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「腰が甘い!!!」
「ッ!!!」
ガギンと、鈍い金属同士がぶつかり合う音と共に、僕の持っていた剣は宙を舞い、地面に突き刺さった。
ビリビリとしびれる右手を抑えながら悔し気に見上げると、爽やかに笑いながら汗を流している父上と目が合う。
「まだまだ甘いなアインリッシュ。そんなのではベリッシュを守れんぞ」
「父上が強すぎるだけです。ある程度の相手なら、僕だってもう倒せます」
「またまた強がっちゃって」
ニコニコと楽しそうに笑っている父上には、先ほどまで出ていた気迫は微塵も感じられない。
ただの優しいおじさんだ。
でも父上の言うように、今の実力ではベリッシュを守る事は難しいだろう。
入学した先にいる敵…もとい攻略対象の敵意からベリッシュを守るためにはもっと剣術も、学業も完璧にしておかなければ。
記憶があるとはいえ全てを完璧に防ぐことは無理だろうから。
せめてベリッシュの隣にいるのが僕で不満が出ないようにしなければ。
「旦那様、坊ちゃま」
父上を睨みつけながら剣を再び手に取り、稽古を再開しようとした時だ
「ベリッシュお嬢様がお戻りになられました。」
僕は父上そっちのけでベリッシュを迎えに走った。
「お姉ちゃん!!」
振り向いたベリッシュは入学する時よりも少し大人びた様に見え、置いて行かれた気がして胸がチクリと痛んだ。