63
目を開ければ、そこは元いた歩道橋の上だった。
目の前には不思議そうな顔をして此方を覗き込む女子高生の顔。先ほどまで、自分が入っていた子だ。
「あの、大丈夫ですか? 急に倒れてしまって…」
「倒れた…? 今日って、何日だ?」
「3月10日ですけど…」
それはあの日異世界に飛ばされたのと同じ日付だった。
同じ日同じ時間に戻って来れたのだろう。あの世界の魔法使いはとても優秀らしい。
「あの……」
「あぁごめん。何でもないんだ。ありがとう」
「でも、涙が…」
「え……」
気づかない内に泣いていたらしい。それを女子高生に見られるだなんて恥ずかしいと思った。
「何か嫌なことでもあったんですか?」
気遣うように優しく語りかけてくる女子高生にぽつりと返した。
「とても懐かしい、もう会えないと思っていた友人に会えたんだ……」
「そうでしたか……楽しかったですか?」
「…楽しかった。とても」
「それは良かったですね」
花が咲くように笑う彼女に、思わず胸が高鳴り耳が熱くなった。
どうか彼が、向こうの世界で幸せな人生を送れます様に
ただただそう願った
聖女が消えた空間を眺める
何だか、自分が想像していた以上に寂しい
左手が温かい何かに包まれた気がして横を向くと、ベリッシュが心配そうに僕を見ていた。
「大丈夫ですの……?」
「うん…。思ったよりも、寂しいみたいだ」
「わたくしもですわ……いい友人でしたもの」
「そうだね…」
少し肩を落としながら寄り添いあう。
お互いの体温を感じると、心が温まる様だった。
「帰ろう、ベリッシュ」
「はい」
部屋を出ていくハインデルト様達に続いて僕らも戻る。
「そうそう、来月エリーゼとの結婚式があるのだが、皆参加してくれるかい?」
足を止めこちらを振り向くハインデルト様が尋ねると、ギルバート様がすぐ参加するとの返事をした。
ギルバート様も、入籍はしたが式はしていないとのことで近々計画を立てているらしい。
勿論ギルバート様に続いて全員が参加するとの返事をした。




