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「アインリッシュ、そろそろお姉ちゃん呼びは止めた方がいいのではないかしら?」
困った様に笑うベリッシュに僕も笑いかけながら、2年前から幾度となく続けられたやり取りを繰り返す。
「仲良しの証ですから」
そうするとベリッシュは恥ずかしそうに、しかしどことなく嬉しそうにはにかむのだ。
仲良しの証として呼び始めた『お姉ちゃん』呼びも、今は失敗だったなと思ってしまう。
砕けた呼び名で懐に入り込む事はできても、そこから先に進む事は出来なかったからだ。
でもまぁ……ベリッシュが嬉しそうにしてくれるなら今はこのままでいいかも……なんて考えてしまう。
「お姉ちゃん、くれぐれも良からぬ輩には気を付けてくださいよ。」
「アインリッシュは心配性ね。大丈夫よ。この年になっても縁談の一つも舞い込んでこないのだから」
「そんなことないよ。魅力的すぎて皆お姉ちゃんに気後れしてるんだよ」
「まぁ、上手ね、アインリッシュ」
クスクスと笑うベリッシュを可愛く思いながら、心の中で謝る。
可愛らしく美しいベリッシュには数多の縁談が来ていたが、それを僕が父上に頼みすべてお断りさせて頂いているのだ。
父上の呆れた顔をしながらも全て断ってくれている辺り、父上にとっても良い縁談では無かったのだろう。
それか、まだベリッシュの結婚について考えたくないからかもしれないけれど。
そんな僕らの思惑も気付かず、ベリッシュは自分には大した魅力はないから縁談が来ないのだと思い込んでしまった。
騎士団長の娘というだけで、他の貴族からは価値があるというのに。