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鍛錬

「本当ならメイが鍛えるべきだろうに……。何処に行ったんだ、あいつは」


 ケンキは本当に最低限の数の魅了に対抗するための道具を造ってからレイナを鍛えることになった。

 本来なら造れるだけ造る筈だが、鉱石は本来の用途にも最低限でも必要であり、それを除くと底が尽こうとしていた。

 他にもケンキが一週間、飲まず食わずで作成していたり魔力が平均より少ないために休憩の為にも王族たちがレイナをメイと鍛えるように指示を出した理由もある。


「………その。お……お願いします」


 ケンキが不満を持っているのはレイナが男性恐怖症の為だ。

 レイナが悪いわけでも無いし、理由が理由の為にどんな態度を取られても全く気にしないが、男性の自分ではなく女性の誰かに任せないことに不満を持っている。

 メイと一緒でも、男性と一緒にさせることが気に入らない。


「あの……?ケンキさんは私が女性とではなく男性と一緒に鍛えられることに不満を持っているんですよね?」


 レイナはケンキの不満の理由を口に出して確認する。

 そのことにケンキが頷くとレイナは嬉しそうな表情になる。

 その変化に不思議な表情をするケンキに少しだけレイナは笑って教える。


「……気に掛けてくれるのが嬉しくて。それにだからこそ男性恐怖症を治さなくてはいけないんです。ケンキさんを推奨したのは私ですし……」


 その答えを聞いてケンキはますます分からなくなる。


「何を言っているんだ?お前は女で俺は男。ハッキリ言って二人きりだとレイプの可能性も上がるだろう?レイナさんは容姿も良いし、男と二人きりでいるということに、もっと危機感を持ったら?本当に男性恐怖症?」


「………そうやって心配する人がレイプをするとは思えないんですけど」


「……………ふぅん」


 顔を赤くしているレイナにケンキは近づいて地面に押し倒す。

 そして足の内側に手を忍ばせて撫で上げた。


「ひゃっ……!」


 ケンキのセクハラの度を越える行為にレイナは驚く。

 全く予想していなかった行動に己と相手に対して怒りと絶望が湧いてくる。

 その間も撫で上げてくる感触が気持ち悪い。

 こんなことをする相手の顔を見る。

 見てしまう。


「俺は……」


 その顔には愉悦と欲情と悪意、そして後悔と嫌悪と混乱が混ざっていた。

 前者はレイナに、そして後者はケンキ自身に向けられていた。

 レイナは特に後者の混乱の感情を察知すると自分でも理解できないほど当たり前のようにケンキの頭を撫でる。

 その瞬間、ケンキはレイナから距離を取る。

 離れた後ケンキは自分のしたことに撫で上げていた手を見て呆然とする。


「………ごめんなさい」


 そして意識を取り戻すとレイナに謝る。

 レイナは気にしていないと首を横に振った。

 そして近づきケンキの頭を膝に乗せようとする。

 ケンキは拒否をしようとするが何度も攻められて、ついに陥落してしまった。




「ケンキ君!レイナちゃん!」


 ケンキがレイナに膝枕をされて寝ているとメイがサリナとユーガの二人を連れてやって来る。


「「「あーーーー!!」」」


 そしてケンキがレイナに膝枕をされていることに騒いだ。

 自分達とは関りが薄いのに、そこまでケンキに心を許されていることに三人は嫉妬する。

 まず膝枕をしてあげようかと三人が誘っても断られたのに求められているレイナが酷く羨ましい。


「なんで私たちは断ったのに、その女は許しているの!?いくらでも膝枕ぐらいはしてあげても良いんだよ!?」


 サリナの必死な声にケンキは煩そうにする。

 たかが膝枕ぐらいで、ここまで必死になる気持ちが全く理解できない。

 そしてレイナはケンキが呆れ、三人が不満そうにしている間もケンキの頭を膝枕して撫でている。

 そのことにもケンキは本当に男性恐怖症なのか疑いたくなる。

 押し切られて膝枕をされているが、セクハラをした男に膝枕をするなど理解が出来ない。


「もう一度、聞くけどレイナさんは本当に男性恐怖症?」


 幼馴染たちにも聞きたいことはあるが、今一番聞きたいのはレイナについて。

 もし違うのであれば、扱い方も変わって来る。

 だが、レイナは首を縦に振って自分を男性恐怖症だと評す。

 実際にケンキには普通に接しているのにユーガに対する視線には怯えが入っている。

 その事に気付いている幼馴染は、この一週間、何をしていたのか疑問の視線をぶつけてくる。


「王宮にいた男性陣には慣れたということか?」


 もしくは信用できるか。

 それでも、やはり膝枕をされるのは変だと考える。


「………違うわよ。単純に私も無理をしてでも男性恐怖症を治そうと思っているだけ。ケンキさんなら見る限り純粋そうで信頼できると思ったし」


 先程のセクハラを忘れたのだろうかとケンキはレイナに白けた目を向ける。


「それに、さっきのは私に警戒を促すためのものでしょ?」


 そして続けられた言葉にケンキは頷いた。

 たしかに自分が男だと見られてないようで腹が立ち衝動的に行動をしてしまったのもあるが、男を警戒させる目的もあった。

 やってケンキは自己嫌悪に陥ったが、それでも男として見られないのは無性に苛立っている。

 今もそう。

 膝枕をされ頭を撫でられているが、まるで男としての脅威を感じずに可愛がられている気がしている。


「待ってくれないか?私たちにも教えてくれないかい?何でケンキ君には平気なのか」


「純粋というか、子供にしか見えないというか………。男の人はどうしても女の私に色んな視線を向けてくるんだけど、彼は全く無いですし。さっきもセクハラをしたのに本人は自己嫌悪で気持ち悪くなったり、していますし」


 レイナの説明に同じ女であるサリナとメイが納得する。

 自分たちも成長するにつれて男性からの視線が色々なところに向けられてくる。

 その中で唯一、そういった視線を向けて来ないのがケンキだった。

 背も低いことも相まって性的な情緒は全く成長していないのではないかと考えてしまう。

 だからこそ、セクハラをされても子供の悪戯だとしか思えずに許してしまっている。


「一応、私やユーガと同い年なんだけどね……」


 言ってしまえば子供っぽいという評価にケンキは不機嫌になる。

 それがまたケンキを可愛がる理由だと本人は気付いていない。


「え……?同い年?」


 サリナの言葉にレイナはケンキとサリナを見比べる。

 男と女の差があるのにケンキがサリナと見比べて、かなり幼く見えて信じられない表情をする。


「そうだよ。ケンキと私とユーガは15歳で同い年なんだけど……」


「はぁ!?」


 サリナの説明にレイナは酷く驚く。

 年下だと思っていたのが実は自分と同じだと知って信じられない気持ちになる。

 身長も己より小さいぐらいで、男で同い年なのは信じられない。


「事実だ。あまりにも小さいから俺たちも気になって医者に調べて貰ったら筋肉が付き過ぎて身長が伸びにくくなっているらしい」


 身長の理由を聞いてレイナはケンキの頭を撫でていた手を腕に移動する。

 筋肉の付き過ぎという言葉にどれだけの筋肉が付いているのか興味が出たのが理由だ。

 あらかじめケンキにお願いして腕を差し出してもらい、その手を頬に当てて腕の硬さを確かめる。


「「「おい」」」


 普通に腕を触れば分かることなのに頬に手を当てさせたレイナにサリナ達は文句の声を上げる。

 あまりにも態度や距離が近い。

 サリナとユーガの幼馴染たちは本当に一週間、何もなかったのか疑問を持ち、メイもいつの間に仲良くなっているのか不思議がっていた。


「………いい加減に起きるか」


 それらを無視してケンキはようやく起き上がる。

 折角、膝枕をしていたのにレイナは少し不満そうだ。

 意外と膝枕をして頭を撫でるのは女性にも充足感を与えてくれる。

 小さいとはいえ男に膝枕をしていたという事実に男性恐怖症の克服に自信を持つ。


「そもそも俺を男として見ていないなら、俺を膝枕しても男性恐怖症は治らないんじゃないか?」


 言っていないのに膝枕をしていた、もう一つの理由を察せられてレイナは驚きの表情を浮かべる。

 メイたちもケンキの意見には頷く。

 男性恐怖症を治すために荒療治をしているつもりだったかもしれないが、そもそも男として見ていない相手では何も意味が無い。


「本当に荒療治をしたいならユーガもいるから丁度良い。一緒に鍛えてやる。ユーガ達も構えろ。実戦形式だ」


 ケンキの言葉を聞いてユーガとサリナの二人は身構える。

 何時、攻撃をされても防げるように意識を保てるように気合を入れる。

 理解をしていないのはメイとレイナの二人だけだ。


「あらかじめ言っておくが、ちゃんと協力し合えよ」


 それが聞こえると同時にメイとレイナは吹き飛び、ユーガとサリナはそれぞれの武器を構えたまま地面を引きずって後退させられる。


「がはっ!」


「……うぁ」


 メイは吹き飛ばされて直ぐに起き上がり杖を構え、レイナは吹き飛ばされて地面に平伏したまま、えづいている。


「まずは避ける為の訓練。危険察知を鍛えるぞ。避けれるようになるまで、何度でも蹴るし殴る。安心しろ、かなり手加減はしてある」


 ケンキの言葉にレイナは絶望の表情を浮かべる。

 全く見えなかったのに、どうやって避けるのかと。

 避けれなかったら、ずっと続けられることに。

 それ以外の者たちは、手加減しているとはいえ自分より格上の攻撃をどう防ぐが避けれるか考え続ける。


「レイナさん。貴女はおそらく精神に影響を及ぼす類のモノは効かない。それでもモノにされる方法で力尽くがある。それを防ぐためにも必死にならないと。それに貴女が諦めたら、友達は一生洗脳されたままだと思いますよ」


 ケンキの発破にレイナは立ち上がる。

 無理矢理、ユートの女にされるのも嫌だが、大事な友達を救えないのも嫌だ。

 召喚されて洗脳をされていたことが分かったのだから解除もしたいのだ。

 この国の宮廷魔術師たちが洗脳を解く方法を探っていてくれているが、自分は何もしないというわけにはいかない。


「ほら避けながら己の魔力を感じてください。基礎は教えてもらった筈です。なら、それを内側だけでなく外側にも向けてください」


 ケンキの攻撃に後に響いてくるような鈍い痛みは無い。

 何度も飛ばされているが外見が派手なだけで考えたり、色々と試す余裕はある。

 それでも痛いモノは痛いし、殴り合いの様な派手な喧嘩をほとんどしないレイナは訓練とはいえ暴力を振るってくるケンキを睨む。

 訓練でなかったらレイナはケンキを憎んでいた。





「容赦がないな……」


 ケンキに蹴られ殴られているレイナを見ながらユーガはぼやく。

 その一瞬後にユーガも蹴られる。

 確実に眼で捕らえられる速さで防御も間に合ったのに、まるで通り抜けたように一撃を与えてくる。


「くそがっ!」


「だから協力しろ。でなければ防ぐことも避けることも出来ないぞ」


 悪態を吐くがケンキに言い返される。

 協力をしろと言われるが、そんな余裕もない。


「あぁ!」


「うわっ!」


 ユーガだけではない。

 サリナとメイも容赦なくケンキに攻撃をされている。

 男女関係ない様子に少しだけ感心してしまう。


「………少し時間を与えるか。休憩させるから、どうやったら避けられるか話し合え」


 急にケンキが攻撃を止めて話し合うように指示を出して来る。

 理由はわからないが、正直助かったと一息を付いて地面に尻を付く。

 散々、蹴られ殴られたせいで話し合う気力も体力もない。


「はぁ……」


 そんなユーガ達にケンキは一人一人近づいて担いで一か所に集める

 動く気力が無いのなら集めて話し合わせようと考えたのだろう。

 

「………ケンキに集められて話し合うようにされたけど、何か良い案はあるか?」


 ここまでされたら話し合う必要があるとユーガ達は話し合いを始める。


「無理でしょ」


「強すぎるよね」


「強いのは知っていたけど、差がありすぎだよ」


 女性陣の意見にユーガは反論しない。

 むしろ頷いている。 


「全くだ。今回の勝利条件がケンキの攻撃を避けることとはいえ、それが難しい。防御をしたと思ったら、すり抜けて衝撃が奔って来るからな」


 ユーガの言葉に頷く。

 サリナもメイも完全に防いだと思ったのにすり抜けて衝撃が奔って来るのはショックだった。

 自らの能力に自信がなくなってしまう。


「そういえばケンキさんの攻撃は最初は痛いけど、後に残らないし見える部分にも痣が出来ていないよね。これって、ケンキさん自身の技量なの?それとも、そういう魔法を使っているの?」


「……ケンキ自身の技量だ」


 自信を無くして落ち込むユーガ達に空気を変えようと話題を振るレイナ。

 意図を察せるが、口に出したことでケンキとの実力差に更に落ち込んでしまう。

 このままでは肩を並べて戦うのも夢のまた夢だろう。


「目に見える速度なのに、いつの間にか懐に入って来るのよね………。ああいうのを巧みって言うのよね?どうやって避ければいいのよ?」


 レイナの言葉に全員が頭を抱えて悩む。

 避けるのも困難なケンキの技に、どうやって協力して避けろというのか理解できない。


「………もしかして、ケンキ君の攻撃の最中に妨害して避けさせるとかかな?それなら、確かに協力する必要があるし」


「もし、そうだったとしても、かなりタイミングがシビアですよね?下手しなくても避けられて攻撃を味方に当ててしまいませんか?」


「そのぐらいのリスクを許容しないとケンキの攻撃は避けられないだろうな」


「………他にも考えた方が良いわよね?今のところ武術だけだけど、魔法も使ってくるとは限らないでしょうし」


 レイナの意見に確かにと頷きながら話し合いは続いて行く。

 ケンキは最初、自分自身への愚痴だけで話し合が進んでいないと思っていたが、ちゃんと対策を話し合っていたことに安心する。


「俺は魔法の対策もしているけど、ケンキだしな。ノリで新しい魔法を造るとか意味わからないことをしそうだし」


「その場合は私がフォローに回るね。ケンキが言うには、どの魔法も魔法抵抗力が高ければ高い程、魔法の威力は弱められるらしいしね」


「そうなのか?」


「うん。基本的にはそうみたい。純粋な魔法であればあるほど、魔法抵抗力で威力を弱くするみたい」


「純粋であれば、あるほど?」


「ほら魔法って魔力で物理的なモノも創るじゃない」


 サリナの言葉に頷くユーガとメイ。

 突然の説明に興味を持ったのかサリナの説明を静かに聞いている。

 レイナは何の話をしているのか理解できていない。


「ケンキが言うには、そういったモノは接触したりすると触れた瞬間から霧散していくんだって。それで本来の威力より低くなるみたい」


 サリナの説明にメイは酷く狼狽える。

 これも初めて知ったことで、ケンキかそれに近しい者といると、これまで知らなかったことが色々と知ることがでてくる。

 正直、知的好奇心が充足してくる。


「あと多分、魔力が高いモノのほとんどが魔法抵抗力が強いみたい。例外もあるから一概にはいえないらしいよ」


 続けられた説明にユーガも心当たりがあるのか何度も頷いている。

 これまで魔法を使う魔物と戦うと、魔法でのダメージが与えにくかった。

 他にも高名で魔力が強い有名な魔法使いが子供の魔法をワザと無抵抗で受けても無傷だったことも思い出す。

 これも検証が必要かもしれないが事実だと認めてしまう。


「これも検証が必要ね。……だれか手が空いている者がいるかな?」


 そしてメイにとっては仕事が増える案件でもある。

 知的好奇心が満たされる。

 満たされるが、どれもこれも手を出せるわけではない。

 やりたい仕事が多すぎて誰かに頼らざるを得ない状況だ。

 ついつい溜息が出てしまう。


「…………休憩は終了。そろそろ始めるから立ち上がって」


 そしてケンキの言葉に気合を入れて立ち上がった。

 何時までも話し込んでいないで、最初の目的に戻るべきだと従う。


「それじゃあ始めるぞ」


 その言葉に頷いてケンキの攻撃を避ける訓練を始めた。





「いくぞ」


 ケンキはそう言ってレイナの元へと走り始める。

 目的がレイナだと理解するとサリナ達も邪魔をする様に魔法で攻撃をする。

 ユーガは剣を持って直線的にケンキに向かって剣を振り下ろす。


「はぁ!」


「甘い」


 振り下ろされた剣をケンキは身体を横に移動して避け、そのまま腕を掴んで回転し投げ飛ばす。

 投げ飛ばした位置にはレイナがいる。


「きゃあ!!」


 もろにケンキが投げたユーガにぶつかりレイナは地面に転がってしまう。

 その上、ユーガの下敷きになってしまっている為に動きたくとも動けない。


「よし。どちらも意識はあるな。気絶させてしまったら、また休憩をとる必要があった」


 ケンキも思った以上に綺麗にユーガがレイナにぶつかった為に焦り冷や汗を流したが、意識があることに安堵の溜息を吐く。

 その間もメイとサリナの魔法に晒されているが、全てをその場で避けて無傷でやり過ごしている。


「当たりな!!」


「やぁぁ!!」


 二人の魔法にケンキは溜息を吐く。

 全ての攻撃が直線的で避けやすい。

 これだと、いくら速くても避けれるのも容易い。


「折角、魔法を作り替える方法を教えたのに、使っていないのか?」


「ふざけるな!あんなの理屈がわかっても容易く真似できるかぁ!!」


 かぁー、かぁーと響くメイの大声にケンキは吃驚して距離をとる。

 かなり接近して大声を聞いた為に耳も抑えている。

 その間に比較的近くにいたサリナはメイの肩を叩いて慰める。

 サリナの行動にケンキは耳を抑えながらも不満そうにする。


「少しだけとはいえ、俺の前で改変していたりしてだだろう?」


 ケンキの言葉にメイは視線を逸らす。

 たしかに改変をしようと弄繰り回したが、どれも改良ではなく改悪になってしまう。

 他の者にも教えたが改良できなかった。


「今度、私たちの目の前で改変して教えてください………。だれがやっても改悪になってしまうんです」


 メイの言葉にケンキは溜息を吐きながらも頷く。

 まさか、だれも改良できていないとは思わなかった。

 宮廷魔術師という戦闘も研究が出来る者たちなのに予想外の結果に失望してしまう。


「わかっ……!」


 ケンキが言葉にしようと思ったらユーガがかなりの速度で剣を振って来ていた。

 完全に意識から消えてしまっていた。

 だからこそユーガにとっては最大の好機だった。

 己自身に出来る限りの身体強化を使っての奇襲。

 これで一撃を加えられなかったら、もう今は当てられる気がしない。


「………忘れてた」


 それをケンキは素手で掴む。

 驚くよりも先に掴まれた刃先を離れさせようと力を込めるがビクともしない。

 しかもピキピキという音が聞こえてくる。

 そして剣が壊される。


「後で好きな剣を買ってやる」


 ケンキと一緒に買い物することにユーガは嬉しくなるも、その一瞬後、腹に衝撃がくる。

 どうやらケンキに蹴られたらしい。


「さてとレイナさんにも攻撃をしないと」


 ケンキの言葉にレイナは身体が震える。

 150センチにも満たない身体なのに自分よりも背が高い男を蹴り上げる力に怯えてしまう。


「あぁ、もう!」


 それでも立ち上がるのは、これがあくまでもレイナを鍛える為。

 ユートから抵抗できる力を養うため。

 友達を救うため。

 勇気をもって立ち上がる。


「……………?」


 その姿にケンキは首を傾げてしまう。

 本人も理由は分からないが、レイナの起こした行動に興味を持った自分に不思議に思う。


「来なさいよ!」


 気合が入っているレイナの言葉に甘えてケンキは拳を振るう。

 だが、それはレイナは身体を屈めることで避ける。


「……ならこれは?」


 だが続けられたケンキの攻撃には避けることが出来なかった。

 攻撃を避けたことで気が緩んだのも原因かもしれない。

 それにしてもと、ケンキは困る。

 攻撃を避けれるようになるまで続けるとは言ったが、たった一日で避けれるとは思わなかった。


「あの……。私に関しては手加減をしてましたよね?」


 レイナの突然の疑問に頷く。

 当然だ。

 話を聞く限り鍛えてきたわけではない。

 それをユーガ達と同じ速度で攻撃するつもりはなく、徐々に反応してきたら速度を上がるつもりだった。


「私をメイさんたちと同じぐらいの速度で攻撃して」


 レイナの言葉にケンキは首を傾げる。

 痛い思いをしてまで、友達を助けたいのだろうかと。


「私は強くなって、私の世界を無茶苦茶にしたユートに復讐したい!だから絶対に、あの男よりも強くなってやる!」


レイナの意思表示にメイやユーガ達も協力しようと力強く頷き合っている。

 特に女性陣は洗脳して自分の女にしていると聞いてユートに嫌悪感を抱いていた。

 ユーガも同じ男として気に食わないと嫌っている。


「………そう。そこにいるメイやユーガ達も協力してくれるみたいだし頑張れ。特にユーガとメイは同じ学園に通っているし、力になるだろ」


「え」


 ユーガ達とメイはケンキにお前は協力しないのかと視てくるが、それよりもレイナの嫌悪の声が気になる。

 その対象にはユーガがいた。


「……ユーガはストーカー気質だが良い奴だ。俺と親友になってくれて、困ったときは力を貸してくれる。それとも男はトラウマで信頼できないか?」


「…………ユートと違うとわかっていても無理よ。ってストーカー気質ってなによ?男性恐怖症じゃなくてもユーガを信頼できそうにないんだけど」


「男性恐怖症を治したいのなら頑張れ。あとユーガのストーカー気質は今のところは収まっている」


 余計な事を言ってしまったケンキに不満も言いたいが、それよりも本人から直接親友と言われたことにユーガは舞い上がる。


「まぁ、どうせ俺の予定通りになったらユーガは大丈夫になるだろ」


 ケンキの言葉に首を傾げる。


「それと今日は終了。お前たちで親交を深めていて。明日からは本格的にサリナを鍛えていくから。お前らは全員補助。それじゃあ用事があるから、ちょっと待っていろ。少し経ったら戻って来る」


 そしてケンキは去っていった。





「ねぇ、ケンキ君の言っていた予想通りって、どういう意味だと思う?」


 メイの質問に全員が首を傾げる。

 誰も理解していないことにメイもだよね、と頷く。

 それよりも何処にケンキは行ったのか話し合う。


「さぁな。ケンキのことだから考えがあって行動してるんだろうが事前の説明をしないことがあるからな」


「わかるよ。王宮であるモノのことについて説明しないで実験することが多々あったしね。実演だけでり全て理解しろとか出来るわけないだろう!?」


「………うん。新しい料理を創る時も何も説明せずに新しい材料を増やしたりするよね」


 三人はお互いの顔を見合わせて溜息を吐く。

 ケンキの欠点に共通の悩みを持って共感する。


「ケンキさんは、そんなに説明をし忘れるの?」


 引いた顔のレイナにユーガ達は頷いて答える。

 その答えに更に引くレイナ。

 普通は何か新しいことをするのなら事前に伝えるべきなのに、それを忘れていることに不安になる。

 話を聞く限り、ちゃんと考えているみたいだが伝えないのはダメだろうと不満を持つ。


「今はそんなことより、もしかしてレイナさんってケンキくんのことを好きになってないよね!」


 レイナは急な質問に助けを求めるようにユーガとメイに視線を向けるが、どちらもサリナと同じように警戒した視線を向けている。

 女であるメイとサリナの視線にレイナはテンションが上がり、ユーガの視線にも、そういうことかとテンションが更に上がる。


「三人ともケンキさんのことが好きなんだぁ?」


 ニヤつくのを止められないまま問いかけると三人が三人とも恥ずかしそうに顔を逸らす。

 予想通りの反応にレイナは楽しくなってくる。

 このまま、どうして好きになったのか聞きたくなった。

 特にメイがその対象だ。

 他は幼馴染だけど、メイは違う。

 しかもケンキより年上だ。

 どうして年下のケンキを好きなったのか気になってしまう。


「特にメイさんは幼馴染の二人とは違って関係が無いんですよね?教えてくれませんか?」


 レイナのキラキラといた眼とユーガ達の警戒する眼の屈してしまいそうになる。

 メイにとっては自分のキャラじゃなくて恥ずかしくてしょうがない。


「まぁ、話せないぐらいに好きになった理由は軽いのだろうよ。どうせフラれても直ぐに好きな男を見つけるだろう」


「……そうだよね。そんなに出会って時間も経って無いのに好きになるなんて有り得ないのに」


 ユーガたち幼馴染コンビの言葉にメイはキレて、そこまで言うならと話そうと気合を入れた。


「私が好きになったのはケンキ君の努力家のところだ!」


 メイの言葉にレイナは首を傾げる。

 話を聞いたが限りでは他の誰もが出来ないことをやっていたりと才能がかなりあるように聞こえる。

 努力もしているのだろうが才能があってこそのモノだろう。

 そこで頷いている幼馴染たちにも恋は盲目という言葉を思い出す。


「そうなんですよ!私たちが気に掛けなかったら一週間は平然と徹夜をしながら素振りをしていたこともありますし!」


「全くだ。身長が伸びにくくなるとお互いの両親やケンキの親、医者が止めるまで何度言っても怒られても止まらなかったな」


「やはりブレーキが無いんだね。常に気を張らきゃ繰り返しそうだけど、その欠点がケンキ君の強さにも納得できるし親しみやすさを覚えるんだよね」


 メイの言葉に頷く幼馴染たち。

 レイナはケンキの行動を聞いて、それは確かに努力家だと認めた。

 自分なら一週間どころか二日も徹夜することが無理だと考える。


「ケンキさんって、どうしてそんなに強くなりたいんですか?」


 たまらずにレイナは質問する。

 そこまで努力するなら何か目的があるはずだからだ。


「趣味」


「きゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 後ろから突然、声を掛けられてレイナは驚いて腰を地面につける。

 振り返るとケンキが両手に色々と抱えながら立っていた。


「少しでも強くなることを実感すると、もっともっとと求めてしまうんだよ」


 いつの間にか後ろに立っていたことに驚いて心臓を抑えながらケンキの悦明を聞くがレイナもそれなら心当たりがあるというように頷く。

 たしかに少しでも実力が過去の自分を上回ると嬉しくなる。

 それでも伸びない日々が続いて嫌になるのも経験してきた。

 ケンキにはそんなことは無かったのだろうかと不思議に思う。

 それを聞く前にケンキが持ってきた物を全員に見せるようにする。

 そして。


「今日から俺が定めた目標に達するまで野宿。当然、ユーガたちとメイもだ」


「「はぁぁぁぁぁぁ!!?」」


 ケンキの指示に全員が絶叫した。

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