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渡されたのは、綺麗な色んな花の模様が刺繍されたハンカチだった。
様々な色の糸で刺繍されたそれはとても綺麗で、輝いて見える。
「綺麗だね」
「わたくしが刺したのよ」
「へぇ……え!? お姉ちゃんが!?」
驚きのあまり手の中のハンカチを握り潰してしまう。
慌てて広げてマジマジともう一度眺める。
まるでプロの仕事の様に完璧な出来栄えだ。
「すごいね……」
「手芸部に入ったの。そこで部長に教えてもらいながら刺したのよ」
「手芸部!?」
またも驚いた。
ゲームでは部活には入らず、次期生徒会長になるハインデルトを支えるため生徒会に所属するはず。
少しだけゲームと違っている事に安心した。
「とても愉快な方なのよ。アインリッシュが入学したら紹介するわね。」
「楽しみだな。どんな方なの?」
「筋肉ゴリゴリマッチョ」
「筋肉ゴリゴリマッチョ!?」
そんな……ベリッシュの口からそんな厳つい言葉を聞く時が来るなんてっ!
目を見開いた僕を可笑しそうに笑んでいたベリッシュが、寂し気に呟いた。
「同じ年だったら、一緒に学院に通えたのにね……」
その表情に胸が締め付けられる痛みを感じながら、しかし同時にベリッシュが僕を必要としてくれている事に喜びを感じた。
僕は一体どんな表情をしていたのだろうか。
あの休み以来、ベリッシュは家に戻ってくることは無かった。
一度来た手紙には、生徒会の仕事を手伝う事になり帰れなくなったと書いてあった。
父上は寂し気に肩を落とし、会いたいなぁと呟き、僕は時期がずれただけでやはりシナリオ通りに進んでしまうのだと落胆し、ベリッシュがくれたハンカチを握りしめた。
指輪も反応する事は無かった。
来月、とうとう僕も入学する。
本編が、始まる。
どんな事が起こっても、ベリッシュを悪役令嬢になど、してたまるものか。




