6回目の儚さ。
その瞬間、少年と少女の間に流れる時間だけ時が止まっているかのように見えた。
「...残念ながらハズレですよ」
ルイスは微笑みながらゆっくりと頭を上げ、そう言った。
「どうしてアメジストだと思ったのかは分かりませんが、ルイス・アメジストって不自然過ぎませんか?」
彼の微笑みを見ても、少女は強張っている表情を一切崩さない。
「こちらはまだルイス・アメジストだと断言していないわ。ルイス・アメジストというのはあなたがそうであってほしいと思っているだけで.....どうして隠すの?自分の名に誇りを持って、言ってみなさい」
どこか不愉快そうに自分の名について真剣に話す少女の事がルイスは不思議でならない。それに少女の声を聞くたびにルイスの中の「何か」が過剰に反応している気がしていたのだが、それは何の前触れもなく限界を迎えた。そしてそれが何故、限界を超えてしまったのか。それは少女が少年の頬を触れた瞬間にだった。
「...あぁ...またか......こんなところで...」
ルイスは突然、意識がぷつりと途切れる感覚に襲われた。そして途切れる直前に少女を見ると、少女は泣いていた。
「ーーーーールイス」
ここはどこか。今は何時なのか。何をしていたのすら覚えていない。だが、誰かが自分を呼んでいる事だけは分かる。
「ルイス、時間がない!早く起きなさい」
その声がどんどん近付いて来ている。いや、ルイスの意識が戻ってきたのだ。清々しい風を肌に感じる事にらルイスは疑問を持ちながらも、閉じてしまっていた目を開けた。
「......え?」
ルイスが目を開くと、そこは太陽の真下で草原であった。そして一人の赤髪の女性が心配そうに自分を見ている。
「...ここは......あ、あなたは...誰ですか?」
ルイスはその風景に、その風景の中で自分の名を呼んでいた女性に驚いているような表情で問う。
「これで6回目...またなのね......これも全部イヴのせいだ...!イヴがまた殺した...」
女性は悲しそうに呟いた数秒後、その場に泣き崩れた。
「...あ、大丈夫ですか!?...イヴって誰のことです?」
ルイスは即座に後ろから体を支え、背中を優しく撫でた。
「......イヴは私」
目の前の女性がボソッと呟いた。彼女の名はイヴというらしい。
「...イヴは必ずあなたを殺す。そしてあなたの目の前にいるもう一人のイヴも必ず死ぬの」
振り向いてそう告げた女性の瞳からは涙が溢れていて、その表情に懐かしさを感じずにはいられなかった。ルイスは間違いなくイヴを知っている。
「だからルイス、あなたはイヴを見捨てて...死にたくなければもう一人のイヴ、6人目のイヴからすぐさま逃げるの。そうすればあなたは幸せになれたんだから...もう同じ過ちを繰り返すのはやめなさい、愛しい人よ」
イヴという女性は瞳から涙を滴らせながらも優しく微笑みながらルイスの頬に手を添えた。
「...あっ!!!待って...」
女性の手の温もりを感じた瞬間、先程と同じようにルイスの中の「何か」が過剰に反応して意識がどんどん薄れていく。
「......今度こそ...僕が守るから...!!!」
ルイスは直感的に頬に触れている女性の手を握り、悩む間もなくそう叫んだ。そして意識が途切れる間際、イヴという女性は風に赤髪をなびかせ、陽に照らされて美しさを増した微笑みを見せながらこう言った。
「ーーーーー6回も言わなくていいの」
これ以上に儚い表情を少年は生きてきた17年間で一度も見た事などなかった。