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「それでこの状況になったのか……」
「君が分かりやすい人間で助かったよ。ベリッシュ一人手に入ればこんなに簡単に隙間が埋められる」
これは確実に少し馬鹿にされている。
ムッとしてしまうが、聖女のお陰でベリッシュにも会え、気持ちも伝えられた。
完全に消えた訳ではないけれど、シナリオ通りにいかない事に、安心した。
「アインリッシュ…明日、出発するのでしょう?」
「そうだね……」
「わたくしも、一緒に行くわ」
「駄目だよベリッシュ。お願いだから、ここで僕の帰りを待っていて」
「そうだぞベリッシュ。だいたいこういうのは恋人が二人で行くと片方は死んじまうもんなんだから」
「死……っ!」
聖女の言葉にベリッシュが僕の腕を掴む。
微かに震えているその手に、手を重ねて包み込む。
揺れる琥珀色の瞳に映る僕はとても幸せそうに微笑んでいる。
「大丈夫。死なない。だから、待っていて」
「……絶対よ」
絶対だよ、と雫が零れる目尻に唇を落とす
絶対ていうのわかんないよーと後ろで聖女が呟いていたが聞こえない振りをした。
というか、聖女、ほんとうどうしちゃったの
清々しいほどの晴天で、旅立つには絶好の日だ。
城門前には聖女、ハインデルト様、ギルバート様、リベルア様がすでに揃っていた。
そして
「ナタリア…?」
ナタリアもいた
「どうしてナタリアがここに?」
「光の魔法を使えると判明したからよ。聖女様の様な力はないけれど、少しは役に立つんじゃないかしら」
そうか。
学園版ではナタリアは光の魔法――闇を払う魔法が使える設定だった。
学園版は魔王ではなく、人の心に棲みつく悪意を払う程度のものだったけれど
「じゃ行こうか皆の者。レッツゴー」
という聖女の掛け声にオーと片手を上げたのは僕だけで。
「れっつごー、とは?」
とハインデルト様が不思議そうに聞いてくる。
そうか、こっちにはこういう言葉は無かったのか
「私の国の言葉でさぁ行くぞっていう意味だよ。さ、気を取り直してもう一度。レッツゴー」
オーと今度は五人揃って手を上げる
麓に降りる際中、聖女が近づいてきて呟いた
「君は、日本人? 外国人?」
バっと見やると悪戯が成功した子供のような無邪気な笑顔の聖女と目が合う
「初めまして。聖女の片桐真優、中身は如月雄太26歳。お前は?」
「如月雄太……?」
だって、その名前は
生前僕が一番よく呼んだ友達の名前だ




