罵倒
「何でレイナだけが無事だったの!?」
「私たちを助けることは出来なかったの!?」
レイナたちがミカやユカに再会すると顔を見合わせた瞬間にレイナを責める。
二人が正気に戻った事は嬉しいがレイナは二人に責められたことでショックを受けてしまった。
「私は何度も正気に戻ってと言った!戻ってもらうように何度も説得した!」
それでもレイナは出来る限りのことはやったと反論をする。
何もやっていないと思われるのはレイナ自身からしても不本意だ。
「じゃあ何で私たちの洗脳は解かれていなかったの!?」
「そうだよ!レイナが洗脳を解いてくれれば私たちも女としての初めてを奪われなかったのに!?」
「どうやって解けば良かったのよ!私が洗脳されなかったのは偶然だよ!?洗脳を解こうと調べている間にも差し出そうとして邪魔をしてきた癖に!」
「逃げれたじゃない!どうにか出来たはずよ!」
「無理だったから、解決できなかったんじゃない!」
仲が良いと言っていた三人が激しく喧嘩をする。
レイナ一人に対し、洗脳されてた二人が洗脳を解いてくれなかったことを責めている。
「………心情的には俺はレイナに味方をしたいな。貴様らはどうだ?」
「俺もレイナだ。ハッキリ言って二人、いや洗脳されていた者達が理不尽過ぎる。さっきから洗脳を解けと言っているが、なら方法を教えて欲しい」
「私もどちらかというとレイナです。………でも、洗脳が解かれたばかりだし、もう少し落ち着いてから判断したいです」
ラーンの質問にユーガとサリナの二人が答える。
特にサリナの答えには一理があると二人とも頷く。
そしてラーンは喧嘩を止めるために思いきり手を叩く。
そうすることで自分に注目を集めるためにだ。
「取り敢えず落ち着け。洗脳が解けたのは聞いている。今は洗脳が解けた反動で昂っているだけだろう。食事も用意してあるから、それを食べて頭を冷やせ」
ラーンの言葉に頭を冷やすどころか、むしろ怒り狂う召喚された者達。
その反応にユーガ達を含めたもともとこの世界の者達は戸惑う。
王族の言葉である以上は従わなければならないの反抗している姿が理解できていない。
「ふざけるな!!どうせ、あいつが俺たちを洗脳する能力があったのもお前たちが召喚した所為だろ!他人事のような顔をしているんじゃねぇ!」
「今、なんといった!?洗脳能力があるのは、この世界に召喚されたせいだと!?召喚される前から貴様らは魅了されていただろうが!!」
召喚された者達の言葉に、ラーンやユーガ達以外にもいた者たちが否定の言葉を出す。
たしかに元の世界から召喚という拉致をしてしまったことは悪いとは思っている。
だが、何でもかんでも責任を押し付けるのは間違っている。
「んだと!?」
「事実だろうが!!」
今度は召喚された者達と王宮で働いている者達で争い合う。
これでは何時まで経っても喧嘩が治まらない。
ケンキがいれば力尽くで黙らせるのだろうが、別件でいない。
だからラーンは無理矢理にでも黙らせる。
「いい加減にしろ」
「「「「「……………!!」」」」」
まずは言葉と他者を圧倒するオーラで。
ケンキが偶に他者を黙らせるときの真似をしたが成功して全員が黙ってくれている。
これからは、こちらの声が耳に入らずに暴れている者たちにはケンキの真似をした方が良いと決意する。
同時にケンキがこうしていた時を思い出す。
最初から暴れていた者達にしか使っていなかったことを。
やはりケンキは参考になるなと、ますます国に仕えて欲しい人材だ。
「もう一度、言うぞ。落ち着いて飯を食い、頭を冷やせ」
ラーンの言葉に立場など全員が何も考えずに頭を下げる。
先程まで文句を言っていた召喚された者達もだ。
それを確認してラーンはユーガ達とレイナを連れて部屋から去っていった。
「ふぅ。まずはレイナ」
ラーンの呼びかけにレイナは反応するが首を上げない。
ようやく大切な幼馴染が正気に戻ったのに、助けてくれなかったからと否定されてショックを受けているのが原因だ。
その辺りのことは察しているからラーンも何も言わない。
甘いかもしれないが、公的の場でもないから許して欲しい。
「サリナが言っていたが洗脳から解かれた反動で無茶苦茶を言っているだけだ。ハッキリ言ってあの男の魅了はケンキが手を打っていなかったら事前にある程度の対策をしていた俺たちも洗脳されていた。話を聞く限り、まともな対抗策が無かったお前たちの世界では解除するのはむりだろう。そのことも落ち着いたら分かってくれるはずだ」
ラーンの慰めにレイナは首を縦に頷く。
今はそれに賭けるしかない。
同時にそれでもレイナが理不尽なことをが言われたらケンキに任せるつもりだ。
今は国の被害者の患者を相手させているから一緒に面倒を見させても問題は無いはずだ。
「………レイナちゃん。一緒に買い物に行かない?荷物持ちはユーガに任せて………ね?」
急にサリナがレイナを買い物に誘う。
ユーガは急に荷物持ちにさせられたことに文句を言いたくなるが、気分を変えるための意見としては悪くないと考える。
そしてラーンへと視線を向ける。
支援を向けられたラーンは頷いて同意する。
「それじゃあ俺も行こうか?大丈夫!荷物持ちぐらいは構わないさ!」
「「「止めてください!!」」」
流石にラーンの荷物持ち発言は全力で否定した。
「つまらん。レイナはともかく、他の二人は俺に遠慮がなくなったと思うのに荷物持ちをさせてくれないとは」
本当につまらなそうにするラーン。
一国の王子に荷物持ちなどさせられないと、何度も拒否したが為だ。
「いや、無理。一国の王子に荷物持ちをさせるとかプレッシャーがキツイ」
ユーガの言葉にレイナもサリナも頷く。
罰しないことを約束されても尊き方には、この国に住むものとして荷物持ちなどさせられない。
「………残念だ。ケンキなら平然と任せてくれるだろうに」
ラーンの言葉にユーガ達はケンキは何をしているんだと頭を抱える。
自分達には考えもつかないことをやらせるケンキに問い詰めなければいけないと決心する。
「……あれ?他にも護衛がいると思いますけど。誰も止めなかったんですか?」
「あぁ。ケンキに文句を言おうとしていたらしいが逆に納得されて帰ってきたと説明されたな。むしろお忍びでデートに行ったりするなら荷物持ちもした方が良いかもしれないと言っていたぞ」
どういうことだとユーガ達は疑問に思う。
だからと言ってラーンには荷物持ちをさせるつもりは無いが。
「ふむ。そういえば女性は甘いものが好きなのだろう。奢るから何でも頼むが良い。特にレイナは遠慮するな。信頼していた者から裏切られるのは辛いからな」
知ったような口にレイナは文句を言おうとするがラーンの表情を見て止める。
辛そうな表情からラーンも騙された経験があることを察したのだ。
当然、ユーガ達も沈痛そうな表情をする。
その空間にラーンは耐え切れなく、無理やり喫茶店に全員を連れ込む。
もう既に終わった事だ。
「……………あなたは!?」
早速、店の中に入ると店長らしきものが慌ててラーンの前に挨拶をしてくる。
それに対し、耳元に口を近寄らせてお忍びのようなものだからとラーンは説明して距離を取らせる。
だが入ってきた男がラーンだと気付いているのは店長以外にも当然ながらいる。
何故なら、この喫茶店は貴族でかなり人気の店なのだ。
当然ながらラーンの顔を見て直ぐに気付く者も多くいた。
それらに対しても口に指を当ててラーンは黙らせる。
「さてと初めてで気後れするかもしれないが何でも頼んでくれ。どれもが絶品だぞ」
喫茶店なのに格式高い店で中に入ってから一歩も動けない三人を引っ張って席に座らせる。
王族と一緒に行動していることで何か言われるかもしれないが今更だ。
むしろ遅いとも思っている。
王族であるラーンとケンキが仲が良いのは知っている者は知っている。
そしてケンキを調べればユーガ達も知られていても可笑しくない。
今まで弱みとして狙われてなかったのが不思議だ。
「………なぁ。メニューはこれしかないのか?全てが高いんだが?」
「その分、美味いぞ」
ユーガの疑問に頷くラーン。
一品一品がユーガ達が普段使う喫茶店の十倍の値段で選ぶのも戸惑ってしまう。
逆にレイナはじゃあ、これとあっさりと選ぶ。
ユーガ達は戸惑いの無さに驚き、それじゃあとレイナと同じモノを選ぶ。
「えっと、良く選べたねレイナちゃん。こういうの、もしかして慣れてたのかな?」
「え?字は読めるけど、値段がどれくらい高いのか分からなかったんだけど?そんなに高いの?」
サリナの疑問に逆にレイナが質問する。
その答えに全員が冷や汗を流す。
値段を見て、どのくらいの金額か分からないのはマズイ。
「なぁ。もしかして、この国で買い物は初めてか?」
その言葉に当たり前のように頷くレイナ。
この結果にラーンは、そういえば頷く。
召喚されてから基本的に王城とケンキの隣で研究の手伝いをしていたから買い物何てする暇は無かっただろう。
お金自体も渡していなかったのもある所為だ。
それを聞いてユーガ達も納得する。
国が違うのだから金額を聞いても分からないはずだと。
「すまない。俺たちの不手際だ」
ラーンは謝罪をするが首を横に振って大丈夫だとレイナは受け入れる。
それでも生活できたし、この国で過ごしている間には金額や値段の価値が分かる機会はあるのだから。
それよりも、と。
「ありがとうございます。私たちの問題なのに気に掛けてくれて」
「………うん?いや、理不尽なことを言われたら普通は気に掛けるだろう」
「そうだよ。言い方は悪くなるけど正気へ戻そうとしていたのに否定をする彼女たちは印象が悪いですし」
「全くだ。落ち着いて話し合ってからも理不尽に言われたら言ってくれ。手を貸す」
三人の温かい心遣いにレイナは感謝する。
お陰で大切な友達の二人と話し合う勇気が出てきた。
一人で解決するなら無理だったけど、手を貸してくれるなら少しだけ気持ちが軽くなる。
「ありがとう」
レイナの感謝の言葉に三人は嬉しそうに頷いた。
そして翌日。
「だから何!?私は初めてを全て奪われたんだよ!?レイナも奪われたら良かったのに!?」
レイナはまず最初にユカと話し合おうとするが拒否された。
「なにそれ」
ユカの言葉にレイナはショックを受ける。
まさか無事だった自分すら巻き込めば良かったと言われるとは思ってもいなかった。
「ねぇ、私が皆を助けるためにどれだけ走り回ったか理解できる?」
「知らないよ!結局、助けられなかったんだから意味がないじゃん!?お前も私たちと同じ目に遭えば良かったのに!?」
ユカの言葉も正論だ。
どれだけ努力していても結局は結果が全てだ。
だが自分と同じ目に遭えば良かったと言うのは問題だろう。
「洗脳されてから、かなりの時間があったのに何で助けてくれなかったの!?」
「じゃあ、どうすれば良かったのよ!?急に洗脳されて助けようとしても行動しても何度も皆に邪魔をされて!どうやって助けろっていうの!?」
「知らないよ!頭が良いんだからそっちで考えてよ」
「うわぁ」
レイナとユカの二人から離れてユーガが引いた声を上げる。
それ気持ちに同意してかサリナとラーン、そしてシーラも頷く。
ラーンは王族だから城の中にいるがユーガはケンキが自分の部屋を貸して一緒の部屋に泊まった。
サリナに関しては女性ということとケンキの幼馴染だということでシーラが興味を持って自分の部屋に泊まらせた。
自らが庶民だということでサリナは拒否しようとしたが、妙にシーラたちの母親までも話に乗ってきて断れなかった。
周りをみると全員が目を逸らして拒否権が無いということも理解できた。
その所為でプレッシャーもありサリナは寝不足になっている。
「ケンキと近しいからかしら?魅了されていた少女が腹立たしいわね」
ちなみにシーラたちはケンキの部屋に集まり、魔法を使ってレイナとユカの争いを見ている。
正直言って余裕はまだあるとはいえ狭い。
ちなみに魔法を使っているのはラーンだ。
離れた空間に干渉することは出来ないが映すことは出来る。
それを使用して覗いている。
「何で、そこで俺?」
「ふふっ。なら貴方は彼女が好意的に見ているの?」
「レイナを責めてる少女は自業自得だろ。魅了させられる方が悪い。逆の立場になったら、どうせ何もできない癖に責めるなよ」
ケンキの言い分も分かる。
分かるが。
「たしかにレイナちゃんを責めるのはアレですけど、ケンキも厳しいと思う。好きでもないのに大切な人に捧げたいものを奪われて、まだショックを受けているでしょうし。八つ当たりもしなくなるよ?」
厳しすぎるという意見もある。
シーラも腹立たしいと入ったが、その意見には頷く。
「そうか。なら慰めるときは、まだショックで落ち着いていないとでも言うのか?」
ケンキにとっては単純な疑問。
だが、その言葉で最悪な場合を考えてしまう。
これでミカが許すなら良い。
だが、二人に否定されたらショックを受けるだろう。
関係を修復するつもりもなくなりそうだ。
『頭が良いから、そっちで考えろ!?そんな余裕も無かったんだよ!?』
『知らないよ!大体、何でレイナだけが魅了されてないの!?本当はグルだったんじゃないの!?』
『な……!?ふざけないで!あんな男とグルとか言うなんて馬鹿にしているの!?』
『じゃあ何で魅了されていなかったのよ!?』
映像ではレイナとユカの二人が激しく言い合いをしている。
元の世界では誰も防げなかったのに、ただ一人だけ無効化していたことにレイナはグルだったと勘違いさせられている。
ケンキは少しだけグルという言葉に目を細める。
無論、レイナとユートがグルだと思っているわけではない。
別の問題を予想しているだけだ。
『もうレイナは出て行ってよ!』
ユカのその言葉を最後にレイナはユカのいる部屋から出て行った。
そして。
『レイナ?』
ミカがレイナの目の前にいることを確認し、頬を引っぱ叩いた。
「理不尽だな」
ケンキの言葉に見ていた全員が頷く。
顔を見合わせた瞬間に叩くとはミカもレイナが魅了されなかったことに理不尽に恨んでいるのだろう。
この光景でミカやユカたちよりもレイナに味方したいと考えてしまう。
「ねぇ。彼女は元の世界に戻さないで、この世界で生きるように説得できない?」
シーラの言葉にケンキは感情を動かさす、ラーンは悩み、ユーガ達は驚く。
生まれ持った国に何で返さないのか理解が出来ない。
「そうだな。元の世界に戻しても理不尽に責められる様子が目に浮かぶ。元の世界など忘れて俺たちの世界に住むように説得するべきだろうな」
元の国では無く世界と言っている事にも疑問が浮かんでいるがラーンの言葉でユーガ達は確かにと頷く。
大切な友達といっていた二人が、ああもレイナを拒絶しているのだ。
他の親しい者達や親もレイナを否定してもおかしくない。
「ケンキなら、どう思う」
「レイナ以外は戻せるなら戻した方が良いだろうな。レイナだけは本人の意思に任せた方が良い」
「やはり、そう思うか。…………こちらの方で他の者たちのレイナに対してどう思っているかの結果が必要だな」
ケンキはそれに頷いて部屋から出ていく。
そろそろ、お腹が減って辛くなってきた。
朝から何も食べていない。
「………ケンキ?」
「朝食を食べて患者の話を聞くために準備をする。夜までは部屋に戻らないから自由に使っていいぞ」
ケンキの言葉に頷きラーンたちはレイナの映っている空間に集中していった。
「な……なんで?」
「こっちのセリフよ。何で貴方だけが洗脳されなかったの?」
ユカの言葉にレイナは、こいつもかと心が冷えていく。
どうしようもない出来事を全部、自分の所為にしてくる二人が友達とは思えなくなった。
そして、元の世界に戻っても家族どころか他の皆も自分を責めてくるのだと予想してしまう。
実際には違うかもしれないが大事な友達二人に否定されて何もかもが嫌な考えしか思い浮かばない。
しかも家族も二人と同じく洗脳されたという共通点があるから余計に、そうだと予想してしまっていた。
「なんとか言いなさいよ!」
「うるさいなぁ」
胸倉をつかんで来る手を払ってレイナはユカの身体を蹴り飛ばす。
「がはっ……!つう……。なに……を…。ぎゃっ!」
「ねぇ。ミカにも言ったけど、じゃあどうやって助ければ良かったのよ。何度も何度も邪魔した癖に」
理不尽に責められて続けて遂にレイナは反撃する。
暴力には暴力を。
罵倒には罵倒を持ってやり返すことを決意する。
「私からすれば皆が一人でも洗脳されずに私に手を貸してくれれば洗脳を解けてた可能性があったのに」
「出来る筈がないわよ!貴女以外が洗脳されていたのよ!?だから逆説的に貴女があの男とグルだと思ったのに!」
「ずっと思ってたけど、魅了されてた記憶があるのよね。なら私があの男に怯えていたことも、逃げていたことも、皆に捧げられようとしたことも」
「それは………」
「あの状況でどうやって、皆を助ければ良かったの?それとも、自分と同じ目に遭えば良かったとでも言うの!」
「………だから何!?」
「開き直らないでよ。それに私からすれば貴方達全員とあの男がグルだとも思えるんだけど」
「何ですって……!」
「私だけが防げたっておかしいじゃない。本当は協力して陥れたりしていたんじゃないの?」
レイナの言葉に言い返すことも出来ない。
実際はレイナ以外は全員、抵抗もできなく洗脳されていたとしてもだ。
もはや誰にも調べることは出来ない。
だから、そのことは洗脳されていた者達は未だに気付いていない。
純粋にレイナに対する行動が八つ当たりだということも。
「否定しないんだ。やっぱり私を陥れようとしてたんだね」
「ちがっ……!」
ユカがレイナの言葉を否定しようとしても既にレイナは聞く耳を持たずに立ち去る。
あの男と協力しているのも、レイナを陥れようと考えていたのも勘違いだ。
否定しなかったのは他に協力者がいなかったか思い出そうとするためだった。
そして直ぐに否定しなかったからこそレイナの中ではあの男の勘違いして去られた。
「三人とも先程のサリナの発言はどう思う?」
ラーンの疑問にユーガ達は思い当たるところは無いか怪しい者がいなかったか思い出す。
「大丈夫だと思うわよ。警戒していたのはあの男だけだったし、いても多分問題にならないと私も思うわ」
シーラの言葉に、たしかにケンキが何も言ってなかったと思い出すが、それでも心配になる。
ケンキに頼んだ仕事が終わったら聞きに行こうと全員で頷き合った。
「さて、私はレイナを慰めに行こうと思うけど、皆も来る?」
シーラの発言に付き合うと頷く皆。
最後には爆発して強気で相手をしていたが大事な友達の二人ともに否定されてショックだろうと予想できる。
昨日の様に買い物でもして気を紛らわそうとする。
他にも実際にお金を使って金銭感覚を覚えさせようとする狙いもある。
「ふむ。それじゃあ今日は王都以外の庶民の使う店に行こう。王都の店は基本的に、それ以外のところより割高らしいからな」
庶民と言われて思う所はあるが何も言わない。
王族と貴族でもない平民。
比べること自体がおかしい。
「それじゃあレイナを見つけて王宮から出るぞ」
「ん?」
今、王宮から出るぞという言葉に気合が入り、シーラも力強く頷いていた。
どういうことだと考える間もなくサリナと共に腕を引かれてレイナがいる場所へと連れて行かれる。
レイナのいる空間を映しているのと、城で過ごしていたお陰でスムーズに進んでいった。
「…………!」
そしてラーンたちがレイナを見つけるとすぐ様に見えないように陰へと隠れた。
何故かと、問う前に黙っているようにジェスチャーをして視線の先を見る。
そこにはレイナと他の洗脳されていた者たちがいた。
レイナの大切な友達だった二人はいないが二桁ほどの数が囲んでいることに止めないのかと非難の視線を向けてしまう。
「動くのは暴力を振るってからだ。それまでは、あいつらがレイナへと向ける感情を知るのが優先だ」
ラーンの指示にユーガ達は不満に思いながらも従う。
王族だけあって自然に従ってしまう。
「まぁ、皆がレイナを嫌っていたら王宮にある部屋の位置も考えないといけないからね。嫌いだからと女性に暴行するなら王宮から叩きださないといけないしね」
「え………?」
「何、不満?」
シーラの考えにサリナは驚いて見上げる。
その様子に自分の考えの何が不満かと問いただそうとする。
「他国から留学とは聞いたんですけど、王宮にも部屋があるんですか?」
サリナの質問になるほどとシーラも頷く。
不満なのでは無く純粋に疑問に思ったのだと理解した。
留学生が王城に住まわせてもらっているのは確かに疑問だろう。
「そうだ。色々とあって、王城にも部屋を用意してある。詳しいことは聞くな」
ラーンの言葉に頷く。
王族が聞くなと言われたら聞かないぐらいの判別はあるのだ。
「おい、なんでお前だけが無事だったんだよ!………ってぇ!」
一人の少年がレイナの胸元を掴もうとして叩き落とされる。
レイナの行動に囲んでいた男性女性問わずに全員が睨む。
これでレイナは全員に睨まれていることが理解できた。
シーラの言う通り隠れていて正解だった。
「一人の少女を複数人で囲むなんて。それに内容も理不尽。レイナ以外も責任があるとはいえ王城に残したくは無いわね」
またも気になることをいうシーラ。
ユーガ達は必死に聞いてないふりをしていて、それを見て王族たちは満足する。
「ねぇ。兄様?」
「そうだな。一人の少女を囲って責める者は王城にいてほしくないな。何か適当な理由で追い出すべきだろう」
王族の兄妹はどうやってレイナ以外の者を王城から追い出そうか相談している。
それだけ女性に理不尽を行うのが嫌なようだ。
「……それはレイナが大丈夫なのか?レイナだけが王城から追い出されていないのは、いらない恨みを買いそうに思えるのだが?」
「確かにな。レイナに何かしらの試験を与えて王城に住む資格を当てるのも良いな。何かしら一級の実力を持てれば部屋も与えられる。一緒に来た者たち以外にも王城で住むことに納得させられるはずだ」
「………でも、どうやって実力を与えれるか問題ね」
「試験に合格できなければ、レイナちゃんも追い出すんですか?」
「……。そうだけど?今は学園の寮の部屋もあるし問題ないでしょう」
気に入っているかもしれないがシーラは厳しい人だと認識する。
同時に無条件で甘やかさない人物だと理解して安心もした。
「でも、かなり有用な人物なんだよね。護衛として、かなりの適性があるし」
「…………たしかに。忠誠を誓ってくれたら操られるか弱点を握られない限り最も信用できる相手にもなりそうだ」
かなりの評価を受けているレイナに、どうしてか聞きたくなる。
このぐらいは聞いても大丈夫だろうと判断したからだ。
聞いてはダメという内容でも無いだろう。
「彼女、洗脳とか魅了といった精神に作用するものを全て無効化するみたい。それに聞いたよ」
シーラはそこでユーガ達に視線を向ける。
嘘を許さないという強い視線に身を強張らせてしまう。
「ケンキに気に入られて鍛えられていたんでしょ。それが短期間でも鍛えられていたんなら将来有望じゃない」
ケンキに気に入られたからが理由だと理解した。
どれだけケンキは信頼されているのだと疑問に思う。
王族であるラーンとシーラはユーガ達より年上だ。
つまり、ユーガ達と同い年であるケンキは年下なのに当たり前のように頼るなんてユーガ達にとっては信じられない。
もしユーガ達が同じ立場だったら頼るのは難しい。
「ケンキは戦闘能力に関しては、目の前で実績を何度も示していたからな。問題児だが、信用できるところは出来る」
「「あぁ~「うるせぇよ!」」」
ついつい話し込んでいるとレイナが壁に押し込まれていた。
話に集中していたせいで全く視ていなかったことに反省する四人。
レイナなら大丈夫だと予想しても囲まれているのに自分たちのことに集中してしまったことに後悔する。
「お陰でこっちはな!恋人が奪われたんだぞ!他にも妹や姉、家族を売ってしまったり自分を捧げた奴もいるんだぞ!どうやって償うつもりだ!?」
「私には関係ない!何であの男じゃなくて私に言う!私も被害者よ!」
「嘘つけ!じゃあ、何でお前だけが洗脳されてなかったんだ!!」
八つ当たりをしていることに溜息を吐く。
本当に理不尽だ。
何もレイナは悪くない。
ただの言いがかりだ。
「お前さえいなければ!」
複数の人数に手を抑えられ、別の男に殴られそうになったのを確認してユーガ達は助けようと陰から走り出る。
「八つ当たりか」
ケンキの声が響き殴りかかろうとしていた男が蹴り飛ばされてユーガ達にぶつかる。
「………悪い」
ユーガ達に謝りながらもケンキはレイナを抑え込んでいた男たちを殴り飛ばして助ける。
女性が邪魔をしようとしても当たり前のように蹴り殴りと蹴散らしていく。
男女平等と聞こえはいいが実際に暴力を見ると情け容赦ないと引いてしまう。
「大丈夫か?そっちに心配で追いかけていた奴らがいるから安心しろ」
そう言ってケンキはレイナをシーラの元へと手を引く。
だがレイナはシーラの元へと辿り付いても手を離さない。
「昨日は一緒に買い物をして仲良くなったんだろ。安心して離せ」
レイナの行動に幼馴染たちはケンキに冷たい視線を送ってしまう。
ピンチに助けられたら、そりゃ離れたくないと思うのに離せと言っているケンキが冷たく感じる。
仕事があるとはいえ、あまりな行動に溜息が出る。
「何で溜息を吐く。今はちょっとした休憩で直ぐに部屋に戻らないといけないんだが」
正論だけど、もう少しレイナを気に掛けて欲しい。
例えば仕事場に一緒に連れて行くなどして。
「それじゃあ、俺は仕事の方へ戻る。シーラ、後は頼んだ」
無理矢理に手を離して、仕事場へと戻るケンキ。
シーラは溜息を吐いてレイナとサリナの手を引いて最初の予定通りに行動しようと決める。
まずはストレス発散に甘いものを食べに行こうと王城から馬車を頼んで直行することにした。