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脱退

 学園にある教室でパーティを組んでいた班が集まっている。

 一人を除いた全員が辛そうな顔でにこやかに笑っている少年を見ている。


「ケンキ、済まない!俺たちは学年トップを目指しているんだ!俺たちの班から抜けてくれ!代わりに入れてくれる班は俺たちも探すから頼む!」


 どうやら学年トップを目指している班からすれば実力不足だったようだ。

 それが原因で脱退させられるみたいだ。


「ケンキくん。ごめんなさい。私もこの学園に来たからは上を目指したいの!嫌いになったわけじゃないから、また一緒に料理を作ろう……?」


「実力不足だけど、あんたは料理の腕とかムードメーカーなところがあって正直、頼りになるわ。だから落ち込んでないでさっさと他のパーティに入れてもらいなさいよ!」


「そのとおりだ。だから、これからも頑張ってくれ!」


 ケンキと呼ばれた少年をフォローする元パーティメンバー。

 それに対してケンキは。


「いいぞ。それじゃあ頑張って学年トップを目指しなよ!あ、それと代わりのパーティを探すのは手伝ってくれなくて良いぜ。そんな事より学年をトップを目指して迷宮に挑みなよ!」


 ケンキの答えに元パーティメンバーは涙ぐみなら何度も済まないと言って頭を下げる。

 それを最後にケンキは教室を出ていった。



(さて、これからどうするかな)


 ケンキは学園の外に出てギルドに向かいながら考える。

 学園の成績は指定された迷宮に潜れた成績で決まる。

 そして最低でも十層は超えないと学園に入る資格は無いと退学させられる。


「あ。ケンキくん!これから迷宮に挑むんですか?」


 すっかり顔なじみになっている受付の女性にケンキは近づく。


「そうですよ。その前に俺はパーティから脱退したので、その申請をお願いしたいんですが」


「……あら。仲が良かったように見えたのだけど?」


 ケンキの言葉にギルドにいた全員がどよめく。

 それほどまでにケンキがいたパーティは仲が良く纏まっていた。


「はい。実は学園の成績でトップを取りたいからと涙ぐみながら抜けてくれと頼まれました!」


「あぁ~。そういえば、もうその時期ね。十層を超えなければ退学よね。大丈夫?」


「大丈夫!大丈夫!それでソロで挑みたいけどオッケーでしょうか?」


「………本当に大丈夫?」


 ケンキの言葉に何度も大丈夫かと質問してくる受付。

 何を心配しているのか全く理解出ずにケンキは頷いている。


「はぁ。学園の課題っつうのは俺たちも参加してはダメなのか?誰かに頼るのも実力の内だろう?」


 それを見かねて、いかにも実力者な男が混ざりこんで来る。


「………ダメですね。学生同士で潜らないとダメみたいです」


「そうか。こいつの料理は美味しいから、それを失うような真似はしたくないんだが……」


「わかります。偶に料理を作ってくれるんですけど美味しいですよね!」


 受付と男の言葉に周り皆が頷く。

 どうやらケンキの料理のファンのようだ。


「それでパーティ脱退の申請をしていただきたいのですが?」


「あっ、そうですね。分かりました。で本当に一人で潜るんですか?」


「潜ります」


 受付の言葉にケンキは即答して指定された迷宮へと向かった。





「ふぅん。ユーガたちと一緒に潜った時とは違って心細いな」


 ケンキは早速、潜って心細さを口に出す。

 学園でも一人で潜ることは推奨されていない理由をケンキは実感している。


「あぁ、でも」


 そして後ろから迫って来る角の生えたウサギを、そのまま振り向かずに大剣を振り抜いて両断する。


「邪魔がいなくてやり易い」


 本来、角の生えたウサギ『ホーンラビット』は敏捷性と奇襲を好むせいで練達の冒険者でも警戒されている相手だ。

 それをこともなげに両断するケンキ。

 パーティメンバーに脱退させられた理由が分からない。


「シュー!」


 突然目の前にはスライムが現れた。


「知ってはいたけどマジか……」


 ハッキリ言ってスライムは強い。

 魔法を扱えなければ英雄でも勝てないぐらいには強い。

 斬っても斬っても分裂して数を増やすだけで、むしろ危険になる。

 魔法で攻撃しなければ倒せない相手だ。


「一層でこれって、この迷宮は危険すぎるだろ。……あぁ、だからこそか」


 ケンキが察したとおりに、この迷宮を指定されたのはパーティを組む重要性を伝えるためだろう。

 それで死んでしまっても学園は責任を取らない。

 運が悪いで済ませられるのもあるのかもしれない。


「適性が無いとはいえ初級魔法を全て扱えるようになってて良かった」


 その言葉通りに魔法を放ってケンキはスライムを倒す。

 魔法は誰でも使えるが、それは初級魔法のみ。

 そして初級魔法は一つしかない。

 他にも中級、上級はあるが、それらは適性が有る者だけだ。

 そしてケンキは全ての魔法に適性が無い。


「さて、オレはどこまで進めるかな?」


 楽しそうに笑ってケンキは一層を進んでいく。

 道中、様々なモンスターが襲ってくるがスライム以外は全て両断していく。

 曲がり角で奇襲されても、最初の様に背後から襲われても全てのモンスターを倒していった。

 そして。


「着いたか」


 まずは一層の奥に辿り着く。

 この迷宮には一層の奥ごとに、その層より確実に強いモンスターがいる。

 一層の奥に現れたのはオーク。

 タフさと力強さが特徴的なモンスター。

 その分、動きが鈍い。


「オォォォォ!!」


 現に棍棒を持って向かってくるスピードが遅い。

 ケンキに棍棒を持っていた腕を切り落とされ、そのまま首を跳ねられて終わってしまう。

 一層だからか層のボスモンスターにも関わらず全く、相手になっていなかった。

 そしてオークが倒れた後にメダルが落とされる。

 これは一層のボスモンスターを倒した証でこれを迷宮に持っていくと、それを得たボスモンスターの層へと転移できる。

 もちろん再度戦う必要はない。

 ケンキはそれを手にして二層へと向かった。


「うっわ」


 そこで目にしたのは思わず声に出てしまう程に多いモンスターの数。

 しかも全てが小型で厄介。

 中級魔法を扱えなければ対処は難しい。


「ふん!」


 それなのにケンキはその場で大剣を振り抜く。

 振り抜いた後に衝撃が生まれて小型のモンスターたちを倒していく。

 その衝撃を生み出すために大剣を全方位に振るって進んでいくケンキ。

 仲間がいたら絶対に邪魔になっていた。

 フレンドリーファイアも否定できない。


 蝙蝠やヒル、小型の昆虫のモンスターを倒していって奥の間に着く。

 ボスモンスターは繭の中に潜んでいて、辿り着いた頃には這い出ようと中から足が飛び出てていた。

 ケンキは繭から出られる前に殺そうとしたが繭に大剣を弾かれて殺すことができない。

 ついに目の前に現れたモンスターはバッタの姿をしていた。


 早速、ケンキをバッタのモンスターが襲う。

 一層のオークとは違いスピードが速く、攻撃を当てるのも躱すのも難しい。

 それでもケンキは大剣を構えるだけで何もしない。

 縦横無尽に走り回っているモンスターに眼も向けない。

 もう少しで攻撃に当たりそうになっても動かないでいる。

 そして直撃するコースにモンスターが入った途端に振り返り正面から対面して身構え、

 ケンキは両断した。


「あれ?」


 想像よりも容易く両断できてしまった。

 繭とは思えないほどの硬度だったのに、とケンキは戸惑った。

 だがモンスターが消えて現れたメダルを回収したことで倒したことを実感して次の階層にいく。



「何もいないな」


 そして一歩踏み出した途端にガチッと音がなり矢が襲ってきた。

 それを掴んで防ぐ。

 更に一歩進む。

 上から凶器が降って来る。

 そこから十歩進む。

 落とし穴に落ちるところを跳んで回避した。

 どうやら三層はトラップだらけの階層らしい。

 最終的には巨大な鉄球から逃げて奥の間へとたどり着いた。


 ボスモンスターは人型で色んなものを投げてくる。

 爆発するものや毒といった危険性なモノを投げてきて、その癖に距離をとってくるのでとても厄介。

 だがケンキは二層でやったように衝撃波を生み出して攻撃が辿り着く前に破壊したり打ち返したりと喰らわされるはずだった攻撃を全て跳ね返して終わった。


 4層5層と進んでいきケンキはとうとう十層までたどり着いた。

 本来ならパーティを組んで辿り着く場所なのにソロで来たことは規格外と言えるかもしれない。

 どこが実力不足なのだろうか。


「ケンキか?」


 十層の奥には学園の一人の教師がいる。

 

「あれ?先生、何でここにいるんですか?」


「あぁ、生徒が自分たちの学校の生徒以外に協力して貰っていないのかの確認だ。もしも学外の協力があったら、罰則を与えないといけなくてな。………でお前は違うようだが、他のメンバーは?」


「成績トップを狙っているみたいで脱退させられれましたよ。まぁ文句はありませんけど」


 ケンキはアッハッハと笑うが教師は通信機を取り出して学園へと確認している。


「済みません。一学年で指定した迷宮をクリアした者って今年はいましたっけ?」


 どうやら学園へと連絡しているらしい。


「はい……。はい……。それもソロでして。……はい。わかりました」


 連絡を取り始めた教師に首を傾げてケンキは十層の奥の間に入ろうとするが教師に肩を掴まれて止まる。

 不審な表情をするケンキに教師は理由を説明する。


「済まないが今の時期にここまで一年がソロで来ることは前代未聞らしい。悪いが十層での戦いを見させて貰うぞ」


 教師の言葉にケンキは不機嫌な表情を隠しもしない。

 その反応に教師も気分を悪くしないで頼み込む。


「疑われて気分が悪いかもしれないがわかってくれ。……な」


「はぁ……。わかりました」


 頼み込む教師にケンキは頷く。

 拒否しても何度も頼み込んで来そうだからと諦めたようだ。


「お詫びに教えてやる、十層のモンスターはゴーレムだ。丈夫だしスピードもある。死に掛けたら助けてやろう」


 お詫びの情報に頷いた価値があったとケンキは喜ぶ。

 そして現れたボスモンスターは情報通りにゴーレム。

 しかも襲ってきたときのスピードが速い。

 二層のバッタと同じか、それより速い。

 だが違うのはいきなり正面からケンキに襲いかかってきたことだ。

 その所為でケンキは構える間もなく擦れ違いざまに真横に大剣を振るってゴーレムを両断し、そのまま縦から両断した。

 

「は?」


 所有時間は一分どころか秒もかかっていない。

 余りの速さに教師は唖然としている。


「先生、終わったけど帰って良いか?」


「あ……あぁ。迷宮から帰ったら、そのメダルを担任の教師に見せろよ……。でなければ合格とみなされないからな」


 どこか虚ろな顔の教師に首を傾げながら頷いてケンキは迷宮から離脱する。

 それを見届けてから数分の後に正気を取り戻した教師。


「はっ……。まさかパーティの重要性を教えるための迷宮をソロで攻略するとは。本来なら熟練の冒険者じゃないと無理なのにな。ソロであることも含めて、今年の学年一位は決まりかな」


 本来ならパーティ必須の迷宮にソロで攻略したことの意味も知らずにケンキは迷宮から去った。



 そして、その日の夜。


「ではレン先生、ケンキ君の戦闘を見せてください」


 呼び出されたケンキの戦闘を見ていた教師、レンは教師が集まっている部屋で録画していたケンキの戦闘を見せる。

 これが一緒に十層のボスモンスターがいる奥の間に入った理由だ。


「これは……」


「おいおい。本来の目的とは外れちまってるじゃねぇか」


「戦闘能力だけと言っても、指定した迷宮をソロで抜けれたなら対応力も充分あると判断できますね」


「そうね。もし、これ以上進まなくても成績トップで決まりでしょう」


 ケンキがゴーレムを瞬殺している映像で口々に言っている。


「私も同意見ですが、問題があります」


「何ですか?学園長」


 学園長が手を叩いて注目を集める。


「それでは本来の目的、パーティの重要性を知らしめれられません」


 それもそうだと納得する教師達。

 どうすればパーティが必要だと納得させらるのかを考えてみる。


「いっそ二学年や三学年のパーティに混ぜてみますか?」


 一人の教師の言葉に全員が唸る。

 命がけの迷宮攻略に一学年を受け入れてくれるパーティがいるか悩んでいるのだ。


「ケンキ君には悪いですが、二、三学年の優秀な生徒たちに見せましょう。それでパーティの重要性を教えるための協力を頼みましょう」


「………そうですね。他にも案が無いならそうしましょう。皆さんはどう思いますか?」


 学園長の最後の言葉に皆が何も思いつかないのか頷く。

 これでケンキは二、三学年のパーティに同行することが決まった。



 そして。 


「皆さんに見てもらいたいものがあります」


 翌日、二、三学年の優秀なパーティを集めて早速、ケンキの戦闘を見せる。

 最初は文句を言っていた生徒たちもケンキの戦闘を集中して何度も繰り返し見ている。


「お前らなら、これが出来るか?」


「無理です。先輩達こそゴーレムを剣一本で両断できますか?」


「そうだな。俺には無理でも剣の腕に長けた奴らなら出来るんじゃないか?」


「それよりも他のメンバーが見えないけど、もしかしてソロで攻略したの?パーティの必要性を知る為の迷宮で?」


 一人の声にもう一度、集中して映像を確認する生徒たちを見て教師は頷いた。


「えぇ、そうです。できれば貴方達と協力して彼にパーティの重要性を教えて欲しいのですが……」


「俺は良いぜ」


「ちょっ!」


 皆が顔を見合わせている中で一人の男が引き受けても良いと声を上げた。

 その言葉に同じパーティメンバーが驚きの声を上げる。


「何だよダメか?」


「私は良いけど、他のメンバーにも意見を聞きなさいよ!」


 否定はしていないが他のメンバーの意見を聞いていないことが不満らしく声を上げている。

 それに納得して一人一人にメンバーを確認していくが全員、否定はしない。


「これなら良いな!」


「はぁ。構わないわよ。………皆、どうやってパーティの必要性を教えるか話し合うわよ。下手したら自分の実力が足りないという結果になりかねないから、ちゃんと計画を立てるわよ」


「流石、エリス!頼りになるな!!」


「うるさい、バカ!」


 そう言ってメンバーたちは話し合う。


「その……。その記録を公表したりしないんですか?」


 それを横目に別のパーティのメンバーが意見に教師はどういうことだと視線で問う。


「いや、だって下手したらコネや先輩の力を借りて合格したと思われますよ。今は試験の最中ですから」


「あ……」


 その意見に他の視線の意味を考えていなかった教師はサイカには悪いと思いつつも早速、学園やギルドに迷宮での戦闘映像を拡散させることを決意する。

 無論、その前に学園長の許可を貰ってからだ。


『良いわよ。我が学園がコネや贔屓をしていない証拠になるもの』


 その言葉に他の教師にも手伝ってもらう。

 これが周知の事実になるのは一日で十分だと判断して、生徒たちには明後日から頼むと教師は指示する。


「わかりました!それとは別に彼と会っても大丈夫ですよね!」


 その言葉に頷きケンキの教室を教えると早速、向かう男の生徒にエリスは溜息を吐く。


「はぁ。私も行くわ。皆は教室に戻って良いわよ」


「あぁ。私たちは先に戻って意見を交換していよう」


 その言葉を最後に集まっていた部屋から全員が解散した。



「お前がケンキか。俺はヒイロ!三学年の生徒だ!」


 急に入ってきた三学年の生徒に教室にいた一学年は驚いている。


「うそ!?」


「あのヒイロ!?」


「それが何でケンキに!?もしかして料理のファンで、引き抜きに来たのか!?」


「有り得る!」


 どうやらケンキにパーティの重要性を教えることを引き受けた男はヒイロという名で有名らしい。

 そしてケンキの料理の腕も有名なようだ。


「おっらぁ!」


「ごふっ!」


 その直後にヒイロの腹に拳を叩きつける女生徒エリスの存在にケンキはドン引く。


「………何の用ですか?」


「あぁ、ごめんなさい。少しケンキ君の実力のことで問題があって」


 実力と言われてケンキは首を傾げる。

 それは元パーティメンバーも同じだ。


「どういうことですか?」


 その中でも一緒に料理をしようと言ってきた女生徒が問いかける。

 ケンキの幼馴染で護ってあげたくなるような雰囲気の女子だ。


「まぁ、ちょっとね。ギルドや学園で公表されている映像を見てみたら分かるわ」


 その言葉に一斉に映像を見ようと一か所に集まる生徒たち。

 

「それで何の用でしょうか?」


「あぁ、ごめんなさい。教えたいから着いて来てくれる?先生には私が連れて行ったと伝えれば良いわよ、ってあら誰もいないわね」


 伝える相手がいない。

 その所為でどうしようかと悩んでいるエリスにユーガが近づいてくる。


「なら俺が伝えましょうか?」


 何故かユーガがエリスを睨みながら提案してくる。

 ケンキとエリスは睨んでいる理由が分からない。

 その為に困惑しているが頷く。

 エリスはそこまで関わることは無いだろうと考えて。

 ケンキはまた後で聞けばよいと考えたからだ。

 そのまま頼んでケンキとエリスは教室から出て行った。


「はぁぁぁぁ!!?」


 その直後に聞こえたユーガの声にケンキは顔を顰める。

 教室から離れたのに耳に響いたせいだ。

 しかもエリスと歩いている最中に道中の生徒たちから絶対に見られている。


「一つ言っておくけど今の君は結構有名な存在だから、暫らくの間は周りからずっと見られるわよ」


 エリスの言葉に呻き声をあげるケンキ。

 理由も分からず見られるのは好きではないようだ。


「ケンキ君って昨日、十層のゴーレムと戦ったでしょう?」


 エリスの言葉に頷くケンキ。

 どうして知っているのかと視線で質問している。

 もしかして一緒にいた教師が教えたのだろうかと想像する。


「ハッキリ言って一学年には収まらない強さだったわ。私たち三学年の生徒でも同じことが出来る者は少ないでしょうね」


 少ないというだけで、いないというわけではない。

 その事にケンキは笑う。

 戦いを求めているような笑みであり、エリスはその笑みに溜息を吐く。


「ここよ」


 辿り着いた先には三学年の教室。

 何の理由なのだろうかとケンキは不思議に思う。


「みんな、連れて来たわよ」


「連れて来たって……!!?もしかして、この映像の子!」


 ケンキは映像の子と呼ばれて指さした先を認識すると昨日、ゴーレムと戦った映像が流れていた。

 同時に道中に何度も見られていた理由はこれかと納得する。

 そして犯人は一緒に居た教師だとあたりを付けて報復を決意する。

 自分の意見を聞かずに情報を流して人権の侵害だと訴える覚悟だ。


「そうよ。それと、その映像を流したのは、この子が規格外なだけで贔屓やコネで私たちと迷宮に挑むわけでは無いと周囲に分からせるためらしいわよ」


「あぁ~。成程ねぇ。一学年の今の時期はパーティの重要性をテストを利用して教える時期だっけ。既に合格しているなら、それを周知させて一緒に行動させてるのも手ね」


「相変わらず、話が早いわね。そういうこと。私たちのパーティで面倒を見て仲間がいることの重要性を教えることになったのよ」


「言い出したのは、その子が抱えている彼?」


「そうよ」


 二人の話を聞いてケンキは訴えることを止める。

 どうやら理由があってのことらしい。

 自分に説明が無かったのは不満だが、その分のフォローはしてくれると判断してのことだ。

 そして。


「いってぇ。エリス、もう少し手加減してくれよ」


 自分の為に骨を折ってくれるという彼にケンキは頭を下げる。

 

「話からするとパーティの重要性を教えることを引き受けてくれたんですよね?ありがとうございます」


「お……。おう!気にすんな!後輩の面倒を見るのは先輩の役目だしな!」


 そう言ってヒイロはケンキの頭を撫でる。

 まさしく先輩といった空気にエリス達が壊しに行く。


「相談せずに勝手に決めた癖に威張らないでよ」


「全くだ。もう少し考えてから行動しろ」


「いつもいつも勝手に決めて行動して。フォローするのは私たちなんだから……」


 自分に対する愚痴に言われたヒイロは落ち込み、それを見たケンキは苦笑する。


「さてと面白そうだし、私のパーティも面倒を見て良いかしら?戦闘能力だけを見れば足を引っ張らないでしょうし」


 笑いながら言っているから冗談なのだろう。

 お互いに軽く流す。


「ふむ。それでケンキ君。ダンジョンに挑むのにパーティメンバーが必要だと思うか?」


 早速の質問にケンキは悩んでいる。

 正直に言って自分には必要無いと考えている。

 メンバーがいるなら役割を分担出来て楽も出来るが、ソロで潜った方が責任も自分だけだし精神的には楽だと考えている。

 あとは本気を出してフレンドリーファイアを懸念している。


「俺にはいらないですね。ハッキリ言って邪魔です」


 ケンキの笑顔で言った言葉に溜息を吐いている。

 三学年の生徒からすれば思い上がりに聞こえるのだ。

 最悪なのは、その言葉に見合う実力があること。

 その所為で矯正が難しそうだと頭を抱える。


「邪魔ね……。もしかして本気を出したら仲間が巻き込まれてると思っているのか?」


 意図を察したヒイロの質問にケンキは頷く。

 それに対して頭を抱えている。


「良し。まずは俺たちで迷宮に挑もう!勿論、ケンキ君は本気を出してくれよ!本気を出しても俺たちなら無傷で対処できるしさ!」


 自信満々に話すヒイロにケンキは頷く。

 本気を出したら衝撃波を生んでしまうが、そこまで言うならと試してみることを決意する。

 早速迷宮に行きたいと思ったがエリスに止められてしまった。

 それに対してヒイロとケンキは文句を言うが教師に挑むのは明日からだと説得されているらしく納得するしかなかった。


「よーし。皆、いるかぁって………ケンキ君か?」


 昨日、ケンキと一緒にいた教師が三学年の教室に入ってきた。

 それを確認して思わずといった調子で教師を殴りに行くケンキ。

 まさしく思わずといった表情で自分が何をしているか理解していない。

 そんな拳だから簡単に教師に受け止められている。


「はっはっは。甘いなぁ、ケン……ぐぉ!」


 だが、そのまま更に接近して止められた拳を起点にして発勁の要領で吹き飛ばす。

 ケンキの突然の行動に咎める視線の者もいれば、気にせずにケンキの動作に感心の声を上げるモノもいる。


「やば……!つい、やってしまった……!?」


 自分の衝動的な行動に顔が青ざめるケンキ。

 どうして、いきなり教師を攻撃したんだと怒ろうとした者も顔を青ざめているケンキに少しだけ和らぐ。

 むしろ純粋に攻撃した理由を聞きたくなる。


「なんだ?もしかして、お前の意見も聞かないで勝手に映像を公開したからか?」


 ヒイロの言葉に頷くケンキ。

 何で分かったのかと驚いた顔をしている。

 その顔を見て教師に非難の視線が集まっている。

 本人に確認を取れよという意味の込めた視線だ。


「…………」


 教師はまだ起きない。

 ケンキは気になったのか近づいていく。

 本当に気絶していたら保健室に連れていくつもりだ。

 そして、目の前まで接近し顔の前で手を振ろうしたところ。


「わあっ!!!」


「うわっ」


「「「「「あっ」」」」」


 驚かせようと声を上げた教師についと言った調子で拳をぶつけてしまう。

 今度こそ気絶した教師にケンキは保健室に連れて行こうとするが三学年の生徒全員に止められる。

 心配したのに嘘だったことが分かって怒りの感情を教師に向けているせいだ。

 それは教師の頼みを一言で受け入れたヒイロも同じようで、そこに置いておけと放置を薦めている。

 三学年の意志に従ってケンキは教師を放置する。

 そして教室の真ん中の席へと座らせられ、全員の視線が向けられた。

 多くの色々な意味を込められた視線にケンキは居心地悪そうにしていた。

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