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『なんとまぁ悲しい話なんやろなぁ』
気付くと僕はあの時と同じ空間で同じ椅子に腰かけ、向かい側には魔王が座っていた
『自分が君の中に入った段階で君はバッドエンド確定なんは分かっとったやろうに』
「……お前は、何なんだ?」
『何、とは?』
「何が、目的で、」
『目的?目的なんてある訳ないやん。こうせんと話は進まんし、自分は魔界に戻れん』
「戻れない……?」
『魔王としてここに呼ばれて、魔界で過ごして。まぁ体はないんやけど。そしたら物語が始まるから言うて引っ張り出されて』
「………」
相変わらず顔が見えなくて表情は分からないけれど、声色から察するに怒りを感じているのだろうか。
『このルートの最後、覚えとるかいの』
「僕は、魔王になって、聖女にまた、封印される」
『そうやぁ。封印されるのは、魔界にや』
「それが、目的?」
『あわよくば体を手に入れてな。それが、君の存在を消すことになったとしてもや』
「そう……」
『抗わんなぁ』
抗う?どうやって?
僕はこの結末を最初から知っていた。方法は違えど、僕は魔王になる。
それは変えられない事実で
でも、違う事だってある
ベリッシュと想いが通じ合えた
ベリッシュは、僕の魔王の引き金にはならなかった
ベリッシュは、死ななかった
それだけで十分だ
それだけで、十分なはずじゃないか
ポタ、ポタ、
机に雫が落ちる
止まらない
止められない
僕は、期待していたのかもしれない
魔王にならない事に
ベリッシュの傍に、ずっといられるんじゃないかって
『可哀そうになぁ。そいつに転生なんてせなんだら、こんな目にも合わんで済んだもんを。まぁ見ときぃ』
そういって僕の前に映し出されたのは、残された五人の姿だった
『お前の為に休まずに進むそうやで。もうすぐで、世界樹にたどり着く。クライマックスの始まりや』
そうやって弾むように話す魔王の声に、僕はぎゅっと胸元を握りしめた。
大丈夫。大丈夫。
僕を殺させやしない。
僕を殺すのは、この僕だ




