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学院で過ごしたあの日、絶望に飲み込まれそうだったけれど、ベリッシュの事を思うと踏みとどまれた。
ベリッシュの想い人が僕だったら、どんなに良かったか。
でも期待しては駄目だと言い聞かせていた事が、本当は期待していい事だったら?
現段階で、シナリオとは違う事が起こっている。
シナリオから、外れていたとしたら
僕は、魔王にならなくて済むのかな。
そもそも、魔界との争いの発端は、何だっただろうか
出発の前日、聖女が僕の部屋をたずねてきた。
「どーも」
「お初にお目にかかります。アインリッシュ・ハーベットと申します」
黒目黒髪。その姿は前世の日本人の姿で。
僕は懐かしさに少し泣きそうになってしまった。
「お前は姉上が好きか?」
「え?」
「好きかと聞いている」
何故突然そんな事を聞くのだろうか。
というか、ゲームの聖女とキャラ違くない?
こんな男勝りに話す設定だっただろうか
「どうなんだ?」
もう一度聞かれた
「す……好きです。愛していますよ」
「そうか……。だ、そうだぞ、ベリッシュ」
「え!?」
扉の隙間から姿を現したのはベリッシュで。
どうしてこんな所に!
通さないでくれと頼んでいた筈なのに!
しかもさっきの会話を聞かれた!?
どんどん頭が混乱していく
「グズグズしているからこうなるんだ。男なら当たって砕けろ精神だろう」
「ですが……!」
いくら何でもこれは酷い!
告白は夕日の見える綺麗な丘で、沈みゆく夕日をバックに肩を抱きながら告白するのが夢だったのに!
「私はね、何時も待っていたのよ」
「え?」
少し怒気を含んだ声色でベリッシュが続ける
「でも待てど暮らせど何も言ってこない。お父様と協力して縁談を断っていたのも知っていたわ」
「そんな……なら、何故」
キッと睨みつける様に見られ、目が合う
「どうしてだと思う?」
「それは……その」
「ここまで言って分からないのかしら?」
「おい坊ちゃん。ここは男の見せ所だぞ」
ちょっと聖女うるさい!
混乱する頭を必死に冷静にしようと頑張る。
冷静にならなくったって、きっと間違ってなどいない事は、分かっている
「……お姉ちゃんは、僕の事が、好き?」
「…そうよ」
カァァァァァァと一瞬で顔が赤くなるのが分かった
そんな、急に、なぜ
それよりも、それよりも!
「ぼ、僕、アインリッシュ・ハーベットは、ベリッシュ・ハーベットの事を愛しています!」
シチュエーションは思い描いていたものではないけれど、ちゃんと、言わなきゃ
ベリッシュが、チャンスをくれたのだから




