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パーティを追放されました。でも痛くも痒くもありません  作者: 霞風太
NTR?編

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20/62

患者

「ケンキ!他の皆も直ぐに王城へと来てくれ!」


 ケンキ達が朝目覚めて訓練を開始しようとすると同時、ラーンが来る。

 突然の王子の登場にユーガ達は固まって行動を起こせない。

 直ぐに驚きでの硬直から復活したメイが頭を下げたのを視界に映って自分たちも同じ行動をする。


「なんだ?ヤンデレにでも殺されたか?」


 鼻で笑うケンキにレイナが率先して頭を下げさせる。

 ケンキの言葉なんて焦りで耳に入って来ない。

 だがラーンの耳には当然、入って来る。


「…………そうだ」


「あっはっはっはっはっは」


「何だ?お前にも予想外だったのか?」


「当たり前。好意で暴走したら有り得るだろうなと思い至ったのは、こいつらと訓練している途中だぞ。当たって笑うしかないわ」


「まぁ、あの棒笑いから可能性が低いと思っていたのは分かるが。って、君たちも公の場では無いし頭を上げて構わないぞ。俺からすればケンキの幼馴染の二人なら、俺にとっても幼馴染だ」


 王子の言葉に恐縮するユーガ達。


「それにケンキからはユーガとサリナの話はよく聞いていたからな。一方的だが初めて会った気はしない」


「「こ、光栄です」」


 二人は恐縮するようにラーンに頭を下げているが視線はケンキに向けていて睨んでいる。

 その光景にラーンは苦笑し、メイとレイナは呆れた視線でケンキを見ている。

 肝心のケンキはどうでも良さそうに欠伸をしていた。


「それで?」


「あぁ、話を戻すが王城に戻って話と後遺症が無いか見てくれないか?お前も中々の聞き上手だからな。聞いているぞ、城の多くの者が君に愚痴を言ってストレスを発散していると。気まぐれかつ食事を奢らなきゃいけないが、かなりの人気じゃないか」


「…………?」


「自覚が無かったのか………」


 何の話だと首を傾げるケンキに今度はラーンが頭を抱える。

 少しずつケンキに向ける不満が減っていくのを知って、原因を調べたら愚痴をこぼしていたのが理由だと知って、ちょろくないかとラーンは心配になってしまう。

 そもそも普段のケンキの訓練内容を知っていればストイックなものほど嫌う訳がなく、嫌っていた者も王城で働いている者の数の割合とはいえ少ない。

 それでも愚痴を聞くだけで減ったと聞いて頭が痛くなる。

 確かに未だ十五歳で一回り近い年下の子供に愚痴を聞かせるのはアレかもしれないが。

 王城の勤めている者達は根が良すぎる。


「…………お前」


「ケンキ君。先生や寮長が帰りが遅いから注意してくれって言われたんだけど……。そんなことをしてたの?」


「ちゃんと王城から申請の紙を提出している」


 ユーガ達の言葉に反論するケンキ。

 それに今度はラーンが口を出して来る。


「おいこら。学園から文句が来ていると聞いていたがお前のせいか」


「…………正直、学園の定める門限の時間は早すぎる。もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと「うるさいわよ!」……いたい」


 暴走したケンキの頭をレイナが叩いて止める。

 途中から狂気が混じって引いてしまっていたが止めてくれたレイナに心から感謝する。


「何で年々、狂気が増えていくんだ………」


「あ……。王子様もですか?」


「あぁ。お前たちも悩んでいるんだろう?」


「はい。アレで周囲に意図的に被害を与えようとしていないから大丈夫なんですよね。教えを請えば軽くだけど鍛えてくれますし」


「本当にな。アレがケンキの強さの源なんだろうが……」


「一歩、間違えば修羅となって周囲に被害を与えるんじゃないか心配になってしまうのがな。大丈夫だと長い付き合いでわかっていても不安になる」


 ケンキのアレさで早速、意気投合する三人。

 面識はないが共通の話題で光の速さで仲良くなっていく。


「王家としてケンキを調べたら悪辣なこともやるが対象は外道だしなぁ。だからこそ処罰をしにくいし」


 何をやっているのかとケンキをバッと振り向く幼馴染。

 悪辣だと聞いてメイもレイナもケンキを見る。


「外道だから良いだろう?復讐相手に虐殺されようが俺としてはざまぁとしか思えないし。あのままだったら被害が増えていたかもしれないし」


「…………改心しても関係無いで復讐させるだろう」


「悪いのは相手。俺が誘導しなきゃ被害が増えていた。隣の家族とか罪の無い子供とか」


「…………否定は出来ないが」


 悔しそうにラーンはケンキの言葉を認める。

 それだけの外道もいて見逃してしまっていたことも事実だ。

 正直、胸糞悪くて改心したとか資料を読んでも信じられない外道だった。


「そんな奴もいるのか?」


「俺たちの故郷にもいた。誰だが教えないし忘れたと思うが」


「何!?」


 ユーガは顔色を変えてケンキに縋りつくがサリナは違う。

 ケンキにジトッとした目を向けている。


「言っただろう。忘れただろうし言わないと」


「…………はぁ。つまり直ぐに対処をしたと。どうやって知ったのよ……」


 サリナの言葉にケンキは目を逸らす。

 何も言う気は無いようだ。

 そうしているとラーンが手をパンパンと叩いて自分に注目する。


「すっかり話し込んでしまったが王城に戻るぞ。全員、馬車に乗れ」


 ラーンの言葉に従い次々と馬車に乗っていく。

 素直に応じたのは王子の言葉だからというのもあるが、何時までも立って外で話し込んでいることに疲れてきた。

 馬車を引く業者も暇そうに欠伸をしており、申し訳なく思ったのも原因の一つだった。




「話を戻すぞ」


 全員が馬車に乗り動き出したとこでラーンの言葉に頷く。

 もともとはユートの話だったのだが話が逸れていったのもあって気になる。


「たしかケンキがヤンデレに殺されたのかという疑問に頷いたところまでだったよな?」


 ユーガの言葉にラーンは頷く。

 そこからケンキが予想していたことから話が逸れていった。


「しょうがないだろう?可能性は低いと思っていたんだ。だから対抗策としてアイテムの作り方も教えたんだ」


「それは俺たちも分かっている。だが言って欲しかった」


「可能性の低い希望を言ってどうする?それに先程も言ったけど、思い至ったのはつい最近だぞ。しかも切り札としてレイナを鍛えている最中にだ」


「そうだったな」


 ケンキの言い分に納得して黙るラーン。

 それでも愚痴を言いたくなってしまう。


「それよりも何で俺が被害者の話を聞かなきゃいけない。理由を聞いたが、やっぱり俺よりも専門家の方が良いんじゃないか?」


「うん?あぁ、専門家の数が足りないからな。お前は気付いていないだろうが愚痴を聞いていた者の中には専門家もいてな。推薦されたのもある」


 その説明に今度はケンキが納得する。

 専門家に推薦されたのなら少しは自信が出る。


「ちょっと良い?」


 ケンキがラーンと話している最中にレイナが割り込んで来る。

 何か聞きたいことがあるのかとケンキは予想して先に質問する前に確認する。

 ちょっとした悪戯だ。


「俺がお前を切り札として考えていたことか?」


「………!!」


 ケンキの先取りした言葉にレイナは何も言えずに首を縦に激しく振って頷く。


「最悪の可能性として俺も魅了されていた可能性があるから「「「っつ~~!?」」」………な?」


 話の最中に急に幼馴染たちが立ち上がり頭をぶつけたことにケンキは驚く。

 おそらくは話しをすれば納得するはずだと説明を続ける。


「実際はどうか分からないが可能性としては考えるべきだろう。それに対して多分だがレイナは完全に無効化する魅了とか無効化する体質だからな」


 可能性と聞いて少しだけ落ち着く幼馴染たち。

 どうせ、有り得ない確率で低いと思うが最悪の可能性を考慮して動くのは正しいと理解する。

 それでも魅了されるという可能性には気分が悪くなるが。


「………実際はどうなのよ?」


「俺が洗脳される確率なら低いが有り得ると思うぞ」


「そうじゃなくて、どのくらい低いのよ」


「…………油断しなければ有り得ないんじゃないか?」


 ケンキの言葉に、なら大丈夫じゃないと愚痴るレイナ。

 その様子にケンキは苦笑する。

 ケンキにとっては何時までも気を張れるわけではない。

 その隙を狙われたら魅了される可能性があるから切り札としていたのだ。

 もう済んだことだから説明する気はなかった。




「と着いたな」


 そして馬車が止まる。

 そして外に出るとユーガ達とレイナは威厳を与えるような光景に感動の声を上げる。

 逆にケンキとラーン、そしてメイはあっさりしている。

 それだけに見慣れているかそうでないかで差がある。


「「「おぉ」」」


「それで患者は何処にいるんだ?話を聞くにしても居場所がわからないんだが」


「あぁ。俺に着いて来てくれ、案内する。他の者も後から来て良いが、少し待ってくれ。中にはお前らのクラスメイトもいるかもしれないしな。メイ、それまでは任せて貰っても良いか?」


「わかりました。三人とも私の後に付いて来てくれないかい?」


 感動している三人を置いてケンキ達は次々と三人は話を進めていく。

 正直、感動なんてどこかに行って急な話の進み具合に呆然としてしまう。

 三人ともがメイに腕を引っ張られてケンキ達とは別の方向へと移動させられていく。





 そしてケンキ達は予定通り魅了されていた者達が集まる部屋へといた。


「……………多いな」


「あぁ。わかってはいたが数が多い。しかも、この部屋だけでは無く他にも二桁まではいかないが近い数が部屋が埋まっている」


「………それって学園に通う暇があるか?無理にでも通わせるにしても学園にカウンセラーを増やす必要があるんじゃないか?」


「正解だ。既にいつでも対応できるように寮に一人、学園に四人程増やす予定だ」


「………まぁ、よくわからんから任せる。取り敢えず王城で働いている者の愚痴を聞いているようにやれば良いんだな?」


「あぁ、頼んだ。それとそれ専用の部屋も用意しているから基本は寝泊まりして欲しい」


 溜息を吐いてケンキは頷く。

 鍛錬の時間も減らした方が良いと判断したからだ。

 正直、自分の時間が減るのは残念だがしょうがない。


「わかった。早速、一人目を頼む」


「あぁ。それとこれからは彼女に頼む。俺は別のこともやらなくてはいけないからな」


 王族だからな、と察してケンキは頷く。

 そして頑張れ、と声援を送って仕事へと気合を入れた。


「あぁ、お前もな」




「一人目が来る前に自己紹介をしませんか?私の名前はシュタと言います。これからは同じ部屋で寝泊りするのですから、よろしくお願いしますね」


 ケンキの補佐とされた女性の名前はシュタと呼ぶらしい。


「そう、これからよろしく。それで一人目は何時頃から来るんだ?」


「………まずはこれから共に生活をするのだから一時間はお互いの話し合って人となりを知る必要があるそうです。どうしても性格が合わないなら考える必要があるとか」


「あぁ~」


 それなら理解できる。

 偶にいるのだ。

 顔を見合わせた瞬間に不倶戴天の敵として険悪になる者達が。

 だから、話し合わせる必要上がると考えたのだろう。


「…………俺の名前はケンキ。趣味は鍛錬。特技は料理」


「知っています。偶に食堂で料理を作っていますよね?貴方が食堂で料理を作ってくれるのを楽しみに待っています!」


 ケンキは自分の料理が褒められてまんざらでもない表情をする。

 むしろ内心はとても嬉しい。


「できれば食堂で料理を作って欲しいです」


「え……やだ」


 だが頼まれても今回は作る気が無い。

 魅了に掛かった者達の話を聞くにしても、どのくらいかかるか分からないし、食堂が開いている時間を過ぎるかもしれない。

 城で料理を作るにしても個人用にだ。

 そこまで説明するとシュタも納得してくれる。


「たしかに。それじゃあ、お金は払いますから私の分も創ってくれませんか?」


「かまわない。それにお金も材料費だけあれば十分」


「お金は取るんだ?」


「無償よりはマシだろ」


 ケンキの言葉にシュタは否定できない。

 こちらが一方的に知っているだけで、これまで会話もほとんどして来なかった。

 赤の他人同然に料理を無償で作ってもらうのは少し辛い。


「初めて知り合って、これからもお互いの本職の関係で再開するのも難しいかもしれないからな。ずっと貸しを作ったままにするのも辛いだろうし」


 学生と本職メイド。

 いくらケンキが王城に来てもシュタは広い王城で仕事をしているので出会う可能性は高いとはいえない。


「そうですね。それじゃあ、お互いの連絡先を教えませんか?そうすれば、これからも関わり合っていくでしょうし」


「構わない。それでも、お金は貸して欲しい。今、料理を作るにしても材料も無い」


「いや。作ってもらう立場だから私が払うわよ。貴方が食べる分の料理と材料費は私の分の料理の報酬だと考えて」


 ケンキは自分が料理を作る分は確かに手間が掛かっているとシュタの言い分を認める。

 それでシュタとケンキは契約をした。

 そして二人は一時間は語り合った。




「失礼しますって………子供!?」


 そして最初の患者が入って来る。

 本来なら助手であるメイドのシュタが呼ぶのかと思ったが最初は違うのだろうかとケンキは考える。

 ちなみに子供だと不満そうな表情や驚きはケンキにとって不快ではない。

 むしろ気持ちは分かる。


「専門家に任されるぐらいのあるらしい。何でも吐き出せ」


 言い方はともかくケンキは笑顔で話しを促す。

 その笑みにホッとしたような顔を浮かべる患者。

 笑顔だけで頼りたくなってしまう。


(え?あんな笑み、初めて見たんだけど。偶にしかケンキ様を見て無いとはいえ、いつも無表情だったのに。あんな笑みを浮かべるんだ………)


 残念ながらケンキの笑みは作り笑いでしかない。

 相手を安心させるために優しそうな笑みを真似したに過ぎない。

 これだけで信頼されるのはケンキにとっても苦笑する。

 それだけ精神的にやられているのかと。


「それで何があったんだ?」


「あぁ。実は妹をもう少しで、あの男に差し出しそうになったんだ………!」


 あの男とはユートだろう。

 差し出すとは、そのままの意味なのだろう。

 それでも結果的に差し出していないのだから気に病むことでは無いとケンキは思う。


 そしてシュタは忌々しそうな表情をしている。

 シュタの表情を察して患者は表情を暗くするが、シュタは忌々しそうにしているのは患者にではない。

 ユートについてだ。

 他人を操って自分に女の子を抱かせようとするが気に食わないのだ。

 自分も被害に遭う可能性があったと思うと更に気持ち悪くなる。

 死んだと聞いても清々する。


「でも差し出す前にユートは死んだんだろ。なら幸運に思わないと。それに何時までも気にしているのも思い出して気分が悪くなるだけだ」


「だが……!俺はあの日に妹に洗脳や魅了を防ぐためのアクセサリを渡したんだ!それでも掛かってしまった。これからは、同じような被害を防ぐためにどうすれば良いんだ!?」


 妹想いの患者に不安が原因だと理解する。

 たしかに、それは不安になる。

 シュタも自分の身体を抱き締めて震える。


「あぁ、これでも俺の創ったそれらのアイテムは効果があったみたいなので公表するように王家にも申請します。いずれは普及しますので、それまでは我慢してください。それでも不満なら精神を鍛える方法を教えますので、それで毎日行ってください。何もしないよりはマシでしょうし」


「え……えっと」


 ケンキの言葉にシュタの方に視線を向けながら指を差す。

 疑う事態は良いがケンキにとっては指を差されることが不快だ。

 教える気を無くすが堪える。


「大丈夫です!彼は実はこの国でも最強なので!ぶっちゃけ王城にいる者全てより強いですし!」


 親指を立てて知らされてた事実に患者は呆然とする。

 言われた内容が信じられなくて何度もシュタとケンキに視線を何度も視線を彷徨わせる。


「取り敢えず、目を瞑れ」


 それらを無視してケンキは自分なりの精神の鍛え方を教えようとする。

 自分を鍛えて強くなることは趣味だが、実際にどのくらいの強さなのかはそこまで興味が無い。

 ハッキリ言ってどうでも良い。

 そんなケンキの考えが伝わったのか二人は溜息を吐く。


「次に一度深く息を吸って吐く」


 本来なら患者にだけに教えているはずだがシュタも真似をして目を瞑り、息を吸って吐く。


「そのまま目を開けずに周りの空気を感じ取る」


 ケンキの言われた通りにする二人。


「自分の内側にも意識を向けながら周りの空気も感じ取れ。頑張れば出来るようになる」


 説明は終わりだというケンキに目を開ける二人。

 シュタはケンキの実力を知っているからこそ、これで強くなれると信じられるが患者は違う。

 ケンキの実力を知らないからこそ信じられない。

 それでも覚えたのは気晴らしになると考えたからだ。


「信じようと信じまいが、どうでも良い。俺の精神を鍛える方法の一つだ」


 ケンキの言葉に頷いて患者は去っていった。

 少なくとも話を聞いて助かったとスッキリした表情になっている。

 それに最後の教えてもらった方法でため込んでいたモノも綺麗に無くなった。


「あれって本当なの?」


 ケンキはシュタの質問に首を縦に振って頷いた。

 最後に患者がスッキリしたのは表情なのは偶々だ。


「なんで、それでスッキリした表情になるのよ?」


「さぁ?」


 ケンキもその質問には首を傾げる。

 たしかに心を落ち着かせる方法でもあるがスッキリするのは本当に意味がわからない。


「………いや、心を落ち着かせたからこそスッキリしたんだと思いますけど?」


 シュタの意見にそんなものかと首を傾げるケンキ。


「そんなものか?まぁ、よいや。次の人を呼んできて」


 それよりも仕事を進めようとシュタに指示を出す。

 あれこれ考えるのは後で出来るから仕事を進めようと考えたからだ。


「わかりました。それじゃあ次の人を呼んできますね」


 そして次に入ってきたのは女性だった。


「あっ………」


 ユートの魅了で性的な意味で何かされたのだと予想してしまう。

 正直、ケンキは自分のところには言いにくいから男性だけ来るかと思ったのに女性も来るとは思ってもいなかった。


「その………若いのに、優秀なんですね」


 女性の方も話を聞いてくれる相手が子供であることに困惑している。

 ケンキは連れてきたシュタに間違えたのではないかと視線を送るが、間違っていないとシュタも視線を送る。

 それに溜息を吐いてケンキは女性に尋ねる。


「なに?恋人がいるのに不貞を働いてしまったの?それとも大事に守ってきた処女でも奪われたか?」


 ケンキは最悪な質問をする。

 どう考えても男が女にする質問ではない。

 不躾な質問にシュタはケンキを睨む。


「違う……」


 首を横に振って否定する女性。

 不貞を働いたわけでも処女を奪われたわけでもない。

 それなのに来た意味がわからない。

 ケンキは混乱する。


「好きでもない男に肌を晒した。それも複数人に……」


「複数の男に肌を晒した……?」


 ますます訳の分からないケンキ。

 これはユートの被害にあった者達の患者ではないのかと考える。

 シュタは下手人に怒りを抱いているのか厳しい表情だ。


「うん。あの男の命令で複数人の前で全裸にされるストリップショーをやらされたわ。手を出されてないとはいえ………ね」


「へぇ。面白いな。ユートの奴、自分の能力を鍛えていたのか。まぁ、死んだ以上は無意味か。………いや、鍛えたからこそ強く自分に感情を向けさせた結果、殺されたのかな?」


 シュタは平然そうに言っている女性に自分は平気だと無理しているのを誤魔化しているのを察し、額面通りに受け取って気付いていないケンキに厳しい目を向ける。

 話の内容も気になるが全く女性に気遣わないケンキが嫌ってしまいそうになる。


「え………そうなの?」


「俺の予想だけど死んだ場所と下手人の事を考えれば間違っていないんだろうな………」


「そう考えると私がストリップをされたのも無駄ではないわね」


 強く笑う女性にシュタは敬意を抱く。

 これまでユートに辱められた女性は自分にされたことを口に出されると傷付いた表情をするのに彼女は違う。

 むしろ慰める方が傷つくのかもしれない。

 それを見越して話していたのかとケンキにシュタは尊敬の目を向ける。


「………で、他に何がある?」


「何だと思う?」


 試すかのような物言いにケンキは女性にイラっと来る。

 話したくないなら話さなければよいくせに。

 おそらくは理解して欲しいと考えているのかもしれない。

 前に愚痴を聞いている最中に同じ言葉を聞かされて考えて欲しいと言われたことを思い出す。


「…………自分の裸を見た相手を覚えていない。そして相手も記憶があるのか、分からない」


「正解」


「………その場合って、どうするべきだろうな?裸を見たとはいえ、本人の意思は介在していない。覚えていない場合は殴らない方が良いだろうな。逆に覚えていたら殴っても構わないかもしれないが」


「だよね」


 タダで女性の裸を見た男性に対する行動として問題ない発言にシュタも頷く。

 むしろ記憶が無い婆によっては報復しないという決定に慈悲深いとすら思っている。


「あ………そうだ」


 それからは女性はケンキと色々な事を話していく。

 ユートとは無関係なことも。

 ユートがこの国で行ったことで女性が知りうることも。


「ふぅ、ありがとう。他の皆は過剰に心配してくれててね………」


「有難いけど、煩かった?お陰で忘れたくても忘れることが出来ないくらい」


 ケンキの言葉に女性は頷く。

 シュタはやはりケンキの最初の発言は正しかったのだと理解し尊敬の視線を向けていた。

 そして女性は世話になったと部屋から出て行った。





「ケンキ君は最初から気付いていたんですか?」


「何が?」


「あの女性が慰められていることが嫌になっていることにです」


「偶々だ」


 偶々で最適解が引けるモノかと嘘つきを見るような眼でケンキを見るシュタ。

 とてもじゃないが信じられない。


「…………どれだけ睨んでも事実は変わらない。それにお前は大丈夫だったの?今更だけど」


 シュタはケンキの主語のない心配に何のことか分からなかったが直ぐに思いつく。

 幸いにも城勤めだったこともあって、あの男の毒牙には掛かっていなかった。

 そのことを説明するとケンキが納得した表情をする。


「まぁ、毒牙に掛かっていたら、むしろ話を聞いてもらう側になるか……」


 ケンキの言葉にシュタは頷く。

 他の者には悪いとは思うがお城勤めで幸運だった、


「そういえば質問」


 ケンキの疑問に答えようと頭を振って何でも答えられるように準備する。

 そのための補佐でもあるのだから答えられなかったら恥だ。


「何でしょうか?」


 さて、何を聞いてくるのか。

 必要な物が足りないのなら、こちらの不手際だから直ぐに準備をするつもりだ。


「何で、どいつもこいつもユートをあの男と呼んで名前で呼ばないんだ?」


「喧嘩を売っている?」


 ふざけた質問にシュタは内心キレる。

 何で名前を呼ばないのか本気で理解していない。


「何が?名前を呼ばないことの質問で、どうしてそうなる?」


「私たちが!あの男を!名前で!呼ばないのは!それだけの事を!されたからでしょうが!!」


「一般人は忌避感があるから良いとしても、他はダメ。ちゃんと魅了されて危機を招いたことは覚えていろ。その方がこれからの、もしかしてにも対処できるだろう。無理だったら、それほどの能力だったということで」


「………手厳しいわね」


 言いたいことは何となく理解できる。

 たしかに嫌なことから目を逸らさせるのは成長もしない。

 だから嫌っている名前呼びを敢えてさせることで忌々しい記憶を刻み付けるつもりなのだろう。

 趣味が悪い。


「最低でも王宮の者と学園の者はそうしないとダメだな。無理なら退学だ。トラウマを呼び出すような者が来たら弱点になる」


「一般人には優しいんだ?」


「護るべき者たちと戦う者達が同じ扱いとかアホか」


 ケンキの言うことも正しいが茶化すつもりで言った言葉が正論で帰ってきて返す言葉もない。


「そうだけど………。それと言うのも忘れそうなので今の内に言っておきます」


「ん?」


「ありがとうございます。王宮にあの男の危険性を教えてもらえなかったら今以上に被害者が増えていました。おそらくは私も。だから感謝します」


 シュタの言葉に気にしなくて良いとケンキは返す。

 もし王宮の者。

 とくに上に立つ立場の者である宰相や王たちが洗脳されたら大変なことになると判断してのことだ。

 メインはあくまでも王たちでありシュタ達に関しては偶然ともいえる結果でしかない。

 もしシュタが王宮勤めじゃなかったら話に来た女性と同じか、それ以上に悲惨な目にあっていた可能性もある。

 シュタが助かったのは王宮で優秀だったからに他ならない。


「そういえば悪いけど暇な時間があったら、そっちでも調べて欲しいことがあるんだけど?」


「何でしょうか?」


 まさに今、思いついたという表情のケンキに何を聞かされるか警戒する。

 また怒りが湧いたり呆れてしまうような質問でなければ良い。


「さっきの女性が言っていた知り得る限りでは女性は最後までは手を出されていないという情報。少し気になる」


「わかりました。出来得る限り調べてみます」


「お願い。それと、いい加減に次の人を呼んできて。何時までも話をしているのもアレだし」


「そういえば……。話に集中しすぎて忘れていましたね。今すぐに呼んできます」


 その言葉通りにシュタは部屋から出て新しい患者を呼んで来る。


「…………何人の話を聞くことになるんだろうな」


 ケンキは新しい患者が部屋に入って来る前に見られないように溜息を吐いてから出迎えた。

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[気になる点] NTR?編でレイナと思われる所でサリナとなってる所が散見され、混乱します
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