幸せな家族
暖かな日差しがある家の一室に差す。
その光が眩しくて部屋の主が目を覚ます。
まだ眠いのか欠伸をしている。
目を擦り大きく背伸びをした後にベッドから出て着替え始める。
下着を選ぶのに数分の時間を使い、制服を着用する。
そして身だしなみを整えて少女はダイニングへと向かう。
朝起きたばかりでお腹が減ってしょうがない。
そしてダイニングへと着くと湯気立っている温かいご飯と少女の両親が待っていた。
父親は優しい表情で母親は愛おしいものを見る表情で少女を見ている。
「おはよう。ご飯が出来ているから、それを食べなさい」
「おはよう!頂きます!」
朝の挨拶をそこそこに少女はご飯を食べる。
がっついて食べる姿に母親ははしたないと注意するが少女は笑って誤魔化す。
「ユダ!」
もう一度、注意をするとユダと呼ばれた少女は姿勢を正す。
「おいおい」
「何かしら?」
厳しすぎるんじゃないかと父親は苦言を言おうとするが満面の笑みを浮かべられて黙らされる。
「男の子にモテたいなら、食事でがっついて食べる姿は止めなさいね!」
「ちょ……!」
「!わかった!」
母親の言葉に父親は動揺し、娘はそういうことならと積極的に姿勢を正すようにしていく。
好きな人はまだいないが異性にモテたい気持ちはあるのだ。
「………ユダ。まさか好きな男がいるじゃないよな?」
だから父親の言葉にユダは顔を横に振る。
まだ、そんなことは考えたことも無い。
それよりも友達と遊ぶことで頭がいっぱいだ。
「それじゃあ、行ってきます」
食べ終わったユダが立ち上がって外に行こうとする。
だが、そうはさせないと母親が娘の首根っこを掴む。
最低限、使った食器を洗わせるつもりだ。
「待ちなさい。時間まで、まだ余裕があるでしょ?使った食器を洗いなさい」
母親の言葉にユダは面倒臭そうな表情になる。
「洗いなさい」
だが圧のある母親の笑顔に跳ね上がって頷く。
正直、怖くて逆らう気さえ起きない。
「自分の分だけで良いからね」
そう言って台所へ食器を運ぶ娘の後を付く母親。
洗いやすいように踏み台も用意する。
娘はそれに上って水を出す。
「こうすれば良いのよね?」
スポンジを取り出して洗剤を付ける。
そして食器を洗っていく姿に前に教えたことを覚えているようだと安心する。
油断は出来ないが、この分だと心配する必要は無さそうだ。
「………終わったぁ!」
「そうね。後は手を洗ったら、好きにしても良いわよ」
「本当!」
母親の言葉にユダは早速、手を洗って玄関へと走る。
「行ってきます!」
ユダの言葉に両親ともいってらっしゃいと手を振り返して答えた。
「さてと食べ終わったし洗って店の方へ行くか」
ユダの父親、ジュダはそう言って食器を台所に運ぶ。
それをユダの母親、トレイが受け取る。
「私が洗うから貴方は先に店に行ってもらって良いかしら?」
「そうか。頼む」
妻の言葉を聞いてジュダは食器を渡して外へ出る。
店の準備をするためだ。
家から少し離れた所に自分たちの開いた喫茶店がある。
コーヒーが自慢で常連もいる。
「まずは掃除だな」
客が気持ちよく店に入って貰うために毎朝、掃除をしている。
一時間ほど掃除をするとトレイも店の中に入ってきた。
「あら?掃除は終わった?」
「そうだよ。店内の掃除は終わり、あとは玄関の外だけだ」
「それなら私がやっておくわね。後、何か足りない物があったかしら?」
「少し待ってくれ」
ジュダは店の中にある冷蔵庫を開けて確認する。
中には卵やカレーのルー、ソースなど様々な者が入ってある。
「………炭酸系と卵が足りないな。他はまだ足りている」
「そう。それじゃあ玄関を掃除したら買いに行くわね。それまで留守をお願いね!」
そして外へと出ようとするトレイの肩を掴んで止める。
今、掃除してから行っても店は開いていないのだ。
それまでは店の中に居れば良い。
「何かしら?」
「今から行っても店は開いていないだろう。買いに行くのは構わないがもう少し後からにしろ」
「………そうね。まだ早いかしら?でも今から行ってお店が開いたら買って戻らないと注文されても作れないわよ」
「その辺りは材料が切れていると正直に言った方が良いんじゃないか?」
「そうかもしれないけど、せっかく楽しみにしてくれたのに創れないのは嫌じゃない」
妻の言葉にジュダは苦笑する。
客の事をどこまでも考えている姿に感心するが同時に話を聞いたら客が心配するから止めろと注意する。
むしろジュダ自身が買ってくると説得している。
料理もトレイの方が上手いし買ってくるのはジュダの方が適任だろう。
そう説得するとトレイも頷く。
「そうね。じゃあ買ってくるのお願いするわね」
そう言ってフライパンや鍋、まな板などの調理器具を用意していく。
そして米を洗い始める。
先にご飯の準備をするつもりだ。
「じゃあ俺は玄関の掃除をして、ある程度の時間になったら買い物に行ってくる」
「わかったわ。お願いね」
自分の代わりに買い物に行くジュダにトレイは準備を着々と進めながら返事をした。
「あぁ~!疲れた!」
「ユダちゃん。どうしたの?」
「お母さんに時間まで、まだ余裕があるでしょって食器洗いをさせられたのよ」
不満そうに言うユダに同じ制服を着ている空色の髪の少女が輝いた瞳を向ける。
少女は背が小さいのもあって洗うのも大変だろうからと遠慮されているのもあって既に家事を手伝っているユダに憧れてしまう。
同じぐらいの背なのに、どうやって手伝わせてもらったのか興味がある。
「どうやって手伝ったの!?私なんて背が小さいから、まだダメだって言われているのに!?」
「どうやってって……?普通に踏み台を用意されて手伝ったわよ?」
「良いなぁ~。私なんて手伝えないのに」
不満そうに言う少女にユダも文句を言う。
「一つ、言っておくけど良いものじゃないわよ?途中で手が滑りそうになって食器を落としそうになったし。皿とか割っちゃいそうで怖かった」
ユダの実感の籠った言葉に少女は押し黙ってしまう。
自分も皿を割ってしまい、母親に怒られることを想像して怖くなる。
「止めてよ。お母さんの手伝いをしたかったのに恐くて出来なくなっちゃう……」
「でも可能性はあるわよ。ついでにお母さんからは、ちゃんと出来てるか見られてプレッシャーがかかるし」
「ひぃぃ」
続けられた脅しの様な言葉に少女は涙目で悲鳴を上げる。
そこに後ろからバタバタと走って来る音が二人の少女に襲ってくる。
話しているユダと少女の二人はそれに気付いていない。
「おっはよー!ユダにフレイ!今日も学校の校庭で遊ばない!?」
「おはようございます!エナジー、それよりも図書館で一緒に本を読んだ方が楽しいです!」
「えぇ~!でもさ、前にも図書館で本を読んでいたじゃん。今日は校庭で遊ぼうよ!」
「………そういえば。そうですね。今日は一緒に校庭で遊びましょう!」
「やった!おねえちゃん、大好き!」
「私もエナジーのことが好きですよ」
ユダと彼女と話していた少女フレイ。
この二人に抱きついて来たのは双子の姉妹。
二人とも活発さを表すような赤い髪をしていて顔立ちもそっくり。
最も違う点があれば姉であるリーデが眼鏡を掛けていて、妹であるエナジーが眼鏡を掛けていないことだろう。
もし眼鏡を掛けていなければ間違えている呼ぶ人が多く出てくるくらいにはそっくりだ。
「それで何を話していたの!?」
妹であるエナジーが積極的にユダ達に話しかける。
自分たちがいない間に何を話していたのか気になるのだ。
よく見るとフレイは涙目になっているし、二人とも大事な友達だから信用しているが何かあったのか確認したい。
「……ちょっと。家事のことで話してたのよ」
「家事?」
「あぁ、そういうこと?」
これだけでリーデはどういうことかわかったらしい。
当然ながらエナジーには理解できず説明を求める。
「つまりフレイは家事をやりたいけどユダに止められたか恐怖でもしたの?」
その言葉にフレイとユダはリーデに驚いて視線を向けてしまう。
それで図星だと理解したのかリーデは溜息を吐く。
「……はぁ」
わかりやすい友達に溜息を吐くリーデ。
とはいえ彼女もユダと同じ経験をしたから予想できたことだ。
「私も家事の手伝いをしたことがあるけど、親の皿を割らないように注意して見てくるのがプレッシャーよね。洗っている最中に皿が大きくて落としてしまいそうになるから集中して疲れるし」
「だよね!」
同じことを経験していたリーデにユダは手を合わせる。
同じ経験をして同じ感想を友人が抱いたことが嬉しいのだ。
そして妹の方のエナジーにも視線を向ける。
双子の姉が経験しているなら妹の方も経験していると考えたからだ。
「あっ。エナジーはやってないわよ。なんか落ち着きが無くて皿を割りそうで怖いってお母さんたちが言っていた」
落ち着きが無いという点でユダ達は納得する。
たしかにエナジーは皿を割りそうで怖い。
やるとしても、もう少し大きくなってからだろう。
「………なるほど」
思わず納得するとエナジーは不満そうな表情になる。
そんなことは無いと言いたいのかもしれない。
「私だって出来るもん……」
「ごめん。エナジーはちょっと落ち着きが無いから信頼できないかな」
フレイの言葉にショックを受けるエナジー。
「ところで今日は校庭で遊ぶって言っていたけど、何をする?私としては何でも良いよ」
「じゃあ校庭全部を使った鬼ごっこがしたい!」
それを見てユダは話を変えようとする。
だが校庭で何をするかという話になると、さっきまでショックを受けていた姿は何だったのかと言わんばかりにエナジーが提案をしてくる。
これまでもエナジーと外で遊ぶとなると絶対にこれを提案してくる。
どれだけ鬼ごっこが好きなんだと全員が苦笑する。
「私は構わないけど、他の皆は?」
その言葉に釣られるように全員が大丈夫だと答える。
皆が大丈夫だと答える姿にエナジーは嬉しそうに笑う。
今日もいっぱい走れると満面の笑みで喜んだ。
走って追いかけるのも、追いつかれるのもどちらも大好きなのだ。
「それじゃあ皆で誰が一番最初に学院に着くか勝負しよう?」
何度も飛び跳ね今すぐにでも走り出したい様子のエナジーにリーデは溜息を吐く。
「そうね。私は参加するから誰かを巻き込まないようにね」
リーデが動くと走ると聞いて自分達も参加すべきか悩むユダ達。
そしてお互いに顔を見合わせ頷き、折角だからと参加する。
「二人も参加するんだ!?負けないよ!」
「勝たせてもらうわ」
そんな二人にリーデたちは勝たせてもらうと宣戦布告する。
「それじゃあ私が合図をするわね」
ユダの言葉に三人同時に頷く。
「三」
全員がクラウチングスタートの姿勢を取る。
「二」
ユダ達以外の通行人がクラウチングスタートの姿勢を取っている姿を見て、巻き込まれないようにスペースを空ける。
「一」
少女たちの行動に気付いて、微笑まし気に見たり厳しい目で見ている者もいる。
幼い子供といっても良い年齢だが、だからこそ厳しくしなければいけないと考えている者もいる。
「ゼロ」
その言葉と同時にユダ達四人が一斉に校門へと走り始める。
校門の途中だが既に結果がわかるぐらいに、それぞれの距離が離れている。
一番前にいるのがエナジー。
少し後ろについているのがリード。
そこから少し離れてユダ。
殆んど同じ位置にいるのがフレイだった。
「いっちばーん!」
そして最初に校門に着いたのはエナジーだった。
続けてリード、ユダ、フレイと続けて入って来る。
「ははは。エナジー、速かったぞ」
「でしょ!………おご!?」
速いと褒められて自慢するように腰を手に置くと頭を叩かれる。
エナジーだけではない、一緒に走っていた三人もだ。
「貴様ら、校門まで何をしていたんだ?」
笑顔で問いかけてくる大人にエナジーを除いた少女たちは、あわわと涙目になる。
「何をするのさ!ちょっと勝負をしただけじゃない!」
だがエナジーは平然と言い返す。
全くの悪気の無い様子に大人は青筋が額に浮かぶ。
ユダ達は全く悪いと思っていないエナジーに冷や汗を流す。
「四人とも全員、職員室へと来い。説教だ」
その通告に全員が絶望の悲鳴を上げた。
「………ここまで何が悪かったのか理解したか?」
一時間ほど説教を受け、教師の言葉に全員が頷く。
「そうか。なら何が悪かったのかエナジー、行ってみろ」
「……朝、人が多く通っているところで人の迷惑を考えずに走った事です」
「なんだ、ちゃんと理解していたか。教室に戻って良し。…………次はするなよ」
最後の教師の脅すかのような言葉に怯え、指示に従って教室に戻っていった。
その間、少女たちの間に会話は無かった。
「あら。やっと説教が終わったの」
教室に入ると担任の先生が出迎えてくれた。
「おはよう!四人とも、朝の勝負速かったね!」
「近くで見てたけど凄かった。今度は私たちもやろうかな!」
四人に話しかけてくれるがショックで頷けない。
むしろ止めた方が良いと説得する。
「止めた方が良いわ。凄く怒られて怖かった」
「そうだよ。ずっと正座をさせられて脚が痺れて歩くのも辛いし」
「本当に」
三人の言葉にやっぱり止めておこうという考えになるクラスメイト達。
そして気になるエナジーの方を見る。
「もう走るのつらい……」
涙目になっていて走ることに恐怖を抱いていた。
それだけ説教が辛いと理解して完全に校門前を走ることを諦める。
「うわぁ。どれだけ説教が辛かったのよ……」
思わず出てきてしまった言葉に言った本人の肩が掴まれる。
掴んだ相手を見ると説教された本人たちだった。
何をされたのか話したいらしく聞かせるまで絶対に話さないつもりだ。
「聞きたいでしょ。教えてあげるから聞いて」
「……興味が無いから離して。お願いだから離して」
必死に話すように頼み込む少女。
いつもは元気いっぱいなエナジーが落ち込むほどの説教何て聞きたくないのだ。
「はいはい。いい加減に席に着きなさい。次の授業を始めるわよ」
教師の声に救われたと少女は急いで離れて席に着く。
その姿にユダ達は舌打ちをし、席について本日、最初の授業の準備をした。
「やっと終わった……」
昼までの授業が終わり今は昼休みの時間。
ユダ達は集まって昼食を食べている。
「そういえば朝に昼休みに鬼ごっこしようと言っていたけど。やる?」
ユダの質問に全員が首を横に振る。
今日はもう外で遊ぶのは拒否をしたい。
まだ怒られたのが影響している。
この分だと明日明後日どころでは無いのかもしれない。
「ふぅん。それじゃあ私は今日は図書館で本を読むけどエナジーも来る?おススメの本を紹介してあげるわよ」
「うん……」
未だ元気が無いエナジー。
何時もなら元気な様子で返事をするのに、その姿が見る影もない。
「二人も来る?」
リーデがユダ達も誘う。
「うん……」
「私にもおススメの本を紹介して」
三人が余りにも落ち込んでいるせいでリーデは逆にいつも通りに調子に戻っている。
だから友人たちが少しでも本来の調子に戻って欲しいと思っている。
何時もと様子が違いすぎて、リーデも調子が狂いそうだ。
そもそも確かに、自分達が悪いとは理解しているがユダ達は落ち込み過ぎだとリーデは思っている。
現に今も説教をしていた教師がやり過ぎたかと心配して、こちらを見ている。
「………やり過ぎたか?いやでも、あのままにして誰かに怪我をさせてしまうよりは注意した方が本人たちにも幸せだろうし」
「………こちらからもフォローをしますので任せてください。私たちを信じてください」
こちらのことを考えてくれているとリーデは理解している。
それでも、ムカついてくる。
というより子供を舐め過ぎだ。
そんなところで隠れて子供相手なら気付かれてないと思っているのだろうか。
現に何人かのクラスメイトが先生は何をしているんだろうと注目している。
そしてリーデは溜息を吐く。
「三人とも図書室に行くわよ」
その指示に三人は頷いて先に進んでいくリーデの後ろをついて行く。
そしてリーデは教師たちがちゃんと後ろを付いていることを確認しながら歩いて行った。
「とりあえず、これでも読んだら?時間が過ぎるのを忘れるぐらいには面白いわよ」
そして図書館に行くと早速、おススメの本を渡す。
三人もリーデの消化した本は外れが今まで無かったから少しだけ期待して読み始めた。
そうして読み始めて数分が過ぎると朝に説教をした教師たちが入って来る。
そのことにリーデ以外の三人は気付いていない。
もし気付いていたら驚いて本を読む余裕も無かっただろう。
リーデは気付いて無視をしていた。
「今頃、ユダはお昼の時間かしら?」
ところ変わって喫茶店の仕事が忙しくなってくる時間。
学校の鐘の音が聞こえてトレイは娘は今は何をしているか気になってしまう。
昼の時間だから昼食を食べて遊んでいるのか?
それとも読書をしているのか?
どちらにしても娘が学園を楽しんでいることを祈っている。
「大丈夫だろう。とても仲の良い友達が三人もいるんだし。きっと今も四人で集まって遊んでいるはずだ」
「そうね。ユダ以外にも三人が来たら俺に何か奢って上げようかしら?」
「………やっても良いが一品だけだぞ。それ以上は只飯を目的にユダに友達になろうと近寄って来る者もいそうだし」
「………そうだったわね。やっぱり無し」
夫であるジュダの言葉にトレイは考え直す。
大切な娘の友達とはいえ線引きをしないといけない。
それなのに度々、緩んでしまいがいな自分にトレイは溜息を吐いてしまう。
「まぁ、家に友達が来ている時にだけお土産として渡せば良いだろう?そうすれば問題も無いはずだ」
その言葉にトレイは頷く。
娘の友達になってくれたお礼なんて何時でも渡せる。
だが感謝だけは忘れないようにしたい。
「それにしてもユダは三人が三人とも全く性格が違う子と友達になったな」
うんうんと頷くトレイ。
フレイは普段は弱気だけど興味があることには活発になる少女。
エナジーは普段から活発で常に動き回っている少女。
リーデは落ち付いていて部屋で本を読んでいる少女。
見事にバラバラだ。
「だからこそ友達になれたのかもしれないわね」
「有り得るな」
トレイの言葉にジュダは頷く。
自分もそうだったが意外と性格が違う奴との方が馬が良くあった。
そう考えると冒険者時代の仲間に会いたくなってくる。
今度、喫茶店を開いているから招待をしようかと考えてしまう。
「……どうしたの?」
そのことを考えているとジュダは妻のトレイに心配されてしまう。
手を止めて考えごとをしてしまったせいだ。
「悪い。考えごとをしていた」
「なら良いけど、悩んでいるなら打ちあけてよ?」
「わかっている。冒険者時代の仲間をこの喫茶店に呼ぼうかと考えていたぐらいだ」
夫の冒険者時代の仲間と聞いてトレイは目を輝かせる。
夫と出会ったのが冒険者を止めた後だったために話を聞きたくてしょうがない。
あとは出来れば冒険者を止めた理由も聞きたい。
まだまだ動けるように思えるのに、どうして止めたのか気になってしまっている。
「私も参加して良い!?」
「あ……あぁ。構わないが、どうした?」
「貴方って冒険者時代の話なんてあまりしないじゃない。だから興味があるのよ」
「……う。そうだったか?」
ジュダの嫌そうな顔。
滅多に見せることのない表情にトレイは首を傾げる。
そんなに過去の事を教えるのは嫌なのだろうかと。
「………そんなに私に過去の事を教えるのは嫌?」
「それは……」
「じゃあ質問。昔の冒険者仲間に浮気をしているの?」
気になるのはそこだ。
正直、昔の恋人がいたとしてもトレイはそこまで不快にはならない。
昔の話だし今はトレイと結婚しているからだ。
だが今も付き合いがあって浮気をしているなら話は別だ。
場合に寄っては娘を引き取って離婚してやると決意をしている。
「昔の冒険者仲間で恋人だった奴はいるが結婚したのはお前だけだ!浮気もしていない!」
妻が何を心配しているのか察した夫は即座に浮気を否定する。
考えていることも予想できるので必死に否定をしている。
これまでも、そしてこれからも浮気をするつもりは一切ない。
「ふぅーん。信じるけど顔位は見せてね」
妻のにっこりとした笑顔に夫は頷くことしかできなかった。
「なら良し。それじゃあ仕事に集中するわよ」
トレイの言葉に頷いて仕事に戻っていった。
まだまだ客は多くいるのだ。
待たせるのも悪いし少しづつでも片付けないといけない。
「三人とも」
放課後まで授業が終わり四人が集まったところにリーデは三人に声をかける。
「取り敢えず先生に謝るわよ。よく考えたら先生には謝ってないし。これからはしないと約束するわよ」
「え……」
リーデの言葉にもう一緒に走る気は無いのかとエナジーは絶望する。
走るのが何よりも大好きなエナジーからすればリーデの言葉はショックで眼から光を失ってしまう。
「もう走らないの?」
「流石に人の多い場所や通行中に走るのは止めるわよ。怪我したり、させたら危ないし」
「……そうだよね」
姉の言葉にエナジーは正論だからこそ何も言えない。
もう二度と必要な時以外では走ることは無いだろうと寂しさを覚える。
「ほら二人も行くわよ」
リーデの誘いにフレイとユダも後ろをついて行く。
二人もエナジーの楽しそうに走る姿を二度と見れないのだと考えると寂しくなる。
そして。
「失礼します」
職員室に入って中を見ると朝に説教をしてきた教師がいた。
近くにはフォローをすると言っていた教師もいる。
「あの朝の件で謝りたくて来たんですが……」
それだけを言うと朝に説教をした教師がこちらに来るように指示を出して来る。
それに従うと職員室から少し離れた空き部屋に案内される。
「謝りたいと言っていたが急にどうしたんだ?」
こうは言っているが既に許すことには決めている。
そもそも朝の件では少女たちだけでは無く他の生徒たちも問題があると思っている。
何故なら少女たちが走る準備をしたと思ったら道を開けて邪魔をしないように道を開けていた。
本来なら注意すべきだろうに好きにさせたのだ。
一番悪いのは少女たちかもしれないが他の者たちも悪い。
「……これからは必要な時以外は走らないようにします」
「エナジーの言う通りです。怪我をさせないように走るのは最低限にします」
「ごめんなさい」
三人の言葉にそこまでしなくてもと、教師は思う。
そこまで考えて三人を見て、そして唯一頭を下げていなかったリーデを見る。
そこには困惑した様子で三人を見ているリードがいた。
最初に入って謝る為にきたと言ってきた少女なのに、どういうことだと疑問に思う。
「走らないって、急にどうしたの?」
本来なら教師が質問するべきだろうがリーデに任せて内容に集中することに説教をした教師は選択する。
「何を言っているの?走らないって最初に行ったのはリーデじゃない」
「確かにそうだけど、必要な時以外には最低限は走らないとは言っていないわよ?」
「でも……!」
「私が言ったのは人が多い場所は通行場所になるところではよ。走っても大丈夫な場所ならみんなと一緒に好きに走るつもりだったんだけど……」
リードの言葉にそれなら構わないと教師も納得して頷く。
問題なのはあくまで通行の邪魔をしてしまったことで走り回る為の場所なら好きに走っても問題ないのだ。
「……そういうこと?」
「そうだけど。だから私は走り回らないって約束しようって言ったのだし」
リードの説明に嬉しそうに破顔する。
場所さえ考えたら、また一緒に走り回れるのだ。
嬉しくてしょうがない。
「……本当に走るのが好きだな」
教師はエナジーの表情に微笑まし気な気持ちになる。
ここまで走るのが大好きだと応援したくなる。
元気で活発できっと見ているだけで元気を分け与えられるような少女になるかもしれない。
他の少女たちも走り回れる場所なら走り回って良いと聞いてれしそうにしている。
「………取り敢えず、四人とも」
声を掛けると全員が教師の方へと視線を向ける。
その瞳には何を言われるのだろうかと警戒をしている。
もしかしたら、それもダメかもしれないと怯えてさえいた。
「全員が反省しているのは理解した」
その言葉に顔を上げる少女たち。
もしかしたらリーデの提案に許可をくれるのではないかと期待している。
「走り回って大丈夫な場所なら構わない」
その言葉に少女たちは歓声を上げた。
まだ走り回って遊べるのだと手を合わせて喜び合う。
「………本当に良いんですか!?」
「あぁ。反省しているのは、こちらも理解している。後はもう二度と同じことをしないように注意さえ得すれば良い。後は帰っても構わないよ」
教師の言葉に嬉しそうに笑い、失礼しましたと少女たちは部屋を出ていく。
嬉しそうに部屋を出ていく少女たちを仲が良いと微笑まし気に見ながら教師も部屋から出て行った。
「良かった。今日はともかく明日からは皆で走り回って遊べるね」
エナジーの言葉に全員が頷く。
走り回って遊ぶことは好きだから許可を貰えて嬉しい。
問題は何処なら走り回って良いの探すことだ。
「学園内なら校庭は大丈夫でしょ」
そのことを相談するとリーデが当たり前の事だと言わんばかりに言ってくる。
それに対して少女たちも確かにと頷く。
校庭なら走り回っても問題は無かった。
「それじゃあ明日から校庭でだけ走ろう!それなら怪我をする子だっていないし!」
「そうね。今日はもう家に皆、帰る?」
「うん。今日のことを家に帰って反省しよう。明日から気を付けて行動しようね」
「そうだね。それじゃあ、皆また明日」
少女たちはそれぞれの家に帰る。
そして家に帰ると、学園から報告されていたらしく、それぞれの親に注意をされた。
ただ誰も怪我をしていないし、させていないということで軽い注意で終わった。
これで怪我をさせていたら怒られていたし行動に制限を掛けられたかもいれないと考えると誰も怪我をさせていなかったことに幸運だと思う。
ちなみに怒らなかった一番の理由は学園から娘が深く反省していたという報告が来たからだった。
「これからは周りに迷惑を掛けないような場所も考えて遊びなさいよ。鬼ごっととか、かくれんぼとか、だるまさんがころんだとか、外で遊ぶのが好きなんだから」
言い方は違えど同じことを言った親の注意。
「わかっているわよ。場所を考えないで遊ぶのは危険だって怒られたし」
それに対して子供たちも言った言葉は違うが同じ意味のことを返した。