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「おや、君たちは?」


 ユーガ達は翌朝、パーティメンバーとメイを連れてケンキを襲った者たちの病室に訪れる。

 パーティメンバーたちにはケンキのことを伝えると自分たちも手伝わせてくれと自分達から言ってきた。

 正直、三人だけだと手が足りなくて助かった。

 そして予想通り、宮廷魔術師のメイを通せばどこの病室か教えてくれる。

 今は何人かに別れてメイの名前を使って病院を調べている。


「もしかして最年少宮廷魔術師のメイさんかい?」


 そしてメイはケンキを襲った者たちの一人の病室に訪れている。

 目の前にいる医者を無視してメイは怪我人に掴みかかる。


「え!?メイ様……?聞いて「何でケンキ君を殺そうとしたんだい?」……ひっ」


 余りの眼力に怪我人は怯えて震える。

 それだけにクスリを射って殺そうとした者達はメイの怒りに触れてしまったのだ。

 理由を話せと掴む力は更に強くなる。


「それは………」


「それは?」


「メイ様が……」


 そこで何で自分の名前が出るのか理解できないメイ。

 同時にサリナとユーガがケンキの襲われた理由を聞いて口ごもった姿が思いだす。


「私が?」


 それでも理由を知りたくて促す。


「メイ様がケンキという男と親しくしているからです!!」


「はぁ?」


 メイは確かにケンキと親しくしている。

 好意も少なからずある。

 それが理由なのかと信じられずにもう一度確認すると頷かれる。

 メイは感情が怒りで染まる。


「ふざけるな!」


 思わず怪我人であろうとかまわずに殴ってしまったが隣にいた医者は止めるつもりは無い。

 流石に死んでしまうと判断したら止めるが、それだけだ。

 医者として他人を嫉妬で殺そうとする者を治すのは抵抗がある。


「なんで私が誰かと親しくしてるという理由でその相手を殺そうとする!君は私の何!?赤の他人だろう!?」


 メイはどうしてサリナとユーガが教えてくれなかったのか理解した。

 たしかにメイが原因だとは本人を前にして言えなかったのだろう。

 二人の優しさに感謝もするが、怒りも湧く。

 自分が原因なら教えて欲しかったし、責めてもほしかった。

 それでもメイ自身を責めても何も変わらないとしても。


「ふざけないで下さい!貴方は私たちの憧れなんです!それなのにどこにでもいる男と笑い合うなんて!」


 だが怪我人も逆ギレする。

 自分たちの理想を押し付けて憧れといった存在に制限を付けようとする。

 その理不尽さに更にメイは怒る。


「何で君が決める。もしかして君以外も私に対して理想を押し付けているのか!?」


「当たり前です!メイ様は凄い方です!それなのに、それを曇らせてしまう者は近づかせたくありません!私たちは多くの者と協力して、それから防いでいます!」


「ふっざけるなぁ!!」


 自分の行動を把握して制限してきたことにメイは不快感が湧く。

 本当にケンキに斬られた全員が同じことをしてきたのなら腕や脚を斬り落とされたと聞いてもざまぁ、としか思えない。


「私は君の理想の存在じゃない!二度と私に関わるな!君たちなど、もう関わりたくもない!」


 そう言ってメイは病室から立ち去る。

 他の者も言っていた通りなら、ケンキを襲ったかを確認するだけで終わらせようと考える。

 接しただけで気分が悪くなりそうだ。

 取り敢えず、この病院にいる者たち全員を確認してからケンキに謝ろうと、この先のことを考えた。




「申し訳ありませんでした」


 そして次の所へ行くと頭を下げて謝れた。

 先程とは全く違う相手に気が抜かれる。

 強い嫌悪感を抱いていたのに少しだけ薄くなる。


「急に頭を下げてどうしたんだい?」


 だが、急に頭を下げられても何に対して謝られているのか理解できない。


「俺たちが貴方に理想を押し付けて、そして近づいた相手を害してきたことです」


 許せない。

 折角、仲良くなった子がいたのに急にいなくなったのは、こいつらの所為で関りがなくったのだと理解してメイは思いっきり拳で殴る。

 事実、確認するとそうらしい。

 生徒会のメンバーが今も関りがあるのは単純に強く排除が出来なかったからだそうだ。


「どいつもこいつも………!」


 頭を下げていようが、やってきたことは許されることは無い。

 少なくともメイから友を、出会いを全て奪ってきたのだから。


「すみません!もう二度と貴女には関わりません!」


 メイは更に不快な気分になる。

 それでも気持ちのままに部屋を出なかったのは理由がある。


「君もケンキ君を殺そうとしたのかい?」


「はい。よく知っていますね」


 メイの質問に素直に答える。

 その様子に怒りが湧く。


「それにしても彼は凄いですよね。クスリを打ったのに平然と動いて、しかも最終的には殺そうとした俺たち全員の腕か脚を斬り落としたんですから!しかも、その際の目を知っていますか!?何も関心を持たない眼で見てくるんですよ!」


 その言葉にメイは理解する。

 憧れの存在が自分ではなくケンキに変わっただけだと。

 相変わらずに自分に憧れ狂信する者がいればケンキに対象が変わっただけの者がいることを。

 狂気から染まった眼から逃げるように病室から出ていき、そして他の者たちにも確認していく。

 そして、この病院では斬り落とされた者たちの半分はケンキに狂信を抱いていた。

 もう半分は変わらずにメイに憧れを抱いている。

 だが二度とケンキに逆らえないのが大半だ。


「はぁ。ケンキ君に会って癒されたい」


 既にこの病院の部屋に居ることは知っている。

 メイはその部屋に向かって一直線に歩き出す。

 そして、目当ての部屋に入るとファルアがケンキの前に土下座をしていた。


「は?」





「済まなかった。謝って済む問題ではないがケジメとして謝罪を受け取って欲しい」


「別に良いですよ。良い経験を積めたので」


 ファルアの土下座での謝罪を一瞥してケンキは読書を再開する。

 気に入った本に集中したいのに邪魔がいて少し機嫌が悪い。


「何をしているんだい?」


 そこにメイが現れ疑問を口にする。

 ファルアもケンキを殺そうとした者達に含まれているのは驚いたが、それ以上にケンキが許していることに色々と言いたくなる。


「君は殺意を持って行動を起こされたんだよ!もっと色々と言っても良いと思うんだけど!?」


「興味ないです。実際、教師や生徒会長にも罰は求めないと言いましたし。俺を殺しに挑む分には好きにすれば良い。限度が過ぎたり気分で返り討ちで殺すかもしれないが、そのぐらいは許せ」


「………はい」


 ファルアは恍惚とした表情でケンキの言葉に頷く。

 その様子に、こいつもかとメイは床に手を付く。

 何で殺されかけて腕や脚を斬り落とされたのに、こんなにケンキに狂信者が現れるのか疑問だ。


「私としては殺されかけた癖になんでケンキ君に憧れるのか理解できないよ……」


 ついつい、ぼやいてしまった呟きにファルアは反応する。


「それは彼が強いからだよ」


 その言葉にどういうことかと疑問を持つ。


「俺は男だから強い者に憧れてしまうんだよ。それも決して追いつけないと思ってしまったモノにはな」


 メイは決して追いつけないという言葉に理解を示す。

 訓練所でも見たが、あれに勝てるのは才能が有って努力してきた者だけだ。

 それでも勝てる可能性はかなり低い。


「強い者は美しい。本当にそう思ったんだ」


 男相手に美しいという言葉にはどうかと思うがメイも納得する。

 本当に殺すために行動する一つ一つの所作が美しいと感じた。

 共に迷宮に挑んだが何度見惚れてしまったか数え切れない。


「うるさい」


 ケンキがどれだけ凄かったか、美しかったか話し合っている二人にケンキは魔法で造った石をぶつける。

 二人は痛みよりも何もない空間に造られた石を拾って大騒ぎをして、それにケンキは溜息を吐く。

 その石は二人にとって大騒ぎをしてしまうモノだが、ケンキにとってはどうでも良いものだ。


「何もない空間に土魔法を使ったけど、どうやったんだい?」


 本来なら土魔法は地面に触れていないと使えないのに石が飛んできたことに驚く。

 ケンキの病室は三階と地面から離れているからこそ不思議だ。


「へ?こう空中に色々集めたら石が出来たんですけど」


 ケンキは石を造るのを実演する。

 それを見て感心する二人。

 空中でも土魔法を使える可能性があると理解して目を輝かせる。


「でも、これは本当に石か?前に造った時は水が出来たり毒が出来たりと意味が分からないんだが」


 ケンキの毒という言葉に二人は拾った石を驚いて手放す。

 そしてメイは何てものを投げて来たんだとケンキを睨む。


「君は私たちを殺す気かい?」


 そして、ぶつけられた石を見る。

 だが、それには毒を封じる魔法が掛けられていた。

 最初から対処されていたことも、それに気づかなった未熟さにもメイはイラっとくる。


「……………ふぅ。最初から毒を封じているなら、そう言いなさいよ」


「別に病院だから、もし掛かっても大丈夫だと思ったが悪かったか」


「悪すぎる」


「ごめんなさい」


 メイの責める言葉にケンキも謝罪を素直にする。

 毒だったとしても封じているが、そういう問題じゃないという言葉に考えざるを得ない。

 だが病室で騒がしくした方も悪いとケンキは考えていた。


「それと悪いけど石を渡してもらって良いですか?」


 毒を封じている魔法を使っていることを確認しながらメイとファルアの二人はそこらに投げてしまった石を拾う。

 ケンキはそれを回収して適当な袋の中に入れた。


「それをどうするつもりですか?」


「さっきも言ったけど水も出来てしまうことがあったから成分を軽くでも調べようと思って」


「………私が調べても良いかい。結果は伝えるよ」


「構いませんよ」


 ケンキからの快諾もあってメイが受け取る。

 メイ自身もこの石には興味がある。

 同じ作り方をしたのに水も出来ると話を聞いて自分の実験室にケンキを呼んで調べてみたいと思ったほどだ。


「被害者と加害者が揃っているな。それにメイもいるのか」


 そして袋に入れたところで教師が病室に入って来る。


「処罰でも決まったんですか?」


 ケンキは教師が入ってきたことに驚かずに当たり前のように質問をしている。


「そうだよ。それよりも君は寝て無くて良いのかい?クスリを射たれていたのに無理をして動いていたそうじゃないか?」


 教師の言葉に頷いてケンキはベッドに思いきり倒れる。

 あまりの勢いにメイとファルアは心配して、駆け寄る。


「起き上がれるように意識するのを止めたから倒れただけなので心配しなくても大丈夫です。今はこうやって倒れて一切動けない方が楽ですが」


 更に心配してしまことを言うケンキ。

 それに教師は溜息を吐いて、本来の用事をこなそうとする。

 さっさと伝えて帰った方がケンキも楽が出来るだろうと考えたからだ。


「君を殺そうとした者達は全員、君のフォローに回ることになる。君が無罪でも構わないという言葉とファルアの君の補佐として尽くしたいという言葉から、そうなった。何か困ったり手伝ったりして欲しいことがあったらファルア達に頼みなさい」


「わかりました」


 教師の言葉にケンキは倒れたまま返事をするが、教師は気を悪くしない。

 クスリを射たれていることは知っており、同じ学園の者に殺されかけたのだ。

 本来は起き上がるのも辛いと先に医師に聞いてあるから、先に寝てても良いと言ったのだ。


「それと一週間、掛かっても無理そうなら学園に来なくても良いから。完全に回復してから学園に来なさい」


「………わかりました」


 教師は間が開いたことに疑問を持ったが何も聞かなかったことにする。

 回復を優先しろと言ったのに派手に動くことは無いだろうと考えたからだ。

 動くとしても身体が固まったりしないように柔軟や散歩ぐらいだろうと予想して病院から去っていった。







「ケンキ君、大丈夫なの?」


「正直言って、一度気を抜くと起き上がるのは辛い」


 その言葉通りにケンキは起き上がろうとする度に苦悶の顔をする。

 それを見てファルアは背中から押して起こす。


「ありがとうございます」


 起こしてくれたことにケンキは礼を言って本を取り出す。

 それを読む前に首だけを動かしてメイに顔を向けた。

 未だメイには何の用で部屋に来たか聞いていないからだ。


「あぁ、単純に見舞いだよ。まぁ、ファルアが目の前で土下座していたせいもあって色々と吹っ飛んで行ったけどね」


 ケンキはわざわざ見舞いに来てくれたことに礼を言う。

 そこまで付き合いがあるわけでも無いのに来てくれたのは嬉しく思う。


「それと癒してほしくてね」


 メイはケンキに抱きついて顔を胸に埋める。

 ケンキは年上の女性の身体の柔らかさと匂いに何も考えられなくなる。

 ファルアは二人が重なり合っている姿に鼻息荒く興奮している。


「………癒してほしいって何があったんですか?」


 ケンキの疑問に答えたくないと言わんばかりに更に強く抱きしめるメイ。

 どいつもこいつもケンキに憧れるにしろ自分に憧れるにしろキャラが濃すぎた。

 最早、崇拝や狂信ともとれる眼差しに同じ視線を向けられているケンキと分かち合いたくて抱きつく。


「あの………?」


 メイは抱き付いたまま何があったか話す。

 自分達に崇拝を抱く狂信者たちがいること。

 自分の所為で仲良くなれた友達が退学したり、距離を取られたことを。

 同じ目に遭うだろうケンキに対して警告と共に教えていく。


「ファルア………」


 ケンキはそれを聞いてファルアへと視線を向ける。

 視線を向けられたファルアは目を逸らした。

 その事に溜息を吐いてケンキは自分もメイと同じような経験をするのだろうと諦める。

 流石に幼馴染の二人に被害が及んだら動こうと決意する。


「とりあえずサリナとユーガの二人に手を出したら殺す」


 釘をさすことも忘れない。

 昔から一緒にいてくれた幼馴染だからこそ、害されたら許せないのだ。

 それこそ、その相手を殺そうと思ってしまう程には。

 今回の件もそうだ。

 結局のところ、ユーガもサリナも何も被害にあってないから許している部分もあった。


「他の奴にも伝えておけよ」


 ケンキはファルアに視線を向けて告げる。

 まるで羽虫を見るような視線にファルアは背筋をゾクゾクと振るわせて頷いた。


「うわ……。キモ」


 ファルアはキモイと言われても気にしない。

 むしろメイが理解できていないことを残念に思っていた。


「それでは俺は皆に伝えていくので」


 ファルアは残念そうな表情でケンキの病室から出て行った。

 そして今、病室にいるのは二人だけ。


「……君は殺そうとしてきた相手を許したんだね」


 メイは折角だからと許したことを詳しく聞こうとする。

 自分だったら殺そうとした相手を許せる気にならない。

 むしろ、いつ殺されるか分からないから退学にするどころか牢屋に入れようと考える。


「俺相手に殺すつもりで挑んで来るのは色々と勉強になるので。まぁ、弱点だと思われて幼馴染が襲われたら理由も聞かずに殺しますが」


「本当に幼馴染が大事なんだね」


 メイの言葉にケンキは頷く。

 その反応にメイはケンキが可愛いと思えてくる。

 いくら強くても人間らしさがあって遠い存在と思えない。


「それで、どういうことが勉強になるんだい」


 メイは話を戻して色々と勉強になるという内容を聞く。

 殺されかけるほどの価値があるのか知りたいのだ。


「相手はこちらの実力をほぼ完璧に把握して殺しにかかりますからね。どうやっても無理だと判断したらクスリも使って弱らせてくるし。格上を殺すための手段とか、やられたことを参考に使う価値がありそう」


「そ……そうか。君は殺しにきた相手を格下だと思ってるんだね?」


「当然です。じゃなかったらクスリを使ってまで殺しに来るはずがないでしょう」


 ケンキの言葉に頷かざるを得ない。

 実際、ケンキの実力は学園どころか国でも相手を出来る者は少ないだろう。

 それなのに今はまだ只の学生でしかないファルア達が勝てるとは思えない。


「確かに。じゃあケンキ君はどうやって相手を弱らせるか興味を持っているんだね」


 メイの言葉にケンキは深く頷く。

 そして、ただと続ける。


「?」


「人質はキツイ。一人でも死んだらダメだし、無視したくても周囲がそれを許さない」


 メイは当たり前だと言いたい。

 だが、本当に面倒な顔をしていて一番の弱点はそれかと理解する。

 同時にそうなった場合、どうするか興味を持つ。


「一番楽なのは誰にも関りを持たない事ですね。そうすれば弱点となる人質はいなくなりますから」


 寂しい生き方になるとメイは思う。

 自分には決して耐えられないとも思う。

 そして誰だろう無理だろうと考える。

 事実ケンキも誰にも関りを持たない生活は出来ていない。


「まぁ、どうやっても無理ですが」


「だろうね」


「よっぽどのクズじゃないと人質を無視することなんて出来ませんしね」


 確かにとメイは笑う。

 幸いなのは、そんな者は………いた。

 ファルア達ならメイは人質となっても無視して行動できる。

 そのことに思い当たって死んだ目になる。


「人質となっても無視できる奴がいたんですか?気にしなくても良いと思いますよ。そんな相手がいても普通ですし、どうせ他の大切に思っている者が止めるでしょう」


「…………」


 自分は嫌いでも他の誰かにとっては大切な者の可能性があると聞いて押し黙る。

 フォローだったかもしれないがメイは考えたくは無かった。

 そしてケンキはその事を念頭に置いてあるから人質は面倒だと言ったのだろう。

 メイも同意見だ。


「話を変えよう!ケンキ君は好きな女性とかいるのかい!?…………あ」


「いない」


 言って、早々にメイは後悔した。

 ケンキの即答した言葉も頭に入らない。

 本当に何を言っているんだと頭を抱える。


「ごめん。話を変えようと思って変なことを聞いてしまって………」


 メイは顔を真っ赤にして謝る、

 ケンキはそれを横目に見てベッドに倒れる。


「ケンキ君!?」


「見舞いに来てくれて有難かったです。もう帰ってください」


 ケンキの言葉にショックを受けるメイ。

 厳しい言葉に涙すら浮かんでくる。

 それでも去らないのは急に倒れてしまって心配だからだ。


「本当に眠くて、これ以上は相手にできま……せ…………」


 ケンキはそこまで言って言葉を途切れさせる。

 メイは気になって顔を覗き込むと目を閉じていて本当に寝ている。

 続けられた言葉も考えると悪意は無かったのだと理解するが言い方が悪すぎると思う。

 起きたら、そのことを注意をしようと病室にいることにメイは決めた。

 そしてケンキのベッドに上り頭を膝に乗せて髪を撫でる。


「ふふふ」


 本当にメイは帰れと言われてショックを受けたが直ぐに立ち去らないで良かったと思う。

 でなければ、何でそんなことを言ったのか、ずっと理解できずにいたはずだ。


「ケンキ、見舞いに来たぞ!」


 そこにユーガ達が病室に入って来る。


「あ………」


 メイがケンキに膝枕を見てしまい、メイは見られたことにユーガ達は見てしまったことに互いに固まった。

 そしてユーガ達は部屋から出て行った。


「ちょっと待ってくれないかい!?」


 見られたことの恥ずかしさにメイはケンキの頭を膝から降ろして追いかける。

 そして扉を開けると直ぐ傍でユーガ達は目を擦っていた。

 それほど信じられない光景だったらしい。


「お久しぶりです」


 マイナは先程の光景を無かったかのようにメイに挨拶をする。


「そうだね。久しぶりだ」


 メイも同じように挨拶を返した。


「………あの。迷宮に挑んでいる時、助けてくれてありがとうございます!」


 シャルはあの時に結局、助けてもらったのにお礼を言えなかったと悶々していたらしい。

 お礼なら手紙でもしたが、こういうことは直接言いたかったみたいだ。

 メイが宮廷魔術師だから無理かもしれなかったが、機会があれば言いたかった。


「どういたしまして。こちらこそ、お礼を言ってくれるなんて助けれて嬉しいよ」


 まるで、他は助けてもお礼を言われたことは無いと言うような言葉。

 その事にシャルは踏み込んだことを聞いてしまう。

 そして、メイは溜息を吐く。


「他の宮廷魔術師たちは直接その場でお礼を言われているみたいだけど、私は直接言われたことが無いんだよ。その分、手紙でお礼を伝えて貰っているんだけどね」


 メイの言葉にシャルたちは納得する。

 現にユーガ達も直接、お礼を言えなかった。

 それもメイという有名な相手に助けてもらって頭が真っ白になった所為でもある。


「………そうなんですか」


 その相手の気持ちも分かるから何とも言えない。

 自分たちもメイという憧れの存在に助けられたら頭が真っ白になってお礼を言うことも忘れてしまう。

 その事を告げるとメイは照れてしまう。


「そ………そう。そう言ってくれると嬉しいよ」


 顔を赤くするメイを横目にサリナはケンキに近づいて顔を覗き見る。

 そしてケンキの頭を軽く撫でていく。


「………。そういえばケンキ君を殺そうとした者達の情報を集め済んだのかい?」


 その様子をジッと見ながらメイはユーガ達に質問する。

 二人から目を離さないのは自分でも理解が出来ていない。

 だた、どうしても離せないのだ。

 それはユーガ達も同じでサリナ達から目を離せない。


「………はい「サリナか?」ケンキ、起きたのか!?」


 ユーガから情報を聞こうとするとケンキの目が覚める。

 そのまま起きようとしていたが力が入らないために起き上がれず、そのまま倒れ伏したまま首だけを動かして顔をメイたちへと向ける。


「相手するのも辛いから帰れって言ったはずだけど………」


 見舞いに来たのに素っ気ない言葉にメイは苦笑する。

 悪気が無いのは理解しているから何も言わないが、逆に言えば悪気が無いのを理解していない者にとっては不快な言葉だ。

 すぐ近くにいたサリナはケンキの頭を叩いて謝らせようとする。


「言い方が悪すぎるよ……。ケンキくんの体調が悪いのはみんな知っているから無理して相手をしようとしなくて良いからね」


 ケンキはサリナの言葉に頷いて身体の力を抜く。

 これ以上は何も相手をする気は無いようだ。

 ユーガたちパーティメンバーもクスリを射たれたことを知っているから何も言わない。

 むしろ反省している者もいる。

 折角、寝て休んでいたのに自分たちが邪魔して起こしたのではないと考えていた。


「ケンキ君。私たちは、そろそろ帰るよ。君たちも一緒に来てくれないか?」


 メイはその言葉と共にユーガ達と病室から出ようとする。

 ユーガ達も頷いて出るがサリナだけは名残惜しそうに一度だけ頭を撫でて病室から出て行った。






「ケンキ君を殺そうとした者達の情報を教えてくれないかい?」


 病院から出て近くの喫茶店でメイたちはケンキを殺そうとした者達について話し合う。


「取り敢えずメモを取ったので、これをどうぞ」


 ユーガから受け取ったメモには名前と病院が書かれてある。

 見やすくも書かれており、非常に助かる。


「ありがとう。それとケンキを殺そうとした者達は無罪になるそうだ」


「「「「はぁ!!?」」」」


 メイの言葉にユーガたちは何でそうなるんだと叫ぶ。

 その理由も話すと納得はしていないが、何とか理解はしたようで何も言わなくなる。


「フォローに回るって言ってましたけど信頼できるんですか?」


 その言葉も最もだとメイは思う。

 今日、見た中でも数人はケンキに反感を持っているだろう。

 それでもだ。


「反感を持つ者はいるだろうけど、大半は二度とケンキに逆らえないみたいだから大丈夫じゃないかい?」


 メイはケンキに崇拝する者、怯えている者も見てきたから大丈夫だろうと思っている。

 後は、あれだけの目に遭っても逆らう者がいるのか調べるだけだ。


「なら、その捜査に協力させてください!」


 ユーガ達も、その調査に協力させてほしいと頼みでる。

 大事な幼馴染を殺そうとしていた者達の顔も見たいのだ。


「………わかった。ただし、絶対に彼らの言葉を聞いて何も反応をしないでくれよ。ただ黙って聞いていてくれ」


 メイはユーガ達に条件を付ける。

 どんな理由であれ四肢を失った者に対する暴力は問題にされてしまう。

 なら連れて行かなければ良いだろうが、既に名前を知っている為に時間の問題だ。


「……………わかりました。でも、これだけは教えてください」


 ユーガの言葉に何だと促すメイ。

 予想は付いているが、あまり聞きたくない。


「俺たちを怒らせるようなことを彼らは言うんですか?」


 サリナもユーガと同じように嘘は許さないとメイを睨む。

 当然、メイは隠す必要性も感じないから頷いた。

 その事に握り拳をつくる幼馴染たち。


「これだけは言っておくけど………」


 メイの言葉に何を言われるのか集中する。


「ケンキ君の入院している病院で見た彼らの中にはケンキ君を崇拝した者もいれば反感を抱いた者もいる。そして先程も言ったけどケンキ君には二度と逆らえないのが大半だからね」


 メイの言った前提条件にユーガ達は頷き、ケンキが入院している病院にいる者に会わせてもらおうと頼む。

 それに頷いて再度、病院へと向かう。

 目的はユーガ達がケンキを殺そうとした者へ、どんな行動を起こすか調べるためだ。

 それによってはユーガ達に対する対応も変えていく。

 暴れてしまうなら魔法を使ってでも押さえつけるし、言われた通りに黙って聞いているだけなら何もしない。

 例えメイ一人に対してユーガ達五人でも余裕で抑えられる。

 宮廷魔術師は伊達ではない。

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