1話
コンビ作品第2弾!
「起立!れい!」
『さようなら!』
委員長が凛とした声で号令を取り、教室は喧騒に包まれる。そんな中早々に教室を抜け出る人物がいた。
そう、俺である。
俺こと佐藤令二は、別に逃げ出した訳ではない。俺の容姿は客観的に見てもそこそこ整っていて、人と話すのは苦手なわけでもない。あのまま教室に残っていれば、いつものように誰かしらがやってきて、他愛もない世間話が始まっていたことだろう。
しかし、俺は一刻を早く帰って最近マイブームのゲーム『ダンジョンブレイクオンライン』のイベントダンジョンを走らなければならないのだ。
俺は歩幅を大きくし、玄関へと急ぐ。すると、玄関の手前で壁にもたれる男がいた。
終礼が終わり最速で来たはずなのに既に玄関に人がいるとはな。
「お、令二遅かったな」
こちらに気づいた男が声をかけてきた。
その男の顔をよく見ると、それはよく知った顔だった。
男の名は杉本龍樹。
俺の古い友人で一緒にいろんなゲームをして来た相棒だ。今日もイベントダンジョンにいく約束をしていた。
人当たりもよい龍樹はクラスでも人気があり、普段はもっと遅い時間に帰るはずだが、待ち伏せなんかして何のつもりだ?
そこはかとなく嫌な予感がする。
「ん?なんだ、只の龍樹か……。」
「只のってなんだよ!人が待ってやったのに。」
「頼んだ覚えはないぞ?そんなことより何か用か?」
「そんな事って、まぁいいか。実はよ、ここだけの話があって……って人増えてきたな。ここで話すのもあれだから、帰りながら話すよ。」
はぁ、こいつがこういうときは大体面倒事なんだよな……
俺は靴を履き、重い足取りで龍樹の後ろをついていく。前を歩く龍樹の背中はウキウキが隠せない子供のように楽しそうに見えた。
「なぁ、さっきの話なんだけどよ……。」
「あ、あんな所に月刊コロネコミックの最新刊が!」
「何!?どこだ!!?……って、そんなので話をそらさせようとするのやめろ!!」
「……今本気で探したよな?」
「探してない。話聞け。」
「はぁ……で?今度は何があったんだ?」
「よくぞ聴いてくれた!!実は俺の近所にさ、アレが出来たんだよ。」
「アレ?」
「そう、アレだよ。」
「アレ?ってなんだよ。」
「実はな……ダンジョンが出来たんだ……。」
「は?ダンジョン?」
何言ってるんだこいつ?ついに頭までやられたか?
俺は訝しげな目で龍樹を見た。
「そう、ダンジョンだ。」
そういう龍樹の表情はいたって真面目だ。
「いや、冗談だよな?」
「いや、真剣なんだよ……俺の近所にな、当然洞窟が現れたんだ。」
「洞窟?」
「あぁ。」
「いや、ダンジョンと決まった訳では無いだろ?」
「昨日まで無かった所に突然現れた洞窟だぞ?これはもうダンジョンだろ!」
昨日まで無かったのか……まあ、龍樹は基本的に嘘はつかないから、真実なのかもしれないな……
「なるほどな……しかし、それを俺に言っていいのか?」
「こんな話信じる奴いないって、ただしお前は別だけどな。」
「まあ、そうだな……」
「だろ?」
「ああ、しかし、俺に話したって事はそういう事でいいんだな?」
俺はニヤリと笑い龍樹を見た。
「わかってるじゃないか、相棒!じゃあ、今週の土曜日俺ん家集合な!」
龍樹もニヤリ悪巧みをする子供のように笑いかえした。
「おう!準備はしっかりしろよ、相棒!」
「任せとけ!そっちもしっかりやっとけよ!」
「おう!じゃあ、土曜日な!」
「おう!」
俺は家に帰り、パソコンを開きながら、洞窟についてもう一度考えてみた。
龍樹の言った洞窟がどういうものであれ、前日に無かったものが出現してるのは明らかに異常だ……。
本当にダンジョンなのかもしれないな……。
ダンジョンっていうと、モンスターだな……。
俺はあいつほどゲーム脳ではないがダンジョンがリアルにあったらって考えると、胸が高鳴るものがあるな。
まあ、あいつの事だから抜けがあるだろうし、土曜の探索は、しっかりと準備しないとな……。
俺は黙々と探索の準備をして行き、約束の日までの時間はあっという間に過ぎていった。
一気に4話更新です!
※2019/5/7 改訂致しました。