自己紹介
「よし!先生は気絶しているし、自己紹介しようぜ!」
気絶した教師を尻目にヒイロは自己紹介をしようと提案する。
「俺の名前はヒイロだ!周りからは『お人よしの英雄』と呼ばれている。使う武器は剣で魔法は一切、使わない!」
ヒイロの自己紹介に彼らのパーティが続いて自己紹介を続ける。
「私の名前はエリスよ。『疾風姫』と呼ばれているわ。異名通りに風の魔法の適性が有って上級魔法を使えるわ」
その次がヒイロと一緒にケンキの教室に来た女子生徒エリス。
「俺の名前はアスドだ。『不倒の騎士』と呼ばれている。パーティのタンクだ」
大柄な男子が座りながらも顔をケンキに向けて教えてくれる。
タンクだけあってガタイがかなり良い。
「私の名前はチユです。『踊る癒し手』と呼ばれています。これから、よろしくお願いしますね」
ケンキの近くまで来て頭を下げてくる。
年下相手にも礼儀正しく接してくる優しそうな女子。
「俺っちの名前は何だと思う?これを取って見なよ!」
楽しそうに金髪の如何にもチャラそうな男子が手に紙を持って見せてケンキを挑発する。
挑めば良いのかと視線で周りに問うケンキに頷いている。
「じゃあ」
その直後にケンキの手には金髪のチャラ男の持っていた紙を手にしている。
そして書いてある内容を読むと名前が書いてある。
「ティル……?異名は『盗賊の道化師』……?」
手にしている紙を呼んでいるケンキに向ける視線が更に強くなる。
最低でも二年以上はケンキより経験を積んでいるのに金髪の男子ティルから紙を奪った動きが見えなかったことに対抗心が湧く。
「へぇ……」
それらを気にせずにケンキも自己紹介をしようと息を吸う。
「俺の名前はケンキです。一学年で魔法適性はありません。使う武器は大剣です」
お互いの自己紹介が終わり、呼ばれた理由をケンキに話す。
パーティの重要性を教えるためにテスト期間の一か月間はヒイロたちと組むことになったと聞いてケンキは溜息を吐く。
死んでも自己責任。
つまりはソロで挑んでも誰にも文句は言われないと思っていたからこそケンキは溜息を吐いた。
ハッキリ言って強くなりたいのに他人がいたら邪魔になるとケンキは思っている。
「迷宮に挑むのは明日からだが、取り敢えずは俺たちと戦おうぜ」
ヒイロの言葉にケンキだけでなくヒイロのパーティたちも驚いている。
「そもそもソロで挑んだ理由の一つは本気で動いたらフレンドリーファイアをしてしまう可能性を考慮してのことだろ?俺たちなら心配ないことを教えてやるよ」
ヒイロの言葉にパーティメンバーたちは納得したように頷き、ケンキは楽しそうに笑う。
自分は一学年、相手は三学年ということから本気で殺しにいっても大丈夫だという考えからだ。
「といっても今日は戦わないけどな」
ヒイロの意見にケンキは不満な表情を浮かべる。
「それなら今日はどうするのよ?」
「当然、親睦会だって!今日は一緒に迷宮に挑まないで遊ぼうぜ!」
「ひゃっほう!」
ヒイロの言葉にティルは嬉しそうに声を上げる。
まさかの行動のケンキは呆然とするが、他のパーティメンバーは気にせずに納得している。
ケンキは理解できていないが初めてパーティを組む相手を知るために親睦を深めるのは悪いことでは無い。
ヒイロは早速と言わんばかりにケンキの手を掴んで学園の外へと連れて行った。
当然、他のパーティメンバーも楽しそうに二人の後を着いて行った。
「ケンキ君は普段は何をしているんだ?」
「大剣を使っての素振りや初級魔法の訓練ですよ」
「初級魔法の訓練?」
ヒイロの質問に返ってきた答えに疑問が浮かぶ。
所詮、初級魔法は初級だけあって威力も大したことは無い。
そんなものを訓練してどうするのかと疑問に思っている。
「意味があるのか?」
「………ファイア」
その答えにケンキは火の初級魔法を唱えた。
その炎は青く大きさもケンキの横幅を超えるぐらいはある。
近くにいるだけでも、かなり熱さを感じる。
それをケンキは上空に目に止まらない速さで放った。
「ついでにもう一回、ファイア」
もう一度、唱えたが今度は同じく青い炎が指の太さの大きさで数十、出現する。
それも最初と同じく上空へと放った。
「初級魔法を極めようとすれば、このくらいできますよ。まぁ俺の場合、器用貧乏になってるんじゃないかと不安になりますが」
「凄いわ!」
ケンキの魔法を見てエリスは感動する。
今のケンキの魔法は既存の物とは違う新しい魔法だ。
見る者が見れば教えを請いたいと頭を下げるほどの技術だ。
そのことを説明するが、ケンキはどうで良さそうにしている。
本当に実力不足が原因で元のパーティから脱退させられたのか怪しい。
「初級魔法は今まで魔法適性が無い者でも使える分、威力は低いと思われていたけど、これからは違うわね。君、私と一緒に来てくれない?」
「………え。誰でしょうか?」
外で魔法を使ったのが原因で見知らぬ魔法使いの女性がケンキに話しかける。
ケンキの言葉に女性は困った顔をし、ヒイロたちパーティメンバーを含めケンキの魔法を見ていた者は口元を引き攣る。
それも当然だ。
彼女は格好からして宮廷魔術師。
国でもトップに位置する魔法使いの一人だ。
それを格好で判断できないケンキに冷や汗を流れる。
「あはは。私の格好を見て判断できないのは本物かな。まぁ、良いよ。そんなことより、どう?」
「すみませんが先輩との時間がありますし、知らない相手について行く気はありません」
「ふぅん。ねぇ、君たちがこの子の先輩だよね。私も彼について行って良い?」
「「「「「はい!」」」」」
先輩たちが緊張して返事をしていることから偉い人だとケンキは理解できるが誰だか分からないために深いことを考えるのは止めた。
それよりもあの程度のことで驚かれたことに頭がいっぱいになっている。
「あそこで良いか。私が奢るから教えてもらっても良いかい?」
「教えるって、さっきの初級魔法の応用ですか?」
「うん。あっ、先輩君たちも奢るから一緒に来てよ」
「えっ。はい!喜んで!」
言葉通りに喜色満面の笑みでエリス達は喜んでいる。
まるで憧れの相手と一緒の席に座れるみたいだ。
それも当然、彼女は史上最年少の女性宮廷魔術師。
世の女性の憧れを一身に集めている女性だ。
「さてと、まずは飲み物がきたし口にしながら教えてもらっても良いかしら」
喫茶店に連れ込んだ女性メイの言葉に頷き、ケンキは頼んだジュースで喉を潤わせながら頷く。
「ありがとう。まずは初級魔法の威力の強化について教えてほしいわ。今までは、誰が使っても威力は同じだったのに君だけは違う。どうやったの?」
「いや、魔力を通常より消費すれば良いんじゃ……」
メイの言葉にケンキは意味がわからないといった様子で答えるが、メイは溜息を吐く。
そして初級魔法を二つ発動する。
片方は普通の初級魔法。
もう片方は見てわかるほど魔力を込めた初級魔法だ。
「見てわかると思うけど魔法に込めた魔力の差がわかるわね。これでも対象を燃やすのに差はない」
「いや、当然ですよね」
メイの説明に興味深く聞いて頷こうとした者たちがケンキの言葉で途中で向きを変えて首を痛めてる。
ケンキの言葉も聞きたいが首の痛みで集中できていない。
メイもまたケンキの言葉に動揺している。
「あなたがやっているのは魔法の維持に魔力を込めているだけです。それだと威力は変わりませんよ」
そう言ってケンキも二つの初級魔法を発動する。
そしてメイが見せたように魔力の込めた差が分かりやすい。
「魔力を込めたのが少ない方を見てください。じきに消えます」
その言葉通りに片方は消える。
逆に魔力を多く込めた方は残っている。
「威力を上げたいなら魔力を単純に込めるのではなく工夫して込めないと意味がありません。例えば込めた魔力を全て火力にしたいなら魔法の中心ではなく、その周りに込めるとか」
ケンキの説明に首を傾げている者が殆んど。
それに対してケンキは水の初級魔法を生み出す。
「水の初級魔法の中心は真ん中のここです」
水の球体の中心に指をさす。
そして中にある中心に触れると魔法が掻き消える。
「は?」
いくら作った本人とはいえ、指を刺しただけでかき消えたことに困惑する。
それに対してケンキは同じように水の初級魔法を作って欲しいと頼み、創られたそれを最初と同じように中心に指を刺しこんで魔法をかき消す。
「魔法は全て中心に核というものがあります。これは魔法の構成をしているモノで触れたり衝撃をぶつけるなりすれば構成していた魔法を消せます。魔力を込めれば込めるほど核は頑丈になって今の様に触れただけでは、かき消えません」
「待って!実例を見せて貰ったらから理解も出来る!でも初めて知った事なのだけど!?何時から気付いていたの!?」
説明の途中にメイは口を挟む。
だが、しょうがないかもしれない。
今まで知られていなかったことが急に表に出てきて混乱している。
そして、メイの質問に対してケンキは首を傾げている。
「初級魔法で何となく遊んでいたら気付きましたし、それが何時となると分からないです」
ケンキの答えにメイは肩を落とす。
少なくとも、かなりの昔だと判断している。
子供は魔法を使えるとなると初級魔法でも色んな所に撃っては遊んでいる。
それは誰もが同じことだ。
「あと魔法の威力は感覚的な部分もあるので同じやり方でも人によって違いますからね?俺の場合は中心に魔力を込めるのではなく、その周囲に魔力を込めて火力を上げましたけど他にもあるでしょうし」
「わかっているわ。今のところ初級魔法をここまで使えるのは君だけだから他にも検証する必要はあるから大丈夫よ」
ケンキのもたらす情報に参った様子を見せるメイ。
一緒に居たヒイロたちもケンキの情報に頭を抱えている。
「はぁ。親睦のための筈がこんな情報を聞くなんて」
「……よいじゃない。私たちにも有用な情報だし、もしもの為に適性の無い魔法でも初級魔法を覚えておいた方が良いと判断できるし」
「そうだな。俺も覚えてみたくなった」
ヒイロたちのパーティは初級魔法を覚えようかと相談している。
ケンキは話疲れたのか飲み物を口にしながら、それを見ていた。
「よし。それじゃあケンキ君!おススメの初級魔法とかあるか?できれば応用がしやすいヤツ!」
ヒイロの質問にケンキは空中に視線を向けて考え込む。
そして教えたのは、火と土の初級魔法。
これが一番、応用しやすいらしい。
特に火は目に見えて威力の変化が分かりやすいらしく、練習に最適らしい。
「なるほど。といっても今日は訓練は無しって言ったからな!やるのは明日だ!」
ヒイロの言葉にそれもそうだったとパーティの連中は思い出す。
メイは一緒に訓練をしたかったが諦める。
休む日は休まないと疲れが溜まって怪我の元になるのは自分が良く知っている。
「それにしても君たちはパーティかな?学年が違うようだけど」
それとは別にメイは誘った者達の関係性を聞きたい。
迷宮学園は同じ学年同士でパーティを組む。
別の学年同士でパーティを組むのは偶にしかない。
「あぁ、それは期間中に指定された迷宮の階層をクリアするんですが」
詳しい説明をしようとするエリスに卒業生だから大丈夫と伝えるメイ。
「あっ、そうでしたね。ここにいるケンキ君は一年生なんですけどソロで既にクリアしちゃって学園の目的を無視しちゃってるんです」
「なるほどね。………一学年がソロ?」
「はい」
戦慄した表情でケンキを見るメイ。
彼女も迷宮学園を卒業したから知っている。
一学年がソロで一番最初の試験を合格するのは、有り得ないと。
なにせパーティの重要性を教えるための試験なのだ。
どうやってもソロで攻略できないようにされている。
それを成したケンキの規格外ぶりが分かる。
「凄いんだね。これからもソロで攻略できる者はいないんじゃない?」
メイの言葉にケンキは首を傾げる。
本人は、どれだけ規格外なのか理解できていないのだろう。
「わかっていないみたいだね。それにしても君って、ここまで初級魔法を極めているってことは魔法メインの戦闘をするんだよね。鍛えて上げよっか?」
メイの言葉に羨ましそうな表情をするエリス達。
だがケンキは複雑な表情をする。
魔法も使うだけで本人は大剣を武器にしている。
だから正直に言えば必要がない。
「ちょっ……」
「ふぅん。そうなんだ。ってアレ?もしかして学園のサイトでも乗っていた大剣でゴーレムを瞬殺していたのって君?」
エリスが何か言おうとしていたが、それよりもメイの言葉にケンキは頷く。
それに気を悪くした様子は無く、むしろ納得したような表情になる。
「それならしょうがないか。あぁ、そういえば一緒に居る理由を聞いてた途中だったね。ソロと聞いて話を途切れさせてしまってすまないね」
そういえばとケンキ達も全員が思い出す。
気を取り直してエリスがパーティの重要性を教えるために一時的に組むことになったと教えるとメイは面白いことを思いついたとばかりに笑う。
「私も参加して良いかい?」
メイの言葉にケンキが答えるよりも先にエリスが是非と答えた。
「ケンキ、これからどこへ行く?最初も言ったように親睦を深める目的があるからな」
料理の他に頼んだケーキなどの軽食を食べ終わってヒイロがケンキに尋ねてくる。
ケンキに行き先を聞くのは先輩として連れ回すよりは後輩の好きな事について行きたいと思ったからだ。
ならと向かった先は国の外に出られる門の前。
たまらずにヒイロはケンキの肩を掴む。
「待て。もしかして外にいくつもりか?魔獣が襲ってくるんだぞ?今日は戦うのは無しって言ったよな!?」
「そう言われても普段から国の外で魔獣相手に戦ったり、訓練所で剣を振るうしか思いつくのは無いんですが………」
ケンキの言葉に頭を抱えてしまうヒイロたち。
同時に一学年で規格外な事にも納得がいく。
普段から他の皆が遊んだりしている時間も全て戦闘に費やしているのだろう。
だからゴーレム相手でも簡単に瞬殺できたのだと理解する。
「それなら俺たちについて来い。俺たちが色んな遊びを教えてやる」
だからヒイロたちはケンキに任せるのではなく自分たちが普段から遊ぶときに使う場所へと連れていく。
そこには沢山の人だかりがいて、ケンキは思わず顔をしかめる。
「あれ、もしかしてケンキ君は人ごみが苦手なのか?」
「みたいね。歩いている最中も人が多くなればなるほど顔を顰めていたわ。もしかして国の外に出る理由はは人が少ないからかしら?」
「いや。国の外は少ないというよりは、いないと言うべきじゃね。完全に無人というわけじゃないけどよ」
「そんなことで外に出るなんて危険すぎますよ!止めるように注意しないと!」
ヒイロたちはケンキに聞こえないように集まって小声で話している。
それに内容に聞き耳を立てずに外観を眺めているケンキとメイ。
「ここが君たちが、いつも遊びに使っている場所かい?」
小声で話しているヒイロたちに尋ねるメイ。
中からは音楽が聞こえてくる。
店の外にも聞こえる音量から中に入ったらときの騒がしさにケンキは嫌そうな顔をする。
「ははは。取り敢えず中に入って見ろ。俺たちも最初は偏見で避けていたけど、かなり良い場所だぞ。料理も美味いし、音楽も聴いて後悔しないモノばかり」
「へぇ。それは期待できそうだ。ほら、嫌そうな顔をしていないで行くよ」
メイに促されチユやティルに腕を引かれて店の中に入っていくケンキ。
そんな四人の後をヒイロたちも追う。
「-----♪」
流れてくる音楽にヒイロたちは耳を傾ける。
予想以上に曲の良さにメイは目を細めて聞いている。
ケンキも目を輝かせて聞いている。
ヒイロたちはケンキたちの反応に嬉しそうだ。
特にケンキの反応には年下ということもあって可愛いとも思っている。
思わずCDを買い与えたくなっている。
というより既に買い与えている。
しかもおススメの曲をそれぞれ薦めている。
「………あの、これだけ買ってもらうのも悪いんですが」
ケンキは余りの量に困惑する。
それも当然だろう。
一人あたり最低でも三枚。
合計で二十枚近く貰っている。
貰いすぎだ。
「気にするな!むしろ一枚一枚聞いて身体を休ませろよ!強くなるには実戦経験も大事だけど偶には休まないと逆効果だからな!」
CDを多く買い与えたのはケンキを休ませる目的もあったらしい。
意図を察してケンキは目を逸らす。
その姿にヒイロたちは溜息を吐く。
どうして、そこまで強さを求めているか知らないが止める必要があると考えてのことだ。
これを聞いて身体と心を休ませてほしい。
「善処だけはします……」
ケンキの言葉にヒイロは納得し、他は溜息を吐いた。
言うことを聞くつもりは無いと理解したからだろう。
「あはは。それよりもケンキ君って、国の外で倒した魔獣をそのままにしていない?」
メイはそんなケンキに心当たりがありそうな質問をしている。
真剣な目で聞いていて嘘や誤魔化しをされそうにない。
だからケンキが頷くと溜息を吐く。
働いている時に噂で耳に聞いた巨大な魔物の死骸が放置されている原因を理解したからだ。
といっても学生、それも一学年。
ゴーレムを瞬殺したからと言って信じられるものでは無い。
今度、国の外に行くときに連れて行ってもらい、巨大魔獣と戦う姿を映像に残すことに決める。
その上で上からも注意されるように仕向けるべきだと考える。
「一応、言っておくけど、なんでも魔獣を殺して放置はダメだよ。血の臭いで魔獣が一か所に集まったりするからね。危険なんだ」
知らないかもしれないと教えた忠告にケンキは驚き振り向く。
やっぱりかといった表情にメイはなる。
ヒイロたちも当たり前の常識をケンキが知らなかったことに呆れている。
「今日はこのまま音楽を聴きながらケンキ君に常識を教えたほうが良いんじゃないか?」
アスドの言葉に全員が頷く。
幸いにもこの店では勉強をしても咎められることは無い。
早速と言わんばかりに大勢が座れる席についてケンキに常識を教えていく。
特に迷宮や国の外に関するマナーについてケンキに詰め込んでいった。
「疲れた……。まさか俺たちにも知らないマナーがあったとは。しかも変わっているマナーもあったし」
「そうね。勉強をして良かったわ。店の中にいた皆も知らなかったこともあって、感謝されたし」
「しかし巨大な魔獣だけでなく通常の大きさの魔獣も処理必要があったなんてなー」
勉強会は店にいた他の客や店員も巻き込んで開かれた。
他の皆も最低限のマナーを意外と知らなかったことに少しだけメイはショックを受けている。
周知させるための機会を作るべきだと上司に報告する必要がある。
「今日はありがとうございます。お陰で知らなかったことをしれました」
ケンキの言葉にヒイロたちは首を振る。
自分たちもお互い様だと機会を作ってくれてありがとうと頭を下げる。
そのまま、明日もまた一緒に行動することを提案する。
明日はお互いの実力を知るために闘うつもりだ。
その為に待ち合わせをしたいと言う。
「ちょっと良いかな?」
それにメイが待ったをかける。
頷こうとしていたケンキもその声に振り向く。
「私も一緒にパーティに参加して良いかい?」
思ってもない申し出に頷くエリス達。
それに対してケンキは何故かと質問している。
「面白そうだからね。君の実力にも興味はあるし、少しぐらいは急に休んでも問題ないさ」
対して興味が無いからかケンキはそれで納得するが理由は違う。
ケンキの戦闘能力を調べる必要があるからだ。
これで、ある程度以上の実力があったら学園を卒業でもさせて騎士として外の魔獣から戦わせようと考えている。
魔獣に襲われないように国は壁で囲まれているが、それで終わりじゃない。
そのまま放置しておくと壁が魔獣に壊されて侵略される可能性がある。
だから魔獣の数を減らすための騎士が一人でも多く必要なのだ。
「それじゃあ学園の訓練所に集まろうとしていたけど変えた方が良いか。どこか良い場所がないか?」
「あぁ、大丈夫。私も迷宮学園の卒業生だから訓練所に行かせてもらうよ。久しぶりに学園も見たいしね」
ヒイロの気遣いに気にしなくて良いと答えるメイ。
それならとメイの言葉に甘えるヒイロたち。
ケンキも頭を下げて感謝する。
「それでは明日の朝に訓練所で」
「おう!今日は早く寝ろよ!」
「明日は楽しみにしてるぜー」
「それじゃあね!」
それぞれが別れの挨拶をしてケンキは一人で皆から去っていった。
残るはヒイロたちとメイのみだ。
「それじゃあ私たちで少し会話できるかな?」
突然のメイの言葉にヒイロたちは頷いた。
「いや、ごめんね。これからする会話はケンキ君に聞かれたくなくてね」
何の話かと身構えるヒイロたち。
憧れの存在から話があると言われて緊張している。
「そこまで緊張しなくて大丈夫だよ。君たちとそんなに年齢が離れている訳でもないし」
メイは迷宮学園を飛び級して卒業した天才だ。
それでもヒイロたちよりは一つ、二つほど年齢が上。
迷宮学園が七年で卒業すると考えれば二、三年を飛び級したことになる。
「はい!それで話したいことは何でしょうか!?」
「はぁ……。私はケンキ君の戦闘を記録したいと思ってね。それの協力と説得を手伝ってほしいんだ」
そのぐらいなら構わないと思うが何故、ケンキがいたときに聞かなかったのか不思議に思う。
「いやいや。もしかして断られる可能性もあるからね。その場合の説得を頼みたいんだ」
メイの言葉に納得するが、そこまでしてケンキの戦闘情報が欲しいのかとも思う。
それに対して学園を卒業させて騎士団に所属させたいと告げる。
「その……。名誉なことだと思いますけど、ケンキ君は一学年ですよ。入学して間もないのに辞めさせるのはどうかと……」
チユの言葉は折角、勉強して合格になったのに直ぐに止めさせるのはダメだとメイを説得する。
「それもそうだ。飛び級したとはいえ私も学生だったからこそ出来た付き合いもあるのに、それを奪うのはダメだね」
チユの説得にあっさりと受け入れるメイ。
今はまだ本気で言っているわけではないようだ。
もし、人材が足りなくなった時の保険と考えているのだろう。
たしかに、もしもの時の為に一人でも多くの騎士が欲しいが探せばケンキ以外にもいる。
それでもケンキを狙うのは単純に騎士となれば自分とも接する時間が増えるのが理由だった。
「まぁ。会える時間が少なくても私から時間を作って会いに行けば良いか」
メイのその言葉にヒイロたちは顔を見合わせ合う。
小声でまさか、とかそういうこと?と言い合っている。
「ん?どうしたんだい?」
メイの質問に慌てて首を振るヒイロたち。
自覚もしていないし、確証もないことだから教える気は無いようだ。
「そういえば学生のころの付き合いって言ってましたけど、今でも学生で付き合いがある人がいるんですか?」
「うん。たしか今は七学年だったかな。久しぶりに学園で会うから驚かせるのが楽しみだ」
その言葉に付き合いは深そうだと察するヒイロたち。
だからこそ気軽に驚かせようなんて考えれるのだろう。
「それじゃあ明日からお願いします」
「うん。こちらこそ」
それだけを言ってヒイロたちと別れるメイ。
その顔には楽しそうな笑みが浮かんでいる。
それだけに友人が驚かせるのが楽しみなのだろう。
明日の友人の驚く顔を想像しながらメイも帰路についていった。