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あのまま僕らは、抱きしめ合って眠った。
僕がいなくなってからずっと泣いていた事、最近になってやっと聖女のお陰で前に進めた事。
取り戻す為に研究を始めた事。聖女は僕に謝るまで元の世界には帰らないと駄々をこねていた事。
色々な事をベリッシュは話してくれた。
僕はうんうんと相槌を打ちながら、また泣いていた。
そのたびにベリッシュはぎゅっと抱きしめてくれたのだ。
朝日が眩しい
目が覚めてから、知らせを聞いた者たちが次々と僕の姿を確かめに来た。
もし無理でなければ、明日にでも王宮に登城して欲しいとのお達しもあった。
「いやぁ良かったぜー。もう二度と会えないかと思ったんだぜぇ?」
相変わらず気の抜けた話し方でサッシュはお見舞いに来た。
「ベリッシュ様は死んじゃうんじゃないかとヒヤヒヤしたしよー」
「そんなに?」
「アリーが想像しているよりもねぇ」
侍女が淹れてくれたお茶を飲みながら一息をつくと真剣な顔をして僕に向き直った。
「あの時、信じなくて、適当に流して悪かった」
眉間に皺を寄せ眉尻を下げながら謝ってきたサッシュに紅茶を噴き出した
「うわっ。汚ねーなーもぉー」
「いや、だって、そんな」
「なんだよー」
「いや、ハハ!そんな事気にしてたの?」
「そんな事ってなぁ。アリーが戻ってくるまでそれなりに後悔してたんだぜー?」
「アッハハハハ!! やだなぁ気にしなくていいんだよ!」
本当、気にしなくていいのだ。そもそも信じてもらえると思って話した訳では無かったから。
ぶつぶつ文句を言いながらも僕が噴き出した紅茶を拭う。
本当に、サッシュは良いやつだなぁ
また学院で待ってるぞーと言葉を残してサッシュは帰って行った
コンコンと扉をノックする音に返事すると父上が入ってきた
久しぶりに会う父上は、やはり少しやつれている。無理もないだろう。息子は世界樹に封印され、娘は嘆き悲しんでずっと泣いていたのだから。
一機に苦労を掛けてしまったな……
「大丈夫か? アインリッシュ。人が沢山来たから疲れただろう」
「そうでもないよ。皆気を使ってすぐ帰ってくれるから」
大丈夫さと笑って見せるとホッとした表情になる
「明日の登城には私とベリッシュも同行する事になった」
「分かりました。しかしどういった要件なのでしょうかね?」
「行けば分かるさ」
ふわりと微笑みながら父上は立ち去っていき、入れ替わるようにベリッシュが部屋を訪れて来た
「お父様がいらっしゃっていたの?」
「明日は父上とベリッシュも同行すると伝えに来てくださったんだよ」
「そうだったのね。実はわたくしもそれを伝えに来てしまったのよ」
少し照れ臭そうに同じ用事で来てしまったわと口元を隠しながらはにかむ。
その愛らしさに笑みをこぼし、侍女が淹れてくれた紅茶を一緒に飲みながら明日の登城に思いを馳せた。




