病院
「それでケンキくんは彼らをどうするの?」
サリナの質問にケンキは首を傾げる。
言っている意味がわかっていない。
「だからケンキくんを殺そうと色々、行動していた者達の処分はケンキくんにあるんでしょう?」
その説明にケンキはやっと理解が追い付く。
その様子にサリナと近くにいたユーガは溜息を吐く。
「もしかして、どうでも良いと言わないよな?」
「よく分かったな。正解だ」
ケンキがそう言うとサリナとユーガは同時にケンキの頭を叩く。
二人はケンキのこういう所が嫌いだ。
こっちが心配しているのに、それを気付かずに無茶することも大抵のことには無関心でいることもだ。
今もそう。
自分の命を狙った相手に警戒せずに無関心でいることが腹立たしい。
「あいつらはお前を殺そうとしてしたんだぞ!退学にでも、もしくは牢屋にでも入れされれば良いだろうが!」
「だから最初は殺そうと思ったけど予想以上に脆くて飽きた。流石に人前で殺す気にはなれなかったし」
「「………はい?」」
ケンキの殺す気だったという言葉に文句が出なくなる。
基本的に自分の興味があること以外は無関心なケンキがハッキリと害意を持って殺すという言葉を使ったことに驚いてしまう。
そんな二人にケンキは溜息を吐く。
「一応、俺も殺そうと行動されたらやり返す気概はある。今までは命に関わることは無かったし直ぐに仲良くなったりしたから、やり返さなかっただけで」
そういえば、と思いだす。
どいつもこいつも昔は男が料理をするなんてとバカにしていたが一度、ケンキの料理を食べてからは感心した視線を向けていた。
口ではバカにしていたが暴力とかは一切使っていなかった。
「そういえば、そうだったな」
逆に言えば暴力を使われたら暴力で返していたということだろう。
口だけで一切、暴力を使わなかったことに安堵の息を吐く。
昔からケンキは強かったのだ。
使われていたら一生に残る傷を負わせられたかもしれない。
「それで結局、無罪で返すの?私は嫌だよ、そんなの」
決めるのはケンキだ。
だがユーガはサリナの言葉に同意して頷く。
「無罪にする。どうせ二度と俺に歯向かえないだろうし」
気に食わない。
気に食わないがケンキが決めたことだから二人は顔を見合わせて何も言わないことに決める。
その代わりにケンキが何をされたのか?
それに対してどうやり返したのか聞くことにした。
「はぁ……」
「あはは……。ケンキくんはやっぱり、すごいよね」
ユーガはサリナの言葉に頷く。
無罪にすると聞いて最初はふざけているのかと思ったが、やったことを聞くとケンキに二度と歯向かえないだろうとの言葉に納得するしかない。
まさか一人一人の四肢のいずれかを切り落としたり、主犯を最後にして絶叫を聞かせるなどして自分のしたことの結果を教えて殺そうとするなんて残酷だ。
だけど二人にとってはケンキに対して特に何も思わない。
むしろケンキを殺そうとしたと聞いている主犯たちにざまぁ、と思っている。
「一人残らず両腕両脚のどこかを斬り落とすか……。ユーガくんなら出来る?」
「さぁな。もしかしたら誰か見落とすかもしれない」
話に聞くと数十人はいたのだ。
隠れていることもあって見逃してしまうこともあるだろうに、よく全員を四肢のいずれかを斬り落とせたものだ。
「あっ。それとお願いがあるんだけど良いかな?」
不安そうにユーガの顔を見上げて尋ねるサリナ。
「良いぞ」
「はい?」
それに対して即答でユーガは答える。
まだ内容も言ってないのに頷くユーガにサリナは首を傾げてしまう。
「ケンキを殺そうとした者たちの確認だろう。俺も知りたい」
本当に言いたいことが分かっていてサリナは驚いた。
同時に同じことを考えていたと知って嬉しくなる。
「あまりにも酷いようだったら、どこかの暗殺者にでも依頼をするのも良いかもな」
暗殺者に依頼するなら、どういう目的かは理解できる。
サリナも同意見だ。
大事な幼馴染を殺そうとして、本人が許しても自分たちは決して許す気は無い。
「まずは聞き込みをしないとな。どうせ教師たちは何で斬り落とされたのか説明をしないだろう。同じように病院もプライバシーの侵害として怪我をした者を教えない。俺たちのパーティメンバーにも頭を下げるか」
「……うん。皆には迷惑をかけるけど協力してもらおう」
どうやって探すかパーティメンバーにも協力して貰うことを決めた二人。
理不尽な嫉妬で殺されかけたと教えたら協力してくれると考えてのことだ。
それで協力してくれなかったら、それで構わない。
どちらにしても探し出すのは変わらない。
手間が増えるだけだ。
「それじゃあ早速、聞き取りに行く?」
「そうだな。早速、聞き取りに行こう。数十人もいるんだ何日もかかっても、おかしくない」
ユーガの言葉に頷きサリナ達はケンキを殺そうと実行に移した者たちを探ろうと動き始めた。
「今日も来たのかロング」
「そうだ。お前への罰をケンキに聞いたら直ぐに答えてな。それを教えようと思ってな」
それはそれは、と興味深そうにロングの言葉に耳を傾ける。
どうせ重い罰だ。
最悪、犯罪者として牢屋にぶち込まれるとファルアは覚悟している。
その様子にロングは苦笑して答える。
「無罪で良いそうだ」
「は?」
「だからケンキはお前を無罪で許すと言ったのだ」
信じられないという気持ちが分かってロングは聞き返したファルアの為に繰り返し言う。
なにせロングも始めに聞いたときは何度も聞き返してしまったのだ。
気持ちはよく分かる。
「馬鹿なのか彼は」
ファルアの言葉に気になる部分があったが、それよりもケンキの言っていた言葉を伝えることにするロング。
これを聞いてロングは何とも言えなくなった。
「さてな。ただ、もう二度とお前が自分に歯向かうことは無いとは言っていたがな」
ファルアはその言葉を聞いて苦笑する。
ケンキの言っていることは事実だからだ。
もう二度とケンキに逆らえないだろう。
それだけの暴威が刻まれてしまっている。
ケンキには無条件で従い逆らうことは考えらないだろう。
その事をロングに言うと口を開けて固まってしまう。
「あのお前が!?」
ロングの言葉にファルアは苦笑する。
確かに信じられないのも無理はない。
何度もロングに痛い目に合わされながら懲りずに害しようとして来たのだ。
二度とやらないと言われても信じられないのだろう。
「ハッキリ言って彼には力の差を教えられたよ。きっと俺が何をしようとしても問題にもしないだろうな。
むしろ良い経験だと糧にされるだけだ」
本当に心が折れてしまっていると察してロングはケンキに対して少しの劣等感を覚える。
少なくともロングには、どんな形であれ止めることはできなかった。
それなのにケンキは一度で止めた。
「そうか。それでお前はこれからどうするつもりだ?まるで学園を止める雰囲気が出ているぞ」
首を一度振って劣等感を振り払いロングはファルアに質問をする。
まさしく、そんな雰囲気を放っていたのもあって気になってしょうがない。
「いや、退学するつもりは無い。彼の意見で無罪になってしまうなら少なくとも卒業するまでは彼のフォローを優先して過ごしたいと思っている」
ファルアの言葉に本当に反省しているようにロングは判断する。
ケンキの意志とファルアの意志を教師に伝えると軽い罰になるだろうと予想する。
「わかった。実際にお前への罰を決めるのは教師だ。お前の意志も伝えて罰が決まったら伝えにくる」
その言葉にファルアは頷く。
罰を受けることになっても、やるべきことは変わらないから結果にそこまで興味を持っていない。
どんな形でもケンキのフォローをすると決めているからだ。
「あっ、待て」
ロングが部屋を出ていこうとするのをファルアは止める。
言っていなかったことがあるのを思い出したためだ。
「今まで済まなかったな」
何だと振り返ってみたら予想もしていなかった言葉にロングは驚いて固まった。
「まさか、あいつが今までの謝罪をするとはな」
ロングはファルアが過去のことを謝罪したことの驚きが抜けないのか部屋から出ても口に出している。
それだけ驚いたのだろうが、その所為で前をちゃんと見ずに誰かにぶつかってしまう。
「きゃっ!」
「え?」
目の前にはぶつかったせいで一方的に倒れてしまう少女。
それを見て謝罪をしながら立ち上がれるように手を貸す。
「ほんとうに済まない。大丈夫か?」
「いえ、こちらこそ。って生徒会長?」
ぶつかった少女はケンキの幼馴染のサリナだった。
「サリナ!少し待て……って、生徒会長?」
その後ろからユーガも現れる。
この二人がいるということはケンキもいるのだろうかとロングは考える。
そうすると、どこか怪我をしていたのか気になる。
「実はケンキはクスリを打たれたらしくて病院に無理矢理、連れて行ったんですけど入院することになって……」
「今は病室から帰っていくところです」
そういうことかと納得する。
それにしても二人の目が怒りと殺意に満ちていることにロングは気づく。
生徒会長としては見逃すわけにはいかないと会話を続けて理由を探ろうとする。
「そういえば生徒会長。犯人たちの処遇はどうなるんですか?」
だが向こうから口に出していく。
それ程までにケンキを傷つけられたことに怒っているらしい。
場違いだが少し微笑ましく思う。
隠すことでもないためにロングはケンキが無罪でも良いと言っていることと本人がフォローに回りたいとの意思もあり学年関係なきケンキの下に着く可能性が高いことを教える。
「………それって主犯だけですか?」
「あぁ、それ以外はどうなるか、まだ予想が付かないな」
サリナの質問にロングは予想と付け足して答える。
本当に反省をしていると聞いたのもあって殺意は薄くなる。
その分、怒気は増えているが。
「主犯に会わせてもらっても良いですか?」
もう一人いるユーガの疑問にロングは首を縦に振る。
先程、部屋を出たばかりだが、そのぐらいは構わないだろうと判断したのもある。
そして、もう一度ファルアの病室へと入る。
「あなたがファルアですか?」
サリナは挨拶の一つもせずに本人であるかを確認する。
その目にある怒りにファルアは気づきながらも頷く。
「貴様がケンキを殺そうとクスリを打った主犯か!?」
直後、ユーガが怒りのままに殴りつける。
本来なら簡単に受け止められるだろうに殴られたことに態とだと察してロングは何も言わないことにする。
病室で暴れるのは問題だがケンキとユーガとサリナの関係から止めるのも難しい。
「すまない。俺はもう二度と、こんなことはしない。彼に関しても退学になろうが、そうでなかろうが過ごしやすいようにフォローをしていくつもりだ」
「だからと言って……!」
「あいつが許しても俺は許せない!」
既にロングから、これからどうするか聞いていたが、やはり幼馴染を殺そうとしたことが許せないのだろう。
何を言おうが信じられずに目の敵にしている。
ファルアもそのことを解っているのか何を言われても黙っている。
「ふぅ。今は信じるわ」
「は?急に何を言っているんだ、サリナ!」
「ありがとう」
「おい。だか「それよりもあなたの他に参加した者達を教えて下さい」……そうだったな」
ユーガはサリナの意見に不満を持つが続けられた言葉に納得する。
もともとの目的はケンキを殺そうとした者達の把握だ。
まずは、それが最優先だ。
それに話すなら少しは信じられるし、話さないならファルアの言っていることは信じられないと判断できる。
「わかった。数十人以上いるが大丈夫か?」
ファルアもそのことを察して苦笑して頷く。
サリナとユーガは数十人以上と聞いてメモを準備した。
それを確認してファルアは名前を言い始める。
「まずは………」
「………これで全員だ」
ファルアが約束通りに全員の名前を言ったのをサリナ達はメモをする。
丁寧に学年まで教えてくれたために調べやすくなっている。
そのことに関しては感謝しても良いかもしれない。
「ありがとうございます。それじゃあ私たちは失礼します」
要件は済んだと言わんばかりに去るサリナ達。
失礼にも程があるがロングたちは何も言わずに苦笑するだけだ。
そして病室から去った後。
「自業自得とはいえ大分嫌われているな」
その言葉にファルアは頷くだけ。
それだけのことをしてきたと自覚はある。
信頼を取り戻すのはかなりの時間がかかるだろう。
そして、それは今出て行った二人だけではない。
目の前にいるロングに対してもそうだ。
「それはお前もだろう」
ファルアの言葉にロングは頷くだけ。
だが、それだけで当然のことだろうと言われている気になる。
「一つ言っておくが、お前を嫌っているのは俺やあの二人だけはない」
「お前のパーティメンバーもだろう?わかっている。自覚もしている」
ロングはファルアの頷いて答える。
少し意外そうにしているのは自分のしてきたことを反省しているからだ。
今までは全く反省も謝罪もしていなかったのに、それだけケンキにやられたことはトラウマになったのだろう。
からかい交じりにロングはそれを口にする。
「そうだな。トラウマとは違うが魂に刻まれたには違いない。世の中には絶対に敵に回してはいけない存在もいるんだと知ることができたし。純粋に強いということが、どれだけ美しいか理解できた」
美しいとか何を言っているんだとロングは思うがファルアを見ても本気で言っているようにしか見えない。
対象が変わっただけだと思うにはファルア自身も変わり過ぎている。
ロングはケンキに対してファルアがどう思っているか話を聞いて確認することを決める。
「こういうのも何だが。今思いだすと彼の動きは認識できない部分もあったが総じて美しかった。特にあの鋭い剣筋。強化された魔獣に対し素手で挑んだ時に見せた貫くような視線と突き出した拳の威力。どれもがすごかった」
完全に熱に浮かされたような表情でファルアは口にする。
それを聞いてロングは更に興味を持つ。
戦いたいと思っていたが話を聞いて更にその想いが強くなる。
少なくとも人の意識を変えてしまう程の動き。
それを味わって見たくてしょうがない。
一緒に迷宮に挑んだ時は手加減をしていたのだと理解する。
「本気で挑みたいが、それはケンキに打たれたクスリが抜かれてからだな。それまでに鍛え直さないといけないな。丁度良いから一から鍛え直すか」
ロングは絶対にケンキに挑むと決意し、戦える日まで鍛え直すことにした。
当然、他の者も。
特にパーティメンバーには鍛え直すのに手を貸してもらうつもりだ。
「主犯からケンキを殺そうとした者達の名前を聞けた。あとは何処の病院にいるかだな」
ユーガの言葉にサリナは頷く。
主犯が大切な幼馴染のケンキと同じ病院にいるのは驚いている。
だが主犯が同じ病院にいるからと他の者も同じ病院にいるとは限らない。
その為に、まだケンキを害する気があるのか調べるのは後で良いと思っている。
先ずは何処の病院にいるか確認する必要がある。
「さて、どうやって調べるか……?」
その方法が二人は思いつかない。
パーティメンバーに相談しようか悩む。
「どうしたんだい?二人とも」
そこにメイが現れた。
ユーガはメイを見て目を輝かせる。
探すのに思いついた方法があり、その為にはメイの協力が必要不可欠だ。
経緯と共に協力の説得をする。
「へぇ、いいよ。むしろ協力させてほしい」
ケンキを狙った事件と加害者を探すことを説明されるとメイは協力を快く引き受ける。
むしろ自分から協力させてほしいと言っており、かなり怒っているのが目に見える。
「で、何をすれば良いんだい?」
一般人なら病院の方からもプライバシーの侵害だと断られるがメイの様な宮廷魔術師という立場が有る者なら話を聞けるという考えだ。
説明をすると、たしかに出来るだろうと頷いた。
「それじゃ、私の後ろに付いてきて来てくれないかい?」
名前をメモしてあるんだろうと、続けられた言葉に頷いて、いくつかの病院の受付に名前を確認しにいった。
結果として予想通り、いくつかの病院に別れて入院していた。
時間はもう遅い為に二度とケンキに害さないか確認できないが明日から行動するつもりでサリナ達は考えている。
その際にはメイも参加すると言ってきて二人は頷いた。
「そういえばケンキ君は無事だったのかい?」
メイはケンキが殺されようと襲撃を受けていたのは聞いていたが、無事だと思い怪我の程度を聞いていなかった。
死んでいたり重傷だったら幼馴染と聞いていた二人なら、もっと怒り狂っていたと思ったからだ。
「実はクスリを打たれていて……。その所為で念のために入院することになっています」
「は?」
クスリを打たれたと聞いてメイの表情が怒気一色になる。
入院したという情報から危険なモノ理解できたのもある。
だが一度、深呼吸をして落ち着かせようとする。
「ねぇ。ケンキ君って皆に嫌われているのかい?」
そこまでの敵意を集めた理由を知りたい。
殺そうとするほどの敵意だ。
それなりの理由があるのだろうと冷静になろうと努めているが、サリナ達は目を逸らす。
理由がメイ本人だと言うのは、本人を目の前にして言いずらい。
メイは何も悪くないと理解しているから尚更に。
「………本人たちに聞いてください」
ユーガの言葉に首を傾げるが、言いずらそうな表情にメイは取り敢えず納得することにした。
「それで?俺はいつ退院になるんですか?」
ところ変わりケンキは担当医に何時、退院できるか確認する。
ずっとベッドにいるのも身体が固くなるし退屈なのだ。
「最低でも一週間はダメです。激しい運動もダメ。しても病院内で散歩だけです」
ケンキにとっては辛い拘束に溜息が出る。
病院としても悪いがクスリを打たれた以上は影響を確認したい為に動いて欲しくないのだ。
なにせケンキに打たれたクスリは筋肉を弛緩させて動けなくするもので、今も平然と動いているのが病院側としては信じられないのだ。
「君に打たれたクスリは筋肉を弛緩させるモノなんです。薬が抜けきってない今も本来なら力が入らなくて動きがとれない筈なんですよ。いつ動けなくなるか分からないので一週間は病院にいてください。そのぐらいの時間があったらクスリは完全に抜けますので」
担当医の説明に渋々ながらもケンキは納得する。
今もケンキは普段通りの動きをしているが気合を入れている状態なのだ。
気を抜けば倒れてしまうだろう。
「暇になるな………」
思わずぼやいてしまう。
「なに読書でもして過ごせば直ぐに一週間は過ぎますよ」
担当医の言葉にケンキは頷くしかなかった。
そこまで説明されたらしょうがない、と病室へと戻る。
そしてベッドの上に上ったと思うと力尽きたように倒れた。
「………本当に力が入らないな」
少しでも気を抜くと今のような状態になってしまう。
医者が言うように入院するのは正解だった。
「この分だと本を読むのにも一苦労だ」
病室に戻る前に雑誌を購入したが読む気力がわかない。
それでも暇だからと何かないか周りを首だけでも動かして探る。
だが、何もないことに諦めてベッドに顔を埋める。
そのままケンキは意識が沈んで眠ってしまった。
「もしもし?」
そして、身体を揺さぶられて目が覚める。
目の前にはケンキと同じくらいの少女がいる。
そのことに対して言葉にできずにケンキは驚く。
女性であっても年上ならともかく同年代なのは吃驚だ。
おもわず誰なのか聞いてしまう。
「私は名前はセルンですよ。これから一週間、よろしくお願いしますね」
その言葉に疑問が湧く。
何で同い年の少女なのか看護師をしているのか不思議だ。
手伝っている以上は資格はあるのだろうが学校などは、どうするのだろうか聞きたい。
「同い年だよな?何で学生が?」
ケンキの質問にセルンは笑って教える。
どうやらケンキと同い年なのは事実だが、学校の方針で資格を持っている者は実際の現場で経験を積むことが出来るらしい。
それでも、あまりにも若いと言うより若すぎることが理由で不安になることも理解しており、資格を持ち歩き必要とあれば見せて信頼させてもらっているらしい。
現に今もケンキに資格を見せている。
「………なるほど。疑ってごめんなさい」
納得したケンキは謝罪をする。
そのことにセルンは笑って許す。
自分が他の者と比べて幼過ぎるのは理解しているからだ。
実際に、この病院で勤めている中で一番若い。
そして、もう一度寝ようとしているケンキを慌てて止める。
「寝ようとしないで起きてください!ご飯も食べていないでしょう!?」
その言葉に意識を取り戻してケンキはセルンの方を見ると確かに料理が並んでいる。
どれもが食べやすい料理だ。
今のケンキにとっては有難い。
「ふっ!」
気合を入れて起き上がるケンキ。
そのことにセルンは驚くが何かに気付いたのか料理をれんげに掬ってあーんをする。
今度はケンキがセルンの行動に驚く。
「今、起き上がるのに気合を入れたのはクスリの影響で動くのも辛いからでしょう。あーんなら楽に食べれるじゃない」
なお、その際の恥ずかしさは考慮しないとする。
更にセルンは生真面目な表情で言っていて恥ずかしいと思っていない。
完全に治療行為の一種だと考えている。
「あーん」
それに気づいたケンキは恥ずかしながらもあーんをする。
その顔は赤くなっておりクスリを打たれたことに後悔していた。
「………そういえば話に聞きましたけどメイさんと知り合いなんですよね?」
こいつもかと、ケンキは思うが黙って頷く。
メイがどれだけ人気上がるのか知っているから不満は無い。
むしろ、それが原因で本気で殺そうと仕掛けた者もいるのだから諦めている。
「羨ましい。知り合って、どのくらいなんですか?」
おそらくメイについてケンキが知っていることを全て話すまでセルンは満足しないだろう。
食べ終わってベッドに倒れながら、ケンキはセルンの望み通りに話し始めようとする。
「って、大丈夫ですか!?無理なら話さなくても大丈夫ですからね!?」
だがケンキが倒れるとセルンは無理に話はしなくて良いと身体の心配をしてくれる。
憧れの宮廷魔術師より看護師としての責任感の方が強いようだ。
そのことにケンキは感心の声を上げるが構わずに話し始める。
セルンが帰ると暇だからだ。
「へぇ。やっぱり探求心が強いですね、メイさんは。まぁ、だからこそ、あの若さで宮廷魔術師になれたんでしょうけど」
「たしかにな。初めて会った時に面識もないのに話しかけても来たからな」
結局、セルンはケンキと会話をしている。
ケンキが話しかけてきたし、その内容は憧れの宮廷魔術師だから聞かないという選択肢は無かった。
「………と、ここまでですね。すみませんが片付けもありますし、去りますね。何かありましたら呼び出しボタンを教えてください」
ケンキはセルンの言葉に頷き、それを確認したセルンは食器を持って部屋から出ていく。
「さてと、これからどうするか」
普段、ケンキが眠るにはまだまだ早い時間。
その上に動いていた為になかなか寝付けない。
夕食を食べるまでに寝ていたのも影響してある。
これが一週間続くとなると憂鬱だ。
「とりあえず購入した本でも読むか」
ケンキはそのうち眠くなるだろうと本に集中する。
ちなみに購入した本は小説で見やすいように起き上がって読んでいる。
「結構、面白いな。試しに一巻だけ買ったが続きが気になるな」
ケンキはまだ店が開いていたなら購入しに行くつもりになっていた。
だが既に閉まっているために明日になったら購入しに行くつもりだ。
一週間もあれば続巻を全て購入して読み終えても時間は余るだろうし金もある。
明日を楽しみにしながら読み終えて満足した気分になりながらケンキは目を閉じた。