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僕は僕の中からその光景を見ていた。
いや、正確には世界樹に封印されていた魔王の体の中からだ。
「お疲れさんやったなぁ」
魔王の声が聞こえた。
バッと五人が僕――魔王から体を離す
その声を合図に僕と魔王の体は完全に入れ替わっていた。
五人が全員顔が青くなりながらも、なんとか戦闘態勢を整える。
「魔王……」
聖女の呟きに魔王は嬉しそうに笑う
その笑みは、これから封印される者とは思えないとても嬉しさを含んだ笑みだった。
「アインリッシュは、どうした」
「あそこにおるやないの。永遠に、出ることの出来ないあの中に」
全員がこちらを見る。
僕は確認できないけれど、恐らく僕は僕の姿でここにいるのだろう。
聖女の瞳に悲しみが宿る
「さぁ聖女。はよぉ浄化しぃな。んで封印せな」
「お前……っ!」
ハインデルト様が炎を拳に纏いながら魔王に殴りかかる。
しかしそれは簡単にかわされてしまう。だが少し服が焼けしまったのか、はたいている。
「なんやぁ急に野蛮なやっちゃやなぁ。大人しく封印されてやる言うとるのに」
「何でアインリッシュ君だったんだ……っ!」
「何で? 仕方ないやろ。そういうシナリオやってん」
「何を言っている!」
「こっちの話や。お前らは知らんでえぇ話じゃ。聖女は分かるじゃろうけどの」
魔王を真っすぐ見据えていた聖女はその表情を歪ませながら魔王に問いかける。
「お前を封印したら、アインリッシュはどうなる」
「さぁなぁ。そこから先は語られなかった物語よ」
「……っ!」
掴み掛かろうとする聖女をナタリアが慌てて引き留める。
それでもなお掴み掛かろうとする聖女にリベルア様が向かい合った。
「聖女様。浄化を」
「なん……っ!」
「そやそや! はよぉしてくれぇな」
「諦めるのか! アインリッシュを! 見捨てるのか!」
歯を食いしばりながら、声を上げる
その声は悲痛な叫びで、僕は動けないけれど、涙が出るんじゃないかと思った
ナタリアも、ギルバート様も、リベルア様も、ハインデルト様も、分かっていたのだ。
最初から覚悟して此処に来たのだ。
聖女だけが、雄太だけが、知らされていなかったのだ
僕がもし、駄目ならば、その場で僕を、殺すのだという事を
「聖女様、浄化を」
ギルバート様も聖女の前にでて諭すように声を掛ける。
その表情は僕のほうからは見えないけれど、ハッと息をのむ聖女の様子から察した。
チラリと横に目をやればナタリアは俯いて少し肩が震えている。
目を瞑り手を握りしめ、息を吐くと聖女はこちらに向かって来る
一歩、また一歩と、震える足で。
その後ろ姿をそれぞれが複雑な表情で見ている。魔王は嬉しそうに笑っているけれど。
僕の前にやってきた聖女は水晶に震える手で触れた
ごめんね。こんな事をさせてしまって。
届くはずはないけれど、そう言わずにはいられなかった
『聖女の名において 穢れを払い給え この世界に安寧秩序を』
聖女の周りを光の粒が舞う。あの時、僕とベリッシュを祝福してくれた時の様に。
今回もとても綺麗な光景だと思った。




