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「おおーい、此処から馬車に乗って隣町の教会にいくぞー」
ハインデルト様が僕ら三人に声を掛けて来る。
教会?どうして教会に行くのだろうか。
「隣町の教会には移転魔法陣があるんだよ。僕らを全員一気に飛ばすのは、流石に僕でも出来ないからね」
「そうなんですね……」
事前に用意されていた馬車に乗り込む。
席順は僕・ナタリア・ハインデルト様
向かいが聖女・ギルバート様・リべルア様だ
「今日は教会に泊まることになる筈だ。明日の朝一番に移転魔法陣で西の森の入り口まで飛ばしてもらう。しかしそこから世界樹までは二日三日かかるかもしれないが、聖女様は大丈夫か?」
「大丈夫だ」
ハインデルト様の問いにコクリと聖女が頷くと、ふーっと息をつく。
「こんなにも平和に見えますが、世界は危険に晒され始めているのですね……」
「アインリッシュの中の魔王を押し込めた所で消せたわけではないからな。何か方法も探さないといけないだろう」
ぎゅっと胸を握る
「大丈夫だアインリッシュ。そうたやすく魔王は出て来れないさ」
にっと口角をあげて笑う聖女に、雄太の面影が見えた気がした。
「しかし弟君はベリッシュ嬢と結ばれたのだって? よかったじゃないか」
「その節は……みっともない所を……」
「若いっていいねぇ」
しみじみと呟くギルバート様だが、確かギルバート様にも婚約者がいらっしゃったような
「あの子には散々泣かれて参ったよ。行かないでくれとね。何とか説得したが、帰ってきたらすぐ結婚することを誓わされたよ」
困った様に眉を下げながら、しかし嬉しそうに幸せそうにギルバート様は言う
馬車に揺られてどれ位経っただろうか
妙な気配を感じて窓から外を見る
同じ様に気配を感じたのかリベルア様もこちらを見ていた。
「今のは…?」
「うわ!!!!」
ガタガタガタン!!!
激しい音を立てて馬車が急停止した。
「どうした!」
「す、すみません。馬が急に暴れだして…」
様子を見るためにハインデルト様が馬車を降り、その後ろにギルバート様が続く
「私たちで見て来るから、他はここで待っていてくれ」
グ…ッルグルルルルッ‥‥
獣の鳴き声が聞こえた
ハッと外を見れば、馬車の周りをいつの間にか魔獣が囲んでいた
「いつの間に…っ!?」
ナタリアが驚いているが、恐らく先ほど感じた妙な気配は魔獣が空間移動を使っていたのだろう
狼のような形に口から飛び出した鋭い牙
淀んだ赤い瞳
少し掠っただけでも腕を持っていかれるであろう爪
途端に臨戦態勢に入る
「マオウサマノウツワ…ムカエニキタ…」
「僕………?」
「全員馬車ごと聖女様とアインリッシュを囲うんだ!」
ナタリアとリベルア様が飛び出し、四人で馬車を囲む




