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目を覚ますと辺りは赤みが増していた
いつの間にか夕方になってしまっていたらしい。
慌てて体を起こすとリベルア様が足元で本を読んでいた。
起きた僕に気づいてフワリと微笑む。
「あぁ起きたんだね。具合はどう? 今ナタリアちゃん達が夕食を作ってくれているよ。なかなか大きな獲物を仕留めたみたいで御馳走だよ」
「すみませんこんなに寝てしまうだなんて……」
向こうで楽しそうに笑っている声がきこえる。
さわさわと少し暖かい風が僕とリベルア様の髪を揺らす
ジッと僕の瞳をリベルア様が見ているのに気付いた。
「あの……?」
「アインリッシュ君……君、瞳の色は何色だった?」
「深い蒼色だと、姉上は言ってました……」
「そう……見てごらん」
リベルア様が魔法で出した水鏡に僕の顔を映す。
夕焼けのせいか少し赤く見えるけれど、その瞳は深い蒼ではなく、オレンジ色になっていた。
「これ…」
「恐らく、少し浸食が進んでしまったんだ。明日は少し急ごう」
その答えに少しだけ心が沈む。
まだ沈み切らないのは、ベリッシュが僕の帰りを待ってくれているから。
夕食時にリベルア様から僕の異変を皆に伝えた。
皆顔が暗くなってしまったけれど、まだ時間は少しは残されているはずだと、何としてでも無事ベリッシュの元へ帰るのだと励ましてくれた。
皆が寝静まった後、昼間に寝すぎたせいか上手く寝付けず、僕は近くを散歩していた。
水の流れる音が聞こえる方へと、ふらふら歩いていく。
「眠れないのか?」
後ろから声がかかり、振り向けば聖女がいた
「一人でこんな夜更けに歩いていたら危ないよ」
僕が注意すると呆れたように笑いながら君もだろうと言われてしまった。
それもそうかと、僕は少し危機感が足りなかったなと反省した。
「……怖いか?」
「……とても。情けない話だよ」
「情けなくは無いだろう」
二人で並んで歩く。
前世ではよくこうして駅までくだらない話をしながら歩いたなと思い出す。
あの後、僕が死んだあと、皆どうしたんだろうか。
「僕が死んだあと、家族はどうだった?」
「……両親も妹もずっと泣いていたさ。もちろん友人も。君は結構な人に好かれていたんだな」
「そうかな。自分ではよく分からないよ」
前世の友人だった人たちの顔を思い浮かべる。
内定が貰えないと嘆いていた彼は無事に就職できただろうか。彼女と喧嘩したと言っていた彼は仲直りできただろうか。
「でも、日が経てばそれぞれが前を向き始めた。君の思い出話を楽しくできる位にはね」
「それはよかった」
雄太が肩をすくめて笑う。
それは雄太の癖のようなもので、懐かしくなった。
「あの日、君が池に落ちる所を俺は見ていたよ」
「そうだったの?」
「助けに入ろうとしたが、周りに止められてな。沈んでいく君をずっと見ていた」
まさか雄太に僕の死に際を見られていただなんて。
嫌な気持ちにさせてしまっただろうな。怖い思いをさせてしまっただろうな。
「前にも言ったが、あんな思いはもう二度とごめんだ。目の前で友人が死んでいくなど」
僕が思うよりもずっと、雄太に深い傷を残してしまっているのだろう。
また苦しそうな、泣きそうな顔をしながら僕を見る。
「今度は絶対に、助けるからな」
強い光を瞳に宿しながら雄太は僕にそう誓った。
愛の告白をされてるみたいだと、思わず茶化してしまった。




