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走り去っていく背中。
見えなくなる。
泣いていた。
僕を思って泣いてくれた。
それだけ、ベリッシュの心の中には確かに僕が存在していた
それだけで、こんなにも満足だ
「馬鹿な人ね」
そう言ってナタリアは去って行ったベリッシュを追いかけて行った。
残されたのは僕とサッシュ。
お互いに無言だった。
先に口を開いたのは僕で
「殺すと、言われたんだ。ベリッシュを。僕を乗っ取るには絶望が足りないって」
真っすぐ前を見ながら話す。
自分に言い聞かせるように。
鼻の奥が、ツンと痛んだ
「僕は、殺したくっないっ」
サッシュは相変わらず無言で、それでも視線を逸らすことなく僕を見ている
涙が溢れる
喉が震える
「ぼっくは、ベリッシュを、死なせったくっないっ!」
こぼれる
「アリー」
静かにサッシュが僕の名前を呼ぶ
顔を向ければ、同じ様に泣いていて、それがなんだか可笑しくて
「……っ好きって、言えなかったなぁ………」
情けなく、僕は微笑みながら泣いた
あの後、ナタリアに連れられたハインデルト様と共に王宮へ向かい、出発の日まで王宮で過ごすこととなった




