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「好き? どうして私がハインデルト様を好きになるの?」
その問いは僕にとって予想外のものだった。
真っ赤になって好きじゃないわ!!と反論され、あぁ、恋をしてしまったんだなぁと絶望する所まで想像していたのに。
「ずっとハインデルト様の話ばかりだから、恋したのかなって」
思いもよらないことを聞かれベリッシュは心底不思議そうにしている。
「そんなのありえないわ! だってわたくしは…っ!」
「わたくしは?」
少し顔を赤くして俯いてしまった。
今の会話で顔を赤くする場面なんてあっただろうか。
でも、ベリッシュのこの反応を見る限りこの休みに至るまでに恋に落ちてはいない様だ。
「お姉ちゃん?」
続きは言わないのだろうか。
思案するように口に指をあてて、フフッといたずらっ子の様にベリッシュが微笑んだ。
「いいの。今はまだ、ね」
フフフと口元を隠しながら微笑む姿は愛らしくて、僕もさっきまでの不安はどこかに吹っ飛び可愛いなぁ可愛いなぁ好きだなぁと思いながら胸がポカポカした。
「ハインデルト様は良いお友達よ。困っていたらすぐに助けて下さるの。でもそれは周りの誰に対しても同じことよ。貴族平民関係なくね」
「流石は未来の王様ですね。王の前では皆平等です」
「そうね。この国の未来はきっと良いものよ」
お互いを見つめ合いながら僕らが将来仕える未来の王様に想いを馳せる。
今も良き王様だが、ハインデルト様はもっと良い王様になるのかもしれない。
もし、ハインデルト様がヒロインに出会う前に、僕が注意を促したら聞いて貰えるだろうか。
でも、ただの学友の弟にあの女に気を付けろ!何て言われても誰が信じるだろうか。
コンコンコンコン
扉を叩く音が聞こえ、返事をするとベリッシュ付きのメイドのメリーが入ってきた。
「夕飯の支度が整いました。旦那様もお待ちですよ」
「もうそんな時間だったのね。ありがとうメリー。久しぶりの三人での夕食、とても楽しみだわ」
「そうだね、お姉ちゃん」
部屋を出ていく時、僕だけメリーに呼び止められた。
「ご安心をアインリッシュ様。ベリッシュ様は誰とも恋をなさりません。たった一人を除いては」
「メリー?一体何の……」
「私は、ベリッシュ様の幸せのみを考えて生きておりますからね」
ニヤリと笑ってメリーは立ち去って行った。
残された僕はメリーの残した誰とも恋をしないと言う言葉に打ちのめされていた。
ベリッシュにはもう、僕の知らない恋人がいるのかもしれない




