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世界樹が浄化され、淡い光の中に黒く淀んだ部分が消えた。
淡い光を放ちながら、本来のあるべき姿を取り戻したのだ。
「ささ、次は自分の番や」
魔王が心底嬉しそうに言う。
キッと後ろを振り返り睨みつけ、向かい合う。
「……嫌だ」
「聖女様!」
封印を拒否する聖女にナタリアが叫ぶ。
封印を拒否するなど、あってはならない事で、拒否をするという事はこの世界を危険に晒す行為だ。
「嫌だ。アインリッシュを戻すまで、絶対に封印しない。この世界が滅んでもだ」
それは此処にいる全員を敵に回す発言だった。
しかし、その発言を咎める者などこの場に存在しない。
魔王を除いた全員が、この望まない結果をまだ受け入れられていない証拠だった
「あかんあかん。それはあかん。はよ封印してくれな、自分は魔界に戻れんのや」
「戻さない。アインリッシュを戻すまで、帰してたまるか」
「そんなん言うたってもう無理やで。あの中から出す事なんて出来ん」
「っ!」
聖女の背中が、肩が震える
「壊せないのか」
「聖女様、止めましょう。魔王が封印を受け入れてる間にやってしまわないと……」
「……お前を殺したら、戻ってくるか?」
「聖女様!!」
悲鳴の様な声をナタリアが上げ、腕を掴む。
挑むように魔王を見つめる聖女の足は、瞳の力強さとは違い震えている。
駄目だ、駄目だよ雄太。挑んでは駄目だ。
「試してみたらええんちゃうか? それで戻ってくるとは思わんけどなぁ」
挑発するように笑いかける魔王に向かって足を踏み出す聖女の前に全員が飛び出す。
「駄目です聖女様! お止めください!」
「うるさい!」
必死に止める四人を楽しそうに魔王は眺めている。
滑稽な場面なのだろう。今の聖女では魔王に傷一つ付ける事さえ出来ない。
それを分かっているからこそ、四人は必死に止めるのだ。
「退け!」
「退きません! アインリッシュ君に続いて、貴女まで失うわけにはいかないのです!」
「それが何だ! 助けると約束したんだ! 今度こそ、助けるって約束したんだぞ……っ」
力なくうなだれていく聖女を悲痛の表情でハインデルト様が支える。
その腕に捕まりながら、悔し気に唇を噛み締める。
大丈夫。大丈夫だよ雄太。
僕は僕で終わらせるから。
心の中で、唱える
『彼の者の心の臓に 正義の矢を その身に 正義の矢を』




