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僕らはあまり仲の良い姉弟ではない。
それは僕がハーベット家の次期当主として6歳の時に養子に迎えられた時からだ。
ベリッシュを産んで間もなく、現当主・ウィルッシュ公爵の奥様は病気で亡くなってしまった。
騎士団長として活躍していたウィルッシュ公爵は悩んだ。亡くなられた奥様以外を娶るつもりはない。
しかしベリッシュでは騎士にはなれない……
養子を取るか悩んでいたウィルッシュ公爵に進言したのは、ベリッシュだった。
『お父様のお悩み、嬉しく思います。しかし騎士団長、騎士の家系として繁栄してきたハーベット家。跡取りとなるのは私では無理でございましょう。どうか養子を御取り下さいませ。』
ウィルッシュ公爵は情けなく思った。ベリッシュの事を思うのであればこんな事を言わせるべきでは無かった。まるで自分は役立たずなのだと思わせる様な事を。
そうして遠縁にいた僕、魔力が強くたびたび暴走させていた僕が養子に引き取られたのだ。
初めての顔合わせの日。
僕を見たベリッシュの瞳には僅かな敵意と確かな羨望が宿っていた。
そして僕はというと……
ベリッシュの愛らしく儚げな姿に一目ぼれしたのだ。
というのが乙女ゲーの僕の最初の設定だ。
僕は元は大学生であり、享年23歳。
自転車で坂道を爆走中にブレーキが壊れ真冬の池に飛び込みそのままお陀仏。
前世と同じ様に池に落ちた事がきっかけで前世を思い出し、果ては当時妹とプレイしていた乙女ゲームとこの世界が一緒だと気づいてしまった。
そして目の前にいる僕の姉こそが、ヒロインを虐める悪役令嬢のベリッシュ・ハーベットだ。
「アインリッシュ……?やはり、許してはくれないのね……」
長い睫毛に縁どられた瞳を揺らしながら、姉上は俯いてしまった。
思考を巡らせぼーっとしていた僕は慌てて否定をした。
「い、いえ!! 池に落ちたのは僕の失態です!! 姉上は僕を助けてくれようとしたのでしょう?」
前世と同じく自転車で庭を爆走し、魔法で作った氷の坂道を勢いよく滑って勢いが良すぎるために壁に激突しそうになった僕を姉上が風の魔法で飛ばしてくれたのだ。
ただ、飛ばされた先が池の上だったとういうだけで。