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「急げ!」
ガサガサと足が縺れながらも森の中を走る。
ハインデルトに背負われているアインリッシュを見ながら後悔の念に苛まれる。
まただ
どうして俺は何時も間に合わない
前もそうだ。助けられたかもしれないのに。俺は助けに行けなかった。
今度は、今度こそはと思っていたのに。
死なせないと、約束したのに。
アインリッシュの外見がどんどん変化していく。
髪の色は深い蒼色から色が消えていく。
魔王の浸食が止まらない。
駄目だったのか。ベリッシュを守るだけでは、止めることは出来なかったのか。
息を切らしながら全員で駆けていく。
心臓が破裂しそうに痛い。
こんなに走るのは何時ぶりだろうか。
足を止めることなく進めば急に目の前が開ける。
そこには淡い光を纏う大木。
その淡い光も、ところどころが黒く濁っていた。
息を整える事もなく大木に近づく
「………?」
大木に、何か、埋め込まれている……?
どんどん近づくとその姿が露になる
その姿は
「アインリッシュ……?」
そこには、水晶に閉じ込められ世界樹に埋め込まれているアインリッシュの姿があった。
ハインデルトがハッとしたように背中のアインリッシュを下す
アインリッシュの目は、開いていた
その目は元の色ではなく完全な赤に
髪は、色を失って白銀になり、肩まで伸びている
口元がにやぁと上がり口を開き声を発する
「お疲れさんやったなぁ」
その声は、落ち着いたアインリッシュの声ではなく、加虐の色を滲ませた、とても愉快そうな声だった。




