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「でも……」
姉上は更に悩まし気に眉を寄せつつ申し訳なさそうにした。
元はといえば氷で作った坂を自転車で爆走した僕が悪いのにも関わらずだ。
男児は時に危ない橋を渡るものである。
しかしだ、どうして姉上はこんなにも悩んでいるのだろうか。
何時もは僕の事など無関心なのに。
流石に助ける為とはいえ、池に落とした事に罪悪感を感じているのだろうか。
「どうしたのです? 姉上。何時もなら僕の事など関心が無いのに……」
そう、関心が無いからこそアインリッシュは歪んでいくのだ。
一目ぼれした姉上に見て貰えないから。振り向いて貰えないから。
話しかけても冷たくあしらわれ、プレゼントをあげても身に着けている姿を見ることもない。
どんなに姉上に構って欲しくても、姉上は何時も笑ってはくれないのだから。
ハッとした顔をして姉上は少し傷付いた表情をした。
「アインリッシュが…池に落ちた時、笑ったから……」
「?」
「笑った顔…初めて見たから……」
僕もハッとした。
姉上に話しかける時は何時も緊張していて、笑みも固いものだったのだろう。愛想笑いの様に。
「姉上は、僕の笑った顔が見たい……?」
なんて、少しの期待と、そんな訳無いだろうという否定の気持ちを込めて、微笑んだ。