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「もう行かないと。長期休暇になったら帰ってくるわね」
「約束だよ。美味しいお菓子や紅茶を用意して待ってるからね」
「絶対に守るわ。行ってきます」
髪をフワリと靡かせながら、ベリッシュは学院へと向かう馬車に乗り込む。
その後ろ姿を見つめながら、今なら言えるのではないかという気持ちになった。
「おね……」
「アインリッシュ。体に気を付けるのよ。」
「……はい」
馬車の扉が閉まる。
言えなかった言葉を飲み込むように、口を噤んだ僕を見ることもなくベリッシュは学院へと向かっていった。
あと1年後。
物語が始まるのは、僕が入学する年。
同じ1年生として入学するヒロインに、中庭でベリッシュに冷たくされて落ち込む僕と出会う所から始まる。
それまでどうかベリッシュに悪い虫が付きませんように。
特に必死にベリッシュを隠してきた王太子には……
そんな僕の願いも空しく、次の長期休暇の時に恐れていた事が起きるのだ。
そうだよね、あんな可愛くて愛らしいベリッシュを完璧に隠し通す事なんて出来るはずがないのだから。