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あの魔獣以外行く手を阻むような敵は現れず、思いのほかスムーズに教会に到着した。
「皆、明日からは本格的な旅になる。今日はゆっくり休むといい」
ハインデルト様の労わる言葉に全員が頷き、各々が部屋へと案内された。
「アインリッシュ様。アインリッシュ様はこちらです」
教会のシスターに案内され通されたのは、聖女とハインデルト様の間の部屋だった。
恐らく何か起こってもこの二人が即座に対応できる様にとの配慮なのだろう。
ボスンとベッドに沈み込むと、程なくして睡魔が襲ってきた
外で遊ぶ子どもの声や、教会から聞こえる讃美歌が遠くなっていく
気付けばそこは白い部屋だった
いや、部屋ではないのかもしれない
空間といった方が正しいのだろうか
僕は豪奢な象牙で作られたであろう椅子に腰かけていた。
長い机――両端に10人は並んで座れそうな机の向かいの端には男が一人座っている。
目は悪くない筈なのに、その男の顔が良く見えない。
『酷いやん自分。あんな仲間連れて来るとか聞いとらんで。なぁ、姉に恋焦がれるあまり自滅の道を進んでいったアインリッシュ君?』
恐らく男の声であろう。
陽気に少し弾んだ声が聞こえる
この変な話し方は、この国に存在していた話し方だっただろうか
『あの光魔法使うナタリアっていう子? あの子本編じゃおらんかったじゃん』
「本編……?」
『ちゃんとシナリオ通りに自分の中に入り込んだっちゅうのに、なんや上手くいかんくなってきたで』
「何の…話…」
『自分も転生者じゃろ? 聖女もそうじゃ。そしたら敵にも転生者がおらな不公平やろ』
「というか、誰」
『なんや気付いとらんかったんか。ずぅっと一緒におるやないか。トイレもお風呂も』
その言葉を聞いて勢いよく立ち上がろうとしたが体が椅子に縫い付けられたように動かなかった。
「なん……っ!」
『まぁそう焦りなさんな。裸はみとらんで』
「そうじゃない…っ!」
動けないもどかしさに奥歯を噛み締める
こいつは
目の前にいるこの男は
『お前の中にいる魔王や。まぁ仲良くやろうで』
男が、口角を上げて笑ったように見えた




