訓練
「………その程度?」
ケンキは剣を持って突撃してきたアルフェを手にした大剣をぶつけ逆方向に弾き飛ばす。
片手で大剣を操り自分を平然と弾き飛ばすケンキの怪力さにアルフェは顔を引き攣らせる。
「どれだけよ…!?」
自分より力が強い者はごまんといるが、ぶつかって来る相手を当たり前のように弾き飛ばす者は初めてだった。
「アルフェさん!ケンキだからで諦めた方が良いですよ!私たちも何度も意味わからない目に合わされているので!」
見学していたサリナがアルフェに深く気にするなとアドバイスを送る。
隣にいたユーガも同意するように何度も頷いていた。
「………本当に元冒険者?ハッキリ言って弱すぎる。まだユーガ達の方が強そう」
強いのではなく強そうと言うあたり、まだアルフェの方がユーガ達より強いのだろう。
だが、やりようによってはユーガ達が勝てても可笑しくはないようだ。
「まぁ、最後の実戦からかなりの間、戦っていなかったからね。動けるだけども私としては僥倖よ」
アルフェの言葉に今は錆落としだとケンキは理解する。
鍛えている最中だが命の危険を何度も味わさせれば錆を落とせるだろうかと企み、殺気を出した。
その所為でユーガ達やアルフェは膝を地面に付く。
「………やり過ぎたか?」
ケンキはそう言っているが殺気を放出するのは止めない。
それでも抑えているお陰でユーガ達やアルフェは立ち上がる。
「なんで急に殺気を出すのよ?」
何か気に障ることをしてしまったかとアルフェは気になる。
それはユーガ達も同様でケンキに少し怯えながらも心配をする。
「……ただ単に鍛えるなら殺気を出した方が良いかなと考えて」
ケンキの言葉にアルフェたちは何を言っているんだという視線を送る。
それらに気付かずケンキは説明を続ける。
「……そうしたら危険察知能力も上がるだろ?」
ケンキの言葉に殺気を出した理由に納得する。
自分達を思っての殺気を出してくれたのだと分かり少しだけ嬉しくなる。
「……というわけで今日から訓練の際は殺気を出していくから。………こっちの方が心を鍛える訓練になるだろし」
付け加えるように言った言葉にユーガ達はそれを最初に言えと言いたくなるが諦める。
おそらくはケンキのことだから実際に効果があるのか知らないから最初は言わなかったのだろうが、ポロリと零してしまっている。
本当は聞かれるつもりは無かったのだろう。
「………一つ間違えれば死ぬかもしれないな」
今、何て言った!?とケンキを見るアルフェとユーガ達。
「……強くなる為だと言えば納得してくれるだろう」
「そこは説明しろ!でなければ理解も得られないぞ!?」
ユーガの言葉にケンキは後でな、と言って攻撃をしかける。
「少し待て!」
そう言いながらもユーガはケンキの大剣を防ぐ。
わかりやすく攻撃してくれたから防げたが、防げたのはギリギリだった。
そのことにユーガは冷や汗を流す。
「………はっ」
続けてケンキは鼻で笑い、殺気を飛ばす。
「……っ!」
「………!」
それを受けたアルフェとサリナはその場から飛び退りながら首元に手を当たる。
ケンキの殺気で首を落とされた感じかしたからだ。
「………殺気なんかで本当に死ぬなよ」
ケンキの続けられた言葉に当たり前だと反論する。
ただの殺気だけで死ぬのはダサすぎる。
「……強すぎる殺気は、それだけで格下を殺せる武器だからな。………精神が強ければ大丈夫かもしれないが。…………多分」
ケンキの言葉に自分達とケンキの実力差を比べて自分たちが圧倒的な格下だと認識する。
アルフェも少ししか実際に戦っていないが何度か戦いを見たこともあるから、年下相手だがそのことは認めている。
そもそも冒険者は自分より年下が自分より強いなんてことはざらにある。
そしてケンキなら精神が強くても関係ないと格下相手なら殺気だけで殺せる気がするとユーガ達は冷や汗を流す。
「多分!?」
そして付け加えられた言葉に反応をしてしまう。
精神が強くなっても戦闘能力が格下なら殺気だけで殺されてもおかしくないかもしれないとユーガ達は怯えてしまう。
「………殺さないように気を付けるから、さっさと挑んで来い。………強くなりたいなら死ぬリスクは許容すべきだろう?……俺なんて死ぬかもしれないなんて何時もの事だ」
いくら気を付けても死ぬリスクがあるのならとユーガ達は二の足を踏む。
アルフェも復讐の為に強くなりたいが、それを果たす前に死ぬのは……と前のめりではなくなる。
そしてケンキが自分を鍛えるときに何時も死ぬリスクがあると聞き、ユーガ達はケンキが普段どうやって鍛えているのか知りたくなる。
自分達は実際に戦って鍛えて貰っているがケンキ自身の訓練は見たことが無い。
だから気になってはいたが常に死ぬリスクがあるのは聞いていない。
おそらくはケンキの両親も知らないことの筈だ。
「……そちらから来ないのなら、こちらから行くぞ。……ちゃんと防げよ」
ケンキの言葉に放心しているユーガ達にケンキは容赦なく攻撃を加えていく。
「うおっ!?」
「っ!?」
「キャッ!?」
ユーガ達、ケンキの友達たちが防げたのは、これまでも容赦のない攻撃を経験してきたからかもしれない。
逆にアルフェはケンキが容赦なく攻撃してくることを未だに知らないからこそしれなかった。
「………防げたのはユーガ達だけか」
ケンキからすれば本当に強くなりたいなら死ぬリスクも許容すべきだと考えているのに全く考慮していない三人に呆れる。
ユーガとサリナは昔から知っている相手だから呆れるだけで済んでいたが、元冒険者のアルフェまでそうだとは考えもしなかった。
それで本当に復讐するつもりだったのか確認したい。
「……いきなり攻撃しないで!?」
サリナが怒声を浴びせてくるがケンキにとっては知った事じゃない。
本当に強くなりたいなら我慢してほしい。
「………本当に強くなりたいのか?そうでないなら止めるけど、強くなりたいならこの程度のことは乗り越えて欲しい」
ケンキは呆れた視線を向けながらユーガ達に言う。
俺に鍛えて貰って強くなりたいなら従ってほしいし、嫌なら別の誰かに鍛えて貰えば良い。
そこの判断はユーガ達がするべきことだ。
アルフェに関してはケンキの我儘で無理矢理にでも従わせて強くするが。
それでもアルフェが嫌がった場合、復讐する気が無いと判断して捨てる判断をすべきなのかもしれない。
「………っひ!……わ、私はまだ負けていないわよ!」
アルフェが立ち上がる。
ケンキの攻撃を直に受けた為にまだ体が震えているが動けないほどではない。
それ以上にケンキの自分に向けた視線に怯えてしまう。
まるで自身に興味を失くすようかの視線に復讐の機会も無くなる気がして、それは嫌だと無理矢理にでも立ち上がる。
「………ふぅん」
そんなアルフェを見てケンキは少しだけ関心を取り戻す。
それでも呆れは混じっているが。
ケンキにとっての理想だが復讐をしたいなら、もっと色々と焦がれて欲しいのだ。
少しの痛みや恐怖で立ち止まるのは求めていない。
「……まぁ、良いや。じゃあ、本気で殺しに挑んできて」
ケンキの言葉に嫌そうになるアルフェ。
力を求めているが、どうしても本気で殺せる気になれない。
刃を向ける手が震えてしまう。
「………やる気あるの?」
そんなアルフェにケンキが文句を言う。
ケンキにとっては格下のアルフェに殺されるのは有り得ない。
だから本気で来いと言っているのに挑んで来ない。
信じられないのかと不満を抱く。
「無理よ!救けてもらった相手に殺せない相手だとわかっていても本気の殺意何て向けれるわけないじゃない!!」
その言葉にケンキは首を傾げてしまう。
どうせ殺せないから、そんなことは心配しなくては良いのにと考えてしまう。
「………お前らじゃ俺を殺せないのに?」
「それでもよ……」
アルフェの感謝をしているからこそ本気で殺意を向けられないという言葉にケンキは意味が分からない。
そんなケンキの様子には溜息が出てしまう。
「……俺たちも同じだ。大切な友達に殺気を本気で向けるなんて出来るか……」
「ケンキくんだって殺気を向けていても殺意は向けていないし。本気では無いでしょ?」
その言葉にケンキは頷く。
下手に本気を出し過ぎると殺しかねないという判断だが、実際に試せない。
だから、そっちが本気を出さないなら、こちらも本気を出さないという言葉に何も言えなくなる。
「………それでも殺気は向ける」
ようやく絞りだした言葉にユーガ達は笑う。
できれば止めて欲しいが強くするためだとは既に説明されていたから何も言わない。
「………止まっていたが、再開するぞ」
その言葉に今度はユーガ達が攻撃を仕掛けてくる。
ユーガとアルフェは積極的にケンキへと攻撃を仕掛けていき、サリナは後ろに下がって魔法を放ち援護に徹していく。
初級魔法しか未だに使えないが、目潰しをしたり確実にこちらの攻撃の出を潰そうとして来るサリナにケンキは楽しそうに笑う。
本来なら一番最初に排除すべき相手だが訓練だから、このままにする。
「くっ!当たらないわね!」
忌々しそうにぼやくアルフェ。
流石に元冒険者だからかユーガよりもこの攻防で様々な駆け引きを使い一撃を与えてこようとしてくる。
素直な剣を振るうユーガよりも厄介で駆け引きはケンキも思わず参考にしようと考えてしまう。
「はぁ!」
そしてユーガはありとあらゆる攻撃がアルフェより速い。
攻撃事態もそうだが、一度放ってから次の攻撃までの間も短かった。
「……はっ」
そしてケンキは攻撃をする。
横に大剣を振るいユーガ達は大剣が当たらない範囲へと逃げる。
上手く逃げたことにケンキは笑みを深める。
そしてもう一度近づいて攻撃をする。
今度は大剣を振るっても振り回せない距離でユーガ達は攻撃をしていく。
あまりにも近すぎる距離にケンキは苦笑いする。
たしかに大剣を振り回し辛く、大剣での反撃も封じられていた。
「良し!この調子で続けていくぞ!」
その言葉にアルフェもサリナも攻撃を激しくしていく。
だが、未だに一撃をケンキに与えられていない。
「はぁ!」
「ふっ!」
それでもとユーガの言葉に雄たけびを上げることで頷く。
「………っ」
ケンキは攻撃に転じれないまま大剣を遂に手から落とす。
攻撃の激しさに持つことすら難しくなったからだ。
それでも避けているが大きくて重い為に手にしたまま避けるのが難しくなっていた。
「………おぉぉぉぉ!!」
「はぁぁぁぁ!!」
それを好機としてユーガ達の攻撃が更に激しくなる。
ようやくケンキに一撃を与えらのだと、ひたすらに攻撃を当てるために熱中していく。
「…………」
だが、それでもケンキには当たらない。
むしろ大剣を手放した今の方が当然の様に避けていく。
どんな攻撃も紙一重で避け、軽やかに行動している。
「…………♪」
鼻歌すら歌う余裕すらある。
「っ!」
それにユーガは悔しさに突き動かされケンキに突撃する。
「おぉぉぉぉぉ!!!」
「………っと」
あくまでもケンキにとっては軽い調子で先程まで反撃をしなかったのにユーガの大剣を紙一重で避け拳を腹に叩きこむ。
「がはっ!!」
あくまでも軽い調子でしか聞こえなかった。
それなのに、ただの一撃でユーガはケンキに吹き飛ばれ動けなくなっている。
「……次」
ピクリとも動かないユーガを見ていたサリナにケンキは襲い掛かる。
一瞬で背後に回って攻撃をしようとしたが、その前に張られた防御魔法で防がれる。
見もせずに防がれたのは最初は驚いたが相手をするときに基本的に背後から気絶させていたから、当然かもしれないと考える。
「……っ。何度も何度も後ろから気絶させられたら、いい加減に防ぐ手段は考えれるよ!」
予想通りの言葉にケンキはもう一度、拳を叩きつけ防御魔法を貫いてサリナを殴る。
「……な!」
ケンキにとっては防御魔法で防がれようが関係ない。
それ以上の力で殴れば良いという力業と実行したことにサリナは防ぐことしか考えられずに真面に受けてしまい気絶をしてしまった。
「………最後」
そう言ってケンキはアルフェを見る。
「有り得ないわよ……」
アルフェはケンキの行動に頬を引き攣らせてしまっている。
ユーガを軽く殴った様に吹き飛ばすのは良い。
全く目に映らない速度でサリナの後ろに回ったのも良い。
世の中にはそのぐらいの実力が有るモノはごまんといる。
だが防御魔法ごと相手を叩き潰して気絶させるのは聞いたことがない。
「………再開」
その言葉が自分の直ぐ近くに聞こえると同時にアルフェはその場から跳び引く。
一瞬前にいた場所にはケンキが拳を突きだしていた。
もう少し遅かったら当たっていた。
「あぶなっ……」
今度はアルフェは身体を屈める。
その一瞬後には頭上に風を切り裂く音が聞こえた。
元の場所にケンキがいないことを確認するとケンキが後ろにいる。
先程の風を切り裂く音の正体はケンキの攻撃が外れた音だと理解して身体を転がして横に移動する。
「……これも避けるか」
アルフェは先程から考える前に行動を起こして避けている。
嫌な予感がしたから、それに従ったお陰だ。
でなければ既にケンキの攻撃が当たって気絶している。
「………これは?」
そう言いながらケンキは色々な攻撃を繰り出す。
「っつ!」
正面から正拳突き。
「……っぶな!」
いつの間にか頭上にいて踵落とし。
「……きゃっ!」
回し蹴り。
最初のアルフェが攻撃してケンキが避けるのとは真逆の光景が繰り広げられる。
それと同じようにアルフェもケンキの攻撃を全て避ける。
違うのは必死であるか余裕を持っているかぐらいだ。
「……これも避けるか」
ケンキはそう言うが全く悔しそうに見えない。
そう見えないだけかもしれないが、そのまま攻撃を続けていく。
「……くっ!」
ケンキの連続して続けられる攻撃にアルフェは必死に避けていく。
今は大剣を持っていないことに頭の片隅で幸運だと理解していた。
こうして今ケンキの攻撃を続けていられるのはケンキの間合いが小さすぎるからだった。
いくら攻撃が速く重くても当たらなければ意味が無いのだ。
年齢差とケンキが平均よりかなり小さい身長でアルフェが一歩でたどり着く距離がケンキには三歩は必要だ。
その機動力の差のお陰で何とか避けられている。
ケンキの身の丈を遥かに超えていた大剣を使われていたら間合いの差を埋められて攻撃を受けていたかもしれない。
「………反撃はしないのか?」
攻撃を避けるのに必死になっているアルフェにケンキは声をかける。
余裕だったケンキだから反撃できるのであって必死になっているアルフェには反撃が出来ないという考えはない。
まるで俺が出来たのだからお前もやれるとでも言いたげな雰囲気だ。
「あぁぁぁぁぁ!!………ぐっ!」
ケンキの挑発にアルフェはケンキの正面を向くが攻撃を直に受けてしまい一メートルほど宙に浮いて落ちてしまう。
「あ……」
ケンキも予想外の結末にマズイと思ってしまう。
当たる直前に力を抜いたが気絶してしまったかもと今日は終わりだということに残念に思う。
取り敢えず意識を失っているか確認するために近づく。
「………はぁ!!」
顔を叩いて意識の確認をしようとすると腕を掴まれケンキは殴られそうになる。
それを顔を傾けて避けケンキはアルフェに掴まれた腕を利用して後ろに投げ飛ばす。
「流石、元冒険者だな。あそこまで戦えるなんて……」
「うん……」
ケンキがアルフェを相手している間に気絶していたユーガとサリナは目を覚ます。
そこには自分達よりは真面に戦い合っているアルフェが目に映る。
「元冒険者なだけあって、かなり参考になる」
ユーガの言葉にサリナは本当に?と視線を向ける。
サリナから見れば戦闘能力は同じぐらいにしか見えない。
そこまで参考になる場面があるのかと首を傾げてしまう。
「あぁ。お前は後衛で回復が専門だからな。前衛のことはわからないだろう」
理解していないサリナにユーガはわからなくて当然だと顔をする。
もし自分も後衛のことで理解できていなくてもサリナなら理解できるのだろうとわかっている。
「必死に避けているが同時に全く関係ないとこに視線を向けていたり、横から見ていても前に行くと思ったら後ろに移動したりもしているだろう?」
ユーガの言葉に頷く。
今も右に移動すると予想したら左に移動している。
追尾機能でもあるのかケンキは正確に攻撃をしているが。
ユーガたちが目を覚ましても攻撃がアルフェに当たっていないのは、やはり間合いの無さが原因だろう。
「………そうなんだ。それにしてもケンキって、こうして見るとかなり小さいよね?」
今度はユーガがサリナの言葉に深く深く頷く。
三人が同い年だがケンキは女子のサリナよりもかなり背が小さい。
気にはしていないみたいだが、やっぱりこうしてみると色々と心配になる。
本当にご飯を食べているのとか大人と戦って体力を持つのかとか?
大丈夫だとわかっていても心配になるぐらいには小さい。
「全くだ。良い親だとは知っている。うちの家に泊まったり、お前の家に泊まったりしてもおかしなところは無いんだろう?」
「うん。むしろ、どうやったらケンキの身体が成長するかとか栄養に良いものとか泣きながら相談していたのを見たことある」
「俺たちより小さいもんな………」
「病院に何度か連れて行かれたって不満気にケンキくん、愚痴を言っていたこともあるよね……」
ケンキの小さすぎる身長には親も心配になるぐらいだ。
正直、何かの間違いで本当はユーガ達より何歳か年下だと思ってしまいそうになる。
「…………はっ」
「………!!」
遠くからケンキが素手を剣の形をして構え、振り下げると斬撃らしきモノが飛んでアルフェへと襲う。
嫌な予感がしてアルフェは咄嗟に横に跳んだがケンキのいる場所からアルフェのいた場所には地面で切り裂かれたような傷が出来る。
「……成功」
「「おいおいおいおいおいおい」」
素手で切れ味のある衝撃を衝撃を飛ばしたことにユーガ達は呆れる。
まだ衝撃だけなら理解はできる。
だが切り裂くような衝撃を飛ばすことだけは理解できない。
剣も切り裂く道具は持って無いのに、どうやって切り裂いたのか?
これが分からない。
「待って……」
余りにも必死な表情で呼びかけるアルフェの呼びかけにケンキも止まる。
それが気になって、どうしようもないため何かと質問をするためだ。
「剣とか刃物を持っていないわよね?」
その質問にケンキヒア当たり前だと言うように頷く。
手を開いて見せつけるように証拠を示す。
「それなのに何で斬撃を飛ばせるわけ?そこは普通の衝撃波じゃないの?」
それを聞いたアルフェに思わずユーガ達は感心の目を向ける。
自分たちはもうケンキの行動に驚いていても詳しいことを聞くことはない。
慣れたし、一々聞くのもバカらしいと考えるようになったためだ。
「………さぁ?」
それに詳しい原理を聞こうとしても今の様にはぐらかされることも多い。
それでも聞こうとしても意味がわからない。
「さぁ?って、本当に分からないの?」
「………原理は素手で衝撃波を生み出すのと同じ。後はイメージ」
アルフェの挑発にケンキはそれだけで説明は済むと思ったのか、これ以上は語らない。
それに当然、アルフェは納得しない。
「それだけで説明は済むと思っているの?」
「………これで充分だろ?」
アルフェの圧の籠った質問にケンキは他に何があるのかと逆に聞く。
その姿に本気で言っているのだとアルフェは言葉も出ない。
「………前提にそれなりの技量が必要。……だけど、あくまでも重要なのはイメージ」
更に説明を続けられたが理解ができない。
ここにケンキ以外に衝撃波を出せる相手がいたなら理解できたかもしれないが残念ながら、ここにはいない。
もしいたらケンキの言葉を証明するための実験も出来ていたのかもしれないだろう。
「………少し間が空けて冷めた。まだ続ける?」
ケンキの今日はここまでにして止めるかの質問にアルフェは頷く。
理解が出来ない答えにもやもやして気になり集中できない。
「……じゃあ帰るか?ユーガ達もそれで良いか?」
ケンキの質問にユーガ達も頷き帰路へと着いた。
「そうだ、ケンキ。今日はお前の家に泊まっても良いか?」
「……俺は構わない。あとは俺の親から許可を貰って」
「ズルい!私も!」
ユーガのケンキへの質問にサリナが私も一緒に泊まりたいと割り込んで来る。
それに対してケンキはユーガへの返答と同じように親からの許可を貰えと答える。
アルフェはケンキの答えに不満を抱くがユーガ達は嬉しそうだ。
親からの許可を貰えるのなら泊っても良いのだと判断して、それぞれの親の元へ許可を貰おうと考えている。
「……まずはケンキの両親だな。それから俺たちの両親だ」
ユーガの言葉にサリナは頷く。
ケンキの家族は料理する量も増えるし、妥当なところだろう。
それに比べてユーガ達の家族は作り過ぎても明日分のとして残せば良いだけだ。
「よし。ケンキ、さっさとお前の家に行くぞ。俺の家族が許可をする前にお前の家族の許可が必要だ」
「そうだよ。早く家に戻ろう?」
ユーガとサリナは二人して同じ方向にケンキの腕を引っ張る。
それにつられてケンキも転ばないように駆け足で自分の家へと向かって行った。
そして
「良いわよ」
ケンキの母親はユーガたちが家に泊まることを許可する。
むしろ大切な我が子の友達だから泊ってくれることに喜んでいた。
「「っ!」」
ユーガとサリナはケンキの母親の言葉を聞いてガッツポーズを取る。
断られる可能性は低いと思っていたが、それでもケンキの家に泊まれると思うと嬉しくなる。
今日は何をしてケンキと遊ぼうか考えるだけで楽しみだ。
「………それじゃあ、俺は部屋で本を読んでいるから」
それなのにケンキの言葉に頬を膨らませてしまう。
本を読むより自分達と遊ぶ方が楽しい自身がある。
だから、そんなことより遊ぼうとユーガは誘う。
ちなみにサリナは一緒の部屋で本を読むのも好きだから構わない。
「………それよりも、さっさ自分の家に一度帰らないのか?」
先程の言葉を忘れたのかと怒りで感情が染まってしまう。
サリナも同じだ。
そして何を言う前にケンキが先に口を出す。
「……お前らの家族に今日は泊るとか言わなくて良いのか?」
「「あ」」
二人ともケンキの家に泊まることが楽しみ過ぎて忘れていた。
おそらくは部屋で本を読んでいると言うのもユーガ達が家族に泊まることを言ってから戻って来るまでの間の話だったのかもしれない。
「………早く行ったら?」
ケンキはユーガ達にそう言うと自分の部屋に戻っていった。
そしてユーガ達はそれぞれの家へ帰っていく。
まずはユーガ。
「ふむ、構わないぞ。今度はお父さんたちも参加して良いか確認してくれ。そちらの都合が良い時に家族ぐるみで食事をするのも面白そうだ」
ユーガは父親の伝言を預かる。
それと同時にどういうことか聞く。
さわりしか聞いていないが、それは凄く楽しそうだ。
「あぁ。元々、お父さんたちは昔から仲が良くてな」
ユーガは父親の言葉に頷く。
そもそもケンキと仲良くなるように言って来たのは両親たちからだった。
両親が自分ではない他の子供を気に掛けるのは、その子供の両親と仲が良いからぐらいしかないだろう。
だから驚くことでも何でもない。
それに仲が良い事はケンキがユーガ達と付き合い無いころから、お互いの家族が全員でピクニックに行った頃から予想できる。
「久しぶりに、あいつらと飲み交わしたいしな」
楽しそうにユーガの父親は言っているが、ユーガ自身は言葉の意味が分からない。
飲み交わしたいって、どういう意味だと首を傾げてしまう。
「あら?ユーガ、首を傾げてどうしたの?」
丁度良く母親が来たために飲み交わしたいとは、どう意味なのか聞く。
「ひっ」
急に母親が怖い表情をしたためにユーガは怯えて声を漏らしてしまう。
父親の方も顔を青褪めている。
「ユーガ」
「はい!」
「今日はケンキ君の家に泊まるのよね?迷惑を掛けないようにしなさい?」
「わかりました!」
ユーガは母親の言葉に返事をして一目散にケンキの家へと向かった。
決して父親の助けを求める目は見て、無理だと判断したからではない。
「もちろん、大丈夫よ。楽しんでらっしゃい」
サリナも母親から許可を貰って思わず飛び跳ねて喜ぶ。
その姿に常連も両親たちも娘の可愛らしい姿にほっこりする。
「それにしても羨ましいわね。私たちも久しぶりに集まって騒ぎたいわね」
サリナの母親の言葉にサリナの父親も頷く。
「その日は休んで、この喫茶店を会場にするかい?」
「それも良いわね。私たちは一番、自由が聞くし。後は他の人達次第かしら?」
他の人達と聞いてサリナはケンキとユーガの両親を思い浮かべる。
それで当たっているか聞くと二人とも驚いた顔をしてサリナを見る。
そして楽しそうに笑いながら頷く。
「そうだよ。私たち六人は昔からの仲良しなんだ。だからこそサリナちゃんに友達の息子のケンキと仲良くなってくれって頼んだんだし」
父親の言葉に、あの事件が無くてもケンキと仲良くなれたかもしれないと分かり嬉しくなる。
それに仲が良い者達で集まるなら、その相手の息子のケンキも来るだろうから一緒に入れる時間が増えて楽しみで笑顔を浮かべてしまう。
「……娘が親友の息子に惚れているのを見て安心するべきかもしれないが複雑だなぁ」
「別に良いじゃない。既に厨房で働いてくれているし、あれだけ強いなら心強いじゃない」
「そうかもしれないが娘に惚れているように見えない」
「……惚れさせれば勝ちよ」
自分の感情が両親にバレていることにサリナは顔を真っ赤にして目に涙を浮かべてしまう。
ケンキが自分に惚れていないことも実際に口に出されて悔しくて泣いてしまいそうになる。
「あぁ、ごめんごめん!お詫びに男を落とす方法を教えてあげるから!……いだっ!」
「お母さん?男を落とすって?穴でも掘るの?」
言葉の意味を分かっていない娘に、まだまだ子供だと苦笑する。
この年齢なら既に使っていると思っていたが、そうでも無いようだ。
夫に叩かれた理由も納得できる。
「好きな相手を自分に好きにさせる方法よ」
その言葉にサリナは目を輝かせて母親にその方法をねだっていった。




