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「それで、ナタリアの事なんだけど、」
「えぇ」
「お姉ちゃんに弟子入りしたいとか言ってるんだよね……」
「弟子入り?」
コテンと首をかしげ不思議そうにこちらを見つめる。
そんな首を傾げる仕草も、なんて可愛いのだろうか。
「部長の為に立派な職に就いて支えたいって。その為にお姉ちゃんに淑女としての立ち居振る舞いを学びたいから会わせて欲しいってお願いされてたんだよ」
「そうなの……」
「嫌なら嫌って言って。僕の方から断っておくからさ」
むしろ話を持ってきといてなんだけど断って欲しくて仕方ない。
ナタリアがヒロインのナタリアでないとしても、油断はできない。
何かの拍子に、ヒロインとして覚醒してしまう可能性もある。
「そのナタリアさんは、アルフレッド部長の事がお好きなのかしら?」
「そうらしいんだ。特に筋肉に惚れ込んでるよ」
ナタリアの、部長を語るあのキラキラした、愛おしそうに細められた瞳を思い出す。
僕がベリッシュの事を語る時も、あんな風に目を輝かせているのだろうか。
少しだけ、ナタリアに親近感が湧いた。
「好いた方の為に、精一杯努力をしてらっしゃるのね。なんて可愛らしい方なのかしら!」
「そ、そうかな」
「わたくしそのご依頼引き受けますわ」
「そう、引きう……え!? 引き受けるって言った!?」
耳を疑った。
「好きな方の為に精一杯努力したい気持ち、痛い程理解できますもの」
そう言って優し気に笑うその瞳に映っているのは僕でも、思いを寄せているのは僕ではない他の誰かなのだろうか。
先ほどまであった期待も、一瞬で霧散していく。
誰が、その心に棲みついているの。
どうしたら僕は、君の心に入り込めるのだろうか。
「アインリッシュ、さっき名前で呼んでくれて、とても嬉しかったのよ……」
小さな声で、誰にも気づかれないようなベリッシュの呟きを、僕が拾うことは無かった。




