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それからは本当にただただ遊んだ。
サッシュやナタリア、ハインデルト様やギルバート様、リベルア様まで巻き込んで遊んだ。
子どもの時の様に鬼ごっこや芝滑りをして体を動かし、時には頭を使ってチェスをする。
夜には花火や天体観測をした。
そして明日、聖女は元の世界へと戻る
客間で聖女――雄太に向かい合って座りながらお茶を飲む。
ベリッシュはさすがに連日の遊びで疲れてしまったのか部屋へと戻った。
「いよいよ明日だね」
「そうだな。少し寂しい気もするよ」
「うん。向こうはどうなってるのかな」
「俺が入ってるこの女子高生がどうしてるかが一番気になるな。俺の体に入ったのか…それとも……」
「そうだね……向こうに戻ってもしばらくは大変かもしれないね」
お互いに黙る
少しだけ、緊張している雰囲気が伝わってくる
「……次こそは絶対に助けると言ったのに、すまなかった」
「ん?」
「絶対に死なせないと、言ったのに……」
眉を寄せうつ向いてしまった雄太にどう声をかけるべきか悩む。
こうなるだろうと知っていたし、覚悟もしていた。戻ってこれる確証もなかったけれど、こうして戻って来れた。
雄太が自分自身を責める理由など何も無い。前世の事だってそうだ。見殺しにしたと言っているけれど、そもそも僕が自転車で池に突っ込んでしまったのが原因なのだから。
「…ありがとう」
色々とかける言葉を探したけれど、結局僕の口から出たのはありがとうの言葉だけ。
「ありがとう。ベリッシュと向き合わせてくれてありがとう。妹たちの傍にいてくれてありがとう。心配してくれてありがとう。大切に思ってくれてありがとう。この世界にきてくれて、ありがとう」
「……こちらこそ、この世界で、生きててくれてありがとう」
「どういたしまして!」
笑ってやると、雄太も晴れやかな笑顔で笑い返してくれた。
明日帰ってしまうけれど、向こうで元気に寿命を全うしてほしいと思った。
僕は早期リタイアしてしまったから。
翌朝、この世界に来た時と同じ洋服に身を包んだ聖女と儀式の間へと向かう。
儀式には僕とベリッシュ、それと魔王討伐メンバーが立ち会う。
天井がガラス張りになって日の光が降り注ぐ儀式の間に入ると、そこには全員がもう待っていた。
「待っていたよ。聖女様、アインリッシュ君。お別れはもう済んだかい?」
「はい。昨夜の内に。ありがとうございました」
「友と別れるというのは、辛いものだからね」
優しく聖女の手を引きながら、ハインデルト様が魔法陣の真ん中に案内する。
「聖女様はここに立って、元の世界の戻りたい場所を考えていてくれ。」
「わかった」
コクリと頷くその顔には緊張の色は見られなかった。
「さぁ、やるよ皆! 準備はいい?」
リベルア様の号令で王宮魔法使い達が杖を掲げ呪文を唱え始める
『汝の望む場所へ!』
「さようなら、雄太。元気でね」
笑顔で手を振りながら、聖女は光の中消えていった




