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「お帰りなさいお姉ちゃん」
「ただいまアインリッシュ。剣の稽古をしていたの?」
「うん。父上には全然敵わないよ」
「まだまだ現役だからね。お帰りベリッシュ、疲れただろう?」
「ただいまお父様。お父様とアインリッシュに会える嬉しさで、疲れなんて微塵も感じませんわ」
「嬉しいことを言ってくれるじゃないか」
「きゃっ」
父上は余程嬉しかったのかベリッシュの両脇に手を差し入れ持ち上げるとクルクルと回り始めた。
フワフワとスカートの裾が舞い、日光を反射してキラキラと輝いていて、僕は眩しくて目を細めた。
「もう! わたくしもう13歳ですのよお父様!」
「ベリッシュは何時までたっても可愛い私の子どもだよ」
頬を膨らませながら不満をのべるベリッシュだが、言われた言葉に照れているのか頬に少し赤みがさしている。
「夕飯まで少し休むかい? 私は生憎仕事に戻らねば……」
「アインリッシュが良ければ、一緒にお茶をしたいわ。話したい事が沢山あるの」
「喜んでお引き受けするよお姉ちゃん」
余程良い事があったのか、瞳をキラキラさせながら僕を見ている。
可愛いなぁと思いながら、学園であったいい事とは何だろうかと予想してみる。
とても気の合う友達が出来たのかな
……友達………待てよ、ベリッシュの、友達?
ゲームの冒頭。それぞれの人物との関係性の説明。
ベリッシュの画面には何が書いてあった?
ハーベット公爵令嬢……僕との不仲……そして
僕はハッとした。
友達。友人。そうだ、ベリッシュは学院で王太子と出会い、初恋をする。
その初恋を拗らせ、王太子に近づくヒロインに嫉妬し虐めてしまう。
友人になるのは、入学してすぐ。そう、今、すでにベリッシュのゲームは始まっていたのだ。
どんどん血の気が引いていく。
本編が始まるのは僕とヒロインの入学。
でもそれまでにそれぞれの物語があった筈なのに。
僕とベリッシュがゲームの様に不仲でなく、普通の姉弟になったように。
ゲームが舞台でも、僕らは生きている。
完全に失念していた。
大事に守ってきたはずのベリッシュが、王太子と出会ってしまった。




