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ふと思い出したのだ。
思い出した瞬間が姉に池に落とされる瞬間だったのは皮肉なものだけれど。
ふと見えた姉の大きく見開かれた琥珀色の瞳が少し可笑しくなって笑った。
ドボーンと激しい音と水しぶきをあげながら僕……アインリッシュ・ハーベットは池に沈んだ。
意識が浮上する。見上げた天井には見慣れた何時もの景色……ではなく、琥珀色が広がっていた。
「……近いです姉上」
あまりにも近い位置にあった姉の顔に思わず少し赤面する。
いくら家族であり長い間見てきたとしても、異性の顔が近くにあるのは恥ずかしいものだ。
しかしどうして姉上……ベリッシュ・ハーベットがここにいるのだろうか。
もしかして心配でずっといたとか……?
そうだとしたら少し嬉しい。あまり仲の良い姉弟だとは言えないから。
「姉上」
呼びかけると少し困った様に眉尻を下げる。その顔は庇護欲をそそるものであり、男性としての本能も刺激されるものだった。
「……突き落としてしまった事、謝るわ。ごめんなさい」
僕の目が見開かれたのは言うまでもないだろう。
あの姉が僕を気にし、そして謝るなどとは。