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あの日もう一方の物語に気付いてからというもの、僕は怯えていた。
聖女が召喚される日が、近付いてくる。
「アインリッシュ?」
心配そうにベリッシュが覗き込んでくる。
「最近様子がおかしいわ。一体どうしたの?」
「何でもないよ。少し疲れてるのかも」
「まぁ……夜は良く眠れてる?」
目尻を優しく撫でられた。
ベリッシュの体温に、少しだけ心が安らぐ
「んー……まぁ、どうかな」
曖昧に笑って返す
僕にはバッドエンドしか用意されていない物語を進めるというのは言葉にできない程、怖い
怖くて怖くて、仕方がないのだ
ふっと頭を撫でられる感覚に頭を上げる
優し気に微笑みながら、安心させる様にベリッシュが僕の頭を撫でていた
「大丈夫。大丈夫よ。怖い事なんて、何もないわ」
「……そうだねお姉ちゃん」
僕はその手に身を委ねるように静かに目を閉じた。
「本当に、怖い事なんて、起きないわ、アインリッシュ」
ベリッシュの呟きに、僕はただ頷く事しか出来なかった。
聖女が召喚されたと噂が流れてきた。
僕がサッシュから世界樹の事を聞いた日から、学院は慌ただしくなっていた。
先生方も対策に駆り出され、自習の日も増えている。
僕は急ぎ足でハインデルト様の元へ向かう。
世界樹の旅への同行は、ハインデルト様、ギルバート様、王宮の魔法使いと、そして僕の筈だ。
教室に着くとハインデルト様すぐに僕に気づきこちらに向って来た。
「噂を聞いてやって来たのかい?」
「……はい」
「おいで、詳しく話そう」
あの日、ハインデルト様が振られたと泣いていた教室に足を踏み入れた。
そういえば、エリーゼ様とは上手くいったのだろうか。
自分の事に夢中で、気にしていなかったなぁ
「聖女が召喚されたのは事実だよ。今は王宮で過ごされている」
「やっぱり……」
「準備が整い次第、世界樹に向けて出発する。おそらく一週間後だろうね。同行するのは、今一番魔力が高いと思われる僕とギルバート、そして君だ。もう一人、王宮にいる魔法使いが行く」
「はい」
ゲームの通りだ
「それからもう一人……ベリッシュが名乗りを上げてきている」




