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仲良く

「ユート君、おはよう」


「ユート、おはよう」


「よう、ユート!」


 ユートが学園内を歩くたびに通りすがった者達から挨拶をされる。

 それには先輩後輩関係なく誰もがユートに対して好意的だ。


「ふふん。ユート君、今日は私と一緒に迷宮にいかない?色々と教えて上げるわよ」


 学園のマドンナに抱きつかれても嫉妬の感情は一切持たれずに男性陣も笑っている。


「ズルいです!ユート君だけでなく私たちも教えてくださいよ!」


 ユートと一緒に来たユカの言葉にも快く頷く。

 学園の先輩後輩が蟠りなく教え合う。

 平和な光景だ。


「皆、いい加減に教室に入れ!そろそろ時間だぞ!」


 教師の言葉に皆が慌てて教室へと入っていった。





「先生!ケンキ君とレイナはまだ学園に来れないんですか?」


 ユートが学園に編入して一週間。

 ケンキはあれから一度も学園に来てないし、レイナも同じだ。

 心配するユートにほとんど全員が優しいと考える。


「さぁな~。どうやらケンキ君は、かなり忙しいらしくてな。王宮からは謝罪文が来ているらしい。それとレイナ。あぁ、ユート君たちと本来なら一緒に編入するはずだった生徒も助手として活動することになって来れないらしいぞ」


「えっ」


 教師はそれだけを言って教室から出ていく。

 そしてレイナがケンキの助手という言葉を聞いて不機嫌な表情を浮かべるユート。

 だが、それを直ぐに消す。

 同時にユート以上に不機嫌になる生徒が二人、机に手を叩いて立ち上がる。


「どういうことですか!?ケンキの助手だなんて!」


「そうです!助手ならレイナって子じゃなくて幼馴染の私たちでも良いはずじゃないですか!?」


 二人は今にも教師につかみかかりそうな剣幕で問いかけるが、そもそも情報を貰っただけの教師に理由を知っているはずが無いと落ち着く。

 ちなみに他の生徒たちは、そんなにケンキのことが好きなら、なんでパーティを別れさせたのか不思議に思っている。


「な!?レイナだって良い子よ!?なんでユートを避けているのか知らないけど小さい頃かずっと仲が良かったんだから!」


 ユカはレイナが助手に選ばれたことに不満を持つ二人に文句を言う。

 自慢の友達だからこそ、知らない癖に文句を言われるのが我慢できない。


「はぁ!?だからなんだ!?あいつのことは俺たちが良く知っている!最近、会ったばかりの奴よりは俺たちの方が研究にも役立てれる!」


「そう思っているのは君だけじゃない!?本当に君の方が役立てるなら声も掛けられるはずじゃん!」


 ユーガとユカの喧嘩はヒートアップする。

 席が離れていたのに自分達から近づいて頭をぶつけ合う。

 聞いただけで痛くなるような鈍い音が響き聞いていた者達は耳を抑える。


「まぁまぁ。世の中には適正というモノがあるんだから、たまたまレイナが適性が優れていただけじゃないかな?」


 このままでは喧嘩が止まらなくなると思ったのかユートが間に入る。

 ユカはユートが間に入ったことで止まり、ユーガはユートの言葉に納得して自らを落ち着かせる。

 適性の問題なら確かに自分よりも優れた者をケンキは選ぶ可能性はある。


「そうだな。あのケンキが出会ったばかりの者を本当に助手にしたかは考え物だが、それだけケンキが今、研究していることに対する適性が優れているのだろうな」


「まるでケンキって子が人を信じていないみたいに言うんだ?」


 ユカがユーガに対して挑発する。

 それに対してユートたちはユカにいい加減にしろと叱責する。

 だがユーガとサリナは首を縦に振る。


「うん。というより基本的にケンキくんは他人何てどうでも良いと考えているから、仲良くするという発想が無くて……」


「基本的に俺たちがケンキと引き合わせて毎日のように会わせてから、ようやく興味を持つぐらいだからな。だから今のパーティメンバーも大事な要件が無い限り毎日、会わせていた」


「「あぁ~」」


 ユーガとサリナの言葉にマイナとナトが納得する。

 道理で毎日、パーティを組んでから会わせていたのだと。

 そしてケンキの後にパーティに入ったシャルは苦笑する。

 恩人であるケンキがどういう性格か知っても悪く言うことが出来ないからだ。


「そこまでやるなんて、貴方達は友達想いなんだね。………やっぱり私たちに会わせてくれない?そんな奴にレイナと一緒にいさせるなんて不安なんだけど」


 ケンキと友達を一緒にさせるのが不安だという言葉にユーガ達も何も言えない。

 たしかに自分達で言っていて、よくこんな奴の為に動いているなと考えれてしまう。

 幼い頃の命の恩人でもあるが、それ以上にこいつを放っておくことが不安になるからだろう。

 少女が心配しているのは貞操のことに関してだろう。

 安心させるために言葉を出す。


「安心しろ。ケンキは基本的に自分が強くなることか趣味の研究しか興味が無い。他人のことは全く気にしないだろうさ」


「………ふぅん。それでも私はレイナに会いたいんだけど?」


 それでもユカは友達に会いたい言う。

 友達に会いたいという言葉に否定できないユーガは首を縦に振りたいが、おそらくは無理だろうと考える。

 何せ教師からの話からすると現在は王宮にいる。

 友達に会いたいという理由で接触するのは難しいだろう。

 そのことをユカにも説明するが、それでも不満そうにする。


「えぇ~!?」


「そんなにレイナと会いたいの?」


「当たり前だよ!?赤ちゃんの頃からずっと一緒だったもん!最近、ずっと会っていないから心配だったし……」


「なら確認だけでもしてみたら、どうかな?どうしても無理だったとしても声ぐらいは聞こえるかもしれないし」


 ユートの提案にユカはユーガ達に視線を向ける。

 その視線に少し考えてから頷く。

 確認ぐらいは出来るだろうとユーガ達も考える。


「それなら早速、王宮に連絡してみるね!」


 ユカはそう言って教室から出ようとするがミカに腕を掴まれて止まる。

 掴まれたことに対して友達とは思えない眼で何の用かと問いかけている。

 ミカもその視線を向けられながら平然と受け答えをする。


「取り敢えずは休み時間に連絡しなさい。それに手紙が主流だから今から連絡をしても返事が来るのは遅くなるわ。それでも我慢が出来なかったら最悪、この国の常識を無視して王宮に潜り込めば良いんだし」


 アグレッシブなミカの言葉に教室にいた全員が固まった。

 犯罪行為をそそのかすミカを注意しようとしているが、ミカの瞳から本気が伝わってきて気圧される。

 どうやら、最近レイナと会えていなくて不満なのはミカも同じらしい。

 ユカもミカの言葉と瞳に自分と同じ気持ちだと分かって落ち着く。


「……あら?冗談よ」


 続けられた言葉は明らかに嘘だと理解しているが教室にいた者達も笑って誤魔化す。

 最悪の手段だし犯罪行為に巻き込まれたくないと思ったからだ。

 少なくとも自分たちの住んでいる国は理不尽が少ないから、心配だと言えば意外と会える可能性は高い。


「それにしても二人とも同じ男に付き合っているのに仲が良いわよね。嫉妬とかしないの?」


 話を変えようとしたのかマイナが二人をからかいながら質問する。

 結果としてユートには男たちの羨ましいという視線が集まる。


「私は特に無いわ。ユカは?」


「私も無いよ。今で満足!ユートが気になるならマイナちゃんも一緒に付き合う」


「お誘いは嬉しいけど、遠慮するわ」


 特に文句は無いという二人。

 そして貴女も自分たちの男と付き合わないかと誘っている。

 マイナは悪い気がしないのか断るが苦笑している。


「さてと、お前ら次の授業だぞ。準備はしているか~?」


 そうしていると次の授業が始まろうとしている。

 教師の言葉に全員が席を付いて次の授業の準備を始めた。





「さて一学年ども今日は私たちと一緒に訓練をしてもらう。内容は私たちと戦うこと。一学年のお前たちが七学年の俺たちに勝つのは無理だから本気で挑んで来い」


 入ってきた教師に外に出るように言われると七学年の生徒たちが先にいる。

 そして言われた言葉にイラっと来る。


「喧嘩を売っているんですか?どうせケンキよりは弱い癖に」


「否定はしない。だが、それはケンキだけでお前が強いわけでは無いだろう?勘違いをするな」


 一学年の言葉をあっさりと認め、七学年は注意をする。

 落ち着いた様子から最初の言葉も挑発ではなく純粋に事実を言っていたのだと理解する。

 だが、そこまで予想しても実感が欲しいと思う者もいる。


「はっ!!」


 姿を隠し後ろから奇襲をするという手の回しよう。

 それでも振り返らずに蹴りを掴んで一学年の前に投げる。

 七学年の生徒の実力に文句も言えなくなる。


「言っただろう?お前たちが本気で挑んでも七学年の生徒には勝てない。単純な経験だけでもお前たちより六年は積んでいるんだ。よっぽどの天才でもない限り勝てる筈が無いだろう?」


 六年という時間を一学年の生徒たちは甘く考えていたことに後悔する。

 たしかに勝つのは難しいと考え直し集中して七学年の生徒を睨む。

 その変化に七学年の生徒は満足げに頷いた。


「まぁ、だからと言って一クラス分の一学年の生徒に一人で勝つというのも苦しいがな」


 そして続けられた言葉に気が抜かれる。

 それでも無理と言わずに苦しいと言った七学年の生徒に警戒は止まらない。


「だから俺だけでは無く、他の者も三人程連れてきた。一人に対して十人程で組んで挑んでくれ」


 数の差があるとはいえ多すぎてフレンドリーファイアも狙いやすくなっている。

 十人でも多いが一学年の授業に態々、付き合ってくれている先輩が三人もいることに感謝して一学年の生徒たちは集まって話し合う。


「取り敢えず一パーティは四人から五人ほどだ。それぞれ二パーティで挑まないか?」


 最初のユーガの提案に皆が頷く。

 他にもクラスはあるが都合よく同じ教室の者達でパーティを組んでいた為にあぶれている者はいない。

 敢えて言うならケンキとレイナだが、この場にいないので考えないことにする。

 もし、この場にいたとしてもケンキはユーガのパーティが、レイナはユートのパーティが引き込んでいただろう。


「それで、どうやって決めるんだ?それぞれ、あの試験で挑んだ迷宮もあるから、それぞれバランスの取れたパーティだと思うが」


「そうだよね。いっそのことリーダーでグーパーで決める?」


「そうだな。どこと組んでもバランスが問題なら、それで良いかもしれないな。リーダーだけが集まって決めよう」


 そうして決まった一つがユートとユーガのパーティだ。

 お互いのパーティは先程、言い争っていた二人に心配するが何も問題なく接している。

 先程の喧嘩はお互いに納得して終了したようだ。


「ええと、それでマイナさんとシャルさん、サリナさんですよね。よろしくお願いします」


 ユートは挨拶としてユーガのパーティの女性陣に挨拶をする。

 男は除外して自分達、女性だけに挨拶をしていることにサリナだけが不満に持ち、他は気にしてもいない。

 むしろユートに好感を持っているのが大半だ。

 ユーガはというと何も言わずにジッとユートを見ているだけで何も言わない。

 ただ、その事に気付いているのはサリナだけだった。


「少し気持ち悪い」


 サリナにとってユーガは幼馴染だから考えていることは、ある程度理解できるが他は違う。

 なんで、そこまでユートを持ち上げているのか理解できない。

 出会って一週間ほどしか過ぎておらず会話も少ししか、していないのにユートは好感を持たれている。

 これで積極的に色んな者達と会話をしているのなら理解できるが、全く会話をしていなのに好感を抱いている者達も見て気色悪く感じる。

 そう考えているのに好意的に見てしまう自分も含めて。


「え?サリナ、大丈夫?体調が悪いなら休みなさいよ……」


 気持ち悪いという声が聞こえたらしいマイナの心配する声に首を横に振って大丈夫だとサリナは伝える。

 だが顔色は少しだけだ悪くなっており、大丈夫だという意思を無視してマイナはサリナを保健室へと連れて行こうとする。


「ふぅ。すみませんがサリナを保健室に連れて行くので、それまで待ってもらって良いでしょうか?」


 ユーガもサリナの顔色に気付いて教師と七学年の先輩へと声を掛ける。

 両者とも顔色が悪くなっている生徒に気付いて頷く。

 むしろ保健室に連れて行けと推奨し、無理そうだったら寮で休んでいるように指示をしてくる。

 怪我をする機会は多い学園だが人一倍、生徒の健康などに気を遣っている。

 その事に感謝しながらサリナはマイナと一緒に保健室へと向かっていった。

 そしてユーガ達はマイナが戻って来るまで、どう挑むか話し合っていく。





「サリナを保健室に連れて行ったわよ」


 マイナが戻って来たのを確認して、これで始められると七学年の先輩は武器を構える。

 ユーガ達も話し合って決めた行動方針をマイナに伝える。

 初めて組む者が多くいるのもあって、役割を与えるだけに決まった。

 後は自由だ。


「ふぅん。わかった、それじゃあ挑むわよ!」


 気合を入れてマイナたちも向かい合い。

 勝負がはじまった。


「いくわよ」


 先手はマイナ。

 得意の火の魔法で攻撃する。

 数十の火の弾を生み出して攻撃するが、その場から動かずに手にした槍を横薙ぎにして無効化する。


「はぁ!?」


 中級クラスの魔法を特別な技を使わずに無効化したことにマイナはキレる。

 今しがた目の当たりにした現実を否定するために先程以上に力を入れた魔法を放つ。

 先程は数十ほどだったが、今度は百に近い火の弾を発生させる。


「おぉ!?」


「すごっ!!」


「もしかして上級に至る直前の魔法じゃないか、これ!?」


 ユーガとユートのパーティだけでなく、他の一学年の生徒はそれぞれが七学年の先輩と戦っているのに関わらず、マイナの魔法に目を奪われている。

 教師や七学年の生徒もマイナの魔法に、それぞれが感心している。


「一学年でこれか。在学中に上級に至るかもしれないな。だが……」


 七学年の先輩は自らに襲い掛かって来る百近い火の弾を、その場で回転して払い無効化した。

 それを見たマイナは自分の持つ魔力を全て使ったのもあるが、絶望して地面に倒れる。

 魔力切れで戦力にはならないだろうとユーガは認識する。

 シャルは倒れたマイナを回収して自分たちから離れた場所に運び、ナトはその間に攻撃されないようにシャルたちと七学年の先輩の間に立つ。

 その行動に見ていた者達は感心の声を上げていた。


「良い行動だ。さて次はどう来る?」


「僕が行きます」


 七学年の先輩の挑発にユートが何の策も無しに突っ込んでいく。

 自分なら大丈夫だと根拠のない自信を持って突撃し、カウンターを叩きこまれる。


「何で………?」


 それだけで戦闘不可になってしまい何人かの生徒たちはユートに集まる。

 他の七学年の先輩と戦っていた同じクラスの生徒や七学年の先輩までユートを心配して集まる。

 教師も、その状態が普通だと認識しているのか何も言わない。

 それどころか気絶させてしまった七学年の生徒を他の生徒たちと一緒に睨んでしまっている。


「いや、悪い。そのまま突っ込んできたから、つい」


 言いたいことは解る。

 自分でも、あのまま突っ込んでいたらカウンターをしていた。

 むしろカウンターをしてくれと言わんばかりの突っ込みぶりに何か策があるのではないかと予想をしていた。

 それなのに何も無く無策で突っ込んだユートも悪いと考えていても七学年の生徒を睨んでしまう。


「本当にすみません。許してください」


 頭では理解しているが感情が納得しない。

 だが、それはダメだとも理解しているから無理矢理にでも納得する。

 七学年の生徒は年齢を見れば二十を超えた大人なのだ。

 それなのに十代の子供のことで一喜一憂している。

 自分たちも通った道なのにだ。


「…………もしかして、ケンキの奴はこれに巻き込まれたくないから学園に来てないのか?あいつなら洗脳もされないだろうに」


 この状況に今はユーガだけが違和感を持っている。

 ユートに対して異常なほど好意が集まっている。

 それなのに当然のことだと思い、自分も疑問を抱かないことは確かに気持ち悪い。

 サリナが顔色を悪くするのは当然だと考える。

 ユーガ自身もこの状況から逃げたい。


「このままでは俺もユートの虜になりそうだな……。どうすれば良い?排除しようにも既に先輩や教師が虜になっている」


 ユーガは誰にも聞こえないように焦る。

 幸いにも全員がユートを気にしている為に万が一にも聞こえていない。

 もし聞こえていたらユートに悪意を持っているとして逆に排除されていただろう。


(それにしても、どうすれば良い?俺もユートが怪しいと思うが、好意も抱いている。ハッキリ言って、何時、彼の虜になるか分からない。気付いたら俺も虜になっていたら笑えないぞ)


 そう焦りながらも気絶したマイナを肩に担いで運ぶ。

 何時までも外に置くのも悪いし、この場から逃げたいという理由もある。

 全員がユートを気にしていてユーガ達を気に掛けていないこともあって誰にも気づかれずにユーガは移動した。




「運が良かった。ケンキと一緒にサキュバスやインキュバスのいる迷宮に挑んだ経験のお陰で気付けたのだからな」


「うん。無意識か意図的か知らないけど、あの感覚は魅了されて好意を持たされてたのと同じだよね……」


 二人はケンキと一緒に魔法で誘惑してくる魔物がいる迷宮の事を思い出す。

 保健室にマイナを運んで、一息ついたところで愚痴を言い合う。

 精神耐性や回復させる技能を持たないと、どれだけの実力者でも入れない迷宮に挑んだのはケンキが魔法で誘惑される感覚を知りたいと思ったからだ。

 そのこともあってケンキは態と魔法にかかり、そのくせして魅了してきたサキュバスを感情を無視して殺した。

 ユーガとサリナはその光景にドン引きした。

 その後にケンキは丁度良いとユーガとサリナも無理矢理にサキュバスやインキュバスに魅了させて素の状態での精神耐性を付けさせる。

 そのお陰でユートの虜になっていないが、思い出すたびに頭が痛くなる。

 何故なら魅了されてケンキ達に剣を向ける度に頭を殴られたのだ。

 しかも自力で解除するか無効化できるようになるまで何度も続けられた。

 軽くトラウマになってしまっている。


「お陰で洗脳されていないけど。今のままだとまずいよね……?」


 サリナの言葉に頷く。

 ユートの魅了には、どうあがいても耐えきれない。

 今のままだと洗脳されるのも時間の問題だ。


「あぁ。いっそのことケンキに相談するか……」


 王宮にいようと知ったことでは無い。

 問題を起こしたからと叱責されるより自分の意志が奪われる方が怖い。

 だから二人は今すぐにでもケンキに会いたい。


「ねぇ、学園を抜け出して会いに行こう?」


 我慢が出来ずに漏れたサリナの言葉にユーガは頷く。

 それが後押しになって学園から出てケンキに会いに行くことを決める二人。

 バレないようにサリナが寮に戻るふりをすることにし、ユーガはその付き添いとして学園の敷地から離れていく。

 途中で教師にもあったが体調を悪くしたことと付き添いで歩いていることを説明すると納得してくれた。

 男女で心配する者もいたが幼馴染で互いに異性として興味を持てないと言って安心させる。

 実際に何を心配しているか察した二人は気色悪そうな顔をしていたのもあり、心配していた者達はその顔を見て心配するようなことは起きないだろうと確信した。


 そして。


「後は王宮に行くだけだな」


 寮へと戻るふりをして王都へとたどり着いた。

 後は王宮に行くだけ。

 二人は頷き合って王宮へと直進する。


「二人とも今日は学園じゃなかったけ?」


 その言葉に驚くが、その場から動けない。

 肩を掴まれているのは分かるが万力の様な力で掴まれていて振りほどけない。

 それでもと振り返ってみる。


「久しぶりだね、二人とも。何かあったのかい」


 そこにはメイがいた。





「それで、何で学園を休んで二人は王宮にいるんだい?デートだったら邪魔してゴメンと謝ればいいのか、それとも学園をサボっていることに怒ればいいのか悩むね」


 そのまま掴まれてユーガ達は王都の喫茶店に足を運ぶ。

 メイが奢りだと言って二人の前にはコーヒーが置かれてある。


「一応、言っておくけど授業が簡単で詰まらないなら飛び級制度があるから、それを受ければ良い。私もそれを使って本来より早く卒業したし」


 目の前にいるメイから説教を喰らう。

 多くの者から憧れている存在から説教を喰らって普通に怒られるよりダメージを喰らってしまう。


「「………すみません」」


「別に私は怒っていないから謝らなくて良いよ。理由も気になるけど興味本位だし」


 メイの言葉に二人は肩身を狭くする。

 だが同時に宮廷魔術師だということを思い出して二人で顔を見合わせて頷き合う。

 その様子にメイも何か相談するつもりだと察して真面目な表情をする。


「その実はサキュバスとかインキュバスのような誘惑をされていて、気付いたら洗脳されそうで怖くて……」


 サリナの言葉にメイは納得する表情になる。

 そして流石、ケンキの幼馴染だと感心した。

 王宮で最初に会った者達は違和感に全く気付くことなくユートに好意を抱いていたらしい。

 それと比べると、かなり優秀だ。


「成程ね。分かった、本来な問題だけど王宮の中にいるケンキに会わせてあげるよ。どうやって違和感に気付いたのか知りたいし」


「本当ですか!………ごくっ。早く行きましょう!」


「……ごくっ。早くケンキに会わせてください!」


 どうやらケンキと会わせてくれるらしい。

 コーヒーを一息に飲んで早速、二人はメイに行こうと促す。

 一息で会計の所へ行く二人にメイは苦笑する。

 どれだけケンキに会いたいのか想像して微笑ましい気分にもなった。


「落ち付きなよ。急いでも何にもならないって。それに直ぐにケンキ君に会えるわけじゃない。もう昼時だし、昼食も奢るからそれを食べてからにしな。昼食を食べて無いとケンキ君に心配されるだろうし」


 メイの言葉を聞いてとぼとぼと戻ってくる二人。

 その様子にケンキのことが好きすぎるとメイは苦笑する。

 まさかケンキに心配されるというだけで戻って来るとは。


「「お願いします」」


 丁度良く腹の音もなって恥ずかしそうに頼む二人に微笑ましい気分になる。

 素直に言うことを聞く年下相手に奢るのも悪くない。

 むしろ満足感をメイは感じている。


「じゃあ好きなモノを選んでくれ。値段は気にしなくて良いよ。私も高給取りだからね」


 そうは言うが二人は遠慮しがちに、できるだけ安いモノを選ぼうとする。

 二人の様子に少しだけ嬉しく思いながらもメイは店員に二人に奢る分の人気商品を頼んだ。


「メイさん!?」


「気にしない。気にしない」


 遠慮して安いモノを選ぼうとしたのに、こうまでされたら二人は甘えるしかないと頼まれたものを素直に受け取る。

 そして二人が頼まれたものを口にしたのを確認してメイは満足そうな表情を浮かべた。


「それで食べながらで良いから私の質問に答えて欲しいけど、いいかい?答えられなかったら、それで良いよ」


 メイの質問に首を縦に振って頷く。

 学園のことかと予想して二人は肩身が狭くなる。


「どうやって、ユートが君たちを魅了していたのか気付いたのか教えてくれないかい?」


 だが予想とは少し違った質問に肩透かしになった。


「王宮としても、好意を持たされたと気付いたのはユートが編入してからなんだ。ケンキ君が来て警告をしなければ気付かなかっただろうね。だから聞きたいんだ」


 メイの質問の理由に手にしているフォークなどを落としそうになってしまう。

 それほど、国にとって危険な状況に陥っていたとは思わなかった。

 学園でもユートへの好意で何でもしてあげるという者が何人か出てきて自分たちそうなるんじゃないかと恐怖で抜け出してきたのは正しかったのかもしれない。


「あぁ、先程も言ったけど。無理なら無理で構わないよ。感覚的なモノだったら説明されても理解できないだろうしね」


 メイの言葉に首を横に振る二人。

 説明しても理解できないだろうけど、それでもするべきだと二人は決意したのもある。

 そしてケンキに無理矢理、サキュバスやインキュバスが多くいる迷宮で連れて行かれ魅了されるたびに頭を叩かれて正気に戻された経験を語った。

 メイはその話を苦笑いを浮かべる。

 これは今すぐにユートの魅了に抵抗できるのは無理だと悟ったからだ。

 今のところ完全に無効化できるのはレイナとケンキだけだと理解する。


「あとはケンキの行動ですね。初めてユートが教室に入ってきたときに首を絞めるなんて普段では考えられない行動をして怪しいと思ったし」


「うん。そうだよね。あれで警戒したのもあるよね」


 続けられた情報に魅了されてないことに理解する。

 一番最初にケンキが嫌悪の対象を向けたからこそ魅了されていないのだと。

 もしケンキが向けていなかったらトラウマがあっても洗脳されていたかもしれないとメイは判断した。


「なるほど。つまりはケンキ君への信頼か……」


 メイの零した言葉に二人は照れくさそうに笑った。

 それにしてもとメイは考える。


(既にこの二人はユートの洗脳能力に気付いている。それでも洗脳させられそうで怖いか。ケンキの幼馴染だし、対抗するための彼の情報を彼らも知っている可能性があるね。それどころか私たちも知らない情報を持っていても可笑しくない。それを知られるよりは、こちらで保護をした方がマシだね)


 そこまで考えてメイは二人を見る。

 自分の事は自分よりも他人の方が知っている。

 ケンキもその例に漏れないどころか典型的なタイプだろう。

 二人が食べ終わったら、そのことも説明して王宮に案内することを決意する。


「二人とも食べ終わったら王宮に案内するけど、一緒に来るかい?ちょっと手をかしてもらいたいこともあるし。その場合、学園にある程度の期間は戻れなくなるけど」


 メイの言葉に首を傾げながらも二人は頷く。

 おそらくはユートの洗脳能力に関わっているのだろうが、何を手助けするのか予想が出来ない。


「あと学園で学ぶだろう勉強も教えてあげるから安心してくれ!」


 楽しそうに告げられたメイの言葉にさっきまで考えていたことが消えて、代わりに憂鬱な表情になる二人。

 その変化にメイは楽しそうに笑った。

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