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「姉上が!?」
そんな……どうして!
ベリッシュが同行を申し出るルートなんて存在しなかったはずなのに!
「男所帯に、聖女様一人はお辛いだろうという事でね。もちろん危ない道のりになる。それに、ハーベット家から二人も連れて行くわけにはいかないと何度も断ったさ。しかしベリッシュも強情でね、無理やりにでも着いて行くといってきかないのさ」
「そんな……危険です! 僕が姉上の説得に……」
「無理だろう。父上であるウィルッシュ公爵が説得しても聞かなかったのだからね」
「なんで………」
ベリッシュを危険な目に合わせる訳にはいかない。
何故同行するなんて言い出したのか。
ベリッシュにはもう、恋人がいる筈なのに
考え込む僕を尻目にハインデルト様は続ける
「後程、正式に王宮から同行の依頼が来るだろう。引き受けてくれるね?」
「謹んでお受けいたします。この命、わが主の為に」
膝を折り、右手を胸に、左手を腰に回し忠誠を誓う
「そなたの命、我が物に。そなたの忠誠に、感謝を」
ハインデルト様は、すでに王のお顔をしていた。
別れる時に、ふと思い出し聞いてみた
「エリーゼ様とは、上手くいかれましたか?」
静かに口角を上げ、美しく微笑まれた
それだけで僕はあぁ、上手くいったのだと悟った
二人の幸せを心の底から願った
急いでベリッシュの元へと向かう
何故、駄目だ、危険すぎる。
死なせたくない。守りたい。
どうか、どうか、諦めてくれないか。
僕が魔王になる姿など、見ないでくれ
「お姉ちゃん!」
中庭で、まるで僕を待っていたかのようにベリッシュは立っていた。




