぁぁぁぁ!!」


 生き残るためにアルフェは全力を尽くし、ケンキはその姿に好感と複雑な感情を持て余した。




「……今日はここまで」


 ケンキのその言葉と同時にアルフェは地面に座り込む。

 体中が血濡れになっているが生き延びたことによる達成感が全身に溢れている。

 その様子にケンキは失敗したと感じる。

 本来なら恐怖を覚えさせるつもりが、それ以上に達成感を感じさせてケンキに対する味合わせる恐怖が薄れてしまっている。

 このままだと結局、変わらない。

 条件を何度も頼んで緩めかねない。


(……抵抗を自由にさせていたからか?)


 そして失敗した理由を考える。

 最初に考えたのは抵抗する自由を与えたこと。

 それがアルフェに達成感を与えてしまった原因だと推測する。

 人は生死のかかった状況から自分の意思で生き残ったことに達成感を得るのだと知る。

 なら抵抗も出来ないように拘束すれば恐怖を覚える筈だとケンキは考える。


「………明日もお前を調教するから」


 その言葉にアルフェは驚いた顔でケンキを見る。

 本気で言っているのかと信じられない者を見る眼だ。

 その姿にケンキはあれ?と思う。

 勘違いしているだけで実際はかなり自分を恐怖しているのではないかと考えてしまう。


「………嘘よね」


「……本当」


「………私はあなたに逆らう気なんて無いわよ」


「……信じられない」


 アルフェの言葉を信用せずにケンキは明日もやると考えを変えない。

 そんなケンキにアルフェは絶望して身体ごと床に倒れてしまう。

 明日のことも考えて充実していた達成感も動く気力も無くなってしまう。

 こんな一歩間違えたら死ぬような調教などやりたくもないのだ。

 もう二度と条件を緩めることを頼まないから許して欲しいとアルフェは思う。


「そうだ!ケンキの両親に教えるわよ!」


 これならケンキも諦める筈だとアルフェは予想する。

 何時の時代も子供は親に弱いのだ。

 特にケンキの様な年齢の子供には。

 実際にやられたことを話せばケンキの両親も叱る筈だと予想する。


「………予定変更」


「ん?」


 何をするつもりだとケンキを見ていたら全身を縛られる。


「……今日の内に明日やるつもりだったことを今やる」


 何をするつもりだとアルフェはケンキを見上げる。

 調教と言っていた言葉から確実にアルフェからすれば最悪な行動に移すつもりなのだと推測できる。

 その内容が想像できない。

 想像できないが命に関わるのだろうなと考えることは出来る。


「……何をやるつもりかしら?」


 そしてケンキの死ぬかもしれない攻撃から逃げ延びて心が強くなり、度胸も強くなったアルフェは並大抵のことでは無意味だと内容を聞こうとする。


「……水に沈めて呼吸不能ギリギリになったら出して息をさせる。それを何度も繰り返す」


(水責め?)


 ケンキの口にした内容に何をされるのか想像がついたアルフェ。

 これからされることを予想して顔を青くする。

 アルフェは逃げたいが拘束をされているために身動きも出来ない。

 そうでなければ逃げ出していただろう。


「本当に止めて!何をされても従うから!拷問しないで!」


 アルフェは必死に水責めは許してもらうと懇願する。

 だがケンキは聞く耳を一切持たずに沈めることができる水辺へと歩き出す。

 何を言われようと調教する気は変わらない。


「………追いかけまわすのに一日の殆んどを使ったから一時間くらいか」


 とはいえ逃げるアルフェを追いかけるのに一日の殆んどを使ってしまっているため、少ししか出来ない。

 それでも、やらないよりはマシだろうとケンキはアルフェを水に沈めようと決めている。

 そして沈める水辺へとたどり着く。

 そこには明らかに人を食う魚の魔獣が飛び跳ねていた。


「………見つけた」


「待って」


 予想以上の危険な行動にアルフェは制止を望む。

 あんなところで実験をされたら生き残れるはずが無いと考えたからだ。

 水に沈められている間に食い殺される。


 そんなことはアルフェじゃなくても少し考えれば誰にも分かることのはずなのにケンキは当たり前のようにアルフェを水に沈めようとする。

 拘束されていても死にたくないとアルフェは必死に逃げようとジタバタする。

 だがケンキに簡単に捕縛され水に沈められる。

 最後のその瞬間まで嘘だよねと視線で問いかけながらも無残に沈んでいった。


「がぼがぼがぼ」


 アルフェは湖に沈められる。

 当然、息も出来ない。

 服を着たまま落とされたので全身に張り付いた濡れている服が重い。

 そして目の前には魔獣が口を開けて迫って来る。


(あ……。これは死んだわね)


 もう逃げられない死を目の前にして諦めてしまう。

 復讐を果たすまで、どんなことをしてやると思っていたが逃げられない死を目の前に諦めてしまう。

 アルフェ自身を沈めた張本人は決して勝てない格上。

 万が一にも生き残れる目は無いと諦めてしまっている。

 そして魔獣の牙がアルフェへと触れる瞬間、受け入れたように目を閉じた。


「んぐ!?」


 直後、勢いよく上へと引き上げられる。

 急激な速度に驚いて目を開けようとしたが開けられず、そして鼻にも水が詰まってしまう。


「ごほっ!?」


 そして息が出来る水の上へと顔を出される。


「げほっ。げほっ」


 アルフェは水の上に顔を出されると今まで息が出来なかった分の空気を吸うように深く深呼吸をする。

 生きることを心では諦めても身体は諦めていないということだろう。


「……もしかして、これで終わりよね」


 魔獣に本当に食い殺されそうになったから助けてくれたのだとアルフェはケンキに質問するが首を横に振られる。

 じゃあ何で助けてくれたのか不思議に思っている。


「もう一度、沈める」


「え」


 疑問に思っている間にケンキはアルフェを沈める。

 突然の事だったせいで何も覚悟はできていなかった。

 そして当然またアルフェを食おうと魔獣が迫って来る。

 さっきは失敗したから今度こそ食べようとしているのか一度目より迫って来る速度が速い。

 今度こそ死んでしまうんじゃないかとアルフェは恐怖する。


 そして先程と同じように魔獣の牙が突き刺さろうとする瞬間に急激に上へと釣りあげられる。

 水の上に顔を出してケンキは水に沈めても殺す気は無いのだと理解する。

 でなければ食われる瞬間に助けることはしないだろうし釣り上げるための紐も繋いでいない。

 そのことに少しだけ安堵する。


「………一度でも釣り上げるの失敗したらお前は死ぬから」


 殺す気は無くても死ぬ可能性は十分あることをハッキリと理解してアルフェは顔を青くする。

 確実に生き残れるわけでは無く本当に死ぬかもしれない事実に水の冷たさとは違う身体の震えが襲ってくる。

 最初は抵抗の自由もあった。

 自分の意思で動き回れた。

 だから気持ち的には死ぬかもしれない恐怖があっても強くなるために無視することができた。

 だけど今回は違う。

 縛られて自由に抵抗することも出来ない。

 自分の意思で動き回れない。

 自分の命を誰かに強制的に任せることしかできない。

 強くなるためだと考えられなくて恐怖を無視することが出来ないでいる。


「………これで三回目」


 そして魔獣に食い殺されるかと思ったら、また釣り上げられ沈められる。

 これを何度も繰り返されるのかと思うとアルフェは心が折れそうだ。


「………四回目」


 また沈められると魔獣が増えている。

 全てが人を食える生き物。

 失敗をされたら死んでしまう恐怖に耐えるしかない。


「………五回目」


「……あぁぁぁぁぁ!!?」


 そして浮かび上がったと思ったら脚から噛まれたような痛みが奔る。

 それなのにケンキは悲鳴を無視して沈める。


(……痛い痛い痛い!!もしかしてアレが原因!?)


 沈められる最中にアルフェは腹の辺りから血が出ている魔獣を見上げる。

 脚が食いちぎられると思ったがいつの間にかケンキが殺していたみたいだった。

 痛みで気付かなかったとはいえ全く見えなかった。


「……六回目」


 また浮かび上がり沈められると、沈んでいる最中に殺されている魔獣が増えていた。

 五回目は一匹だったのに今回は三匹はいる。

 それとも気付かなかっただけで見間違いだったのかもしれないとアルフェは考える。


「……七回目」


 見間違いじゃないとアルフェは確信する。

 周りには十匹以上の魔獣の死骸が浮かんでおり殺さないように配慮されていると気付いてホッとする。


「………八回目」


「っつぁ!?」


 浮かび上がった瞬間、腕に痛みが奔る。

 魔獣に噛まれた様子は無い。

 もしかしたらケンキの魔獣を殺した技と同じかもしれない。

 近くには魔獣もいる。

 もしかしたらケンキの攻撃が失敗してアルフェに当たったのかもしれない。

 そう考えるとアルフェは背筋が凍ってしまう。


「………いい加減に沈めて浮かびあげさせてと疲れてきたな」


 数を数えるのを止めてぼやくケンキにアルフェはなら止めてくれと頼みたい。

 だが言わせる隙がない程度にはまた沈められる。


「………ぜぇ。………ぜぇ」


 そして終わる頃には当然ながら生き絶え絶えでアルフェはケンキを見る眼に恐怖を宿していた。

 その視線を感じてケンキは満足そうにする。

 舐められているよりはマシだと考え、これで自分の意思に従うだろうとケンキは安心する。

 それだけ何度も頼まれるのは苦痛だった。


「………それじゃあ帰るか」


 息を絶え絶えで動けそうにないアルフェをケンキは担ぐ。

 このぐらいは手助けしても問題ない。

 あえて言うならケンキの背が小さい為に地面にアルフェの身体が当たって引きずってしまう形になるが、そのぐらいは構わないだろう。

 頭には地面に触れさせないように気を付けるし、足ぐらいは大丈夫だろうと考えたからだ。


(彼が怖い。………だけど、こうして気遣ってくれるから嫌えない)


 アルフェはケンキに対して恐怖を覚えてしまう。

 だが決して死なせなかったし、今も気を遣って運んでくれているのもあって嫌えないでいる。

 これで粗雑に扱われたら嫌えたのにと残念にアルフェは思う。


「………明日は普通に鍛える」


 調教は今日で終わりだと理解し得てアルフェは内心ガッツポーズをとった。

 もし身体が満足に動けたなら実際にガッツポーズをしていただろう。

 だが実際には何とか首を縦に振ることしかできなかった。


「………あ」


 ケンキが急に立ち止まりアルフェに視線を寄越したことに何かあったのか目で問う。


「……今日のこと少しでも漏らしたら同じ目に合わせるから」


 本気で言っていることが理解してアルフェは無理矢理にでも顔を縦に振る。

 もうあんな目に遭いたくは無いのだ。

 ケンキが少しでもミスれば死ぬ。

 自分の行動では無く誰かに命を預ける状況が今日の調教でトラウマになってしまった。


「……なら良い」


 アルフェが頷いたことをケンキは確認して帰りへの道を歩くのを再開する。

 途中で魔獣が襲って来ても片手間に処理をしていった。

 それをアルフェは勉強するように眺める。

 いくら魔獣が襲って来ても自分が知る限り最強の存在に背負われているから安全だと安心して見ていられる。


(普通なら急に魔獣に襲われたら慌てて対処する必要があるけどケンキに背負われているから安心していられるわね)


 そうでなければ勉強するようにケンキを眺めていることは無理だろう。

 襲ってくる魔獣の中には今のアルフェでは勝てない魔獣もいる。

 それをどう倒しているのか見てはいるが参考にならない。

 勉強になるのは、あくまでもケンキの動きだけだ。


 剣の振り方。

 魔獣へと接近する際の脚の使い方。

 アルフェは己が認識できる範囲でのケンキの一挙手一投足を注目する。

 どれだけ集中していても偶に全く認識できない行動もとられる。


(今この子、どう動いたのよ!?気付いたら離れた魔獣の懐まで一瞬で辿り付いたわよ!?)


 数メートルは離れていた。

 それなのに気づいたら魔獣の懐に潜り込み両断している。

 是非とも動きの秘密を知りたいとアルフェは思っている。

 家に辿り着いたら真っ先に聞こうかと考えてさえいた。


「………お。ケンキ君か?」


 森から出て国の中を護るための兵士が女性を抱えているケンキを発見する。

 女性を抱えている事には何も気にしていない。

 シーラやサリナなど偶に抱えているから見慣れたものだと対応している。


「……こんばんわ」


「こんばんわ。もしかして、その女性は新しい弟子か?」


「……そんなもの」


「女性ばっかだけでなく俺も鍛えてくれよ」


「……俺が鍛えているのは女性だけでは無いけど?」


「知っているさ。でも基本的に抱えているのは女性ばっかりだろ?」


「………?本当だ」


 驚いているケンキに兵士は笑う。

 全く気付いていないのもらしい。

 それで、と続ける。


「で俺を鍛えてくれるのは無理かい?」


「……基本的に付き合いがある奴しか見たくない。どうしてもって言うならユーガ達やラーン達と鍛えている時に参加してほしい」


「………厳しいな。特にラーン様たちの邪魔をしたくないしな」


 ラーン様と呼ばれていることにケンキは丁度良いと考えラーンのことについて質問する。

 ケンキはそれなりにラーン達と付き合いはあるが正確な立場は知らない。

 だから興味もあって教えてくれと頼む。


「……ラーンって何者なんだ?偉い立場の息子なのは予想できる。だけど、どれだけ偉い立場なのか誰も教えてくれないんだが」


「悪い。口止めをさせられていて答えられないんだ。どうも、ある時期になったらサプライズで教えたいらしくてな。向こうが教えてくれるまで待っていてもらえないか?」


「………わかった」


 少しだけ残念そうに思いながらケンキは諦める。

 今度はラーン達自身に質問して、それでもダメだったら忘れることに決める。


「まぁ、決して悪意があるわけじゃないんだ。立場を知らないからこそ救われている部分もある。だから気になっても聞かないでやってくれ」


「………」


 兵士の言葉に無言でケンキは頷く。

 聞きたいのに聞けなくなったことは残念だがそこまで重要なことでは無いと思い直す。

 質問したのも何となく気になったからでしかない。

 知らなくてもケンキとしては問題は無い。


「それじゃあな」


 会話も終わりケンキはアルフェを担いで国の中に入る。

 女性を担いでいることもありケンキはかなり目立ってしまっている。

 あまりの視線の多さにケンキは居心地の悪さを感じてしまい、急いで家に戻ろうと考えてしまう。


「……少し本気で動くか」


 その言葉と同時にケンキはその場から消える。

 実際には上に跳んだだけだが、余りの速度にケンキが突然に消えたようにしか見えない。

 ケンキに注目していた者達はケンキが急に消えたことに騒いでいる者たちが数多くいる。


「……しっかり捕まっていろ」


 ケンキは自分が担いでいるアルフェに聞こえるようにそう言うと空中で移動し始める。

 その速度は出来る限りの身体にしがみ付かないと吹き飛んでしまいそうになる速度だった。


「------!!」


 その現状にアルフェは家に着くまで声にならない悲鳴を上げ続けていた。





「あら?お帰りなさい」


 家に辿り着くとケンキの母親が出迎えてくる。

 どうやら丁度、買い物に出かけるらしい。

 手には鞄を抱えている。


「今から私は買い物に出かけてくるから留守番、よろしくね」


 その言葉にケンキが頷いたのを確認してケンキの母親が買い物に出かける。

 そして家に入りケンキはお風呂を沸かす。

 自分とアルフェの身体を洗うためだ。

 ずっと抱き抱えていたからアルフェの体力も回復しただろうと考えケンキは風呂場の前にアルフェを置く。


「……風呂に入って今日は休め」


 ケンキの言葉にアルフェは黙って頷く。

 正直、かなり助かったと思っている。

 汗もかなり多くかいたし水濡れにもされたせいで風を引きそうだとアルフェは思っていた。

 早く風呂に入って身体を温めたいと考えていたから最初に使わせてもらえるのは素直に有難い。


(これは今日、できた傷ね……)


 服を脱いで全裸になると傷付いた肌が目に映る。

 片腕と脚の部分に目立った傷が視界に入る。

 脚には噛まれた跡が腕には何かに貫かれた跡がある。

 腕についてはどうやって攻撃をしたのか確認をすることにアルフェは決めた。

 全く目に映らなかった攻撃に興味があるのだ。


「………何か足りない物はあるか?」


 扉の外から聞こえてくる声に大丈夫と返して風呂に慌てて入る。

 全裸になってから、ずっと身体を見ていて入っていなかった。

 ケンキへの返事は大丈夫と返して身体を温めた。



「ふぅ。さっぱりした」


 風呂から出てケンキに先に使わせてもらった礼を言おうと探し始める。

 おそらくは部屋に居るだろうとケンキの部屋に入る。

 そこには本を読んでいたケンキがいた。


 よほど集中しているのかケンキは扉を開かれたことにも気付かずに本を読み続けている。

 その最中に風呂が空いたとはいえ邪魔をしていいのかとアルフェは悩んでしまい立ち尽くしてしまう。


「……それで何時まで、そこに立ち尽くしているんだ?」


 ようやく気付いたのかケンキが声を掛けたことで、ようやく行動を再開する。

 風呂が空けたことを伝えてアルフェは自分が使わせてもらっている部屋へと戻る。


「……待って」


 だが、その前にケンキに呼び止められる。


「明日は実戦形式で鍛えるから覚悟はしといて」


 その言葉にアルフェはケンキの実力を遥か格上だと認識しているからこそ身体を震わせて頷いた。



「ふぅ~」


 そしてケンキはアルフェが部屋から出て行った後、風呂へと入って一息を付いていた。

 頭の中にはこれでアルフェが逆らうことは無いだろうと考えていた。

 後はアルフェの復讐相手の情報が集め終わるのを待つだけだ。

 それが終わるまで鍛え続けて、終わったら復讐させようと、これからの予定を考えている。


「……何時頃に集め終わるんだろうな」


 取り敢えず明日は普通に鍛えると言ったが情報が集め終わり次第では中止にして復讐を実行させようかと考えている。

 どんな復讐をするのか今からケンキは楽しみだ。


「……どんな復讐をするのか話を聞いた方が良いかな?もしかしたら手伝えるかもしれないし」


 そう考えるがケンキは首を横に振る。

 無論、そう考えるのが悪いと思っているわけでない。

 赤の他人まで巻き込むことを考えているアルフェだから、それを否定されて今も考えているかもしれない。

 その邪魔をしたくは無いとケンキは考えている。


「……それでも聞いた方が良いか?」


 自分のあずかり知らぬところで赤の他人を巻き込んだ計画を考えられたら堪らない。

 聞いた方が良いんじゃないかと考え直す。


「………内容を聞くことにするか」


 少しだけ悩んで復讐の内容を聞くことにする。

 何度も巻き込むように頼んだのだからアルフェは復讐の内容まで話すのは嫌な顔をするのは予想付く。

 それでもケンキは聞くことに決めて風呂から出る。

 身体を拭いて服を着て一直線にアルフェの使っている部屋の前まで歩いて扉を叩く。


「はい?どうしましたか?」


 不思議そうな表情でアルフェが部屋から出てくる。

 付き合いが短いがケンキが部屋に尋ねてくるとは思わなかった。


「………復讐の内容の話について聞きに来た」


 ケンキの言葉にアルフェは少しだけ嫌そうな顔になるが同時に納得したかのように頷く。

 赤の他人を巻き込まないようにと言われて頷いたのに何度も頼んで許可をさせたのは自分だ。

 警戒しても可笑しくは無い。


「……わかっているわ。ただし条件として貴方も案を出して。取り敢えず、巻き込んで良い条件がいる相手の場合といない場合の二つの計画を考えなくちゃいけないし」


 アルフェの考えを聞いてケンキは安堵する。

 最後まで警戒はしなくてはいけないが、それでも赤の他人を巻き込まないように考えていることに安心した。


「……わかった。まずは、お前はどう復讐したいんだ?」


 それからケンキはアルフェと一緒に夜遅くまで語り合い、帰ってきた母親と父親に注意されるまで続けていた。

 そして二人は明日に備えるために素直に注意を受け入れ、それぞれの部屋で眠った。

 ちなみにアルフェとケンキが一緒の部屋では無いのはケンキの両親が二人で使うのは狭いだろうと開いていた部屋を掃除して準備したためだ。

 最初はアルフェも使うのは戸惑ったが折角、準備してくれたのに使わないのも悪い気がしたので素直に甘えて使うことにした。

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