20
「アインリッシュ……」
ベリッシュの、不安げな瞳とぶつかる。
胸がまたズキンと痛んだ
「さっき一緒にいたのは、どなた……?」
「さっき?」
「手を、握っていらっしゃった方の事よ……」
「ナタリアの事?」
「もう、名前で呼び合う程親しいのね」
親しいというか、僕が一方的に知っているだけの状態で、向こうは僕をベリッシュの弟だという事しか知らない。
しかし悲し気に、寂しそうに目を伏せるベリッシュに胸が高鳴る。
期待してしまう。
僕とナタリアの関係に不安を覚えた?
それってつまり、もしかして、
期待しては駄目だと分かりながらも、期待せずにはいられなかった。
慌ててベリッシュの誤解を解こうと口を動かす
「親しいというか、間接的に知り合いなのはお姉ちゃんの方というか」
「わたくし?」
「手芸部の部長の知り合いなんだって。それで僕らの事を聞いていたらしいよ」
「私と、アインリッシュの事?」
思い当たる節があるのか、ハッとした表情から徐々に赤く染まっていく。
その変わりようを眺めながらついついニヤニヤしてしまう。
「聞いたの……?」
「聞いたよ。お姉ちゃんが僕の事自慢げに話してくれてただなんて。とても嬉しいな」
真っ赤になりモゴモゴと口を忙しなく動かしている。
「やだ、恥ずかしいわ。こんな風にばれてしまうだなんて」
「そんな事ないよ」
頬が緩みっぱなしで元に戻せない。
本人から聞かされるよりも、他人から自慢していた事を聞かされる方が喜びも一入だ。
でも、面と向かって褒められる事も嬉しい事に変わりはないけれど。
ベリッシュに褒められたなら、どれも嬉しすぎて死んでしまいそうだ。




