勝負
「どうして、こうなった……」
ケンキは身体が完全に回復し数日が立つと訓練所で生徒会長であるロングと向かい合っている。
学園最強だけあって身に纏う闘気は素晴らしい。
そして訓練所も半壊を超えて壊れていたのに完全に修復されている。
「さぁ、戦うぞ!勝った方が生徒会長だ!」
学園最強が生徒会長になるのは変わらないらしい。
たとえ、それが一学年であっても生徒会長にされるようだ。
それを聞いてケンキは嫌そうな表情になる。
「絶対に嫌です」
「ダメだ。そして、やりたくないからと手加減するなよ」
ケンキの考えていたことをロングは否定する。
ロングからすれば本気で戦い相手が手加減をするのは許容できない。
理不尽だろうが関係ない。
むしろロング自身、何でこんなに人が集まっているのか理解していない。
だがケンキは視線をある箇所に向ける。
「さて学園最強である生徒会長ロングと話題の一学年のケンキの勝負!勝つのはどちらだ!?賭けに参加するなら、こちらにある券を買ってください!」
そこではサナが人を煽って賭けを推奨している。
中には教師までもが参加していた。
「この学校って賭け事ありなんですね」
「まぁ……な。とはいえ、無理やり参加させたり、それでトラブルが起きたりしたら事情を聴かずに両方が悪いと潰す校風だから安心しろ。これで何とか風紀は護れている」
ケンキは思わず本当かよと視線を向けるがロングは視線を逸らさない。
事実のようだ。
意外だと感じているが、ケンキはそこで賭けについて思考を止める。
「ふむ?」
そして静かに息を吐いて大剣を構える。
意識を完全にケンキは戦闘用に切り替える。
見られていることはともかく、ケンキも強者と戦えるのは大歓迎だ。
周りのことは一切、頭から切り捨ている。
考えるのは試合と勝つことのみ。
早速、ロングへの首元へと大剣を付きつける。
「っつ!!」
ロングは全く反応できなかったことに冷や汗を流した。
そして慌てて距離を取る。
その間、ケンキは一切攻撃をして来ない。
そのことに疑問も持ったロングは質問をする。
「試合の合図はありますか?」
そしてケンキの答えに納得した。
同時に自らの身体を強化して合図を教師に任せる。
「へっ!?わ……わたし!?………わかりました。では今から私は魔法を空に向かって打ちます。そして爆発がしたら試合の始まりです。二人とそれで良いですか?」
教師の言葉に頷き、二人は剣を構え直す。
そして魔法が上空で爆発すると同時に切り込んだ。
「「はぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」
二人の衝突で生じた衝撃波が訓練所全体を襲う。
その場で二人は何度も剣をぶつけ合い訓練所全体を襲う衝撃波がその度に発生した。
「ぎゃっ!」
「うぉっ!」
事前に結界を張っていなければ、この時点で怪我を負う者もいたはずだ。
「はっ!」
「ふっ!」
お互いの飛ばした斬撃を避け合う。
二人は互いの剣筋を見切って距離を離れても剣筋から体を逸らす。
そうしないと互いの斬撃が避け切れない。
「くっ」
だがケンキは涼しい顔をしてロングの斬撃を交わしているがロングの方はギリギリだ。
身体強化をしてやっと見切れるケンキの剣を振る速度に躱すのが精一杯になっている。
現に今も掠り傷が体中いたるところに付いている。
「まだまだ!」
ロングはこのままでは勝てないと判断する。
斬撃に関してはケンキの方が上だと理解して前へと突き進む。
その間も襲ってくる斬撃にも必死に避けながら、偶に立ち止まり交代しながら一歩一歩ケンキへと近づいていく。
「頑張れ!」
「勝ってください!」
「もう少しだ!」
ロングの方が圧倒的に不利に見える状況で立ち向かっていく姿に、この試合を見ている者はロングに応援を始める。
そして来ていた服がほぼ真っ赤になった状態でケンキの直ぐ傍までたどり着いた。
「「「「「しゃあぁぁぁ!!」」」」
「「「「「やったぁぁぁ!!」」」」
その光景に手を取りあって喜ぶ者、雄たけびを上げて喜ぶ者、拳を振り上げる者が出てくる。
そして。
「がっ!!」
ロングは殴り飛ばされた。
「「「「「「「えっ」」」」」」」
その光景に応援して喜んでいた者達の勢いが消沈する。
目の前の光景に理解が追い付かない。
漸く接近して勝てたと思ったのに気付いたらロングは殴り飛ばされていたのだ。
「………バカか?」
そんな観客たちにケンキは呆れる。
何で俺が接近戦も弱いと思ったのか理解できない。
そもそも剣で斬撃を飛ばしているのに弱いはずが無い、むしろ強いと考える筈だ。
現に目の前にいる生徒会長は直ぐに立ち上がっている。
殴られる可能性は考慮に入れていたのだろう。
「やはり強いな」
ロングは当たり前の事を言う。
事前に一緒に迷宮を挑んだり訓練の様子を見ていたとはいえ、やはり実際に戦った方が実感を得られる。
そして、だからこそ勝負を挑んだ甲斐がある。
「………それで?」
ケンキは立ち上がった構えたまま挑んで来ないロングに疑問を持つ。
完全に格上が格下に対する態度だがケンキはその事に気付いていない。
静かにその場でどんな攻撃も対処する気持ちで立っている。
「ふっ」
そしてロングはその事に気付いている。
だからこそ学園最強という王者としてではなく挑戦者として挑める。
「ふはははは!!」
挑戦者として挑めることにロングは高笑いをしながら攻撃をしていく。
最近、壁にぶつかった気がしていたのだ。
これ以上の成長は難しいと考えていたところに、もう一度挑戦者として挑める相手がいる。
それが例え一学年であっても、お陰で壁を壊せる。
「すごい………」
そしてロングの動きが更に洗練されていく。
これまでも共に学園生活を送ってきた者たちもロングの動きには驚かされる。
明らかに成長していると。
だからこそ。
「そこだ!」
「あぁ~。惜しい!」
「もうちょっとです!」
「頑張れ!勝てるぞ!」
消沈してしまっていた応援が復活する。
そして。
「そこぉ!!」
渾身の一撃がケンキに決まる。
「「「「「「「「「「「オォォォォぉォぉォぉォ!!」」」」」」」」」」」
ロングの勝ちだと観客が雄たけびを上げて喜ぶ。
そしてロングも勝ったと拳を上げた瞬間。
「うぜぇ!!」
大剣を捨てたケンキの拳が再度、ロングを吹き飛ばした。
「えっ」
観客の戸惑いを無視してケンキは一瞬でロングに近づき今度は正反対に蹴り飛ばす。
「ガァァァァァ!?」
「今度は俺から攻撃するぞ」
その宣言から再度、一瞬でケンキに拳を振り抜く。
だがロングも意識を直ぐに取り戻し剣をケンキに向かって振り抜く。
「甘い!」
それをすり抜けるように避けケンキはロングの腹へと拳をぶつけて殴り飛ばした。
「マジかよ………」
「そんな………」
「勝ったと思ったのに………」
ケンキの復活とロングへの反撃に観客たちは言葉も出ない。
これで終わりかと思った。
だがロングは再度、ケンキへと突撃をする。
そのことにケンキは決して驚かず、むしろ予想していたと言わんばかりにカウンターを仕掛けた。
「今度はこっちの番だろう!?」
それを更にカウンターで返すが蹴りを腕で防がれ失敗し、そこで再度二人は距離を取る。
そして、もう一度お互いに突撃する。
違うのはケンキが大剣を持っていない事、そしてロングの服が血で染まって真っ赤になり更にボロボロになっていることだ。
だが先程よりは衝撃が強くなっている。
「すげぇ」
誰か言ったのかも分からない。
だが、その言葉に見ていた者達全員が頷く。
ロングは自分たちの生徒会長だ。
学園で最強の者が得る地位でそれに相応しい実力を持っていることも知っている。
だけど自分たちの予想を遥かに超えていた。
今も更に更にとケンキと戦う最中にも強くなっている。
「それにしても二人とも楽しそう……」
ケンキもロングも顔には楽しそうな笑顔で戦っている。
あまりにも楽しそうな笑顔に武人としての誇りを持っている者は羨ましく感じている。
あんな風に高め合える相手がいるのが羨ましいと。
そして、そうでない者にも強くなることへの興味を持たせる。
「くそ……!俺じゃ、まだまだ勝てないか」
「ケンキくんもあんな風に笑顔を見せるのは久しぶり。すこし羨ましい」
中には強い二人に嫉妬を抱く者もいる。
ごく少数だし、ほとんどの者が純粋に強くなろうとしているが、やはり更にその中の少数には卑怯な事を考えている者もいる。
そして幼馴染の二人は絶対に追いついてみせると決意を新たにする。
「うわっ……!と」
二人の闘いは更に激化して立ち上がって見ているのも辛くなる。
既に何人かは地面に尻もちを付いている者もいる。
「なんて衝撃波だ。結界を張ってあるのに立っていられないとは……!」
そして生徒たちを護るために教師の何人かは結界を張っている。
本来なら最高峰の結界で攻撃など一切通らせない筈なのに、ある程度の衝撃が襲ってくる。
最大出力にし、最初は問題無い程度まで防げたのが今では壊れそうになっている。
「本当にあの二人は規格外ですよね……」
その言葉に頷きながら結界を壊さないように更に魔力を注ぐ。
そうして二人の試合で生じる衝撃を防いでいく。
「はあっ!!」
ロングは剣を袈裟斬りにして振り抜く。
ケンキはそれを避ける。
「うわぁ!」
「きゃっ!!」
そこから発生した斬撃が生徒たちを襲う。
それを認識せずにロングは更に斬撃を飛ばす。
一度どころでは無く、何度も何度も。
「甘い!」
だが容易くケンキに懐に潜られて拳を腹にめり込まれる。
それでもと、意地を張ってケンキに剣を振る。
その行動にケンキは拳を突き出したこともあり、避けられない。
「ぐっ!」
「はぁ………。はぁ………」
そしてケンキは腕を斬られる。
血がぽたぽたと地面に落ちて見た感じでは、もう使えないだろう。
動かすのも無理だと見ていた者達は思う。
「「「なっ?!」」」
それなのにケンキは当たり前のように斬られた腕を構える。
この行動には戦っている相手であるロングも驚く。
本来なら動かせない筈の腕を構える。
それで本当に殴るのか、それとも囮かと悩み行動が止まる。
「馬鹿が!」
そこに、もう一度ケンキは拳を叩きこむ。
「おぉぉぉぉ!!」
続けて腕を蹴る。
しゃがみ込んで脚を、そして体制を崩した腹を。
最後に顔面を殴ってケンキは止まる。
「まだだ!」
ロングはすぐ様に立ち上がり自分に怒りを覚える。
意識を失わなかったのは痛みよりも戦いの最中で迷った己自身への怒りの所為だ。
迷ったからこそ、こうまで一方的に攻撃をされてしまった。
「らぁ!」
手にした剣をケンキに向けて突撃をする。
今度はケンキが何をしようと倒れるまでは絶対に油断をしないと決意を込めて剣を振る。
何度、避けられようと当たるまで剣を振るう。
「俺は貴様に勝つ!」
それに対してケンキは真正面から懐に潜り込んで拳を振るう。
さっきまでと違うのはケンキの拳を防いだり、避けたりしていること。
目の前の戦っている相手が今も尚、戦っている最中に強くなっていることにケンキは楽しくて笑う。
「はっ!」
剣の鋭さも増し、同時に斬撃を飛ばして来るため避けるのも一工夫がいる。
懐に入るのも厳しくなってくる。
そして斬られた腕を動かすのも辛くなる。
「つぅ!」
それでもケンキは懐に潜り拳を叩きこむ。
今度は腕で防がれたがロングの防いだ腕は使い物にならないだろ。
不自然に腕がぶら下がれている。
追撃をしようと、もう一度攻撃をしようとするが、もう片方の腕に持っている剣をしゃがんで避けて距離を取る。
剣を振る。
避ける。
拳を振るう。
防がれる。
剣を振るう。
切り傷が付けられる。
拳を振るう。
体のいたるところが殴られる。
それを何度も何度も繰り返す。
既に体力の限界の筈なのにずっと続けていく。
「勝つのは俺だ!」
「黙れよ!」
ボロボロの身体を操りながら二人は剣を、拳を相手に振るう。
そして。
「「はぁ…………。はぁ………」」
ケンキは腕を持ち上げる力も無くす。
ロングは剣を持つ力も力を無くして剣を地面に落とす。
それでも、こいつに勝ちたいと眼に戦意を燃やしながら互いに近づく。
「「おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」
そして残った力を使ってお互いに頭突きをした。