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『……これにてリンデハイル学術学院の入学式を終了いたします。生徒は各寮にお戻りください』
「戻ろうぜアリー」
僕を愛称で呼んだのはあのダサいネーミングの魔法具を作った友人、サッシュ・ドルヒートだ。
「新入生代表挨拶の子、平民なんだってなー。すげぇよな。俺はてっきりお前がやるもんだと思ってたぜ」
「余程優秀な方なんだよ。こればっかりは実力だからね」
「そうだなー」
相変わらず気の抜けた会話をする奴だ。
予想通り新入生代表の挨拶をしたのは、ヒロインのナタリア・ルシフォンだった。
「アリー?」
「先に戻ってて貰ってもいい?姉上に挨拶に行ってくるよ」
「そうかぁ? じゃぁ先に戻ってるぜ」
サッシュと別れ、人混みを掻き分けながら僕は中庭へと向かう。
ベリッシュはいないけど、恐らく中庭へ行けばヒロインに会えるだろう。
少し緊張しながら、歩を進めた。
着いた中庭にはすでに先客がいた。
パキンと足元にあった木の枝が折れ、その音に先客が振り向く。
新緑を思わせる様な鮮やかな髪色、優し気に少し垂れた目尻の中、薄い紫色の瞳。
間違いない。
さっき壇上で見たヒロインの、ナタリア・ルシフォンだ。
途端に僕の体に緊張が走り、握った拳に汗をかく。
「ナタリア・ルシフォン……」
「? どうして私の名前を……?」
「あ、さっき壇上で挨拶してたからね……」
「そうでした。私、すでに全校生徒に向けて自己紹介してましたね」
クスクス可笑し気に笑いながらナタリアは僕に向き直り
「アインリッシュ・ハーベット様ですね?」
僕の名前を呼んだ。




