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呆然とする
目の前にいる女の子――聖女が、雄太?
どうして?
でも26歳って言っていた
僕が死んでから、向こうでは3年しか経っていない
ぼーっとし過ぎていたせいか、聖女――雄太が訝し気にこちらを見ている
「おい? どうしたんだい? 君の名前は?」
「僕は……」
前世の、僕の名前を絞り出す
「……は?」
ぽかんと口を開き、目を見開いて僕を見る
「その、名前は、俺の」
「池に落ちて死んだ友達?」
くしゃりと、聖女の顔が歪む
「坂を自転車で爆走してそのまま池に落ちた友達?」
更に重ねてたずねるともっと顔が歪む
その表情に、あぁ僕は確かに向こうで生きていたんだと思った。
「……本当に? 本当に、君なのか?」
「ゆっちゃん」
小学校に上がるまでに呼んでいた呼び名で呼ぶ。
懐かしそうに眼を細める姿に、僕は嬉しくなる。
「あぁ、君はこんな所で生きていたんだねぇ……」
「うん……」
「急に死んじゃうから、もう一回会いたいと思ってたんだが、こんな所で会う事になるとは……」
「雄太は、どうして?」
それから雄太は自分が召喚された時の事を話し始めた。
なんでも会社帰りに歩道橋を渡っている時に女子高生とすれ違おうとしたら、足元に魔法陣が浮かんできたらしい。
慌てて女子高生を助けようと思ったけど逆に突き飛ばされてしまった。
けれど、気付いたら彼女の姿で自分が呼び出されていた。
「雄太の体は、どうなってしまったんだろうか……」
「単純に考えれば、この女子高生が入ってるんじゃないのか?」
ピラッとマントをつまむ。
何処からどう見ても完璧に女子高生だ。
ゲームでは顔は出て来なかった筈。
辛うじて後ろ姿から腰までの黒髪って事がわかるくらいのものだった。
二人でこそこそ会話をしていると、僕らが少し遅れている事に気づいたのかリベルア様が振り返った。
「アインリッシュ君はもうそんなに聖女様と仲が良くなったの?」
ニコニコと柔らかい笑みを携えながら此方に向かってくる
何処まで話すべきか迷ったけれど、昨夜の事をかいつまんで話す。
「なるほどぉ。それは良かったねぇ。旅立つ前に憂いは無くしておく方が良い」
「リベルア様も憂いがあったのか?」
「僕? うー…ん、まぁ、残してきた弟子たちが心配な事くらいかなぁ」
愛おしさを宿した瞳には弟子たちへの愛を感じる。
厳しい方だと皆口を揃えて言うけれど、きちんと愛情を持って接しているんだと感じさせた。




