紫水晶。
彼の名はーーールイス。母がついさっき読んでくれていた物語に出てくる「ルイス」と全く同じ名前だ。
「自分の名前にどこか懐かしさを感じるってのもおかしな話だよね、まったく...」
少年は謎めいた表情で呟き、それを聞いていた母親はふと自分の息子を見つめた。
「ルイス、チャクラって言葉は知ってるわよね?」
突然、母が息子へ問う。
「僕の持ってる六番目のチャクラと他の六つのことでしょ?」
母の問いにルイスは悩む間もなく答えると、母は頷き、
「簡単に言えば生命力を象徴するベースチャクラー、創造力を象徴するセカンドチャクラー、自己実現能力を象徴するソーラーチャクラー、慈愛を象徴するハートチャクラー、表現力を象徴するスロートチャクラー、そして直感力を象徴するサードアイチャクラーに自由意思を象徴するクラウンチャクラーの事なんだけど、ルイスが実在していない人物とはいえルイス王の名に懐かしさを感じているのはその直感力によるものだと思うの。ってことはルイスはきっとサードアイチャクラーを自分の力として制御できる時期に入ったんだと母さんは確信してるわ」
笑みさえ浮かべずにそう続けた。ルイスは母の言葉に少々大袈裟だと感じ、
「誰にだって時折懐かしさってものは感じるんじゃないの?もう僕は17歳だけど小さい頃に母さんに連れて行ってもらった海だって今の僕からしたら懐かしいものじゃん?」
母とは表情は真逆で、笑みを浮かべながら話した。
「その例で言えば確かにそれも懐かしさを感じるとは思うけど、ルイス王の名に懐かしさを感じるなんてきっと同名の人かルイスぐらいよ?」
ルイスの問いに母の表情にもつい笑みが漏れる。
「あ...そーだ!時間あるなら図書館に行ってみるといいわ、あの本も借り物だから返すついでにね!もっと面白いものも見つけられるかもしれないわよ?」
ルイスは少々呆れながらも母の提案に頷き、図書館に行く準備を始めた。
それから約一時間後、ルイスは図書館に着く。
(なんとなく前々から来てみたいとは思ってたし、来てはみたけど......あの本に前編も続編もなかったしなー...どうするべきか...)
ルイスはとりあえず借りていた本を元の場所に戻そうと足を動かした。
(...えーっと、この辺にあったはず)
本を元の場所に戻そうとした時、真横から色白な腕がルイスの持っている本めがけて伸びてくる。
「...あっ、どうかお許しを。表紙に惹かれて無意識に腕が動いてしまっていましたわ」
その腕が本を掴むと同時に、真横にいた赤髪で少々つり目な少女が我に返ったようにピクッと小動物のように動くと小さな声で謝罪を述べた。 ルイスにはその声がどこかで聞いたことのあるような声で気になりながらも、
「いえいえ、それにしてもこの本に惹かれるなんて僕と一緒ですね」
本の結末を知っているルイスは目の前の可愛らしい容姿の少女でもきっと自分と同じ物好きなのだろうと感じ、微笑んで言った。
「物好きは認めますが、あなたもこの本に惹かれのですか?」
少女は不思議そうな表情で問う。
「題名か雰囲気かは分からないんですけど何となく気になって読んでみたんです。その結果ルイス王と同じ名前だからか、彼に同情してしまって懐かしさまで感じてしまうという不思議な体験までできたので個人的には面白い物語でしたよ」
ルイスは物語を思い出しながら話した。だが、みるみる少女の表情が強張っていき、そんな少女の様子に気付いたルイスは、
「え、あ、あの...何か気に触る事でも言ってしまったならごめんなさい」
とその場で頭を下げた。
「...その瞳の色、その名が真の名なのだとしたら.....もしかしてあなたの本名はーーーアメジスト」
その言葉を聞いた少年は頭を下げながらも目を見開いた。