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「起きろアインリッシュ!!!!」
バチーーーンと思い切り頬を叩かれて目が覚める
何故起こされる時毎回頬を叩かれなければいけなんだろうか
目の前にいる聖女――雄太を睨みつける
「おい睨まないでくれよ。これでも助けたんだからな」
「何……どういう……」
「貴方の中の魔王が動いた気配がしたのよ。心配して来てみれば貴方は声を掛けても起きないし、顔は苦痛に歪み始めるしで。仕方なく聖女様にひっぱたいて貰ったのよ」
ナタリアが呆れたように、しかし心配そうに顔を覗き込んでくる。
先ほどまで見ていたのは、夢だったのだろうか。
自分では全く魔王の気配を感じる事ができない。
「私は光魔法が使えるから少し過敏なだけよ。聖女様も同様にね。ハインデルト様達は恐らく気づいてないわ」
「そうか……ごめんナタリア。聖女様と二人にしてもらってもいい?」
「何かあったらすぐ呼びなさいよ」
出ていくナタリアを見送った後、聖女に向き直る。
その表情は少しだけ心配の色が滲んでいた。
思わず口角が上がってしまって、責めるような視線を向けられる。
「ごめんごめん」
「ごめんじゃないだろう。この世界で君を死なせたら、俺は二回も君を失う事になるんだからな。あんな思いは二度とごめんだ」
眉間に皺を寄せ苦しそうな表情を作る雄太に、申し訳ない気持ちとちゃんと悲しんでくれていたんだなぁという気持ちがごちゃ混ぜになって、僕もよく分からない表情を作ってしまった。
「で、一体何があったんだ?」
「魔王も、転生者だと。僕と雄太が転生者だという事も知っていた」
「何だと」
「このゲームもプレイした事があるような口ぶりだった。ナタリアがいるなんておかしいだろうって」
「そうか……」
「一体どうなってるんだろう…」
二人で頭を悩ます
魔王までもが転生者だった。
しかもこのゲームをプレイした事があり、シナリオ通りに進めようとしている。
シナリオ通りに進めば魔王はまた聖女によって魔界へと封じられる筈。
それなら普通、シナリオ通りに進めなくていいんじゃないか?
何がある?
何を考えている?
ぐるぐる思考を巡らせても答えは出ず、リベルア様が夕食だと呼びに来るまで僕らはずっと考え込んでいた
「明日は早朝に移転魔法陣で西の森の入り口に飛ぶ。移転魔法で飛んだことが無い者はいるかい?」
ギルバート様の問いかけに僕、聖女、ナタリアが手を上げた。
何故そんな事を聞くのだろうか
「初めてだと空間酔いを起こすかもしれないからね……リベルア、薬の用意をしてもらってもいいかな?」
「もちろんだよ。用意しておく」
そんなに酷く酔うものなのだろうか?
自慢ではないが僕は前世でも乗り物酔いというものをした事がないので、想像できなかった。
隣の聖女を見ると、顔を真っ青にして苦虫を嚙み潰したような表情をしていた。
そういえば雄太は乗り物酔いが酷かった筈。
軽いもので済むと良いんだけどと、願わずにはいられなかった




