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王城

「さて、貴女には召喚された者たちについて教えてもらいます。こちらで勝手に召喚して理不尽かもしれませんがそれだけ危機感を感じているのです」


 レイナの目の前には王様たちがいる。

 気品さと圧倒的に上だと理解させられるオーラに身体が震える。

 怯えていると途中から背中を落ち着かせようと何度か撫でられる。

 そのお陰が息苦しさが少しだけ楽になる。


「「何をしているのかな(でしょうか)?」」


 お礼を言おうと振り返ろうとしたら怒気が襲って来てレイナは勢い余って目の前の相手に抱きつく。


「ひっ!」


 更に強くなった。


「放してください。それと一般市民が王様たちの前で緊張して話せるわけがないんですから、もう少し色々と抑える必要があると思います。実際、何度か王様は貴族と一般市民で相手に与える圧力が違いますし」


 その言葉に王子と王女の二人は自分の父親である王を見る。

 王は感心して、その発言をした者を見ていた。

 その態度に事実だと理解する。


「その……って、キャァァァ!!?」


 レイナは自分が抱きついた相手が男性だと知ると悲鳴を上げて一気に距離を取る。

 その少年ケンキはレイナの行動に少しだけ傷付く。


「あぁ~。大丈夫か、ケンキ君?」


 女性に一気に距離を置かれた事実に同情して王子ラーンはケンキの肩を叩いて慰める。

 幸いなのは傷付いたのは本当に少しだけなことだろう。


「別に大丈夫です。どうも他人が信じれなくなっているみたいなので。今も自分が誰かに操られたように好きになることに怯えているように見えます」


「………成程。ケンキ、馬鹿どもが召喚した者の中に、その能力が持つ者がいるな?」


「おそらく。俺からすれば召喚された当時の強大な魔力を感じて危機感では無く好意を持つ時点で色々とヤバいと思いましたが」


 ケンキの言葉に全員が顔を逸らす。

 心当たりがあるらしい。

 冷や汗も流していることから危機感を覚えてることも察知してケンキは安堵の息を吐く。


「魅了系の魔眼あたりだとは思いますが、出来る限りの洗脳、魅了系を防ぐアイテムを持っていた方が良いですね」


「…………なるほど。それで、これを渡されたのか。効果が高いから常に身に着けているが、どうやって作ったんだ?」


 ラーンの質問にはケンキは首を傾げる。

 どうやって造ったのかを聞かれても普通にしか答えられない。

 特殊なことは何もしていない。


「これからは宮廷魔術師の一人として働いてもらう」


 ケンキに告げられた言葉に何も言えなくなる。

 困惑で何を言っているか理解できていない。


「ケンキ?………ケンキ、おーい」


 目の前で王女シーラが手を振っても反応が出来ていない。

 それだけにケンキのとっては有り得ない言葉だった。

 だが同時にこの場にいる殆んどの者は意義を立てない。

 全員が国の要職についており場合に寄っては他国の者と会う必要がある。

 ケンキが造ったのは、それらでなくとも喉から手が出るほどに欲しいモノだったからだ。

 量産されるなら何でもやる。


「………えい」


 ずっと反応しないケンキにシーラは腰に差していた剣を振りかぶる。

 本来なら意識が無いケンキは直撃して死ぬかもしれないだろう。

 レイナは目の前の光景に目を瞑るがガキンッという音に目を見開く。

 そこにはシーラの剣を防ぐケンキの姿があった。

 気軽に攻撃したのもケンキが防ぐこと確信していたからもしれない。

 現にシーラは防がれたことに驚いていない。


「それでお父様の言っていたのを思い出した?」


「………何で宮廷魔術師に選ばれるんだ?」


「それだけ、貴方が造って渡した物は価値があるのよ。研究費用も国が出すから宮廷魔術師になるのを認めなさい。周りもそれだけの実力があると信頼している」


「たしかに俺が造ったけど、特別なことは本当に何もしていないぞ」


「なら後で見せて貰うけど構わないわよね」


 王女であるシーラの言葉に頷くケンキ。

 本当に特別なことはしていないと自負しているようだ。


「それと一つ言いたいことがあるのだけど良いかしら?」


 シーラの言葉に何だと顔を向けるケンキ。

 今更だが王女に向ける態度ではない。


「もし何か特別だと私たちが感じたら王家に宮廷魔術師に決定だと理解しなさい」


 シーラの言葉に良い案だと頷く王たち。

 少なくとも、これだけの有能な者を学生だからと遊ばせるつもりは無い。

 世の中が憧れる宮廷魔術師となれるのに不満そうにするケンキが可笑しい。


「ケンキ君。一つ言っておくけど確実に結果を求めているわけでは無いし、研究内容はよっぽどのことが無い限り強制も無くて自由だよ」


 一緒にいたメイの言葉に驚いて見開くケンキ。

 その反応に理解する。

 自分のしたい研究が出来ないから宮廷魔術師になると聞いても不満そうにしていたのだと。

 実際はそんなことは無いのだが。

 もしかしたら宮廷魔術師になったら研究費用は国が出すとしか知られていないのではないかと、この場にいる要職に付いている者は思う。

 この場にいる宮廷魔術師にも視線で問うが視線を逸らされるだけ。


「まぁ、名誉と国が研究費用を出すとしか知らされていませんね。研究は自由に出来るかなんて誰も気にしていませんでしたし」


 メイの言葉に頭を抱えてしまう。

 そこもちゃんと周知させるべきだろう。

 今までは偶然、問題が無かっただけだと理解する。

 

「したい研究は公表されていて、それに参加したいから宮廷魔術師を目指そうとする者もいるぐらいですからね。私も最初はそうでしたし」


 問題が出なかったことも理解する。

 運もあったが宮廷魔術師たちが無意識にだろうと防いでいたらしい。


「あの……私は」


「「「「「「「あっ」」」」」」」


 すっかり忘れていたが本来はユートのことについてだ。

 どんな人物か知りたい。

 どんな力があったとしても、まずは情報を集める必要がある。

 レイナを呼び出したのも元の世界でのユートの評価を聞きたいからだ。


「わかりません………」


 レイナの言葉に分からないということは無いだろうと、本当のことを吐かせようと腰に掛けた剣に手を掛けようとする者もいる。

 詰め寄らなかったのはケンキが視線を向けて黙らせていたからだ。

 そうでなければレイナはパニックになっていたのだろう。


「ただ気付いたら友達が二人同時に同じ相手に付き合うことになっていて……。私も………」


 どうやら、この世界に召喚される前から魅了する能力を持っていたらしい。

 それとも、それだけの魅力があるだけなのか。

 確認もする。


「えっと。少なくともユカとミカが付き合う前はどこにでもいる男の子のはずだったんだけど………」


「急に男女問わずに人気になっていて、自分だけが意味がわからずに疎外感を感じていたりしたのか?もしかして二人の友達に自分と同じ相手と恋人になるように強制されたりとかか?」


 まさか、それは無いだろうと思ってか少し笑みをケンキは浮かべている。

 他の者もまさかとドッと笑う。


「………………実は狙われています」


 その告白に笑いが治まり真顔になる。


「質問。………君じゃないから。召喚された人物の顔を名前は憶えている?」


 王族や騎士、宮廷魔術にケンキは確認すると全員が頷く。

 ケンキの突然の質問にそれらだけではなく、レイナも意味が分からないという顔だ。


「ユカとミカって娘は容姿は整っている?あとレイナさんにも質問、他にも付き合っている者もいる?」


 二つの質問にどちらも首を縦に振る。

 その事にケンキは盛大な溜息を吐いた。

 ケンキの反応に気付いたのは王だけ。


「ケンキ、早急に私たちに造ってくれた物の量産に入ってくれ。人員はいくらでも出す」


「国民全員は無理です。取り敢えず、この場にいる者と城内で働いている者と学園の者で特に優秀な者で許せてください。日にちが足りない。あと魅了を防ぐ魔方陣も組んだ方が良いかもしれません」


「そうだな。自覚が無かったら、まだ良かった。だが自覚があるなら危険だ」


 急な展開について行けない者達。

 その中には王族であるラーンやシーラもいて溜息を吐く。


「下手したら魅了を使って恋人と付き合っているんだ。それも複数の女性と。これだけで色欲が強いことが理解できる。王女のお前も魅了される可能性があるな」


 そこまで言うと王は理解していたのか不快な表情を浮かべ兄であるラーンも怒りで顔を真っ赤にする。

 シーラに至っては自分の身体を抱き締めて顔を青褪めさせる。

 他の者も色欲と聞いて理解が追い付いたのか不快な表情を浮かべている。

 特に女性陣は嫌悪を露にしている。


「………レイナさん。もう一度、確認。男女問わずに急に人気になったんですよね」


「は……はい」


 女性だけでは無く男性も魅了されるのかと溜息を吐く。

 通常の魅了は男性が使うなら女性だけに、女性が使うなら男性だけなのに、どちらの性別にも効果があるのが厄介だ。

 本来なら片方だけにしか効果が無いから魅了に掛かっていることも周りが気付くが、今回に限っては両方に聞くから魅了が掛かっていることに気付きにくい。


「本来より強力な魅了だな。男女ともに効果がある魅了など初めて聞くな。もしかして召喚された者は例外なく強力な力を得ると聞いたが……」


 王たちが魅了されていないのは運が良かったからだろう。

 ケンキの渡したモノがなければ洗脳されていたかもしれない。

 同時に強力になっていたユートの魅了に抗えているレイナに視線が集まる。


「な………なんでしょうか?」


 おそらくは魅了や洗脳に対する抵抗力がずば抜けているのだろう。

 もしかしたら無効化する体質なのかもしれない。

 出なければ今まで無事でいられた理由が説明つかない。


「君が魅了されていなかったのは魅了といった精神に影響を与えるモノに対して無効化か抵抗力が高いからだろうなぁ、と思って。それでも女性である以上、男には力で敵わないだろうし無理矢理、モノにされていた可能性が高いけど」


 ケンキの言葉に更に怯えるレイナ。

 ここで追い打ちをかけるケンキに非難の視線が集まるが、それを無視してメイを呼ぶ。

 色々と非常識なケンキに素直にメイは近づく。

 女性を無用に怯えさせた罰として叩くために。


「メイなら比較的、年は近いし鍛えることが出来るだろ?大事な友達が男に奪われて、しかも差し出されそうになっている。その原因となった男の所為で男性不信になっているだろうし女性の方が良いと思ったのだけど」


 だけどケンキの続けらられた言葉に頷いてしまい叩くことを忘れられる。

 その間にケンキは距離を取る。

 ケンキの行動に溜息を吐くが、確かに大事だと頷く。


「その……。お願いします」


 目の前の少女が無理矢理、犯されてモノにされる可能性が高いなら同じ女性として否は無い。

 だからメイも頷くがケンキの言葉を信じて女性騎士にも頼むことを決意する。


「それじゃあ俺は早速、魅了に効果があるモノを造りますので失礼します」


「いや、待て待て待て!」


 マイペースに行動するケンキに王は慌てて止める。

 生産できる数を増やすために見学させたいからだ。

 特に腕の良い宮廷魔術師を呼んでケンキと行動させる。


「それでは今度こそ。別に他の者も途中から見ても良いけど、邪魔だけはするな」


 ケンキは最後の邪魔だけはするなの部分にだけ特に言葉に力を込めて、共に行動するように指示された宮廷魔術師と共に出て行った。

 向かう先は共に行動する宮廷魔術師の研究部屋だ。

 そこで魅了に対する道具を造っていく。




「ここで造ってもらうわ。同じ専門分野として必要な物は揃っていると思うけど、何か必要な物はあるかしら?」


 その言葉にケンキは首を横に振る。


「基本的なやり方だから、そこまで必要はないかな?見た感じ必要な物は全部、揃っているように見えます。取り敢えず、一度やってみて足りない物を頼みますね」


 そう言って早速行動に移る。

 案内した宮廷魔術師は頷き同時に距離を取って見学をする。


「まずは鉄鉱石だな。………鉄しか無いんだが」


 その言葉に慌てて宮廷魔術師が入って来る。

 まさか原料から制作するとは思ってもいなかった。

 高純度の鉄で加工にも最適なのに一瞥しただけで使わないとは思わなかったのだ。


「一番良い鉄鉱石はある?」


「普通の何でもない鉄鉱石が良いです」


「魅了の魔力が籠っているのとかじゃなくて?」


「はい。邪魔なので……」


 取り敢えず何も言わない。

 意味は製作途中で探るつもりだ。

 何でもかんでも聞いて答えを直ぐに求めるのは宮廷魔術師としてのプライドが許さない。


「ごめん。ここにある鉄鉱石は基本的に何かしらの特別な魔力を帯びていたりとしか無いわ」


 宮廷魔術師は居心地が悪そうにする。

 ケンキが求めているモノが無くて肩身が狭い。


「これらの鉄鉱石は後で使いますよね?」


 頷き使っても良いと告げる。

 下手したら王様たちにも危害を加えられる可能性がある。

 既に視ただけで高い効果があると分かるアイテムを渡されているとはいえ王族だけだ。

 他の者が洗脳されて反逆される可能性は高い。

 レイナといった女性が話したことが本当なら色欲で女性を洗脳して突き合わせているのだ。

 簒奪する可能性は高い。

 それに比べたら多少は貴重な物でも惜しむことは無い。

 その事を告げると、ふーんとだけ言う。

 何を考えているのか理解が出来ない。


「燃やすか……」


 そして複数の鉄鉱石の前に戻ると魔法で燃やす。

 そのまま数分が立ち炎を消すと鉄鉱石から感じた魔力がすべて消えている。


「なっ……」


 ケンキがしたことは鉄鉱石が帯びている魔力のみを燃やしたのだろう。

 つまりは魔力を消失させたのだ。

 物理的なら、ともかく魔法的なモノ、例えば結界などを使っても無効化できる可能性がある。


「消えたか。なら燃やすか」


 そうして、もう一度魔法で燃やす。

 だが宮廷魔術師はその火に違和感を持つ。

 本来なら攻撃魔法である火をそのまま放つことは無く維持をするのは良い。

 この目で見るまでは信じられなかったが魔法を改造していることは既に報告を受けている。

 だが、それとは別の魔法をあの炎に感じている。


「魅了解除、または無効化の魔法か……?」


 直感のままに口に出した言葉にケンキは頷く。

 どうやら正解らしい。


「付与魔法で魔法にさらに別の魔法を付与できないか試してみたら成功した」


 ケンキの説明に詳しく聞きたい。

 聞きたいが今は製造に集中する。

 初めて聞く内容と試したことのない魔法の使い方に色々と思うことはあるが今は黙ることにする。

 もしかしたらケンキにしか製造できないのではないかと思うが、今の内に同時に無理だった場合のことも考える必要がある。


「ついでに、この火の魔法には魅了を無効化する魔法を付与している。これで鉄鉱石に魔力を付与させている。天然で耐性があるより、こっちの方が効果が高い」


 もう自分とは違う領域での説明に宮廷魔術師は溜息を吐いた。

 そもそも魔法を改造していることすら自分には難しい。 

 そして瞬く間に鉄へと加工をしていく。

 その際に使用していた魔法全てに魅了を無効化する魔力が帯びていた。

 もしかしたらどころではなく確実にケンキにしかできない。


「これで鉄は出来上がり。あとは加工だけ」


 出来上がった鉄は魅了に対してかなりの効果があると視てわかる出来だった。

 特別なことはしていないといったが、とんでもない。

 誰にも真似が出来るものでは無い。

 専門的に研究した者でもケンキと同じ領域の物を製造するのに何十年とかかる。


「まぁ、使って良いって言っていたし使うか」


 ケンキはビーカーに魔法で造った水を入れる。

 あくまでも魔法で製造している、

 他の魔力の籠っている道具を使わない。


「あくまでも己の魔力のみで造っているのね」


 宮廷魔術師は感心の声を上げている。

 同じことをするには付与の魔法の技量を上げないといけないが、これを覚えるだけでどれだけの可能性が増えるか考えると楽しみでしかない。

 今回の問題が片付いたら早速弟子にしてもらえるように頼むのも悪くないと考える。


「すみません、先輩。失礼します」


 そんな中、メイが中に入って来る。

 当然だが入ってきたのはメイだけではない。

 騎士たちや王族、他の宮廷魔術師も中に入って来る。

 まばらでは無く一斉に入っていたこともあり、部屋を貸した宮廷魔術師は驚く。

 同時だったということは、あの後も話し合いをして一緒に来たと考えれる。

 何かあったと考えるのが普通だ。


「先輩、特にありません。ただ先輩の様に精神的な耐性に関する専門の宮廷魔術師をこの場に呼んだだけで」


 メイの言葉に新しく来た宮廷魔術師たちを見て納得する。

 自分と同じ専用分野だが謁見の間に来ていなかった者達だ。

 彼らを呼ぶことでも時間を使ったのだろう。


「それで何処まで進んだですか?」


「取り敢えずは何個かはもう出来ているわよ。ただ私たちでは同じように造るのは無理ね」


「それだけに特別な手法を使っていたんですか?」


「そうね。新しく造るみたいだし見ればわかるわ」


 ケンキの方を指差すと新しい鉄鉱石を燃やして付与していた魔力を燃やし尽す。

 付与された居た魔力を焼失させるという聞いたことのない行動と結果に当然だが全員が驚く。

 案内した宮廷魔術師も見たのは二度目だが、やはり真似が出来ない。


「もしかして魔法に付与魔法をかけている?そんなことも出来るのか。彼と会ってから魔法の可能性を目にしてばかりだな」


 一目で見抜いたメイに宮廷魔術師は目を見開いて驚く。

 メイ以外は驚いているのに彼女だけはケンキの行動に理解を示している。


「実は私は彼に魔法の指南を受けていて。それで理解できたんですよ」


 確かに最近は魔法が特に上達していたと思っていたが、その説明で納得する。

 あれだけの技量を持っている相手に鍛えられたらいやでも実力が上がる筈だと。

 同時に羨ましい。

 自分も鍛えて欲しいと思う。


「私も鍛えて貰うことは出来ないのかしら?」


「どうでしょう?彼は一番に自分を鍛えることを置いてますし。私を鍛えてくれたのも気まぐれでしょうね」


「………何度も頭を下げるしかないわね」


「私も無理矢理教えてもらったものですし、押しかければ何とかなりそうではありますね」


 メイの補足説明に何日に何度でも頭を下げることを決意する。

 それほどまでにケンキの使っている技術は魅力的だ。

 そして、それはメイと話している宮廷魔術師だけでは無く聞き耳を立てていた、この場にいる宮廷魔術師全員が共通して思っていたことだ。

 当然、メイも自分の知らない技術に同じことをしてでも教えてもらおうと考えている。


「同じものを何度も造るのは飽きるな」


 ケンキは溜息を吐く。

 確実性を考えて最も効果が高く成功した物と同じ製法をしているが本当なら、もっと色々と手を加えて実験したい。

 だが、それをするとほぼ確実に効果が落ちるために実行に移せなく不満が溜まっていく。


「なぁ、お前は魔法に魔法を重ね掛けって出来るか?」


「いや、無理だな。正直、幼い頃に考えて試したことはあるかもしれないが出来ないと言われてからは試していない。他の皆もそうだろう?」


 ケンキの言葉に同情しながらもケンキの使っている技術について話し合う。

 騎士団たちは飽きるという言葉に怒りが湧いているのとは正反対だ。

 魔術師たちは言われたことをやっているから構わないだろうと思っている。


「ケンキ君、ちょっと良いかい?」


「何?」


「今、手を離せないだろう?だから後で実験する為に思いついたことを教えてくれないかい?」


「わかった。なら………」


 メイがメモを持っているのを確認して加工をしながら思いついたことをケンキは口に出していく。

 その間にも一切手を止めることなくアイテムを何十個も量産してく。

 同じ工程を二桁程を周回して漸く止まった。

 時間にして六時間ほどだろう。

 謁見に集められた時間が日が暮れ始めた時間の為に今はもう深夜だ。


「………まだいたのか?」


 時間を確認し、そして他の多くの者が集まって自分の作業を見ていることにケンキは溜息を吐く。

 同じことしか繰り返していないのによく飽きずに見ていられるものだと思っている。

 宮廷魔術師は理解できるが騎士や王族には退屈だったはずだ。


「そう言うな。それほどお前の製造工程には目を惹き付けられたのだ。………特別なことはしてないと言いながら、充分に特別なこととしており、それの効果を考えたりとな」


 特別な行動というところにケンキは首を傾げる。

 そんな箇所はあったのだろうかと。


「いや、ケンキ。自分の製造方法が他人と違うと思わないの?」


「………他人の製造方法何て知りませんし。適当に鉄の製造方法や効果のあるアクセサリの作り方が書かれてある本を読んで自分なりに噛み砕いて製造していったので」


 つまりは独学。

 それだと確かに自分が特別な方法で加工しているとは思わないだろうなと納得する。

 それにしては魔法で加工したり、魔法に付与魔法を掛けるなんて本は有り得ないと思うが。

 手を止めたこともあってケンキの元に集まって質問しにいく。


「なぁ、その本ってどんな本なんだ?」


「普通の本。ずっと読んでないから今も家にあるか分かりません」


「………そうか。探してみてくれ、その本に魔法に魔法を付与したり、今の製造の方法が書いてあるんだろう?」


「………魔法に魔法を付与?」


 ケンキは何を言っているんだ、こいつというような目で質問をした者を見ている。

 自分のやったことをまるで理解していない。


「………君が先程、加工の最中にやっていただろうが」


 惚けるつもりだったとしてもイラっと来る行動。

 言葉が強くなる。


「魔法に魔法を付与する本は読んだことはありませんが……?」


 は?という疑問とさっきの言葉とは違うことにどういうことかと視線で問う。


「もう一度言わせてもらうけど鉄と効果のあるアクセサリの加工方法を書いてある本は読んだ。付与魔法に関しては完全に独学。何も参考にしていない」


 ケンキの言葉に、そういえばと思いだす。

 一緒くたに考えてしまっただけで言っていない。


「それと、まずいくつか質問」


 逆にケンキからの質問に身構える。

 何を聞いてくるか分からない。

 久しぶりに教師の前にいる生徒の気持ちになってケンキの質問を待つ。


「メイで思い出したんだけど魔法を改造したり、今やったように魔法に魔法を掛け合わしたりとか出来ないのか?」


 出来る奴が出来ない奴にする質問としては腹立つが純粋な質問でもあるために全員が頷く。

 ケンキはそれを確認すると、ぶつぶつと独り言を零しながら考え込む。

 途中で頭を掻いたり溜息を吐いたり、急に立ち上がってウロウロしたりする。

 突然の行動に腹が立つことも忘れて心配になる。


「あ………そういえば、王様も起きていたな。相談するか」


 そして王を視界に入れたかと思うと奇行が止まり王の前まで接近する。

 そのことに近くいた騎士たちが剣を刃が無かった。

 ケンキの手には騎士たちの剣の刃があった。


「「な………!?」」


 そもそも騎士たちが剣を抜いたのはケンキの移動が全く見えなかったからだ。

 だからこそ動揺して王を護るために剣を抜き、その剣を壊された。

 驚いたのは近くにいた騎士だけではない。

 ほんの一瞬前までケンキの目の前にいた者達もいつの間に移動したのか理解できずに驚いている。


「王様、このままでは俺一人で製造するしか無いのですが……」


「そ……そうだな」


「ぶっちゃけ魔力とか鉄鉱石の量とか足りないです。俺の魔力は平均よりは下ですので数もそう多く生産できません。他の者に教えるとしても製造しながらとなると絶対的に無理です」


「う……うむ。なら最低限。そうだな、謁見の間にいた者たちの数で良い。そうだな三十から五十ほどか?とはいえ他の者も量産できるようになったら、また再開してもらうが」


 ケンキは王の意見に頷いて従う。

 同時にもう一つ言わせてもらう。


「俺の魔力は限界だし、鉄鉱石も無いので今日はもう造れません。いい加減に寝てください」


 夜は何度でも言うが深夜だ。

 本来なら寝なければいけない時間だ。

 騎士や宮廷魔術師はともかく、王たちは寝て体力を回復しなければならない。

 もしもの時の為にも万全の状態で判断を下してもらうためにも寝てもらう必要がある。

 好奇心でいつまでも起きているのは問題だ。

 それには他の者たち頷いている。

 できればケンキの製造も同じことを繰り返しているだけなので二度か三度で帰ってもらいたかった。


「それでは先に失礼します……」


 ケンキは言いたいことを言って欠伸をしながら部屋から出ていく。

 少しふらついているのが気になるが一人を除いて誰も近づかない。


「もしかして魔力が限界なのかい?」


 近づいたのはメイ。

 魔力が平均以下だと聞いて、もしかしてと身体を支える。

 このままだと途中で倒れてしまうと心配したからだ。

 メイはそのまま自分の部屋へと運ぼうとする。


「って待ちなさい!メイ、ケンキを何処に連れて行くつもり!?」


「私の部屋ですよ?」


 当たり前のように言うメイに男女差があるだろうと説教をするシーラ。

 それをケンキは横目で見ながら仲が良いなと思う。


「ケンキも否定しなさい!男と女が同じ部屋に泊まるなんて!恋人でもない限り問題よ!」


「………わかりました」


 ケンキは王女の命令に従って離れようとするが、むしろメイが掴んで離れさせまいとする。

 そしてメイが自分の元へと引っ張た勢いのままケンキはメイに覆いかぶさるように倒れてしまった。

 本来ならすぐさま起き上がるべきなのだろう。

 だがケンキは魔力がほとんど枯渇したこともあって自力で起き上がれなくなっている。


「ケンキ?」


 シーラがケンキの目の前で手を振ってもぼー、としているだけ。

 王に対して寝ろと言ったのも自分が本当は寝たいから出てきた言葉なのではないかと考えられる。

 レイナは王宮で用意した部屋で寝かせたことを考えると、この場いる最年少はケンキだ。

 そして比較的年齢が近いのは王族の子供たちとメイだけだ。

 他は二桁に近い年齢差がある。

 そう考えると優しい気持ちになる。


「はぁ。後で彼には王宮で使う礼儀作法とか教えないとな」


 誰かが零した言葉に全員がニヤリと笑った。

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