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「う……うぇ……うぅぅぅぅおぇぇぇぇ………ぐっ」
前日の魔王の件もあり、上手く寝付けなかった僕は寝不足だったのがたたったのか、前世も含めて人生で初めての乗り物酔い――もとい空間酔いを起こしていた。
翌日、教会のシスターや司祭らに案内され、古い石畳の階段を降りていく。
古ぼけた扉を開くと、そこには大きな魔法陣が床に描かれていた。
これが移転魔法陣だろうか。
「これが魔法陣です。ささ、中央へお立ち下さい」
司祭に促されるまま六人で横並びで立つ。
隣は聖女だがその顔は少し青くなっている。
リベルア様に用意された酔い止めを飲んだけれど、それも効果が万全なわけでは無いらしく、やはり酔う時は酔うらしい。
『この者たちを望む場所へ移動させよ』
司祭の言葉に魔法陣が輝きを放つ。
瞬間、空間が捩れるような感覚に陥り、僕は立っていられなくなった。
気付けば西の森の入り口で僕はえずいていたのだ。
「大丈夫かい? アインリッシュ君」
ギルバート様が心配そうに覗き込んでくる。
なんとか大丈夫だと伝えようとするも、口を開くと中身が出てしまいそうになる。
「アインリッシュは意外と弱かったんだな!」
爽やかな笑顔で聖女が労わってくる
お前は平気だったのかよ……
「アインリッシュ君が回復するまでは此処で待機していよう。リベルア、少し回復魔法をかけてやってくれないか?」
「構わないよ」
スッとリベルア様に手を握られるとじんわりと冷たくなっていた指先が暖かくなっていく。
同時に吐き気も和らいでいった。
「ありがとうございます……」
「大丈夫さ。初めてだとこうなってしまう者は意外と多いんだ」
「はい……」
「横になっているといいよ。ちょっと待ってね」
トンとリベルア様が足元を蹴るとそこから青々とした綺麗な芝生が生え、人ひとり分が寝転がれる位の大きさまで広がった
そこに野営用に持ってきていた寝袋を引いて下さり、そこに寝転んだ。
「すみません何から何まで……」
「ゆっくりお休みよ」
ニコニコと笑いながら去って行くリベルア様と交代するように聖女が枕元から覗き込んで来た。
「大丈夫かい?」
「雄太は元気そうで何より……」
「膝枕してやろうか?」
「結構です」
ぴっちぴち女子高生の膝枕なのに勿体ないなぁとケラケラ笑うが、その体は他人のものだろうに……
少し向こうではナタリアとハインデルト様が食料を到達しに狩りに出る声が聞こえる
『狩るぞー!』
『狩りまくるぞー! 肉だー!』
勇ましい二人だなと頼もしく思いながら、聖女に見守られつつ僕は意識を手放した。
『もうすぐで会えるで。はよおいでぇな』
僕の中で、魔王が呼ぶ声がした




