召喚
「成功したぞ!これで我が国は更なる力を手に入れたぞ!」
とある場所のとある空間に魔方陣を中心に多くの者が集まっている。
その中心的人物は魔方陣の反応に成功したことに歓喜の声を上げ、周りの者達も完成を上げている。
その魔方陣からは激しい光が溢れている。
余りの眩しさに目を見開いて見えている者はいない。
「………ここは?」
そして光が消えた先には数人の者達がいた。
その中に黒い髪に整った容姿の男がいる。
「かっこいい……」
その整った容姿に、その場にいた女性の殆んどが呟かれた言葉に同意する。
中には恋人や好きな者がいるのに首を振って考え直そうとしている者もいた。
そして男性たちも嫉妬せず、むしろ好意を抱いている。
それこそ召喚した甲斐があると。
「あの?ここは……?」
整った容姿の男。
否、少年に戸惑いがちに声を掛けられる。
そのことに見惚れていた者達は意識を取り戻して質問に答えようとする。
「ここはガザー国の城です。貴方たちは私たちに召喚されました」
その言葉と光景に少年たちは絶句する。
急に目の前が光ったと思ったら見知らぬ場所に着き、そして頭を下げられている。
少年にとっては聞いたことのない国の名前のこともあり混乱する。
「召喚って……。何かの撮影ですか………?なら返して欲しいのですが?」
「違います。貴方は異世界から召喚されたのです。その力で私たちをお救い下さい!」
救けてくれという言葉に頭を下げられて興味を持つ少年たち。
男女合わせて数人いるが男性陣は女性も頭を下げていることに興味を持つ。
そして詳しく聞くと最近、魔獣が増え対処に困っているらしい。
このままでは何れ国民に何時、被害が来るかわかったものでは無く少しでも実力者が欲しいのが理由だ。
「わかりました。俺で良ければ力になります」
「おぉ!本当ですか!?助かります!」
整った容姿の少年が代表して答えるが、一人の少女が嫌そうな顔をする。
「ふざけないで!私たちを家に帰して!」
その顔は嫌そうな顔から泣きそうな顔に変化していた。
表情の変化を見ていた者は、戦えない者だと理解するが期待外れだという表情はしない。
自分たちが勝手に呼び出した上に、自分たちの国の中でも才能が有っても戦う素質が無い者もいることは知っているからだ。
どうしても戦えない者を無理矢理に戦わせようとする者はいない。
一緒に召喚されていた数人の少女たちは泣きそうになっている少女を護るように抱きしめている。
何か事情があるのかもしれない。
そして少女の言葉には召喚した者たちは頭を下げるしかない。
「申し訳ありません。一方的な召喚で、元の世界に帰す魔法は見つかっていないのです。いずれ見つけてみせますので、それまで我慢してください」
その言葉に少女に烈火の如くに怒る。
「ふざけないで!貴方達の為に私たちを生まれて来たんじゃない!私を皆を元の世界に帰してよ!!魔獣が増えたから対応する必要があるって殺すってことでしょ!私たちは一度も何かを殺そうとしたことは無いのに!?皆の手を血で染めようとしないでよ!?」
涙ながらに怒る言葉に頭をただただ下げるしかない召喚者たち。
召喚された者は例外なく強力な力を手にするとはいえ誘拐には違いない。
同時に、この少女は心優しい事を理解して好意を持つ。
「うるさい!何をしているの!?」
罵倒と共に入ってきた血に濡れた煌めく鎧姿を着ている少女と青年。
青年は少女を宥めているが召喚された少年少女を見て顔を険しくする。
初めて見る顔と服に警戒している。
ここは城の中なのに、何時の間に入り込んだのだと。
「王子様、王女様!?」
その二人を見て召喚者たちは顔を青褪めさせる。
王子と王女と呼ばれた二人は、その様子と魔法陣、そしてその上に立っている少年少女を見て一瞬だけ怒りの表情を浮かべて瞬時に全員に頭を下げた。
「「我が国の者が申し訳ありません!!」」
話を聞く限り国の王族たちは伝えずに処刑覚悟で独断で実行したらしい。
二人が召喚者を吊り上げて聞いてからの情報だ。
王族であるのも関わらず連日、魔獣を狩っていて全然減らないことから王族を護るために召喚したらしい。
「見つかるまでは我が国が責任を持って護ろう。どうか許してくれ」
王子様然とした青年に頭を下げられて黙る。
同時にどうして召喚されたのか理解できた。
王子、王女といえば守られるべき存在なのに率先して魔獣を狩っているのだろう。
血に濡れた鎧で推測できる。
そして愛されているからこそ、させられないと処刑覚悟で召喚したのだろう。
だから少女も召喚者たちを責めるのを止めて黙る。
その事に感謝しながら王子たちは少年少女を城へと案内した。
誰も最初に受けいれた少年の瞳が妖しく光っていたことに気付かない。
「………最悪だな」
同時刻、ケンキはぼやく。
既に夜の遅い時間だが国の外にいる。
手には大剣をもっており、魔獣を殺した跡で血に汚れている。
「どうしたんだ、ケンキ君?」
ケンキの突然のぼやきに騎士の鎧の大人が尋ねる。
この騎士はケンキの実力を知った国が魔獣の被害を抑えるために年齢が未だ若いケンキの補佐をするために派遣した者だ。
年下の子供に大人が従うのは本来なら感情が納得しないだろうが、本人は不快だという感情を一切見せずにフォローをする。
そして子供と思えないほど無駄なく魔獣を倒していく姿に尊敬をしていった。
そんな一切、無駄口を叩かなかったケンキの行動に疑問を持ったのだろう。
「いえ何か城の方向に嫌な魔力を持ったモノが突然、現れた気がして……」
ケンキの言葉に確かにと頷く。
とはいえ強大な魔力を感じたが不快だとは思っていない。
むしろ好意的なモノとして受け入れている。
「そうです……かっ!」
それを不快に思ったケンキは何度も何度も騎士の頬を叩く。
まるで何かから目覚めさせようとするかのように。
「何を……!?」
文句を言おうとしていた騎士にケンキは有るモノを押し付ける。
「念のために服用させて、これを身に着けさせて。あぁ、それと強大な魔力を城に感じて何も思わないどころか好意的に受け入れて、どうする?」
その有るモノと言葉に騎士はハッとする。
そして決意を込めた表情で受け取る。
これは絶対に使う物だと。
例え処刑されたとしても実行に移すつもりだ。
何故なら、この国を愛しているから。
だからこそ騎士になった。
そして、これにケンキを巻き込むわけにはいかない。
「そうだな。すまない、ケンキ君は先に帰っても大丈夫だ。報告は俺がする」
気付いているのは、もしかしたらケンキだけかもしれない。
もし騎士が処刑されたら助けられるのはケンキだけだ。
一緒に処刑されるわけにはいかない。
だから先に帰した。
「………わかりました。それではお先に失礼します」
律義に頭を下げて去るケンキを見送って騎士は城へと直行して行った。
そして翌日。
「今日から編入生が来ることになった。仲良くするように」
教師の言葉に数人の少年少女が入って来る。
それを見てケンキは舌打ちをした。
「「「「「「「ん?」」」」」」」
教室にいた者達はケンキが舌打ちをしたことに信じられない表情をケンキに向ける。
これまで一緒の教室で学んだりしたが今まで舌打ち何て聞いたことが無い。
この中に知り合いがいるのかと幼馴染である二人に視線を向けるが、二人は首を横に振る。
「先生、本当に同じクラスに所属させるんですか?」
「あ……あぁ」
ケンキの不満そうな質問に頷く教師。
今までに見たことのない様子に戸惑ってしまっている。
「………そう。まぁ、実験も兼ねるか」
ケンキはそう言って手をパァン!と拍手をして教室から出ていく。
その姿に妖しい紅い瞳が声を掛ける。
「待ってくれないかな!僕たちが嫌いなのかい!?」
「他はまだ知らん。お前は気に入らない。…………どこまで本気で聞くか知らないが脅してみるか」
脅す?
ケンキの言葉に疑問を持っているとケンキは一瞬で紅い瞳を持つ少年に近づいた。
そして服を下に引っ張り、自分の背より下にして顎に手を当てて持ち上げる。
その光景に何人かの女性は顔を赤らめて顔を隠す。
「…………自分の能力を理解しているか」
そこまで言って顎から首に手を移動させて絞める。
「この国で悪用したら殺す。あぁ、そうだ。皆、今日から何で誰かを好きになったのか、ちゃんと考えろ。理由も無く好きになってしまったら操られていると思え」
最初は小声で、その次は皆に聞こえるように話す。
そして教師が止める間も無くケンキは教室から出て行った。
「ごほっ。ごほっ……」
ケンキが消えた後、紅い瞳をした少年は息詰まる。
それを見て一緒に入ってきた、ほとんどの生徒たちが集まる。
ほぼ全員が心配そうに駆け寄っていく姿に良い奴なのだろうと生徒たちは思うが、ケンキの行動が腑に落ちない。
ケンキ程の実力者が気に食わないという理由だけで首を絞めるのは、有り得ないと考えられる。
それもあって少し警戒していた。
「あぁ~。皆、今日は編入生が多いし最初の時間は自己紹介にしよう」
教師の言葉に生徒たちは歓声を上げた。
「最後が僕ですね。名前はユート・ユメノです。趣味は読書かな。よろしくお願いいたします」
ユートの言葉にそれぞれがよろしくと返す。
生徒たちは礼儀正しい姿に好感を覚える。
何でケンキが気に入らないと思ったのか不思議だ。
「それと、こちらから質問したいことがあるんですか、良いでしょうか?」
ユートの言葉に頷く。
どうせ聞きたいことはケンキのことだろうと予想が付く。
生徒たちも聞きたいと思っていたのだ。
「先程、僕の首を絞めた彼は何で、僕を嫌っているのか知りたいのですが?」
「「「「それはこちらが聞きたい」」」」
生徒たちの異口同音の答えにユート達も編入生は困惑する。
そしてケンキについて聞いていくと、むしろ何で首を絞めて来たのか疑問を抱く。
「そうですか?なら皆さん、彼が何で首を絞めたのかわかりませんが、彼と友達になるために協力してくれませんか?」
ユートの言葉にそれならと頷く生徒たち。
見た感じ悪い者ではなさそうだし、協力するのもやぶさかではない。
「お。自己紹介が終わったか?」
そんなところに教師が戻って来る。
教頭から呼び出しを受けていて、この時間はいなかったのだ。
それが戻って来ての質問に頷く。
「そうか。ケンキだが王城に呼ばれていたらしくてな。もしかしたら学校に来れない日が多くなるかもしれないとのことだ」
教師の連絡に残念そうに声を上げる生徒たち。
毎日、戦闘訓練の相手をして貰っていたから出来なくなことに残念そうにする。
生徒会長との戦いが終わってから試合を求める声が多くなったが、それら全てを手加減して相手を高めることにしていたせいでケンキには人気が集まった。
試合なのに本気で相手をしないことに不満を持っている者もいるが、それ以上に真摯に強くしてくれていることもあって、それ以上に感謝の気持ちを抱いてしまっている。
「王城から呼ばれているなら、そう言えよ。サボりだと思ったじゃねぇか……」
ケンキが急に教室から去った理由に教師はぼやく。
それが聞こえていた生徒たちも、その内容を聞いて深く頷く。
ケンキが教室から去ったのはユートを嫌っているからだと勘違いした。
むしろ、そちらが理由なのだろう。
「えっと。ケンキ君て僕たちと同じ学生ですよね?それなのに王城に呼ばれるんですか?」
ユートの言葉に頷く生徒たち。
そして、どうしてケンキが呼ばれたのか話し始めた。
「すごかったわよね、彼。ユートの首を絞めたのはムカつくけど凄い人みたいね」
学園での授業が終わり、案内された寮の部屋でユート達と一緒に召喚された少女の一人がユートに抱きつきながら、そんな事を言っている。
「そうだね。かなり信頼されているみたいだ。話を聞く限りでは良い人みたいだし、教室にいた皆も僕に対する行動に驚いていたみたいだね」
ユートの言葉に頷く少女。
そしてキスをしようと顔を近づける。
「ん……」
ユートもそれに答えてキスをする。
「あぁ~!ズルい!」
そんな二人にユートの部屋へと新しく入ってきた少女は文句を言う。
そしてユートへと抱きつく。
「ミカも先にユートの部屋に行ってイチャ付くなんてズルいよ!私もイチャ付きたい!」
「いいじゃない、別に。文句があるなら一緒にイチャ付いたら良いじゃない」
言い合いをしながら二人の少女はユートへと抱きつく。
二人の整った容姿の少女に抱きつかれてユートは幸せそうに顔を綻ぼさせる。
少女たちは自分たちがユートにそんな顔をさせていると理解して嬉しそうにする。
「そういえばレイナはどうしたんだい?」
「うん。今日は一緒に迷宮学園に来れたみたいだけど、やっぱり戦うということが怖いみたい。酷く怯えている」
「ねぇ、ユート。貴方なら何とか慰めれない?」
一緒に召喚された、この場にいない少女のことを聞くユートに本来なら二人は本来なら不満を抱くが今回ばかりは別だ。
言葉通りに酷く怯えており、誰もがその姿に心配してしまう。
元の世界から自分や誰かが怪我することに怯えていたが、それが日常的な世界になって生きていけるか心配なのだ。
「そうだね。彼女の部屋に案内してくれるかな」
ユートの言葉に二人の少女は頷いて女子寮へと引っ張っていく。
女子寮の管理人に見つかり理由を話すと怯えていた少女レイナは呼び出されて部屋にはいないらしい。
誰に呼び出されたのかは教えられないと言われ、諦めて部屋へと戻っていた。
その際にユートが手を掴んで頼んでいたが、何かに納得した目でユートを見ていた。
そして二人の少女は部屋に集まって相談をし合う。
内容はレイナに関してだ。
「ねぇ、レイナは何処に行ったんだろうね?」
「王城じゃないかな。教えれないということは口止めをされているということ。そして私たちに関わって一番、偉い人たちは王族でしょ。彼らながら口止めすることも出来るだろうし」
「そうかも。………それにしても何でレイナは私たちと一緒にユートの恋人にならないんだろう?折角、恋人ができても三人一緒にいられるのに。二股なんてどうでも良いじゃん」
「そうだよね。それなのにユートを毛嫌いしているし。無理矢理にでも付き合わせた方が良いのかな。そしたらユートの良さが分かるだろうし」
「そうね。ユカの言う通りよ。きっとユートも喜んでくれるし早速、戻ってきたら実行しましょう」
「賛成!」
二人の少女はお互いに良い考えだと頷き合いレイナを自分の恋人と付き合わせようと画策する。
「うーん。どうしたらレイナと付き合えるかな」
「お前、何股するつもりだよ!?」
一方、男子寮のユートの部屋では召喚された男子たちが集まっている。
どうやらユートが二股以上をしているのは承知の様だ。
「まぁ、何かあったら手伝ってやるよ。例えばお前がレイナちゃんとも恋人になる方法とかな」
「そうそう」
そう言って笑い合う男子たち。
ユートが二股をしていて、更に毒牙をかけることに嫉妬を抱くどころか、むしろ協力しようとしている。
ハッキリ言って可笑しい。
本来なら嫉妬なりなんなりして協力するはずが無い。
「なら頼むよ」
「おうよ!」
ユートが何人もの女性と付き合うことに不満を抱かず当然のことと考えている。
そして協力を惜しまない姿にユートは嬉しそうに哂った。
その翌日、ケンキとレイナが来なかったことに生徒たちは不思議そうにする。
「皆、いるか?ケンキとレイナは今日は休みの様だ」
教師が入ってきての言葉に残念そうにする。
どうやら二人とも王城に呼ばれているらしい。
「ケンキはともかく、レイナもですか?もしかして先日感じた巨大な魔力に関係しているんでしょうか?」
そんなことを言いながらユート達にも一緒に視線を向ける生徒たち。
強大な魔力を感じてから学園に編入してきたのだ怪しまれても当然だ。
「そこまでは私も知らないが、これからも呼び出されるかもしれないな」
教師の言葉に生徒たちは残念そうにしていた。
「ねぇ、ちょっと良いかい?」
ユートはユーガ達に近づいて行く。
昨日の自己紹介をしている最中にケンキの幼馴染だと知ったのが理由だ。
「何だ?」
「学園が終わったら一緒にケンキ君とレイナを迎えに行かないかい?王宮に呼ばれたとしても学園が終わる頃には用事も終わっているだろうし」
「はぁ?」
ユーガの反応にユートよりも近くにいた者が反応する。
バカバカしい者を見たような反応に苛立たしく感じる。
「えっと。ダメなのか?」
ユートの言葉にユーガは溜息を一つ吐いて教える。
「王城に入ることが出来るのは王族に呼ばれたり王城に勤めることが認められた実力者だけだ。友達を呼ぶためだけに入ることは許されないんだよ。この国の常識だぞ」
ユーガの言葉に周りを見るが全員が頷いている。
むしろ知らない事に驚いている。
子供でも知っている事実を知らないことに別の国から来たのではないかと理解する。
でなければ、この学園に編入するのは難しいのに何人も来るのは有り得ない。
「もしかして、お前は他国からの留学生か?そうなら、しょうがないが」
知らないということに自分なりの解釈をするユーガに他の生徒たちも納得する。
他国の人間なら、この国の常識とは違うだろうし一気に多くの編入生がくるのも理解できる。
「あはは。似たようなモノかな?」
ユートもこれ幸いとそれに乗っかかった。
異世界から召喚されたと言っても誰にも信じてもらえずに頭の心配されるだけだ。
それなら他国の留学生と言った方が都合が良い。
「そうか。もしかして、この国に来たのも最近なのか?もし、そうなら案内ぐらいはするぞ?」
「本当かい?ならお願いするよ。皆もそれで良いかな?」
ユートの意見に否は無いと編入生たちも頷く。
どうやら編入生は全員参加の様だ。
ユーガは自分だけでは説明しきれないと他のパーティメンバーに声を掛けると参加してくれるらしい。
「それじゃあ放課後になったら案内するけど城下街で良いか?」
それぞれの賛成の声を上げた。
そして放課後。
早速、学園が終わると城下街へ歩き始める。
歩いている途中にある出店にも編入生たちは興味津々だ。
「うわぁ……!こんな通りに武器が本当に売ってある!まるで物語の世界に入ったみたい!」
「マジか!?マジだ!すげぇ!!」
「………物語?」
街通りの出店の光景に興奮する編入生たちの言葉にユーガは首を傾げる。
「お前たちの国では、こういう出店は無かったのか?」
「う………うん。外では売って無くて店の中でしか売られていないよ」
目を逸らしながら言うユートに疑いの視線を向けるが、内容が内容の為にユーガは軽く流す。
実際には売られていたとしても国では身分が高く気軽に行けなかったのかもしれないと予想したからだ。
王城に気軽に行けてたらしい話からすると、かなり身分が高いのだと推測する。
「あはは。そういえば、君は僕の首を絞めていた彼の幼馴染で良いんだよね。できれば彼のことを、もっと詳しく教えて欲しいんだけど良いかな?」
「………普通は距離を取ると思うんだが?何が目的だ?」
「君以外から聞いた話だと、急に彼が誰かを首を絞めるなんて有り得ない印象を受けてね。何が原因なのか理由を知りたいんだ」
そう言うことならとユーガは頷く。
ユーガ自身も何故、ユートの首を絞めたのか理解できない。
実際に受けた本人と話して理解できるかもしれないと話し合う。
「ユート!何をしてるの!これ見てよ!」
早速、話し合おうとしたところで女子たちがユートを呼ぶ。
その姿にユーガは苦笑して、後で話してやるからとユートの背中を叩いた。
その事に感謝しながらユートは皆の輪へと戻っていった。
「あ!これなんて良さそう!」
出店での商品を見ている途中、ユカが良さそうな武器を手に取ってはしゃぐ。
その姿にミカは溜息を吐いて商品を戻そうと注意する。
「私たちに武器の良し悪しなんて分からないでしょう?武器を買うのは後にして案内されながら今日は生活に必要な物を買うわよ」
「あっ!そうだった、ごめんなさい。これを戻しますね」
「必要な物って何かいるか?」
「女性は何かと入用なのよ。貴方達だって下着とかかわないの?身の着のままで、ここに来たのだし、変えの服とか必要じゃないの?」身の着のまま→着の身ぎのまま
「そうだった。武器を買うのは後だな」
編入生たちの会話にユーガどころか一緒に来てもらった者たち全員が怪しげな視線を向ける。
身の着のまま、ここに飛ばされたとか、気になってしまう内容だ。
それに気づいてユートは笑って誤魔化す。
「色々と気になるけど、まぁ良いわ。それよりも身の着のままって服は無いの?」
「うん。今来てる制服とあと一着だけ。下着も一枚しか無いし」
それを聞いて強大な魔力を思い出す。
王城に呼び出された編入生もいるために何となく察する。
「わかったわ。今から下着売り場とか教えるから付いて来なさい。男性たちは男性たちでお願いするわね」
マイナはそう言うと編入してきた少女たちの手を掴んで引っ張っていった。
男性陣はあっという間に消えていった少女たちを眺めると苦笑して服売り場に歩いて向かった。
「ところでユートは何人の女性と付き合っているんだ?」
女性陣と別れ男性陣は複数の女性と仲が良いユートに問いただす。
あわよくば女性と仲良くなる秘訣を聞きたいのだ。
その内容にはユーガも聞き耳を立てている。
未だにシャルからは距離を置かれている彼からは聞きたくてしょうが無い内容だ。
「んー」
ユートはその答えに指を折って数えていく。
指を折り返した辺りから冷や汗を流す。
どれだけの人数と付き合っているんだと引いてしまっている。
「二桁はいっているね………って引かないでくれない!?」
「いや、無理。どんだけ恋人がいるんだよ。色欲が強すぎないか?よくそれだけの人数と付き合えるよ」
「それほどでもないよ」
「褒めてない」
だが、同時にそれだけ女性の心を掴むことが上手いということになる。
シャルとの溝を埋めたいユーガからは都合が良い。
「なぁ、女性と仲良くするコツを教えてくれないか?」
ユーガの言葉にユートは驚愕し、ナトは苦笑する。
他の男性陣も編入生たちはユーガからの予想外の言葉に驚いている。
「あぁ、お前。まだシャルに避けられているもんな。この件に関しては女性陣は誰も協力しないだろうし、アドバイスを受けるには丁度良いか」
どういうことかと質問すると、ナトはユーガが無意識にストーカー行為をしていたことを教えユーガは冷たい視線が向けられる。
その視線にユーガは顔を逸らす。
「本当に悪いとは思っているんだ。協力してくれ」
「………はぁ、わかった。だけど、そのシャルって娘のことは全然知らないから頼りにされても力になれるか分からないからね」
「あぁ、それでも頼む」
「じゃあ服を買ったら早速、小物を見に行こうか?」
その言葉に頷いてまずは服を買っていった。
勿論、その最中にどんな少女かも教えていく。
そして買い終わった直後にユートは目当てのモノが売っている場所へと案内させた。
「ここに目当てのモノがあるが、これで良いのか?」
「うん。女の子たちに聞いたけどアクセサリとか形に残るモノは重いんだって。それなら消耗品のほうがよいみたい」
ユートの言葉に男性陣は興味深そうに話を聞く。
何人もの女性と付き合っている男の話は参考になる。
「それじゃあ、これか?」
「うん、良いかも。僕もみんなの分を買ってくるね」
ユーガがユートに確認すると良いかもしれないと頷き、ユートも自分の女性たちの分を購入しに行く。
こういう所がモテる理由なのかと、その後を姿を眺める男性陣。
自分たちも何かに役に立てるかもしれないと、それぞれが購入していった。
「あれ、他の皆も買ったんだ。それじゃあ女性陣達と合流しに行こう?」
ユートの余計な言葉を無視して頷く。
皆も買ったというのは余計だ。
「あれ、皆?」
合流しようと思ったところで女性陣とバッタリ会う。
その両手には買い物袋で埋まっている。
どうやら別れてから、かなりの買い物を楽しんでいたようだ。
「シャル、済まない。これは詫びの品だ」
ユーガは早速、シャルに買った物を手渡す。
「え……」
シャルは渡されたことに動揺する。
ユーガが全面的に悪いとはいえ同じパーティに組むことを決めながら何時までも避けた行動を取っているのに、まさか仲良くなるためにプレゼントを渡されるとは思わなかった。
「うん。その………ありがとう。もうちょっとだけ、慣れるまで待ってて欲しい」
「あぁ、そのぐらいは構わない」
その言葉に安心した表情を浮かべるシャル。
サリナも仲良くなった娘が、これからもパーティを一緒に組んでくれることに嬉しそうな表情を浮かべる。
他のパーティを組んでいる面々もだ。
「えっ!ユーガのこともあったから聞かなかったけど、同じパーティを組んでくれるの!?」
確認の為だろう。
マイナが聞き返すと頷く。
その反応にサリナもマイナも歓喜の声を上げて抱きつく。
「ふ……二人とも!?」
「良かったぁ。折角、仲良くなったのに別のパーティを組むのは寂しいよ」
「そうよね。試験が終わってからも度々、一緒に組んでいたから。もうシャルのいないパーティは予想できなくなってたわよ!」
自分のいないパーティは寂しいと言われてシャルも嬉しそうな表情を浮かべる。
シャル自身も一緒に組んでいて楽しかった。
それが自分だけじゃないことに笑顔を浮かべる。
「それじゃあ正式なパーティ結成祝いで今度、何か食べに行かない?」
「それも良いな。行くとしたら今週の週末か?」
「そうね。店の方は私に任せて」
「頼むって悪いな。俺たちで話していて」
すっかりパーティの面々で話して編入生たちを置いてきぼりにしたことを謝るユーガ。
編入生たちも構わないと許してくれ、寮へと戻り解散となった。