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「その指輪は?」
聖女の問いにベリッシュが少し悲し気に微笑みながら答える。
「一昨年の夏季休暇の時にアインリッシュから頂いたものです。可愛いと思いませんか?」
猫の肉球が模された指輪を見せながら聖女に問いかける。
あの日突然くれたものだから驚いたけれど、貰ったあの日から外すことなく毎日身に着けている。
「可愛いと思うぞ。中々のセンスだ」
「ありがとうございます」
傍にいない彼を思いながら指輪を撫でる。今もまだいない事が受け入れられず涙が流れる事もあるけれど、聖女の協力の元、彼を世界樹から取り戻す為の研究を始めた。
世界樹に魔王の体が封印されていたのはごく一部の、国の主要人物にしか知らされていなかった。どうやって世界樹に封じたのか。それが分かれば、解く方法も分かるのではないかと文献等を読み漁ったが、詳しく記述されているものはなかった。
恐らく、残しておいた場合良からぬ事を考える者たちに利用されてしまう可能性があったからだろう。
先人も、まさか魔王以外の人間が封じられるとは考えても居なかったはずだ。
一度だけ、西の森へと足を踏み入れ、彼に会いに行った
そこにいる彼は今にも目を開けそうな、穏やかな表情で眠っていた。
いや、眠っているのかすら分からない。水晶の中にいるのだから呼吸しているのかさえ分からないのだから。
そっと触れ、少しだけ暖かみを帯びている水晶に、少しだけ憎しみが湧いた。
この石さえ壊せれば、彼は帰ってこれるのに。
全身の水分がなくなるんじゃないかと思うくらい、彼の足元で泣いた。
「………この指輪に口付けて名前を呼べば、何処に居ても何をしてても駆け付けるといってくれたんです」
あの日、優しく微笑みながら指輪をはめてくれた日の事を思い出す。
まだ想いが通じ合う前。
でもきっとあの頃から、いや、もっと前から、私たちは想い合っていた。
お互いに勇気がなくて、前に進めずにいた頃。
「……呼んでみたのか?」
「いえ……きっと、駆け付けて来てはくれませんから」
弱弱しく微笑むベリッシュに、それもそうかと聖女は頷く。
駆け付けると言った本人は今は世界樹の水晶の中だ。
しかし、その指輪に何か期待してしまう。今まで気にすることなどなかったその指輪が、急に気になった。
だが、呼んでみて何も反応が無ければただベリッシュを傷つける事になってしまう。それだけはどうしても避けたかった。
そわそわする聖女を少し可笑しく思いながら、ベリッシュは口づける
ここまで立ち直れたのも聖女のお陰な部分もある。気になっているのなら、やってみてもいいかもしれないと。
「……アインリッシュ……」
魔法陣が、起動した




